恥辱とカタルシス -5ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

ううーん、なんか私にはよー分からん世界だった……。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

よしもとばななさんの「スナックちどり」を読みましたよ!なんか今回は「よしもとばなな」さんなのね。「吉本ばなな」さんじゃなくて。

 

この名義の違いは何なんでしょうね。まあ、中身は吉本ばななさんです。図書館に同じ本が3冊も並んでたので、思わず手にした本書。図書館って話題の本は複数冊仕入れるんですよ。例えば又吉先生の「火花」なんかはこないだ見かけたら4冊ビシッと並んでいました。で、動かなくなると「ご自由にお持ち帰りください」という箱に入れられてその作品の冊数は減らされるわけです。

 

だからたくさん同じ本が並んでるのを見かけると、「あ、これ面白いんだ」と思って手に取るのが私の習慣になっていました。特に吉本ばななさんだし。この方の文章は本当に詩を読んでいるように綺麗で、素晴らしいなあと心底思っていましたので、なんの予備知識がなくても「絶対に外れない」と思って借りてみたんです。「スナックちどり」。でも残念、私にはえらくえらく遠い世界のお話でした……。

 

 

 

主人公はさっちゃんと呼ばれる女性。アラフォーです。ついこないだ旦那が離婚届けにやっと判をついてくれました。彼女の元夫というのは、他人のエネルギーを吸って輝きだすエネルギーバンパイヤなんですね。

 

おにぎり屋の店長を務める彼は、うわべは明るく生き生きとしていて客あしらいもとっても上手。人気者でイケメンで、でも裏では大麻を横流ししたり浮気したり暴力振るったりのダメ男。けどなんか知らないけどキラキラしたオーラを振りまいて、「あ、この人といると楽しいことが待ってそう」と思わせる魔力を持っています。

 

……うん。いるわこういう男。夜の店に行けばばんばんいるわ。にこにこして幸せそうで、でも一皮むけば寂しがりで、自分の欠乏を埋めるために相手のエネルギーを吸いつくす。相手に依存して欲しくて、頼られたくて仕方ない男。でも本心から自分の欠乏から目を逸らしてるから、自分の方が相手に依存してるって気付いてないんだよね。

 

でまあ、そんな元夫とやっと離婚が成立し、せいせいしたさっちゃんは1ヵ月のイギリス滞在を思い立ちます。そこに、ちょうどパリに滞在していたいとこ、ちどりから連絡が入る。

 

ちどりは両親がなく、祖父母が経営する裏路地のスナックを手伝ってきた女性です。さっちゃんと同じくアラフォー。祖父母が亡くなり意気消沈していたちどりと合流し、イギリスの静かなとある田舎町で、ふたりはお互いを癒し合う、優しい時間を過ごすのです……。

 

 

 

……というと、傷心と再生の物語、みたいな感じですよね。

 

実際、ふたりはお互いの苦悩をゆったりとした時間の中でぽつりぽつりと語り合い、肉親の気安さや愛情をもってして悲しみを分け合い、昇華していきます。さっちゃんは離婚、ちどりは祖父母を亡くすという、苦しみが和らいでいったのはいいことだと思います。

 

しかし、このふたり、逆に共依存関係なんだよなあ。さっちゃんは長年水商売をしてきたちどりのおおらかな優しさに癒され、ちどりは祖父母に近い、血の近い肉親と触れ合うことによって悲しみを霧散させようとする。けど結局、誰かに頼って紛らわせようとしてるんじゃない?実際このふたり、血の繋がったいとこ同士、しかも女同士、しかも酒の上の不埒でセックスしちゃうんですよ。いや、まあ寂しい女がふたり酔っぱらって一緒に寝てたらそんなことになるのかも知れん。……なるのか?よー分からんけど、私はなんか違うと思うな。

 

本当に骨身に染みた悲しみを、そんなことにすり替えてしまうのは果たして正しいのか?自分の心の中で、自分で噛み砕いて消化するべきなんじゃないか?ちどりに自分の悲しみを全部開示して、拭ってもらったつもりになっているさっちゃんは元夫と何が違うんだ?ちどりとさっちゃんは、お互いに心の隙間を埋め合うためにエネルギーを吸ったり与えたりし合っただけなんじゃないだろうか……。

