恥辱とカタルシス -14ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

あああー!負けたー!

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

また小説現代長編新人賞受賞作を読みましたよ。あ、その前に今日市の健康診断に行ってきました。40になると急に市が健康を気にしてくれだすんですね。なんか手紙が来てたのでありがたく行ってきました。

 

血液検査と尿検査とメタボ診断。あとオプションで子宮頸がんとマンモグラフィをしてきたよ。子宮頸がん、5年ぐらい前にしたときはちょー痛かったのに今回は痛くなかった。なんかやり方が変わったんですかね。昔は「ピンセットで組織をもぎ取りますよ!」みたいな痛みがあったんですが、今回は全然痛くなかった。でも、マンモが痛かったわー。3年前にやった時は全然痛くなかったのに。あれ、技師さんの腕なんですかね。

 

胸をギューッと押しつぶすんですよ。なんかのしイカの気持ちがわかる感じになりますよ。「私の胸に何してくれんねや」などとちょっとしたイラつきも生まれますがとんでもございません。検診して下さっているんですから。粛々と受けてまいりました。とりあえず身長体重は良好、尿検査もパスでした。

 

何日かしたらそのほかの結果が送られてくるらしい。何ともなければいいんですが。子宮に関しては一回手術してるので自信がない。なんか痛いし。何ともなければいいな。

 

そんなわけで健康を気にした一日でした。ちゃんとした社会人みたいな振りをしてきたよ。でも家に帰るといつも通りだ!酒を飲んで本を読みました。

 

塩田武士さんの「盤上のアルファ」、もう面白かった!惨敗!こんな人と同じ年に出したら、どんなに面白い作品書いても受賞できるはずないわあ……。

 

 

 

 

塩田武士さん、私と同い年なんですね。1979年生まれ。専業作家でらっしゃるので、今年に入って急に健康診断の勧めが公共から届いたことであろう。40ですから。不惑。歯槽膿漏の検診もタダで受けられるらしい。

 

兵庫県出身の方です。関西学院大学卒。神戸新聞社に入社。2010年に小説現代長編新人賞を受賞されました。新聞記者さんだったんですね。この「盤上のアルファ」は塩田さんを主人公に置いたかのような、ドキュメンタリーなのではないかと考えてしまうような作品です。これがねー、もう、面白かった!

 

半分まで読んで既視感を感じて思い出したよ。このお話、NHKで連続ドラマになってるんですよね。結構最近だったと思います。私の好きな玉木宏が主演で、雄輔なんかが出てた将棋ドラマ。

 

夫が見てたのを横から見てたんだよなあ。おそらく最後までは見てなかったと思うんですが。読んでみればドラマになるのも納得の面白さでした。

 

 

 

すぐ前に読んだ「踊り子と将棋し」と背景は似てるんですね。新聞記者と棋士。「踊り子と将棋指し」の作者、坂上琴さんも元新聞記者でらっしゃいました。他にも小説現代長編新人賞には結構傾向があって、かつての受賞作には時代小説が多い。朝井まかてさんもこの賞からデビューされて今や審査員をされてるんです。まあ時代小説も書かないし新聞記者でもない私は目を瞑っときましょか。そういう流れもある、ということで。

 

主人公は神戸で新聞記者をしている秋葉という男性。33歳です。事件記者として活躍していた彼は性格が悪すぎて左遷されてしまいます。性格が悪い、てか、周りと迎合できない人間性なんですね。まあ分かるわ。にこにこ出来ない人間、いますよね。別にそれが悪いわけでもありません。

 

左遷された彼は文化部付になってしまいます。そこで取材対象になったのが囲碁将棋の世界。それとは別軸で語られる真田という男の人生。彼は秋葉と同じ33歳。恵まれない幼少期を過ごし、将棋だけを心の糧に成功を夢見ますが、破れ、フリーターとして喫茶店でバイトをしています。坊主頭で常にタンクトップ。秋葉が恋心を寄せる静という女性が経営する小料理屋で二人は出会い、やがて心を通わせ、プロを目指す真田を秋葉は応援することになります。

 

空虚だった事件記者時代の自分を投影しているんですね。秋葉も真田もそろって社会不適合者です。孤独に生きてきた二人が、共に目指すものを見つける。熱くなる物語です。まるで少年漫画のような盛り上がりを孕んで、真田の昇格試験の模様が綴られていくんですが、そこにミステリー要素やラブストーリーや家族のドラマまで織り交ぜられている。最後の数ページ前で「えっ!?」ってなったからね。これは、受賞作にして映像化というのも納得の仕上がりでしたわあ……。

