日米映画批評 from Hollywood -2ページ目

名探偵コナン 紺青の拳 (5点)

採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2020年1月4日(インターネット)
原作:青山 剛昌
監督:永岡 智佳

 

 7年連続となる劇場版コナン・シリーズの歴代興行収入塗り替え、更には「天気の子」に次いで、2019年邦画興行収入ランキング第2位を獲得した作品。

【一口コメント】
 怪盗キッドというキャラの扱い方の難しさを、違う意味で教えてくれた作品。

 

【ストーリー】
 シンガポールのマリーナベイ・サンズで、女性弁護士のシェリリンが何者かに刺殺される。そしてその殺害現場で血まみれの怪盗キッドのカードが発見され、その直後にマーライオンの口から赤い水が吐き出される!
 シンガポールに京極が出場する空手大会の応援にコナン達が来ていた。パスポートを持たないコナンの渡航には怪盗キッドが絡んでおり、コナンをスーツケースに隠して怪しまれないように不法入国させ、キッドの助力なしでは日本に帰国できないコナンは「アーサー・ヒライ」の偽名で行動を共にすることに・・・!!
 そんなキッドの狙いは空手大会の優勝ベルトにつけられる宝石"紺青のフィスト"。殺人事件と宝石、これら2つを巡ってキッドやコナン達も巻き込まれていく・・・!!!

【感想】
 怪盗キッド―――。
 コナンの好敵手の1人であり、原作の中では何度も登場する人気キャラクターで映画においても過去何度も登場していて、メインキャラクターとなるのは今回で6作目。キッドが登場するたびに"スケール感"は増していくのだが、面白さは必ずしも比例せず、逆に反比例することすらあるという不思議なキャラクターでもある。もともと「まじっく快斗」という別作品の主人公ということもあり、キャラクターが立ちすぎていて、コナンとW主人公という役回りになることが多く、それがキッド登場の前作「
業火の向日葵」では逆転してしまった。この前作においては劇場版コナンではなく、劇場版キッドにコナンがゲスト出演しているくらい何もしなかったコナンだったが、今作では探偵と怪盗の役割分担がきちんとされていて、劇場版コナンにちゃんと返り咲いた。

 そしてキッド出演作では欠かせないもう1つの要素である"スケール感"においては実在の建物を爆破するというハリウッドの実写映画がのようなことをしてしまった。しかも舞台は日本ではなく、海外。パスポートを使えないコナンが海外に行くのは難しいと思っていたが、「
ベイカー街の亡霊」でゲーム世界で海外に行った時はなるほど!その手があったか!?と思ったが、今回は怪盗キッドによってそれを実現させてしまう!!
 ベイカー街の時に比べるとその手際というか、設定にやや無理感があるが、海外で活躍するコナンとキットが見られる、しかも現実に存在するシンガポールの街が舞台ということで興奮せずにはいられない!
 ましてやマリーナ・ベイ・サンズという、今やマーライオンを抜いてシンガポールの代名詞ともなっている建物を破壊してしまうとは、次回作以降のスケール感をどうやって維持していくのか・・・?と要らぬ心配までしてしまうほどだった。
 博士のメカを使ったコナンや、キッドや前作の安室のようなサブキャラがトンデモアクションをしたりするのはもう毎度のことで、アニメということもあり、気楽に流せるようにもなってきたという意味ではシリーズものの力というものを痛感するのだが、それを超えるレベルで、アニメでありながら実在の建物を破壊するという良い意味でのアニメ界の裏切りが、今作の一番の見どころかもしれない。

 というわけで、この流れでそれ以外は・・・と言う流れは簡単に推測できてしまうのだが、コナン・シリーズが推理物であっても、このレビューそのものは推理物ではないので、裏を書くつもりもなく、そこは淡々と思ったことを書いていこう・・・。
 推理という意味では今回、オープニング前に登場したレオン・ローの経営コンサルタントで心理学にも通じる催眠術師的な切れ者キャラ設定に、久々に大物感あふれる悪者が登場した!!と思い、実際キッドを2度までも退けるほどの手腕に期待は膨らんだのだが、真犯人が分かった後の小物感が半端なくて、ハードルが上がっていただけに悪い意味でギャップが大きかった・・・。
 一方の真犯人は逆にスケールが小さいどころの話ではなく、スケール感が小さく、ダメダメ感が漂いすぎているし、容疑者となり得る人物が他にいないため、真犯人が分かった後の「えっ、こいつが・・・!?」という驚きがまったくない。コナンが探りを入れるために真犯人の家に行こうとするのだが、そこでミスリード的な設定があるのかと思いきや、ミスリードどころか、犯人の動機となるヒント・・・というか答えを提示して、そのままそいつが真犯人という推理物としては何の面白みもない流れに興醒め・・・。
 それならそれで謎解きはディナーのあとで・・・ではないが、真犯人が分かった後にその描写を入れるなどの順番入れ替えなどの演出で対応するくらいのことはしてほしかった。

