読書感想文140 今村昌弘 屍人荘の殺人 | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

話題作を読んでみた。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
話題作ったってもうだいぶ昔の作品なんですが。2017年に鮎川哲也賞、その翌年に本格ミステリ大賞を受賞した、今村昌弘さんの「屍人荘の殺人」。
 
今村さんのデビュー作ですね。めっちゃくちゃ話題になって、神木隆之介君で映画化もされるんだとか。どんなもんかなーと思ってはいたんですが、私本格ミステリーってあんまりね……。海外もの、島田荘司さん、綾辻行人さん辺りは昔読みましたが、もう今はしんどいのよ。あのたくさんの登場人物を把握したり、館の構造を頭の中で再現したりするのが。
 
ですが、今村さんのインタビューをこないだどっかで読んだのよね……。この方、小説を書き始めたの、つい最近なんですって。「あ、小説書こう。ミステリー書こう」と思い至って、まず古今東西のミステリーを100冊読んだんだって。……うん、なんと素直な人でしょう。分かります。私もそういう頭の人間なので。素人は玄人から技を盗んでなんぼやわな。
 
で、読んでみたこの「屍人荘の殺人」……いや、まさかこう来るとは。読者の裏の裏をかく、非常に興味深い作品でした。
 
 
 
今日のはミステリーなので、思いっきりネタバレになります。犯人は伏せますが、あまりにも特徴的な舞台設定なのでねー、触れんわけにはいかん。なので、これから驚きを持って読みたい方は回れ右をしていただければ。言うよーさあ言うよー。
 
舞台は夏のペンション。大学生たちの夏合宿です。ありがちですねー。これで嵐が来て、館から出られなくなって、電話が繋がらなくなって
、助けが呼べずに一人ずつ殺されていく……というのが定石ですが、もうこのパターンって再現するのがかなり難しいですよね。今はケータイですから「電話線が切ってあるわ!」なんて展開はあり得ませんし。嵐ったって一晩もすれば止む。陸の孤島なんて作り出すことはもう不可能に近いですよね。そこで今村さんは考えた。なんと、館の近くでパンデミックを起こしちゃうのです。
 
パンデミック、と言ったら感染爆発なんて訳されますが、まあ新型インフルとか鳥インフルエンザとかそういうのに使われるイメージじゃない。違うのよ。このお話で爆発的に発生したのはなんとゾンビ。ゾンビに館を取り囲まれ、館は周囲から孤立します。この機に乗じて連続殺人に手を染める犯人。大学生、OBたちは、ひとり、またひとりと無残な死体となって発見されていくことになるのです……。
 
 
 
ゾンビて。まさか、ミステリーにゾンビが絡むとは思いもよらなかった。しかも、最初に出てきた名探偵役の男子大学生が、初期、早々にゾンビに捕まっちゃうんですよね。「いや……まさか。ホームズ役がゾンビになるなんてそんなはずない。そのうち何事もなかったかのように戻ってくるはずだ」と思いながら読み進めるんですが、全然戻ってこない。別の女の子が名探偵役にとって代わっている。
 
そんな馬鹿な……。ホームズ役が入れ替わるなんて斬新過ぎません?ていうか、ホームズ死ぬの?読み始めてすぐに?こんな作品って過去にあったんですかねえ。私が知らないだけでしょうか。だからかねえ、綾辻さんだったか、花村萬月さんだったか、大沢在昌さんだったか、とにかく偉い人が言ってたんですよね。「ミステリー書くなら死ぬほどミステリーを読まなければいけない。でなければ、使い古されたトリックを使って悦に入ることになる」みたいな。そうよねー、ミステリーって過去作への挑戦だもんね。そりゃまず100冊も読まんとな。実際、100冊程度じゃとっかかりにしかならないんでしょう。
 
続編として、「魔眼の匣の殺人」という作品も発売になっています。これも読んでみよ。おそらく、この「屍人荘の殺人」は、失礼ながら素人だからこその突飛な発想が功を奏した作品だと思うんです。トリック自体は、細かなものを重ねた感じで、言うほど奇想天外って感じではない。犯人の動機も弱いし。でも、うまくまとめる筆力、キャラの立たせ方にすごく力のある人だなあと思いました。ノンストップで一晩で読んじゃったもん。
 
面白かったです。発想って大事なんだね。私の頭からもこういう突飛な考えが浮かんでくれんかなあ。ほんと。頼むよ私の頭。
 
というわけで、次は芥川賞。と言っても一期前。
 
ではでは、暑いですがよい週末を!