 

 

 

ドラマでは雄輔が演じていた真田、私の頭の中では千鳥の大悟で再生されていました。雄輔じゃないって。絶対塩田さん大悟であて書きしてるって。

 

細かいあらすじってものはないような作品なんです。真田という男が棋士を目指して狭き門をくぐるべく戦う。その姿を自分に重ね合わせて応援する秋葉という男がいる。ただそれだけ。それだけなのに、すごい熱をもって迫ってくるような作品です。こんなんが大賞獲ったら、そこそこ面白いものが書けるみたいな人は尻尾巻くしかないわな。だって面白いもん。塩田さん、自分で「これは絶対に面白い!」って確信をもって世に出してるって感じがするもん。

 

その後も多数の著作を発表されているようです。他のも読んでみよう。きっともっと面白い。重箱の隅をつつくなら、このお話、読後はすごく爽快だったんですが、中盤までが結構間延びしてたのよね。目的が分からない、秋葉と真田の燻った話ばっかりだからあんまり盛り上がらない。

 

三人称の文章にも、ブレが見受けられたように思いました。あといちゃもんなんだけど、将棋が分からない人にはこの作品のクライマックスの盛り上がりは体感できないんじゃないかと思う。私は子供の頃に近所のおっさんに習った程度ですが、一応駒の動かし方とか中飛車とか居飛車が分かるんですね。分からない人には説明がないのでこの熱さが伝わらないかも。まあ、分かる人が読んでください、というスタンスなのかも知れません。うん、ただのいちゃもんです。

 

いい作品を読ませて頂いたな、と思います。ありがとう塩田さん。他のも読むからね!身体大事にして検診にもちゃんと行ってよねー!

 

 

 

みんな本気の作品を応募してくるんですね。頑張らなくちゃ。次も小説現代長編新人賞のを読みます。まっけないぞー!

 

じゃあ寝ようっと。睡眠大事。

 

では、おやすみなさいー!

はー、いいお話読んだ。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

オール讀物に出す短編の推敲を始めました。久々に読むと粗が見えるねー!序盤がもう崩壊してる!いそいそと直しましたとさ。

 

中盤から後半にかけては熱を帯びてきてなかなか面白かった。犯人もうまく隠せてると思う。でもまだまだ人目に触れさせられるものじゃないなあ。明日もちみちみと修正していきたいと思います。

 

140枚を102枚に削って、それを大雑把に推敲すると103枚になったのよね。まだまだこれからいじらなあきまへんわ。いじりましょう。100枚にできるのかなあ。まあ無理なら140枚バージョンも保管してるので、それをどっかに出してもいいし。

 

最近、小説書くのにGoogleドキュメント使ってるんです。リアルタイムに保存してくれるので、「ぎゃああ、ここまで書いたやつ全部消えたあ!」がないし、スマホにもアプリ落としたら互換性があるんですね。便利です。ご使用でない方は検索なさってみてはいかがでしょうか。

 

まあそれはそれとして、今日も小説現代長編新人賞受賞作を読みましたよ。今日の作品は中澤日菜子さんの「お父さんと伊藤さん」。公募受賞作にして、なんと映画原作となった作品なんです。

 

 

 

作者の中澤日菜子さんはこの作品で作家デビューなさる前に劇作家として活躍されていた方です。有名な賞も受賞されていたようです。この「お父さんと伊藤さん」は第8回、2013年の受賞作です。受賞時中澤さんは44歳ということになるかと思います。

 

もともと劇作家として活躍されていた方だけあって、話し言葉やキャラの個性に光るものがあって、あっという間の読了となりました。何ともハートフルな作品。映画の脚本として書かれていたのではないかと思うぐらい、目の前に映像が浮かび上がってくる作品でした。うん、こりゃ即映画になるわ。

 

しかもうちの夫が好きなタイプのやつだ。こういうのを見ながらうちの夫はよくこっそり泣いてます。三丁目の夕日とか。東京タワーとか。私はあまり好むタイプのお話ではないんですが、でも面白かったよー!やっぱり実力のある方の作品は、いくら畑が違うといえど輝かざるを得ないものなんですね。