 また今回の影の主役とも言うべき京極もちょっと・・・という場面が2つあった。1つはとある理由で空手大会を途中棄権したこと。京極のキャラ設定上、その選択肢はなくはないのだが、ストーリー上はその棄権する必要がなかったと思う。
 2つ目の理由は棄権した結果、決勝で戦うはずだった相手とクライマックスで戦うシーン。しいて言えばこの戦闘シーンを見せるために棄権させたかったのだろうが、結果、園子をおんぶして戦うというあまりにも格好悪い戦闘シーンになってしまった。そもそも足場はあるし、周囲に敵もいないわけだから、おんぶする必要性がない。
 とはいえ、この2人のラブコメ要素はめでたくカップルとなった蘭と新一、和葉と平次に続く、ラブコメ要素第3弾。その意味では新鮮味があって良かったし、前髪を下した園子が見れたことも良かったのかもしれない。が、園子も京極が2つ程説明しなかっただけで「偽りだらけの男に守られたくなんかない!」とか言ってしまう、ある種逆切れ的なキャラ設定だったっけ?あの場面で園子が怒る必要性があるのはわかるのだが、それならそれで園子が京極に対して不信感を持つようなシーンをもう少し回数を分けて描くなどの努力をしてほしかった。

 そしてそのキャラ設定という意味で今作で最も気になったのが怪盗キッドのキャラ設定。
 少しおちゃらけながらも周りがあっと驚くような手法で盗みを実現させていたキッド。1回目は作品の性質上失敗しても、2回目は華麗に盗み出すのかと思いきや、2回目もあっけなく失敗。「
業火の向日葵」でコナンを食ってしまうほどの活躍をしたキッドが、こんな役回りになってしまうのはどうなんだろうか?
 レオン・ローの大物感を際立たせるために敢えてキッドをダメキャラとして描いたのかもしれないが、そのレオンが最終的にはダメキャラになってしまったことで無駄になってしまった。

 裏を返せばレオン・ローが真の黒幕として真犯人も操っていて、一見怪しそうに見えて謎解きの場面で別の犯人が出てきて、それをキッドが解き明かし、少し間をおいて真の黒幕であるレオンのことをコナンが解き明かす・・・的な展開になっていれば、この作品も傑作になっていたのではないか?と思える。

 キッドほどではないが、もう1つ気になったのが、エンディングで明かされた蘭が新一=キッドだと気づいていたこと。そこに気づいていたのであれば、マリーナ・ベイ・サンズのインフィニティ・プールで頬赤らめながら蘭の方から手を繋ぎにいくシーンを入れる必要性はなかったのではないか?
 そして本当に新一=キッドと気づいていたのなら、アーサー=コナンにも気づけよ!と突っ込んでしまった。

 最後の最後、次回予告で名古屋・栄のテレビ塔とオアシス21が映っていた!次回は名古屋が舞台なのか?というのが今作で一番の驚きだったかもしれない・・・。

名探偵コナン ゼロの執行人 (7点)

採点:★★★★★★★☆☆☆
2020年1月1日(インターネット)
原作:青山 剛昌
監督:立川 譲

 

 6年連続となる劇場版コナン・シリーズの歴代興行収入塗り替え、更には「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」に次ぎ、2018年邦画興行収入ランキング第2位を獲得した作品。

【一口コメント】
 裏の組織である公安がメインに絡んでくることで締まってはいるが、アニメならではのトンデモ設定と現実世界のリアルが上手く融合できていない点が残念な作品。

 

【ストーリー】
 大型無人探査機「はくちょう」の地球帰還が迫った頃、東京サミットが開催される東京湾の新施設、エッジ・オブ・オーシャンで爆破事件が起こる。サミット前に爆破事件が起きたことに疑念を持ったコナンが捜査を始めた矢先に、毛利小五郎が爆破事件の容疑者として逮捕されてしまう!!
 橘境子という女性弁護士が小五郎の弁護を担当することになるが、公安事件を数多く担当してきたものの、過去の裁判で全敗していることを聞いて不安に駆られるコナン達。しかし検察内部でもこの事件を巡って対立が起きており、そこに警視庁の公安部の人間である安室透が様々な策をめぐらせる。
 そしてコナンはIoTテロの可能性に気づくのだが、時すでに遅し、都内各地でIoTテロによる爆破が相次いでしまう・・・!!