 

 

 

まあ、私は離婚したことも親が死んだこともありませんのでねえ……。それが、どれほどの絶望なのか知りません。でも心が壊れそうに辛いことが起きて、そこから這い上がったことならあります。私はその時「これは自分で始末をつけんと一生引きずるなあ」と思ったんですね。

 

誰かに慰めてもらったって、そんなのは一時しのぎにしかならない。本当に心が抉れるぐらいに深くついた傷は、忘れたころに痛み出す。誰かに痛み止めを打ってもらっても対症療法でしかないんだって。自分でどうにかしてやる、と腹を括って傷を治すしかないんじゃないかって。実際治って今は平穏に過ごしてますけど、だからちどりとさっちゃんの慰め合いが一時しのぎに見えてしまった。だってもう女同士がどうこうは言わんけど、いとこでやっちゃあかんって。まあいとこは結婚できるしやっちゃったもんは仕方ないんだけど、なんかねえ……ちょっと、引いたわ。

 

読書をして、人の受け取り方は様々、という話を前回もしました。おそらくは「優しく万人を癒す再生の物語」だったこの「スナックちどり」は、私にはそうは響かなかったというだけですね。まあ、他人事やしね。よそのお方たちが落ち込みから復活されたのだから良かったと思います。でも、私はこういう話は書かないな。書けない。これが感性の差ですね。

 

いろんな感性があるからこそこの世界は美しい。創作ということをわすれ、思わず登場人物たちの生き方にまでのめり込んでしまったこの作品を、私はしばらく忘れることはないでしょう。これも一つの読書の形やな。うんうん。

 

と、いうわけで私はこれからもいろんな感性を探して本を読むのです。

 

ではまたっ!

 

 

今子供が横で読書感想文書いてる……。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
夏の子供が宿題をしておりますよ。ていうか、子供が小学生になってびっくり、今の子供の夏休みの宿題ってぬるいんだぜ。
 
昔って、ドリルと読書感想文と絵と日記と工作と自由研究と……てな具合だったでしょ?それが今どきの小学生は「プリント10枚、絵日記2日分、朝顔の観察2日分、あとなんかもうひとつ」。
 
「あとなんかもうひとつ」っていうのが、読書感想文とか工作とか自由研究の中の「ひとつ」でいいの。しかもプリントには答えがついてて、親が採点をするのだ。あ、それからアレがあるか。計算カード。単語帳みたいな足し算引き算のやつ。でも、びっくりするほど宿題が少ないの!こんなことでいいのかー!まあ、先生もお忙しいので宿題を簡略化されてるのかもしれませんが。
 
うちはとりあえず自由研究を選んだけど、子供が「読書感想文も書く」って。……親に似たんかね。親子で並んで読書感想文を書いております。しかしゆとり教育って見直したんじゃなかったっけ?こんなに宿題が少ないなんてびっくりしましたよ。うちの子は塾の宿題やら、漢検の勉強やらで毎日嫌々机に向かってますけど。あーそっか、もう勉強は校外でやってくれってことになったんかね。「学校は集団生活を学ぶ場、勉強は塾でやるもの」っていう。
 
なんせ、自分の子供の頃との宿題の量の差に驚いています。松山だけ?他の県はもっとちゃんと勉強してるのかなあ。なんか不安だわ。
 
……まあ、そんなわけで親子そろって読書感想文。母の方は絲山秋子さんの「袋小路の男」を読みました。川端康成文学賞受賞作です。
 
 
 
この作品は短編集で、
 
袋小路の男
小田切孝の言い分
アーリオ オーリオ
 
の3編が収録されています。
 
「袋小路の男」と「小田切孝の言い分」はほとんどひとつの作品ですね。出てくる登場人物一緒なんで。「袋小路の男」の主人公は日向子ちゃんという女の子。小田切くんというイケメンに恋をしますがこの小田切がまあ変わった男で。袋小路に住んでいる、人生の袋小路に行き詰った男。日向子ちゃんから見た小田切への思いが延々と綴られています。
 