 

 

 

主人公は書店勤務の女の子、彩ちゃん。34歳独身です。映画では上野樹里ちゃんが演じています。

 

この彩ちゃんが同棲している彼氏がなんと20歳上。伊藤さんといいます。映画ではリリー・フランキー。職業は学校給食のバイトのおじちゃん。のんびりとした、とても人間性のいいおっちゃんです。

 

この二人はもう1年以上同棲しているのですが、そこにある日突然彩ちゃんのお父さんが転がり込んでくるんですね。映画では藤竜也さん。分かりやすく頑固オヤジなお父さんは、元小学校教員です。妻である彩ちゃんのお母さんが亡くなり、長男の潔さんのところに身を寄せていたのですが、潔さんの奥さんの理々子さんがノイローゼになっちゃって彩ちゃんが押し付けられちゃった形です。おおう……他人事とは思えんぞ。どの家庭にもあり得る、親の押し付け合いですね。しかも彩ちゃんの同棲中の彼氏は特殊キャラの伊藤さんなんだから始末が悪い。

 

彩ちゃんは当初、お父さんとろくろく口をきくこともできません。厳格だったお父さんの教育を思い出し、委縮しちゃうんですね。でも伊藤さんはどこ吹く風。お父さんに気を遣っているような遣ってないような、微妙な距離感をもってお父さんのハートに少しずつ侵食しちゃう。この伊藤さんという人のキャラがこのお話のすべてといってもいいぐらい、とても魅力的な人物像なんです。そりゃリリー・フランキーが演じるはずです。あの方のひょうひょうとした雰囲気がぴったり。あて書きしてるんじゃないかと思うほどよ。

 

でまあ、この伊藤さんがとりなすような形で、潔さん彩ちゃん兄妹とお父さんが和解していく。ざっくり言えばそれだけの話です。でも、そこに配置されたスパイスが素晴らしいのよね。お父さんの故郷である信州の自然、「買って食べるものではない」とお父さんが言う柿の木の枝ぶり、SNSと家族の距離、お父さんが大切にするアパートの庭先の琵琶の木……。

 

お父さんが長年握りしめてきた、プライドと寂寞が生家の火事によって燃え尽きてしまう。クレプトマニア(万引き魔。つい最近こんな話書いた気がする)のお父さんが抱えてきた心の闇がさらされ、傷ついた彩ちゃんを救うのは、結局何もせず何も言わない伊藤さんなんですよねえ。うん、なんか一言ではまとめられない、すごいあたたかい話だったわあ……。

 

 

 

 

いやね?この「お父さんと伊藤さん」ほんと、面白かったです。一気に読んじゃった。伊藤さんも彩ちゃんもお父さんも小枝子おばさんもめちゃいいキャラだった。大旋風は巻き起こさないけど、映画が好きな人が「あ、その映画見た。いい作品だったよね」なんて言い合うような作品です。でもね、正直言うと悔しいな。だって中澤さん、もう第一線で活躍されているプロなんだもん。

 

劇作家としてプロなんだもん。こんな人が横にいたら新人賞を目指す素人たちは指咥えるしかないですよー。まあそれが新人賞というものなのだろうと、分かってはいます。いますけど、ちょっといちゃもんをつけてみたくなった笑 それぐらいこの作品は魅力的でした。面白かったです。

 

家族もの、苦手なんですけどね。自分の実家も振り返って、そのうち書ければいいな。私は兄弟が多いので、それぞれから見た両親とか。あの頃の葛藤とか絶望とか。ネタはどこにでもあるもんなんですね。アンテナを伸ばして生きていきたいと思います。

 

さーもう寝よ!明日子供プール開きだって。今日歯医者行ったらシーラント2本で2400円もしてちょービビった!松山市は幼稚園児医療費タダだったのよー。来年1月から小学生もタダになるんだけど、この半年の間は医療費かかっちゃうのね。

 

明後日は私が健康診断かつ癌検診だし。酒を飲んでる場合ではありません。というわけで。

 

おやすみなさいー!