【感想】
 あと少しスパイスが足りないな・・・と思うのと同時に、この場面でこのセリフ言うようなキャラだったっけ、コナンって?という危うさも感じた作品。
 この作品はコナンvs安室という対比構造になっていて、それは「真実を暴く者 vs. 正義を貫く者」というキャッチコピーにも表されている。真実を暴くのはもちろん探偵であるコナンであり、正義を貫くのはスパイとも言うべき公安の安室。ただし正義は公安、いや安室の信じる正義であり、コナンの信じる正義とは異なる部分が少なくない。
 その典型的なシーンが小五郎の逮捕、送検の一連の流れ。"正義のためであれば、多少の犠牲はやむを得ない"的な、日本の刑事ものや弁護士もののドラマでは必ずと言って良いほど描かれる内容を、安室は本気のコナンを引き出すために、証拠を捏造し、一般人である小五郎を犠牲にしているのだが、コナンは蘭が悲しむ姿を見て、激しく抵抗していた。それなのに、最後の最後、すべての謎が解明され、安室の口から"正義"ではなく、"真実"が語られた際のコナンの「買い被り過ぎだよ」の台詞は、いったい何だったんだろう!?
 コナンの協力を得るために小五郎を逮捕させた安室。これは"法を犯さないという理想だけでは悪を捌けない"という自身の正義を持っている安室だから脚本上は全く問題ない。実際それでコナンの協力を得られたわけだから・・・。ただしコナンの協力が無くても、安室単独の力でも謎は解けたのではないか?という疑念も少しある・・・。IoTテロの可能性も見抜いていたわけだし・・・。
 それに対し、小五郎が連行されるシーンであんなに激しく抵抗し、物語の途中で「そんなのは正義じゃない!」とまで言っていたコナンが、ある意味で自分が持ち上げられたことで満足し、証拠を捏造してまで一般人を巻き込んだ公安に対してあんなにあっさりと引き下がるとは・・・。殺人はもちろんだが、違法捜査や誤認逮捕に対して基本反対の立場で、ましてや恋人である蘭の父親が誤認逮捕されているわけだから、「買い被り過ぎだよ」以外に安室に返すべき台詞があったのではないだろうか?
 とはいえ、その直後反対方向に向かって歩いていく二人の描写がそれ以上を物語っているとも取れなくもない。安室が取った手段が単純な善悪で割り切れないものだということをコナンもわかっているからこその「買い被り過ぎだよ」という台詞につながったとも取れるのだ。

 コナンvs安室以外に、警視庁の公安 vs 検察庁の公安という国家権力同士の争いという今までのコナン作品にはない濃いバックグランドがこの作品の質を高めていることも書いておかなければいけない。
 「
異次元の狙撃手」ももちろんFBIが登場し、濃いバックグランドになっているのだが、FBIという組織の特性上派手な銃撃戦が前面に出てきたのだが、今回は公安という、基本的には表には出てはいけない裏組織ということで、近年恒例となっている爆発やアニメだからこそ許されるトンデモアクション(今回は安室の超絶ドライブテクニックがこれにあたる)、そしてラストのコナンx博士のメカによる(たいていはサッカーボール)エンディングを除いたストーリー上は表立った派手なシーンはなく、裏であるが故の工作に重きを置いたストーリー展開となっている。
 互いに盗聴されていることを分かっていながらの心理的な駆け引きなどは公安ならではの展開と言える。

 そして公安の"協力者"という人間関係が実はこの作品の裏テーマになっているところも面白い。コナンが安室の、安室がコナンの協力者であることは言うまでもないが、灰原がある人物に「君たちは一体!?」と聞かれ、"友達"でも"仲間"でもなく、「小さな探偵さんの協力者ってところかしら!」と答えるシーンは短い台詞の中に公安がテーマの今作品の裏テーマが端的に表現されていて、違う意味で微笑んでしまった。

 とまぁ、ここまでは良いところを書いてきたが、残念な点も今作品は多かった。
 まずは小五郎の弁護人を務めた若い女性弁護士。声優を上戸彩が務めているのだが、演技がいまいちな女優は声優でもいまいち・・・というのも問題なのだが、それ以上に問題なのが、第一印象が怪しい人物が最後の最後で善人にならずに、最後まで怪しいままというひねりのない設定。そこは良い意味で裏切ってくれよ!と思わずにはいられなかった。

