読書感想文148 中村文則 掏摸 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

はい、一気読みでした!

こんばんは、渋谷です。

 
 
 
台風はまったく何も存在を示さなかったのですが、とりあえず今日は家から出ませんでした。そのつもりで昨日のうちに買い物もしておりましたので、特に出る用事もなく。で、本を読んだ。うん、その前に少々思うところがあったのでそれを書いておく。非常にどうでもいいことではあるんですが。
 
あの「台風中継」って、なんでああもいちいち大げさにやるんかね。うちの周りだったら桂浜がよく出てきますが、「桂浜はー!横殴りの雨がー!吹き付けておりましてー!立っているのも非常に危ない状態でー!」
 
やったらアナウンサーを立たせるのも止めるべきでっしゃろが。いちいち危険なところにアナウンサーを立たせて報道をする。今回の台風なんか想定より被害が少なくて済んだはずなんです。わざわざ一番の局地にアナウンサーを立たせて、大したこともない場所で大仰な演技をさせる必要がどこにあるのかしら。
 
もちろん、怪我をなさった方もおられますし、おひとり亡くなった方もおられます。でも、あの報道の仕方って、台風を「エンタメ化」してない?あった事実をあったままに淡々と伝えてくれればそれでいいのよ。わざわざ大波が来るかもしれないところにアナウンサーを立たせるなんて馬鹿なことをする必要はないのよ。やっぱり「事件」が起きた方が視聴率が稼げるの?馬鹿馬鹿しいなあ。これだからテレビを信用することができなくなる。実際、もうテレビから何か情報を得ようとすることが最近はすっかりなくなってしまいました。
 
情報は自分から知りたいものを探しに行って知る。それでいいんじゃないかしら。商業的な利権や作り出された時代の風に翻弄されるのなんかまっぴらごめんです。そんなことをまた強く思った、荒天の一日でした。
 
で、まあ中村文則さんの「掏摸」を読みましたよ。これは「スリ」と読むのだそうで、ずばり他人の財布をかすめ取る、スリの男の子のお話でした。
 
しかし、人間の根源に迫った何とも深いお話。私、この中村文則さん、惚れてもーたかも知れんわあ……。
 
 
 
 
この方の作品は、海外で翻訳されて発行されているものが非常に多いのだそうです。「土の中の子供」という作品で芥川賞も獲られている作家さんです。新潮新人賞でデビューされ、野間文芸新人賞、この「掏摸」で大江健三郎賞、海外の賞もいくつか受賞されているそうで。読んでみたいなと思っていた作家さんなんですね。今回初中村文則。で、ハマった。
 
「掏摸」ですよ。そのまんま、アウトローな男の生きざまを描いた作品です。主人公は西村くんという男の子。年齢は書かれていませんが……30代初めってところでしょうかね。「西村」という本名は隠し、偽名で生きてきたような男の子です。おそらくクズな両親に育てられ、幼い頃からスリをすることで命を長らえてきたような少年。彼は長じてプロのスリになり、それで薄い人生を削るようにして生きてきました。でも、クズは群衆にいてもすぐに同じクズには見つかってしまうもので。ほんまもんの悪人である木崎という男に弱味をに握られ、危ない仕事を強要されます。この時に語られる世界観が、本当に面白かった!
 
木崎はおそらく、かなりIQの高い男なのでしょう。木崎と西村くんの関係性をこう例えて迫ります。
 
「あるところに貴族がいた。その男が使用人としてある少年を手に入れた。男は現実に飽きて退屈しきっていて、ある時考え付いてノートにある物語を書きつけた。使用人の少年のそれからの人生を予言するような物語。実際、男はその書付通りに少年の人生をコントロールしていく。初恋も、両親との再会も、その両親のむごたらしい死も。少年を翻弄するすべてはその男によって物語通りに進められた。少年のすべてを男はコントロールしていた。少年が30歳になったある日、男は少年を呼び出すとそのノートを目の前に晒した。自分の今までの人生が書きつけられたそのノート。……驚愕の表情を浮かべる少年のその背中を、兵士が串刺しにする。少年が死に絶えるまでの間、男は快感に震えていたのだという。人生から得られるすべてを、余すことなく」
 
……人間一人の人生を掌握すること。そこには大きな快楽が伴うものだというたとえ話です。西村くんの薄っぺらい命など、俺が握っているのだよと木崎氏は言いたかったのでしょう。金も地位も名誉も女も手に入れたのち、人間はこういう欲をかくようになるのかも知れません。「誰かの生殺与奪権」。うん、これはわかるわあ。確かに気持ちよかろう。自分と同じ種族である人間を、完璧にコントロールする。神に近づいたような快感が、そこにはあるのかも知れません。
 
実際、毒母とかそういうことやしね。人間の根本やね。で、コントロールされた西村くんは、実現不可能とも思われる仕事に向かっていくわけです。手に汗握るっ!やっぱり私、こういうアウトローな主人公が頑張る話、大好きです。天才的な手腕を持つスリである西村くんは、無事に仕事を終え、明るい空を再び拝むことはできるのでしょうか……!
 
 
 
なんとなくね、古い因習にまみれた話を書くので、そういうのばかりを読んでいたのですが、新しいのも読みたいなと思って間に挟んだこの作品。大当たりでした。面白かった。どきどきもするけどただ単に面白い大衆小説でなく、これはなかなかに純文学。難解さはちっともありませんが、人の在り方について深く考えさせられました。
 
中村文則さん、いい男やね。私は好きですよこういう男が。他のも読みますよ。いい作品に出会いました。面白かったです。
 
と、いうわけで次はまたもや宮尾登美子さん。「鬼龍院花子の生涯」。多分昔読んだ……と思うんだけど、もう記憶にないので再び。ううう、こちらも楽しみです。
 
さて、明日は平常営業。やっと小説書けるかな?頑張ろう。では。
 
おやすみなさい!