 

 

 

小説現代長編新人賞ですよー。

 
こんばんは、渋谷です。
 
 
 
今書いてる長編を、小説現代の公募に出すことにしましたよ。なので歴代の受賞作を読んでいきたいと思います。今回は2015年の受賞作、坂上琴さんの「踊り子と将棋指し」。
 
坂上琴さんという方は、お名前から女性なのかと思いきや実は男性。京大卒で毎日新聞にお勤めになってる時にアル中になっちゃって退社、そこから執筆活動に入り、1年後この「踊り子と将棋指し」で作家デビューとなった方です。
 
1961年生まれとのことで……今58歳?合ってる?だから受賞時は54歳ということになりますね。遅咲きの作家さん、こういう方がいると心強いですね。大学在学中にデビュー、とかいう人ばっかだとねえ。おばちゃんは気遅れするんでねえ。
 
で、この「踊り子と将棋指し」、なかなか面白い組み合わせの、人情もの、かつ恋愛未満の恋愛ものでした。でもちょっと、いわゆる「荒削り」って感じが目についたかなあ……。
 
 
 
 
主人公は「三ちゃん」。記憶喪失のアル中男です。公園で犬連れて目が覚めて、「あれ、俺誰だっけ」というところからお話が始まります。
 
そんな三ちゃんを拾ったのが、そのわんちゃんの飼い主の依子さん。通信教育でトリマーの資格取得を目指す、36歳の踊り子さんです。
 
踊り子っていうのはカルメンでもネズミの中身でもなく、ストリッパーさんです。元AV女優の依子さんは聖良という名で舞台に上がっていますが、そろそろ引退も考えています。実家の母親は立ち飲み屋さんを経営していて、お兄さんはアル中。お父さんもアル中で自殺。こないだまで同棲していた男もアル中で突然死してしまいました。だから思わず、スナックで隣になった三ちゃんをお持ち帰りしたんです。お持ち帰りといっても身体の関係はなし。朝になって犬を連れてふらふら出て行った三ちゃんを再捕獲して、部屋に連れて帰ります。
 
記憶喪失ものですね。公園で目覚めるパターン多い気がする。やっぱりこのお話も「俺は一体誰なんだ」を探していく物語になります。聖良ちゃんの興行に引っ付いて、大阪へと向かう三ちゃん。禁酒を誓い、スーツを買ってもらってマネージャーとして同行します。

でも、結構早く三ちゃんは自分の正体に気付くんですね。三ちゃんは棋士でした。しかも八段。結構な有名人です。賭け将棋を生業にしている「くすぶり」と言われる輩相手に圧勝します。この将棋の描写がとても清冽。それまでぼんやりしていた三ちゃんが、カッコいい「棋士」として開眼するんです。

でも将棋のカンを取り戻すと共に、再びお酒に溺れていく三ちゃん。依子さんに対しても愛情が生まれ始めますが、酒のせいで勃たないのでなんにもできません。

大阪での出演が終わり、依頼があってふたりは白浜を訪れます。そのつぶれそうなストリップ小屋を救うため、三ちゃんはバイアグラの力を借りて、聖良ちゃんこと依子さんと舞台上でセックスすることになるのですが……。



結局、三ちゃんは自分を取り戻します。依子さんとも普通の恋人のようにキスをして、病院で治療を受けると決めます。再び棋士として、陽のあたる場所に出ると決めたんですね。うん、良かった。大団円です。

賭け将棋関連の輩たちも温かく人間味があり、聖良ちゃん周辺のストリッパーさんたちも味があって良かった。ストーリーも間延びせず読後感もいい。面白いお話だったと思います。

でも、ちょっと気になった点を言えば、依子さんの描写が大雑把だったかなあ。せっかくのいいキャラなのに、話し言葉だけでどんどん会話が進んでいって、どういう表情なのか、含みをもたせる表現がない。大阪弁だからか、余計に感情が分からない。

ここはもっと丁寧に書いて欲しかったなー。全体的にすごくあっさりした文体だから、なんかドキュメンタリーみたいなんですよね。もちろん坂上さんがそれを狙って書かれたのかも知れませんが、もっと感情たっぷりでも良かったんじゃないかと思う。依子さんの複雑な気持ちをのぞき見たかったなー、なんて。うん。すごくいいお話だとは思ったんですけどね。



受賞作はやっぱり完成度が高いですね。

きっと坂上さん自身が将棋を指される方なんでしょうね。ご本人もアル中経験者だし。人生経験が作品に表れてる。すごいなあ。アル中すらも逆手に取れるなんて。

私も今までのあんな事やこんな事を小説に書いてみたいと思いますよ。逆手にとれば、大概の事はいい経験という言葉で昇華されます。山口恵以子さんも人生経験を積んでからデビューされた。若いばかりが華ではないぞ。