 また開催1週間前にサミット会場で爆破事故が起きたにも関わらず、別会場で予定通りサミットを開催するという設定もどうなんだろう?通常なら中止、最悪でも延期になるはず。ましてや開催1週間前にインターネット環境が整うという会場でサミットが開催されるというのもあり得ない。
 カーチェイスや博士のトンデモメカは、アニメの世界で割り切って楽しめるのだが、現実世界にリンクするような設定の部分はリアルに描いてほしかった・・・。

 そしてせっかく公安という良い意味で締まる組織を描いているのにNAZUという某国の宇宙関連機関をパクった組織の探査機も残念。一度いたずらで侵入された経緯があり、対策ソフトを完成させているにもかかわらず、再度システムに侵入され、パスワードを書き換えられるという設定は残念。それであれば一度侵入されたという経緯はなくしておいた方がまだましだった。その場合、IoTテロの部分のストーリー展開を修正する必要が出てくるが、IoTテロ自体がそもそも他にいくらでも代替手段があっただけに、残念で仕方がない。
 そして公安という組織を引き出しておきながら、落下してくるカプセルの軌道修正に少年探偵団を使うという設定も残念。目暮警部が出てくるレベルの作品ならまだしも、公安が出てきて、しかもストーリーに直結するような形で活動をしているところに少年探偵団が事件解決に絡むというのはさすがにない。コナン作品だからと言えばそれまでなのだが、せっかく公安という組織の登場で引き締まった作品が少年探偵団の登場でぼやけてしまうのはもったいない。正直、少年探偵団である必要性はゼロだし、どうせトンデモ!?設定にするなら、公安から政府へ手を回して迎撃ミサイルを発射するくらいの設定にしてほしかった・・・とも思う、笑。正直、少年探偵団を出さずに公安からの秘密任務を阿笠博士が直接受けるなりで良かったのではないか?という思いもある・・・。

 天空を車で走り抜けるラストシーンは「天国へのカウントダウン」をオマージュしているのか?台詞は今作のタイトルにもちなんで「3、2、1・・・ゼロ」なんてカウントダウンもしているし・・・、なんて過去作との関連性を探すことができたりして、中だるみすることも詰め込み過ぎることもなく、最初から最後まで見られたという意味では良作だったのではないかと思う。
 犯人の動機についても近年のような薄っぺらさはなく、過去の回想も上手く活用して、犯人が犯行に至るまでの心情も描かれていて、そういう意味でも良作だったと思う。
 その一方でアニメならではのトンデモ設定と現実世界のリアルが上手く融合できていない部分が解消されれば、より一層の高みを見ることができたという意味では残念な作品でもある。

劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- (3点)

採点:★★★☆☆☆☆☆☆☆
2019年12月7日(テレビ)
主演:山下 智久、新垣 結衣、戸田 恵梨香、比嘉 愛未、浅利 陽介
監督:西浦 正記

 

 今年2019年は飛行機の中とテレビでしか映画を見ていない。映画館には2081年の10月以降足を運んでいない・・・そんな状況の中で久々にこの映画レビューを書く・・・そして久々に残念な作品を見る結果となった。

【一口コメント】
 テレビシリーズ(特に第3シリーズ)のファンのための作品で、シリーズ未見の人にとっては???、第1、第2シリーズのファンにとってはある種冒涜的な作品です。

 

【ストーリー】
 日本とカナダの病院において合同のライブ手術が行われる当日、成田空港に乱気流に巻き込まれた旅客機が着陸。要請を受けた救命救急センターはドクターヘリで白石たちを現場に向かわせる。そこにはカナダにいるはずの藍沢がいて、患者たちのトリアージを既に終えていた。
 そんな中1人の女性を病院へと運ぶと彼女が末期癌であることがわかる。また頭部に包丁が刺さったアルコール依存症の女性が病院に訪れる。彼女は雪村の母親だった・・・。
 続いて海ほたるにフェリーが衝突したとの連絡が入り、再びドクターヘリに乗り込む藍沢と白石達。現場に着くと鉄パイプに腹を突き抜かれた男性が車の中にいる。果たして藍沢たちは次々と押し寄せる患者たちを救うことができるのか?

