読書感想文154 田中慎弥 ひよこ太陽 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

うーん、やっぱりこの人は面白いです。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
田中慎弥さんの「ひよこ太陽」を読みましたよ!久々の田中慎弥さん。これはほぼ私小説といっていい作品なのだとか。
 
田中さんと言えば、衝撃作「共喰い」で芥川賞を受賞された方ですね。あれは面白かったなあ。貧しい地区に住み、暴力的な父親に支配された青年が、泥の底でのたうつような物語。……あたしゃ、ああいう世界が好きなのよ。
 
なんかほわーんとした悲しみを「誰か癒してくださーい」って丸投げするようなんとは次元が違うんですよ。命ぎりぎりのところで、どうにか正気を保って生きていこうとするぎらぎらした刹那を見せつけられる作品でした。あーいうのって、そーいう人にしか書けないものなんじゃないかと思うんですよ。あーとかそーとか何なんだって話なんですが、そういう素地がある人。要は、「破滅に近い場所にいる人」って感じ。
 
田中さんは今回も「死にたい死にたい」言ってます。はっきりは言いませんが、電車に飛び込もうとしたり、実家の屋根裏にベルト輪っかにしてぶら下げてみたり。
 
この人の何に惹かれるかと考えた時に、この「死んじゃいそうな感じ」を知ってるってとこなのかなと思うんですよ。うっかりしてると死んじゃいそうな、すぐとなりに死がある感じ。
 
 
 
 
死なない限り、人間は生きていかなきゃいけません。寝てるだけでお腹は減るし身体は臭くなる。その不快を取り除くためには動かなきゃ。家賃も、光熱費も払わなきゃ。
 
そうするとお金が必要になってくる。働かなきゃ。家から出なきゃ。なんか周りと話し合わすために情報しいれなきゃ。あれもしなきゃこれもしなきゃ。
 
あーめんどくせー!やってらんねーよ生きてくってめんどくせー!寝てるまま死ねればいいのになんで起きてめんどい雑事にかまけなきゃなんねーんだよほっといてくれこの世!この世の森羅万象よ俺をほっといてくれー!
 
……という主張が聞こえてくるかのようです。
 
その叫びを田中さんはこの作品中で「自分が生きていることが、自分自身の負担になってくる」と表現していました。こういう、この世界との結び付きが薄い人っているのよね。こういう人が世界に食らいついていく時に見える景色が、私は面白い。
 
 
 
 
で、「ひよこ太陽」です。
 
田中さん、ずっと下関に住んでたのが、四年前に東京に出てきたんだそうです。……で、しばらく女と同棲してたらしいぞ。おお……浮いた話。しかしその女性とは別れ、現在は独り暮らし。
 
財布事情は切迫しており、原稿は書けない。そんな鬱屈した日々を過ごすひとりの作家の日常が綴られています。あくまでフィクション。でも、ほぼ田中さんの日常なんでしょう。彼が田舎の母親から、東京で行方不明になっている「G」という青年を探して欲しいと頼まれるんですね。
 
Gは母親の友人の息子。作家志望でしたが、バイトを辞め姿を消してしまったのだそうです。田中さんはめんどいなーと思いつつも、原稿は書けないし死にたいし、とりあえずGくんを探してみよーかなーとゆるーく行動にうつします。
 
バイト先に聞き込みしたり、ファンレターの中にそういう人物はいないか探してみたり。間で、幻影のように現れる別れた女や白い帽子を被った男。病みかけの作家田中さんは、酒に溺れ締め切りに怯え、結果Gくんを見つけ出すことができるんでしょうか……。
 
 
 
 
物語と考えると、訳分かんない話です。でもね、「G」っていうのはGODの頭文字なんだって。田中さんが探してるのは神。相変わらず、この人は救いを求め続けている。
 
太宰治が延々「僕みたいな卑怯で矮小な人間はさっさと死ぬべきだー。僕はほんとにクソ以下でだってこんなこともあんなこともあったしさー」みたいに書いてるエッセイあったじゃないですか。エッセイ、というのかは分かりませんが、あれも私小説と分類するんかね。まあ、そういうぐじぐじ言い訳ばっかしてるやつ。
 
あれを無様にならずに書き上げた作品、と私は受け取りました。田中さん自身は、自分の恥部を明かすことに快感を覚えてるぽいところがあるんだけどねえ。でもやっぱり嫌いじゃないのよこの人。むしろ好きなのよ。おんなじ星の生まれっていう気がする。赤の他人とは思えない。
 
最後、田中さんはGの代理人という女性にこう問いかけられます。
 
「あなた、まだ死なないんですか?」
 
……だめー!まだ死んじゃだめ!もちょっと生きて!世の中の度肝を抜く小説を書くのよー!
 
という訳で、相変わらず面白い男、田中慎弥。私はこの人が好きです。未読のも読まなくちゃなー。
 
いずれ読もっ。楽しみ。ではではそんなわけで。
 
またっ!