ふたりが最初出会ったのが高校生の時。ふたりは付き合うわけでもなく、20年ぐらいつかず離れずの関係を続けるんですね。このふたりの間に流れる空気が面白い。
 
小田切くんは日向子ちゃんと付き合う気なんか皆無なんです。だけど、あんまりにも自分を好いてくれる日向子ちゃんを、手放したくないとも思っている。自分を一番好きであるはずの日向子ちゃんが、別の男に目を向けるとめちゃめちゃ嫉妬するしね。なのに触れ合う気はない。でも何となく電話しあったりして関係が途切れることもない。日向子ちゃんから見れば小田切はズルい男です。こんなに好きにさせといて、手に入らず、だからと言ってちゃんと振ってくれるわけでもない。こないだの潤一とはまた別のタイプのよー分からん男ですな。しかし、「小田切孝の言い分」に進むと、「……ははあ、あんたの言い分も分からんでもないな」と思わされてしまうのよ。
 
小田切は売れない作家なのですが、作品が世に出ない鬱屈に苛まれています。誰も自分を理解してくれないという焦りを、埋めてくれるのが日向子ちゃん。手放したくないのでしょうね。日向子ちゃんは無条件に自分を受け入れてくれる存在なんです。
 
小田切くんは母親との間に問題を抱えていて、だからこそ自分のことを好きだと言いつつも、よその男とゆきずった結果妊娠したりしちゃう日向子ちゃんのことを心底信用することができません。まあ……そらそやな。そんなことしながら「好きです好きです」言われてもな。不器用なふたりは交わり切ることなく、けれどお互いを見限ることもなく、この先も長い人生を奇妙な距離感でもって生きて行くことになるのです……。
 
 
 
 
……というわけで、この話はちっとも恋愛ものではないと思うんですね。私は。変人ふたりの共依存物語と言いますかね。もちろんただの純愛ものより、こういうひねったお話の方が私は好きなので「やっぱり絲山さんは違うなあ」とにやりとしたのでございます。しかし、しかし。
 
何気にネット見たら、この話を「心地よい恋愛もの」とか「もどかしい思いにグッときました」とかいう感想もあった。そっかあ、人の受け取り方は様々なんだね。というか、はっきりした答えがないこういう作品って面白いなと思いました。ミステリーとか人情ものとかって受け取り方がひとつしかないけどね。人間の思考って色々あって、それを色々に掻き立てる文芸作品。いいね。なんか大人の娯楽っていう感じがするよ。
 
絲山さんはやっぱり好きなのでまた読みます。次は吉本ばななさん。
 
というわけで子の読書感想文はなんと4日間計画に変更したぞ!えらくてこずっている……。私が口出すわけにもいかんし。頑張れ子よ!
 
ではでは、またっ!
 
 
 
 
 

一次選考落ちましたよ!

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

小説すばる新人賞の一次選考が発表になりました。1350編余りの応募作があったそうですが、一次突破なりませんでした。……残念!でもま、今はタイミングじゃなかったということなんでしょう。

 

ちぇっ、とは思いましたが深くは考えません。私が作家になるのはもう決定事項なので、それが「今回ではなかった」というだけ。同じペースで先を見て精進していきたいと思います。うん、前向きやな。……で、面白いのだけど。

 

昨日、落選を知る直前にちょっとした臨時収入があったのよ。結構な金額。焼肉なら20回ぐらい食べに行けそうな金額が降ってわいたのは、きっと神様が「凹むなよー!なんかうまいもん食べて元気出せ!」と言ってくれているに違いありません。

 

だから凹まず頑張るぞ。落選作はもう使いまわすことを考えず、エブリスタに上げることにしました。お題は「新世界」。少しずつ見直しながらアップしていきますので、よろしければこちらからどうぞ。

 

で、頭を切り替え本を読んだ話。前回、「切羽へ」が面白かった井上荒野さん。

 

「潤一」という作品を読んでみましたよ。これがなかなか、すっごく、面白かった……!