【感想】
 冒頭にも書いたが、かなり残念な内容。
 映画のオープニングがいきなり「これまでのコード・ブルー」とテレビ・シリーズと同じ前回までのダイジェストで始まる。テレビ・シリーズを見ていない人からすると???。シリーズ初見の人向けのダイジェストかと思いきや、テレビシリーズ、3つ分のダイジェストのダイジェストなので、おそらく初見の人にとってはあまり伝わらない内容だったのではないかと思われる。
 そして内容的にも緋山が冴島の苦労話を語る場面があるが、冒頭のダイジェストにも含まれていない内容で、テレビシリーズを見ていない人には何の話?感満載な演出になっていて、置き去り感は半端ない。
 それでも93億円の興行収入を上げるわけだから、多くの人に愛されていたということがわかるし、その多くの人に向けての大団円という意味では最後の結婚式とエンドロールでのコメントは良い内容だったと思うが、これもまたテレビシリーズ未見の人にとっては上述の苦労話ほどの何の話?感はないものの、そこまで作品に入り込める要素ではなかった。

 そして一番の問題はこのシリーズの肝でもある災害現場における治療シーン。
 この劇場版における治療シーンは今までテレビシリーズで何度も見てきたシーンの焼き直し感が半端ない。それだけならまだしも焼き直した上でスケール感が小さくなっているという致命的なミスも起きている。劇場公開時にTVで流れていたCMでは「未曽有の大事件が・・・」的な演出をしていたが、内容が薄く、演出がいまいちでその事件のスケール感が伝わらないという初歩的なミス。これならドラマで描かれていた地下鉄事故の方がよほど未曽有の大事件に見える。

 これらはすべて脚本家のせいだろう。
 テレビシリーズのシーズン3から脚本家が変わったことで、シーズン1、シーズン2が医療現場に置ける救命救助活動を通して人間ドラマを描く秀作だったのに対し、シーズン3は恋愛要素が増えて、医療ドラマというよりは医療現場を舞台にしたラブコメ的な雰囲気が少しだけ感じられたのだが、劇場版にもその悪い流れが入り込んでいて、そこに時間を割いた分(特に緋山先生)、医療ドラマの方が薄くなってしまった。
 シーズン1、2の脚本家であればフェリー事故の現場で鉄パイプの患者だけでなく、もう1人くらい現場で治療するシーンを描いたのではないだろうか?もしかしたらオープニング直後の飛行機の描写をなくして、すべての出来事をフェリーに集約していたかもしれない。またシーズン3で白石のリーダーとしての成長を描いていたはずだが、それもどこかに消えてしまっている。シーズン3と同じ脚本家であれば、白石はあの事故現場に残って現場を仕切る姿を描くべきだったのではないか?
 それなのにこの脚本家はそんな自分で描いた設定を忘れて、お涙頂戴に狙いを定めて、腹を鉄パイプが貫通している父親を前に息子が確執を持っているという無駄な設定を持たせている。これから命を救おうという状況でこの設定はいらない。しかも現場で治療をするシーンは描かれたものの、その後どうなったのか?生死も含めて親子の確執がどうなったのか?に関する描写が一切ないというあり得ない脚本。そこを描かないと救命救急が扱う命の大切さが伝わらない。この脚本家はそこを分かっていないので、医療ドラマなのに軽々しいラブコメ要素を散りばめるのだろうか?
 もしかしたらエンディングが藤川と冴島の結婚式という既定路線があるので、この作品では極力生死を描かないという決め事があったのかもしれないが、それこそ本末転倒な形だと思う。この作品が多くのファンに愛されている理由であり、優先順位は「命の重さ」>「恋愛」であるはずだと思うのだが、この脚本家はどうも「恋愛」>「命の重さ」と考えている節がそこかしこに見られる。
 緋山先生の恋愛エピソードはこの劇場版に関してはまったくもって不要のものだった・・・。

 もう1つ致命的なのが、シーズン1、2を通して丁寧に描かれてきた安全確認の重要性もこの脚本家はわかっていないと思われる。シーズン1で黒田先生という名医が、医師としてのキャリアを失う結果となった腕を切断してまで伝えた安全確認。
 それをシーズン3では藤川先生が、そしてこの劇場版では主役である藍沢が安全確認を怠った結果、生死をさまようことになる。藍沢本人のミスではないものの、そこはシーズン3の3か月を通してフェローたちに教えたはずではなかったか?
 そんな大事なことすらなかったかのように藍沢がもらい事故に遭ってしまう。しかもその後、特にストーリー的に起伏がないまま、何もなかったかのように復活するという設定。そこまでして結婚式を描きたかったのだろうか?
 他にも脳死の息子の現実を受け入れられない両親に臓器移植の話を持ち掛ける描写も薄い。橘先生の行為はちょっとあり得ない。

