読書感想文152 絲山秋子 袋小路の男 | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

今子供が横で読書感想文書いてる……。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
夏の子供が宿題をしておりますよ。ていうか、子供が小学生になってびっくり、今の子供の夏休みの宿題ってぬるいんだぜ。
 
昔って、ドリルと読書感想文と絵と日記と工作と自由研究と……てな具合だったでしょ?それが今どきの小学生は「プリント10枚、絵日記2日分、朝顔の観察2日分、あとなんかもうひとつ」。
 
「あとなんかもうひとつ」っていうのが、読書感想文とか工作とか自由研究の中の「ひとつ」でいいの。しかもプリントには答えがついてて、親が採点をするのだ。あ、それからアレがあるか。計算カード。単語帳みたいな足し算引き算のやつ。でも、びっくりするほど宿題が少ないの!こんなことでいいのかー!まあ、先生もお忙しいので宿題を簡略化されてるのかもしれませんが。
 
うちはとりあえず自由研究を選んだけど、子供が「読書感想文も書く」って。……親に似たんかね。親子で並んで読書感想文を書いております。しかしゆとり教育って見直したんじゃなかったっけ?こんなに宿題が少ないなんてびっくりしましたよ。うちの子は塾の宿題やら、漢検の勉強やらで毎日嫌々机に向かってますけど。あーそっか、もう勉強は校外でやってくれってことになったんかね。「学校は集団生活を学ぶ場、勉強は塾でやるもの」っていう。
 
なんせ、自分の子供の頃との宿題の量の差に驚いています。松山だけ?他の県はもっとちゃんと勉強してるのかなあ。なんか不安だわ。
 
……まあ、そんなわけで親子そろって読書感想文。母の方は絲山秋子さんの「袋小路の男」を読みました。川端康成文学賞受賞作です。
 
 
 
この作品は短編集で、
 
袋小路の男
小田切孝の言い分
アーリオ オーリオ
 
の3編が収録されています。
 
「袋小路の男」と「小田切孝の言い分」はほとんどひとつの作品ですね。出てくる登場人物一緒なんで。「袋小路の男」の主人公は日向子ちゃんという女の子。小田切くんというイケメンに恋をしますがこの小田切がまあ変わった男で。袋小路に住んでいる、人生の袋小路に行き詰った男。日向子ちゃんから見た小田切への思いが延々と綴られています。
 
ふたりが最初出会ったのが高校生の時。ふたりは付き合うわけでもなく、20年ぐらいつかず離れずの関係を続けるんですね。このふたりの間に流れる空気が面白い。
 
小田切くんは日向子ちゃんと付き合う気なんか皆無なんです。だけど、あんまりにも自分を好いてくれる日向子ちゃんを、手放したくないとも思っている。自分を一番好きであるはずの日向子ちゃんが、別の男に目を向けるとめちゃめちゃ嫉妬するしね。なのに触れ合う気はない。でも何となく電話しあったりして関係が途切れることもない。日向子ちゃんから見れば小田切はズルい男です。こんなに好きにさせといて、手に入らず、だからと言ってちゃんと振ってくれるわけでもない。こないだの潤一とはまた別のタイプのよー分からん男ですな。しかし、「小田切孝の言い分」に進むと、「……ははあ、あんたの言い分も分からんでもないな」と思わされてしまうのよ。
 
小田切は売れない作家なのですが、作品が世に出ない鬱屈に苛まれています。誰も自分を理解してくれないという焦りを、埋めてくれるのが日向子ちゃん。手放したくないのでしょうね。日向子ちゃんは無条件に自分を受け入れてくれる存在なんです。
 
小田切くんは母親との間に問題を抱えていて、だからこそ自分のことを好きだと言いつつも、よその男とゆきずった結果妊娠したりしちゃう日向子ちゃんのことを心底信用することができません。まあ……そらそやな。そんなことしながら「好きです好きです」言われてもな。不器用なふたりは交わり切ることなく、けれどお互いを見限ることもなく、この先も長い人生を奇妙な距離感でもって生きて行くことになるのです……。
 
 
 
 
……というわけで、この話はちっとも恋愛ものではないと思うんですね。私は。変人ふたりの共依存物語と言いますかね。もちろんただの純愛ものより、こういうひねったお話の方が私は好きなので「やっぱり絲山さんは違うなあ」とにやりとしたのでございます。しかし、しかし。
 
何気にネット見たら、この話を「心地よい恋愛もの」とか「もどかしい思いにグッときました」とかいう感想もあった。そっかあ、人の受け取り方は様々なんだね。というか、はっきりした答えがないこういう作品って面白いなと思いました。ミステリーとか人情ものとかって受け取り方がひとつしかないけどね。人間の思考って色々あって、それを色々に掻き立てる文芸作品。いいね。なんか大人の娯楽っていう感じがするよ。
 
絲山さんはやっぱり好きなのでまた読みます。次は吉本ばななさん。
 
というわけで子の読書感想文はなんと4日間計画に変更したぞ!えらくてこずっている……。私が口出すわけにもいかんし。頑張れ子よ!
 
ではでは、またっ!