 

 

 

この作品はつい最近ドラマになったそうです。志尊淳くん主演。2003年の作品です。16年の時を経てのドラマ化。私は知らなくて、島清恋愛文学賞受賞作だから読んだんですけどね。でも、読んでみてそれも納得の作品でした。

 

短編連作なのですが、どのお話にも「潤一」という青年が出てきます。連作はすべて女性が主人公です。色んな女の目から見た「潤一」。こいつがもう、エロくてエロくて仕方がないのです。

 

 

 

30歳の映子は太極拳のインストラクターをしています。とは言え今は産休中。臨月でもうすぐ産まれそうです。そんな映子が職場である太極拳の教室に顔を出し、潤一と出会う。

 

老年の女性ばかりの教室で、潤一は異彩を放っています。臆することなくまっすぐに映子を見つめる潤一。あっという間にふたりはラブホにしけ込んでしまいます。でもそれっきり、姿を見せなくなった潤一。

 

かと思えば、バーテンとして働いてるバーで酔いつぶれた環ちゃん(28)を神社に連れ込んで犯しちゃったり。

 

かと思えば土木作業員として働いてる現場に佇んでた人妻千尋さん(29)の家に転がり込んでセックスに及んだり。

 

香子さん(43)の時には旦那さんの前で香子さんを抱いてお金もらうしねえ。同窓会で会った美雪ちゃん(26)も一夜限りで食っちゃうし。もー困った男なんですよ。すぐにやっちゃうんですよ潤一は。

 

でもこの潤一という男が、ただのエロ男じゃなくてなんとも雰囲気があるんですね。ただそこにいて、黙って見つめられただけなのになんかそういう気になっちゃう。

 

浮世離れしていて、危なっかしくて痛々しい男、潤一。最後は彼の一人称で語られる短編で締め括られます。

 

潤一はなんでこうなのか。彼の頭の中はどうなっているのか。明かされたのちに、また潤一は新たな女をその魅力で虜にして話の幕は降りるのです。

 

 

 

女にもいるよねえ。黙って微笑を浮かべてるだけなのに、やっけにモテる女。「えっ、あの子、また男変えたの?」みたいな。がつがつしてないのになんか知らんけどモテる子。しかも大して美人じゃないんだ。

 

そういうのの、病的な感じが潤一です。良かった。これは扇情的な映像作品になるでしょう……ところで。

 

今、子供の習い事が終わるの待って、市の施設で涼んでるんですが。

 

なんか隣のベンチでひとりでしゃべって爆笑してる女の人がいるー!見た目普通で綺麗な人だから余計怖い((( ;゚Д゚)))

 

……逃げよう。というわけで。

 

またー!

 

 

 

はい、150冊目!

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

さて、昨日あんなこと言ったんですけどねー。結局なんだかんだ言って、ホラーの方をきりの良いところまで書きましたよ。どうしても書きたくてっさ。

 

やっぱ「面白いはず!」と思って書き始めた話なので、自分でも続きを知りたくなっちゃうのね。でも、新しい短編のアイデアも同時に浮かんできたので、やっぱり長編はしばらく寝かせておこうかと思います。短編は、以前から書きたかった「白い靴下への憧れ」をテーマにする。「白い靴下」って何なんだって話なんですが、要は「ちゃんと大切に育てられている子供を羨む、可哀そうな子供」の話といえば適切でしょうか。

 

自分はきったない穴の開いた靴下しか履いたことがないのに、真っ白でレースがあしらわれた靴下を履いている子が目の前にいる。ハンカチにもちゃんとアイロンがあてられている。憧憬といいますか、嫉妬といいますか。綯い交ぜになった感情が発酵し、やがて二人が大人になった時に事件が起きる。……みたいなね。相変わらずえぐーい話になりそうですが、それを爽やかに書きたい。で、9月半ば締め切りの新人賞に応募したいと思います。

 

100枚前後の短編です。美しい海と、山の手のお屋敷と、赤線の名残が残る盛り場。控えた表現でぎょっとする話が書けたらいいな。と、いうわけで、頑張りたいと思います。そして、読んだ本の話。

 

井上荒野さんの「切羽へ」を読みました。直木賞受賞作です。以前から気になっていた井上さん、すっごく印象に残る作品でした!