 まとめるとテレビシリーズなら1話に1つのテーマで丁寧に描くべき話を、劇場版では末期癌患者、アルコール依存症の母親、腹部貫通親子の確執、脳死の息子の死に葛藤する両親、そして藍沢のもらい事故と大きく5つのテーマを入れ込んでしまったため1つ1つが薄っぺらくなってしまったと言わざるを得ない。
 おそらくこの5つのテーマを1つ1つテレビシリーズの1エピソードとして描けばそれなりに面白くなると思われる。
 10年にわたるシリーズの集大成が結婚式という設定の脚本に、プロデューサーもよくOKを出したなと感じる。結婚式を盛り上げるための設定で末期がん患者を登場させたのだろうが、この患者の描写にかけた時間を、腹部貫通患者のその後含めて、上述してきたような他に描くべきだったのではないか?
 コードブルーのファンは集大成として結婚式を見たいわけではなく、命の重さを扱う救命救急の医師たちの苦悩と成長を見たかったのではないか?もちろん結婚式を見たくないわけではなく、それはあくまでもサイドストーリーであって、それが本筋に据えられるのは違うと思う。医療行為を通じた成長ドラマと結婚式に絡んだ恋愛ドラマの時間配分が完全に逆!

 もしシーズン4なり、劇場版2が作られるのであれば脚本家を変更してほしい、それがこの作品を見て思った一番の感想かもしれない・・・。

オズランド 笑顔の魔法おしえます。 (5点)

採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2018年10月27日(映画館)
主演:波瑠、西島 秀俊
監督:波多野 貴文

 

 少し前までヤングジャンプで連載されていた漫画が原作と思いきや、小説が原作でそこからメディアミックスで広がった作品。知人から無料のムビチケを頂いたので、映画館を訪れた。 

【一口コメント】
 映画よりもTVドラマに向いていると感じた珍しい作品です。

 

【ストーリー】
 恋人と同じ職場である超一流のホテルチェーンに就職した波平は、グループ傘下の熊本にある遊園地・グリーンランドに配属されてしまう。そこで数々の企画を成功させ、"魔法使い"と呼ばれる小塚と出会う。
 1年を通してMVPに選出された社員は東京に転勤できる制度があることを知り、彼の近くで生活するため東京に戻ることを目標に頑張る波平だったが、何かにつけて自分の力不足を痛感。自分のことを学歴採用だと思っていた波平だったが、実は同期の吉村が東大卒だったことを知り、さらにショックを受ける。
 しかし小塚の指示を受けながら様々な失敗や成功を重ねていく中で、少しずつ仕事の楽しさややりがいに気付いていく。そしてある日、吉村と2人で小塚の退職願を見つけてしまう―――。

【感想】
 見終わった直後・・・というか見ている最中から感じていたのが、「
ハッピーフライト」に似ているなぁ~という雰囲気。
 仕事場の裏側が見えるという意味では航空業界の裏側が見える「ハッピーフライト」のテーマパーク版であるとも言えるこの作品。テーマパークで収集されたゴミの分別シーン、迷子を捜す時の無線連絡によるチームワーク、お客の前では走らない、緊急車両は園内に入れないなどの従業員が守るべき五か条、そして"虹の彼方"や"ゴールドナイン"といった隠語など業界あるあるを垣間見ることができるという意味では面白かった。
 しかし「
ハッピーフライト」と比べると1つ1つの笑いの質が低かった。

 キャストとしてはトコトン明るい上司を演じた西島秀俊が凄かった。というのも今までTVや映画で見てきた西島秀俊の役柄はどちらかというと真面目かどこか陰のある役どころが多かったから。トコトン明るいだけでなく、その裏に緻密な計算が仕込まれている。例えば波平にゴミ拾いをさせる意味であったり、無茶苦茶なことをいうアイドルとそのマネージャーに対する対応を波平に任せたり、"魔法使い"と呼ばれる彼の凄さを見せるシーンがいくつかある。それをあの爽やかな笑顔で嫌味なく伝える西島秀俊の新境地を見た気がした。
 個人的には小塚の過去をもっと掘り下げて欲しかったと思う。その方が作品としてももっと深みが増したはず。

 一方で新卒の波平を演じた波瑠も、仕事ができないのに頭でっかちで、社会や仕事を甘く見ているイマドキの大学卒1年目っぽさを上手く演じている。「私の経歴を見て採用してくれたんじゃ・・・?」と言う台詞が彼女のエリート意識を表現する典型的な言葉となっている。ただしこちらも彼氏が熊本に訪ねてきた際の気持ちの変化についてはもう少し掘り下げて欲しかった。
 そして元彼役の中村倫也もドラマではダメ男を演じることが多かったが、この作品では冒頭凄く良い男を演じていると思っていたら、熊本に来てからはいつも通りの安定の演技でした。
 この2人のバランスは非常に良かった。前半は中村が大人な男性、波瑠がダメな女性だったのが、後半2人の立場が入れ替わるという設定は面白かった。

 ストーリーとしては若者が社会に出て、人との関わりの中で成長していく物語となっていて、学生よりも社会人数年目が共感できる作りになっている。言い換えればこの作品ならではの「おぉ、なるほど!」的なポイントはあまりない。もちろん業界特有のあるあるネタは上述した通りあるのだが、それって他の業界でも同じであって、人間の成長物語としてとらえた時に他作品と比べた場合の「ここがこの作品は良かったよね!」というポイントがない。
 小塚の過去がもっと掘り下げられていたら、もしかしたらそのポイントになり得たのではないだろうか?

