うーん、意外な作風でしたね。
こんにちは、渋谷です。
辻仁成さんのすばる文学賞受賞作、「ピアニシモ」を読みましたよ。中山美穂をシャルルドゴール空港で見かけて、「やっと会えたね」と言い放ったという伝説のある辻仁成さん。
「やっと会えたね」って。「どちらさんですか?」ってならんのかね中山美穂。またシャルルドゴール空港って。松山空港で見かけたんではその台詞は出んわな。とにもかくにも洒落こい人、という印象だった辻さんですが。
中山美穂と離婚したあたりから、私的には好感を持っていたんですよ。息子さんを引き取って、フランスで大事に育ててる辺りね。ちなみに中山美穂とは三回目の結婚で、その前は南果歩だって。恋多き方ですね。そして才能豊か。バンドはやってたわ映画は撮ってるわ本は書いてるわ詩も書いちゃうわ。
本当にすごい方です。しかも人間ができている。この方のツイートは読むたびに目が覚める思いです。
で、作家としてのデビュー作になるこの「ピアニシモ」。
ラブストーリーなのかと思いきや意外や意外、いじめられっ子中学生の泥沼青春物語という内容でございました。
主人公は透くん。年齢は14歳。悩み多き中二です。彼は父親の仕事の都合で日本中を転々としています。冒頭、彼が東京の中学校に転校してくるところからお話は始まります。この学校が結構荒れているようで、さっそくいじめの対象になってしまった透くん。
両親の仲も悪く、友達もおらず辛い日々を送る透くんですが、彼には「ヒカル」という親友がいるんですね。ところが、このヒカルは周囲の人たちには見ることができません。彼が辛い生活の中で生み出した自分の分身なんです。このヒカルと共に、透くんは「街のヒーロー」を探して繁華街をぶらぶらうろつきます。
彼らにとって「街のヒーロー」とは、電車に飛び込み自殺をしようとするサラリーマンみたいな、煩悩の先に生のエネルギーを発する、そういう都会の犠牲者ともいえるような刹那的な存在を指します。そういう人を見つけたくて、懐かしの伝言ダイヤルにかけまくったりなんかもするんですね。
とにかく透くんは孤独なのです。そんな透くんに、父親の自殺と苛烈ないじめという逆境が襲い掛かってきます。さあ、透くんは自分もヒーローになっちゃわずにこの逆境を乗り越えることができるのでしょうか……。
というね。
よくあるテーマです。川上美映子さんの「ヘヴン」や田中慎弥さんの「冷たい水の羊」を思い出しました。普遍的なテーマなんですねいじめ。中学生が出てくると大体いじめられてるような気がする。
どぎつさやショッキングさで言うと、この「ピアニシモ」は大したことありません。前述の二人の作品の方がよっぽどぎょっとします。でもこの作品の特筆すべき点は「ヒカル」という存在かなあ。透くんが心の中に作り出した幻影。
このヒカルが、なんか旧日本兵みたいなことをぽろぽろ漏らすんですよ。だから、これは何かの伏線なのかなあと思ってたんですが、結局回収されないままに終わった。これは予定通りなのか?それとも行きあたりばったりの設定だったのか。分かんないままです。でも、そういう不可思議な存在を出してるから、納得いかなくても「……まあ、なんか含みがありそうな気はするな」と納得させられてしまうという効果はあった。
あと、表現がまどろっこしかったね。冒頭がいきなり「ざらついた空気が、もう何か月も蒸発することのない腐りかけた日蔭の水たまりのように、長く古い廊下の先まで充満していた」から始まるもんね。腐りかけた日蔭の水たまりは、ざらついてないと私は思うのよね。そこは「ねっとり」なんじゃないか。比喩に使われる言葉のチョイスがいまいち納得いかなくて、いちいち考えさせられるから立ち止まらなきゃいけなくてまどろっこしかった。これが辻さん独特の文体なのかも知れませんが。
全体的にはエネルギーに満ち溢れた青春小説でした。なにが「ピアニシモ」なのかはよく分かんなかったけど。後半にかけての盛り上がりはどっちかって言うと「フォルテシモ」だったんじゃないかな。自分の中の鬱屈のエネルギーを暴力という形で発散した透くん。うん、いいいい。男の子は黙ってやられっぱなしじゃあかん。煉瓦で相手の頭かち割るぐらいのことはやらなあかんわな。
ヒカルとも無事決別できたようです。最後に光が見えたのは良かった。新人賞受賞作ならではのエネルギーを感じる作品でした。というわけで。
辻さんのは他の作品も読みますよ!なんせ芥川賞も受賞してるらしいんでねー。芥川賞好きとしては読んでおかなくちゃ。この粗削りな作品から、どのようにこの方の作品が洗練されていったのかも気になります。
さて、今日は川柳を6つも捻らんといかん。子供の宿題。昨日は俳句考えたよ!……いや、考えたのはあくまで子供。子供……が考えたようなやつを、うまいこと誘導して子供の口から引き出したよ。誰の宿題やねんほんとに。過保護ですねえ。困ったもんだ。
そんなわけで、またっ!