というわけで、次行きまーす。

またねっ!
うーん、すごい人ですねぇ……。

こんばんは、渋谷です。



山口恵以子さんの「月下上海」を読みましたよー。面白かったので即読了!結構長い話だったんですけどねー。

食堂の調理婦をされていた山口さんは、55歳の時にこの作品で松本清張賞を受賞しました。大学出てお勤めしたり派遣になったり。シナリオ教室通ったりシナリオライターになったり。

紆余曲折あって、55歳で山口さんがこの作品を書き上げた時には、彼女は食堂のおばちゃん勤続12年の大ベテランになっていたそうです。その間に43回もお見合いしたらしいぞ。43回。しかも「割った酒は飲まない」と豪語する大酒家です。

そんなある種エキセントリックとも言える山口さんは、以前からよくネットの人生相談でお見かけしていました。ズバッと切り捨てるような回答に、「……うーん、なかなか個性的」と遠巻きに見ていました。正直どっちかっていうと、イロモノ的な。そういう作家さんなのかなと思ってたんです。でも、この「月下上海」を読んで印象がガラリと変わりました。

とにかく、面白かった。戦時中の上海のきらびやかさと陰鬱さの描写が見事だった。それになにより、登場人物たちがとっても魅力的だったんです。



舞台は昭和17年の上海。財閥令嬢(とは言えバツイチ39歳)の多江子さんは当代随一の人気女流画家。戦争の影が濃い日本を出て上海に渡ります。お父さんは国家的に顔が効く人なのですが、多江子さんはそれに甘えることなく背筋がしゃんと伸びた女性です。賢く美しく、才能に溢れ正義漢でとってもオシャレ。この暗い時代に、多江子さんはいつでもオートクチュールの素敵なお衣装に身を包んでいます。この描写も見事。

いわゆる中年女なんですけどね。上品なファッションと気の利いたセリフ回しで、多江子さんがいかに先進的な女性なのかがよく伝わってきます。そんな多江子さんが居を構えた上海の街。まるで見てきたかのような街並みや建物内の描写にうっとりしてしまいます。あまりにロマンチックで。ぼーっと口開けて読んでると、やがて多江子さんの身に危険が迫る。

憲兵が正体を隠して多江子さんに近づいてくるんですね。槙という名の男です。南京政府転覆を画策する、夏方震という中国人実業家の内情を探れと多江子さんに迫ってきます。この槙が準主役なんですが、これがもーいい男!

長身でイケメン、余裕しゃくしゃくな意地悪悪魔!多江子さんに要求を飲ませるためにてごめにしちゃったりして。

この槙くんが多江子さんに、並々ならぬ恨みを募らせていたことで物語は熱くなるのですが、そこまでにも多江子さんはサスペンスを乗り越えてきてるんです。無邪気に浮気を繰り返す夫を陥れて破滅させちゃったり。それを踏み台にして画家として売り込みをかけ大成しちゃったり。

多江子さん自体が巻き起こしたサスペンスに、槙の策略が加わり、時代の流れに巻き込まれ物語はどんどん加速していきます。

愛憎と愛国心と、運命とつきつけられる死。ああー、面白かった!ほんと1本の映画を見たようでした。山口恵以子さん、すごい作家さんなんですねー……!



もうね、NHKの連ドラになっていい感じでした。映画っていうよりそっちがいいなー。「大地の子」みたい感じで。

多江子さんの一代記であり、上海から見た第二次世界大戦記であり、復讐劇であり、上質のラブストーリーでもあった。まあ、文句つけるなら一個だけ、槙が多江子さんに恨みを抱いた理由がちょっと弱いかなー。でもそれがあっても全然面白かったけど。いい作品を読ませて頂きました。

作家としてのデビューも遅く、実質この作品でやっと世に出た山口さん。その時55歳だったというのはびっくりですが、この作品を読むと、その時間は無駄ではなかったんだなあと思います。きっと30歳の山口さんには、これは書けなかったんだろうと思いますから。

他の作品も読みたいと思います。ではでは。

おやすみなさいー!