 そしてクライマックスの空中のCG合成感がひどかった。CGの技術は論外で、そのCGを使わざるを得ない設定を変えることができただけに残念。空中で波平と小塚が近づく場面があるのだが、その直後に地上で近づく場面も描かれており、空中で作品全体のクオリティを下げるほどの低レベルなCGを使ってまで、空中で2人の接近を描く必要があったのか?甚だ疑問の残るシーンだった。
 もう1つ夢を与える遊園地を舞台とした職業映画でありながら、偽物とはいえ爆弾騒ぎを2回も描くというのもどうなんだろう?夢を与える職場で働く職員であれば、他の方法を考えるべきではないだろうか?ましてや企画を担当している人間なわけだし・・・。

 全体的には映画にするほどの内容だったか?というのが正直な感想。
 TVのスペシャルドラマでも良かったんじゃないか?何ならTVドラマで10話前後で1人1人の登場人物を丁寧に描いた方が作品としてはもっと面白い作品になったのではないか?と感じた珍しい作品です。

ミッション:インポッシブル フォール・アウト (9点)

採点:★★★★★★★★★☆
2018年8月13日(映画館)
主演:トム・クルーズ、レベッカ・ファーガソン、ヘンリー・カヴィル、アレック・ボールドウィン、ヴィング・レイムス、サイモン・ペグ
監督:クリストファー・マッカリー

 

 テレビで前作が公開されていたこと、アメリカで「シリーズ史上最高の完成度!」という評判を得ていたこともあり、映画館へ足を運んだ。

【一口コメント】
 「シリーズ史上最高の完成度!」、その名に恥じない傑作であり、シリーズの集大成と言うべき作品です!!

 

【ストーリー】

 IMFエージェントのイーサン・ハントと彼のチームは、盗まれた3つのプルトニウムの回収を目前に、仲間の命が危険にさらされ、プルトニウムを奪われてしまう―――。
 この事件の裏側には、シンジケートの生き残り勢力アポストルが関連していて、奪われたプルトニウムを追う手掛かりはジョン・ラークという男の名前と彼が接触しているホワイト・ウィドウという女の存在のみ。さらにイーサンの動きを不服とするCIAは、ウォーカーというエージェントを監視役に同行させることをプルトニウム追跡の条件とする。
 ホワイト・ウィドウに接触することに成功したイーサンだったが、任務遂行のために収監中の敵であるソロモン・レーンの脱走に手を貸すことになる―――。

【感想】
 「シリーズ史上最高の完成度!」というアメリカでの評判通り、素晴らしい作品だった。
 IMF、CIA、アポストル、そしてジョン・ラークという4つ巴の略奪戦。しかもジョン・ラークは名前しかわからないという最後の最後までどんでん返しが期待される設定。そしてプルトニウムが3つあり、最後の最後は車やバイクではなく、ヘリ・チェイスという状況で相手のヘリからコントローラーを奪うという"不可能な作戦"が待ち構える。
 脚本家はクライマックスのこの設定(飛行中のヘリを追跡しながら、相手のヘリからどうやってコントローラーを奪うのか?)を考えただけでもすごい!と思ったのだが、よくよく考えてみれば、
パート3で風力発電用のプロペラの間を縫ってのヘリ・チェイス・シーンへのセルフ・オマージュとも言える。
 セルフ・オマージュと言えば、
パート2のオープニングで見せたロック・クライミングも活かされている。

 