 

 

 

井上荒野さん、ちょっと前にネットでよく拝見してたんですよね。何がどうって、「あちらにいる鬼」って作品が気になっちゃって気になっちゃって。

 

これ、井上さんのお父様で作家の井上光晴さんと、瀬戸内寂聴さんの不倫関係を赤裸々に描いた作品なんですね。長年の愛人関係だったというお二人。……その二人の話を、不倫相手の娘が小説にしようって言うんですよ。なんだその生々しいの。興味深い……まあ、読んじゃいないんですけど。

 

ちなみにね、井上荒野さんと江國香織さんって同じ文学賞出身なんですって。しかも同時受賞。江國香織さんのお父さんも高名な文筆家。そしてその時の選考委員が瀬戸内寂聴さん……。……なんかね、うがった見方なんですけど。まあ忖度ってやつなんですかね。古い時代の話ですしね。でもなんか……なんかやな。ま、大人の事情ってことで。

 

しかし、しかーしこの「切羽へ」はそんなもやもやも吹っ飛ばす面白いお話でした。ちなみに「切羽」は「きりは」と読むそうです。面白い……というとよっしゃあ爽快感!みたいな感じになっちゃいますが、違うの。じんわりとした日常の積み重ねの向こうに、隠している感情が見え隠れする物語。まさに今読むべき作品を読んだ、そんな気がしています。

 

 

 

主人公はセイちゃんという小学校の養護教諭。30代初めぐらいです。舞台は長崎の離島。美しい方言で綴られる島民との日常。セイちゃんには画家の夫がいて、ふたりは小さな居を構え静かに愛情深く暮らしています。

 

小さな島ですので、同僚は校長、教頭、月江ちゃんという若い女性教師だけ。セイちゃんは月江ちゃんを友人とし、島のみんなに愛され、何ひとつ不満のない日々を送っていました。しかしそこにやって来たのが若い新任教師の石和くん。つっけんどんで何を考えているのか分からない石和くんに、セイちゃんはなぜか惹かれ、心は千々に乱れていくのです……。

 

……なーんていうと安っぽい不倫ものみたいになっちゃうんですが。

 

これがすごく良かったのですが、セイちゃんは自分が石和くんに恋愛感情を抱いてるって、ちっとも認めないんですね。なんか気になる。なるけど、それより目の前の夫と共にあろうとする。なのになんか夫をみてたら悲しくなってきてしまう。夫もセイちゃんの変化には気付きながら、あえて愛情を確かめるようなことをしようとしません。それは、確かめることによって妻との距離を確認してしまうことを恐れてのことなのでしょうか。

 

お友達の月江ちゃんには、本土から泊りがけでやって来る妻帯者の彼氏がいます。あだ名は「本土さん」。その本土さんとの間で月江ちゃんは生々しい痴態を繰り広げます。人前でいちゃいちゃしたり。嫁が突撃して来てつかみ合いの喧嘩になったり。この月江ちゃんのやりたい放題が、不動のセイちゃんとの対比になっていて、セイちゃんの切なさを際立たせていました。セイちゃんはとにかく動かない。石和が気になって気になってしょーがないのにちっとも動かない。

 

やがて本土さんともめ倒した月夜ちゃんは、ヤケになったのか石和くんとやってしまいます。しかもそれをわざわざ家にまで来てセイちゃんと旦那さんに聞かせるんだぜ。意地悪いよなー。旦那さんはどんな気持ちで聞いていたんでしょう。セイちゃんはもちろん心中穏やかではありません。それでやっと実力行使に出るのかと思えば、それでもセイちゃんは動かない。

 

結局、石和くんは逃げるようにして島を出ていくことになります。本土さんと殴り合いの喧嘩をしちゃったんですね。石和くんも別に月江ちゃんのことが好きだってわけでもないんでしょうが、とにかくよく分からん男なんだよこいつが。ちょっと精神的にいびつなところがある彼は、ひっそりと現れセイちゃんに別れを告げ、霧のように島から消えてしまうのです。

 

 

 

まあとにかく。

 

美しいお話でした。情景も。言葉も。はっきり書かれていないのに、ありありと読み取れる登場人物の心情も。もう簡単に言っちゃえば、セイちゃんはただ単に島に来た珍しい若い男、石和くんとえっちしたかっただけなんだと思うんですよね。これだけ静謐な物語なのに、セックスシーンから始まってますしね。あちこちにそういうエッセンスが散りばめられているんです。