うーん、やっぱり審査員てのはすごいのねー。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
村山由佳さんの直木賞受賞作、「星々の舟」を読みましたよ!これは!すっごい面白かった!面白かった、て言うかなんかすごく感動した!決して泣かせる話っていうんじゃなかったんですが。
 
話の持つ懐の深さと言うか、村山さんが小説というものや人生というものに対して持ってる大きな愛と言うか、なんかよく分からんけどでかーいお話だったんです。この作品が直木賞をとるのは納得!こないだの「ほにゃららする準備がほにゃららら」みたいのは一体何だったんでしょう。
 
村山由佳さんはすばる文学賞受賞作を読んだ時には、「……なんか華がない話だなー。なんでこんなので受賞できるの?変なのー」とか思ってたんですが、審査員の方ってやっぱりすごいのね。作品自体はもちろんですが、その作家のポテンシャルみたいなものを見てるんだろうなあ。まさかあの受賞作を書いた人が10年後、こんな素晴らしい作家さんになっていようとは。
 
それが分かる人が審査員をなさっているんでしょうね。シロートには分かんないもんなんだわ。この「星々の船」とっても素敵なお話でした。
 
 
 
この「星々の舟」は短編連作で、
 
雪虫
子供の神様
ひとりしずか
青葉闇
雲の澪
名の木散る
 
で構成されています。とは言え、すべてつながったお話。それぞれのお話の主人公は違うんですが、とある家族の歴史みたいなものを、それぞれ別の人間の視点で描いているんですね。主人公は話の順番に、
 
三男 暁
次女 美希
長女 沙恵
次男 貢
孫(貢の娘) 聡美
父 重之
 
が主人公となっています。
 
最終話を締めてるこのお父さんは戦争に行ってる世代の頑固親父で、長男は早くに亡くなっているんですが、次男と三男が先妻の子、次女は後添い(元家政婦さん)の産んだ子ということになっています。元家政婦さんだったお母さんは志津子さんというんですが、その時長女の沙恵を連れてこのおうちに入った設定です。要するに沙恵は連れ子、貢や暁とは血が繋がっていなかったはずなんですね。
 
志津子さんが急死したところから話は始まります。父親である重之と対立して家を出た暁が、久方ぶりに実家に帰ってくる。暁は離婚したばっかりです。長く実家と連絡を取っていなかった暁。兄弟たちは知っています。暁が家を出た原因が、血のつながりがないと聞かされていたからこそ愛してしまった沙恵が、実は重之が当時お手伝いに入っていた志津子に手を付けて産ませた子供だったということを……。
 
これがもう、切ないっ!この事実がすべてのお話の中に貫かれていて、それと共に各登場人物たちの目から見た家族、それぞれの人生が描かれています。みんな色々悩んでんだよねえ。でもそれぞれの主人公の波乱は、次の話の主人公が紐解いてくれるのでこれもすっきりポイントでした。一つの短編が、「ええー……これこの後どうなんねん」みたいにして終わるんですが、次の話の人が「誰それはついこないだああいうことがあったらしいけど、今は元気。こうこうこうなったらしい」ってちゃんと説明してくれるのね。もやもやせずに済む。
 
そして最後にお出ましになるのが、すべての家族に強烈な影響を与えてきた父、重之。ラスボスの登場です。ラスボスはそれぞれの家族にあれこれわだかまられているんですが、本人はそんなものどこ吹く風。だって頑固親父だもん。でも、重之がこうまで頑固に凝り固まってしまった理由が最終話で語られて、読者は一気に納得、そして重之という人間に引きこ込まれてしまう。
 
なんと、なんという熱量なのでしょう。そして、最後の最後にちゃんと暁と沙恵の対話のシーンを据えてくれる村上さん。なんだもうこの構成!これ書いてる今思い出してまた鳥肌が立っちゃったわよ!面白かった。ほんと、素晴らしい作品を読んだな、と思います。
 
 
 
 
あーいーね。こんなん自分でも書けるようになりたいね。
 
こうやっていいなと思う作品に会うとほんとに幸せだなと思うね。自分がこんなの生み出せたら最高だろうね。とりあえずエキスを吸収。
 
さあ週末ですが、今日はとりあえず白玉団子を作りますよ。夫がぜんざいに入れて昼ごはんにするんだって。ていうか昼ご飯ぜんざい?私、あんこダメな人間やからちょっとビミョーやわ。
 
私はミックスフルーツ缶にのっけるんだー。というわけで子供とクッキングしてきます。
 
ではまた!