 そして今作はパート4から始まった3部作の完結編とも言える位置づけの作品で、パート4パート5で散りばめられていた伏線を見事に回収して、見事な大団円を迎えている。
 中でも「イーサン・ハントとは何者なのか?」、そして「イーサンの愛する女性とは?」の2つのテーマについては深く掘り下げられている。
 1つ目の「イーサン・ハントとは何者なのか?」というテーマ。頭脳明晰、運動神経も抜群の超優秀なスパイでありながら、メンタルに弱さを抱えているイーサン。敵の手に落ちたルーサー、パラシュート降下で気を失ったウォーカー、殺されてしまうハンリー長官・・・と、イーサンが大切に思う人物が幾度となく危機に陥るたびにイーサンのメンタル以外での強さが描かれる。その一方でイーサンの弱さも描かれている。「大勢の命より目の前で失われそうな一つの命を救い出すことを優先する」というスパイとしてはNGな判断をしてしまうイーサン。例えばパリでレーン略奪の際に警官隊を皆殺しにしないように独断で作戦を変える機転の良さ=強さを描くと同時に、非常になり切れない=弱さも描いている。その弱さを最も象徴するのが、偶然出くわした婦人警官に対する対応。普通のスパイ映画なら問答無用で殺害されるであろうキャラクターに対しても非情になり切れないイーサンの弱さが描かれたシーンだった。こうして何度も何度もイーサンの苦悩を描いていくことで、2つ目のテーマがより際立つことになる―――。
 その2つ目の「イーサンの愛する女性とは?」については、今作が夢オチで始まったことに象徴され、ラストシーンで1つの答えを提示することで、パート3、パート4、そして今作と登場したジュリア、そしてパート5と今作に登場したイルサの2人のヒロインに対しても1つの答えを提示したように思える。そして、その2人のことをルーサーが「イーサンが愛した2人の女性」という直接的な言葉で表現するシーンまで登場する。そしてラストシーンでのジュリアとイーサンの会話が、あまりにも悲惨な過去を送ってきた2人の最後の会話としてはあまりにも切なすぎるのだが、イーサンが最後に見せた笑顔によってすべてが救われた気になってしまったのは自分だけだろうか?
 こうして幾度もの苦境と2人の女性を通して、イーサン・ハントという人間の内面をここまで深く描いたのはシリーズ通して初めてであり、それこそがこの作品をシリーズ最高傑作にしている最大の要因だろう。

 もちろんイーサン以外にもパート1から連続で出演し続けているルーサーとの強い絆であったり、パート3から出演しているベンジー、前作から続投したイルサとハンリー長官にもそれぞれに見せ場が用意されていて、その1人1人に"人間"イーサンとの直接の絡みが描かれているあたりも今作の脚本が非常に良くできていると感じられる理由だろう。

 

 またシリーズお約束のバイクのチェイスもシリーズ最高の出来。凱旋門をはじめとする様々な観光地を含めたパリ市街地で敵に追いかけられながら、ギリギリのところで交わしていき、最後の最後、パリならではの放射状の道路で四方八方から敵が迫りくる中、敵を撒いたあの演出はしびれた!!
 そしてジョン・ラークを出し抜くシーンの演出もスパイ映画ならではの渋さが光る演出で、これまたシリーズ史上最高の敵の出し抜き方だった。
前作であれば、ここで話は終わるところだったが、今作はここからさらにアクション的にもサスペンス的にももう一山あるのが、シリーズ史上最高傑作になっている第二の要因。今までのシリーズも何度も山場があったが、今作はその数が今まで以上に多いと感じた。
 それでいて、
パート3から加わったベンジーが良い意味で笑いのアクセントになっていて、アクション続きで緊張しっぱなしというわけでもなく、緊張の中にも笑いが上手く織り込まれているのも相変わらず上手い。例えばロンドンの街でイーサンをタブレットでナビゲートしながら、上下が逆だったり、3Dではなく、2Dで見ていたり・・・といった場面はその典型的なシーン。
 スパイ映画らしい演出という意味でも、物語序盤のカギを握るある人物がいる部屋が一瞬で変わってしまう演出なんかは、お見事!!またトイレでの1対2での肉弾戦も
パート2のジョン・ウー以来の派手な演出だった。それでいて一般客が入り込んできた際にイルサの返しが上手かったりするあたりはセンスの良さが光っていた。
 こういった一連の流れを踏まえると、この作品はシリーズの集大成と言っても過言ではない!!

 これでおそらく4~6の3部作は完結となると思われるが、次回作はどうなるのだろうか?現時点ではまだ次回作の話はないみたいだが、あるとすればどんな展開になるのだろうか?
 またアクションについてもどうなるのだろうか?パート2では断崖絶壁を登り、パート3では巨大プロペラの間をヘリ・チェイスし、パート4ではドバイの高層ビルにへばりつき、パート5では飛行機に掴まったまま離陸し、そして今作では上空8,000mからスカイダイビングしたり・・・。毎作観客の想像を超えるアクションを見せてくれたトム・クルーズ。今回はついに足を骨折してしまった彼だが、パート7では一体どんなアクションに挑むのか?
 いろんな意味で次回作が楽しみな作品です!!