 

でもそんな感情をおくびにも出さないセイちゃん。石和なき後、ちゃっかり旦那さんとの間に子供を身ごもります。子供を得て、石和への思いにやっと区切りをつけることができたのです。それはもう、「あの男とやってみたい」と思う必要がなくなったということなんじゃないかと私は思います。この美しい作品の陰にあるのは生々しい女の性欲。それをこんだけ隠して清々しく爽やかに書き上げれるって、ほんとにすごい技術だと思います。

 

読む人によっては、違う解釈になるかも知れないけど。私は、セイちゃんは子供産んだのちにもっかいこういう気分になるような気がするぞ。「よその男とやってみたい」って考えるタイプの女性はいますし、そういう思考ってもう本能だからね。あの物静かで誠実な旦那さんをもう悲しませてはいけませんよセイちゃん!やるならこっそり!バレないようにうまいことやりなさいよ!

 

……と、いうわけで「切羽へ」でした。井上荒野さん、好きになっちゃった。いろいろ読んでみたいと思います。

 

ではでは、またっ!

天啓、とまで言うと言い過ぎなんですけどねー。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

今朝、起き抜けにぼんやりしてたらふとひらめいたんですよ。

 

「今書いてる話、ホントにこのまま進めて大丈夫?」と。

 

 

 

なんかねー、盆も終わって本腰入れて小説書くぞ、と思って頭の中で今書いてる辺りを反芻してたんですよ。したら、なんかぞわぞわした感覚があって。こういうのって見逃すと後でトラブルの元だったりするので、よくよく考えてみました。そしたら、「今書いてる話、置いといたほうがいいよ。新人賞のスケジュール、ちゃんと確認してみ?」と私の中の私がいうのよ。

 

で、確認してみると、このペースでいくと応募できるのが10月末締め切りの松本清張賞になっちゃうのね。ほんとは9月末には仕上げるつもりだったんだけど、とてもじゃないけど間に合わない。そしたら、その間にある文學界と群像新人賞はスルーすることになってしまう。9月末の文学界はスルーでも仕方ないけど、群像新人賞もか。9月末には他にも地方主宰の新人賞がいくつかある。あ……、確かに、これはなんかもったいないような気がしないでもない。

 

大体、今の話、8月頭に始動して、まだ2万字も書けてないんですよ。こりゃ10月末に間に合うのかすら怪しい。もちろんこの後夏休みが終わればペースは上がるだろうけど、でも文學界と群像新人賞はなんか気になるしな……というわけで、ちょっと頭を停止させてみることにしました。

 

今のホラーを書き続けるか、新たな短編から中編を量産するか。考えてみたいと思います。迷いが出たってことは「考えろ」って言われてるってことだから。書くのをいったん止めて、どうしたいか自分に訊く時間をとってみよう。

 

今のホラーはプロットも細部もほぼ出来上がってるから、また違うタイミングで日の目を見ることもありえるし。大体この話、書き始める前に私ここにも書いてるのよね。「出来なさそうならすぐに方向転換して別のアイデアを形にする」。……うん、危ないな。今の私の力量で、これを10月末までに仕上げる自信がない。やっぱり口に出したことは現実になっちゃうな。だから言動には気を付けているんですが、うかつでした。代わりにプラスの言葉を口にしておきましょう。

 

「私は出来る。書けるしちゃんと完成品を賞に投稿できる。それが審査員の目に留まる。私は受賞して作家としてデビューする。これはもう決まっていることで、あとはその時がやって来るのをにやにやしながら待てばいいだけ」

 

 

 

 

……すっかり危ない人みたいですが(;^_^A

 

でも結局、思い込みの力で人生って拓けていくんですよね。無理かなと思っている人に100%の力を出すことができるはずがない。なのではっきりと書いておきます。「私は自分で納得のいった新人賞に、自信をもってちょーおもろいと思えるものを書き上げて応募しますよー!審査員の皆さん、お待ちくださいませ!」

 

ビックマウスで良いのです。いつだって目の前で起きていることは最善、ということで。

 

しばらくは無になって読書したいと思います。次は150冊目だ!

 

では、連休明け頑張っていきましょう!