読書感想文141 町屋良平 1R1分34秒 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

本日二回目の更新ですー。

こんにちは、渋谷です。



暑いから自然家にいます。本を開いたら思わず没頭しちゃう。そしてあっという間に読み終わっちゃう。

町屋良平さんの「1R1分34秒」です。芥川賞受賞作。上田岳弘さんの「ニムロッド」と同時受賞した作品ですね。上田岳弘さんのキャラがかなり立ってたから、あまり注目されなかった方の人、という認識しか私ありませんでした。しかし、しかーし、読んでみると一気に夢中。これ、すっごく面白いお話でした!



主人公は「ぼく」、21歳。プロボクサーです。実家とは絶縁しており、パチンコ屋でバイトしながらジムに通い、ストイックに生活しています。プロとしてはすでに試合を経験していますが、デビュー戦はKO勝ちを収めたものの、その後の戦績は芳しくありません。ボクサーとして、すっかり自信をなくしてしまっています。

人付き合いを嫌うタイプで、友だちはひとりだけ。彼は主人公「ぼく」がボクサーとしてあがく姿をiPhoneで撮影し、iPhoneで編集して映画を作っています。だからたまーに会うだけ。あとは、次の試合の対戦相手を研究し尽くす性格から、対戦相手が親友になっちゃう夢を見るぐらい。人と馴れ合うことを良しとしません。そんな孤独な「ぼく」が、ボクシングと向き合い続けるだけのお話なんです。



ちょっと、哲学的な作品です。題材はボクシングですが、スポ根ものではまったくありません。元々孤独を愛する青年が、肉体的にも精神的にも辛いボクシングという競技に向き合う中で、欲(性欲、食欲、勝利欲、生存欲)から離れ、生きる意味を失ってしまうんですね。でもそこで新たなトレーナー、ウメキチに出会う。ウメキチも「ぼく」と種類は違えど、変わらないぐらいの変人です。

「ぼく」はウメキチに反発を覚え、反抗することで少しづつ自分を取り戻していきます。……なんて、言葉にするとなんでもない話の運びになってしまうんですが、ふたりの関係性はちょっと簡単には表現できない。そして、「ぼく」というこの変わった精神の持ち主もとても興味深い。

「人間ってなんのために生きてるんだっけ」という怖い怖いエアーポケットに、誰しもふとした瞬間に陥ることがあるんじゃないでしょうか。「ぼく」もボクシングに絡めとられ、その疑問から抜け出せなくなってしまう。強い相手に脳を破壊してもらいたい、なんて。でも彼にはひとつだけ信じられるものがありました。それもまたボクシング。ひたすらに練習を重ね、自分を追い込んで、ラスト、背水の陣である試合の結果は……。



最後の3行で、苦悩を全部ひっくり返すあざやかなラストでした。うう、面白かった!私、基本的に「自分の存在を肯定しきれない人がうじうじ悩む話」が好きなんですね。「人生とは」とか「存在意義とは」とか。

私自身もそういうのをよく考えるから。「ぼく」もひりつくような命の遣り取りであるボクシングの向こうに、自分という生き物の存在意義を見出そうとしている。でも、最近負けてばっか。ぼく、生きてる価値ある?みたいに拗ねちゃってる主人公。

愛おしいなあ。誰しもにあるわよ、そういうこと。スマホゲームとバラエティ番組に毒されると、そんな事を考える心の隙間も塗り潰されてしまうんでしょうがね。この素直で真摯な主人公の苦しみが、すごく胸を突きました。面白かった。いい作品を読んだなあ、と思います。

ああー、目が疲れた。お昼寝します。

次は、去年の小説すばる新人賞受賞作。なんと著者は19歳だったんだって受賞時!19て……子供でもおかしくないんですけど。

というわけで、おやすみなさい!