名探偵コナン 紺青の拳 (5点) | 日米映画批評 from Hollywood

名探偵コナン 紺青の拳 (5点)

採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2020年1月4日(インターネット)
原作:青山 剛昌
監督:永岡 智佳

 

 7年連続となる劇場版コナン・シリーズの歴代興行収入塗り替え、更には「天気の子」に次いで、2019年邦画興行収入ランキング第2位を獲得した作品。

【一口コメント】
 怪盗キッドというキャラの扱い方の難しさを、違う意味で教えてくれた作品。

 

【ストーリー】
 シンガポールのマリーナベイ・サンズで、女性弁護士のシェリリンが何者かに刺殺される。そしてその殺害現場で血まみれの怪盗キッドのカードが発見され、その直後にマーライオンの口から赤い水が吐き出される!
 シンガポールに京極が出場する空手大会の応援にコナン達が来ていた。パスポートを持たないコナンの渡航には怪盗キッドが絡んでおり、コナンをスーツケースに隠して怪しまれないように不法入国させ、キッドの助力なしでは日本に帰国できないコナンは「アーサー・ヒライ」の偽名で行動を共にすることに・・・!!
 そんなキッドの狙いは空手大会の優勝ベルトにつけられる宝石"紺青のフィスト"。殺人事件と宝石、これら2つを巡ってキッドやコナン達も巻き込まれていく・・・!!!

【感想】
 怪盗キッド―――。
 コナンの好敵手の1人であり、原作の中では何度も登場する人気キャラクターで映画においても過去何度も登場していて、メインキャラクターとなるのは今回で6作目。キッドが登場するたびに"スケール感"は増していくのだが、面白さは必ずしも比例せず、逆に反比例することすらあるという不思議なキャラクターでもある。もともと「まじっく快斗」という別作品の主人公ということもあり、キャラクターが立ちすぎていて、コナンとW主人公という役回りになることが多く、それがキッド登場の前作「
業火の向日葵」では逆転してしまった。この前作においては劇場版コナンではなく、劇場版キッドにコナンがゲスト出演しているくらい何もしなかったコナンだったが、今作では探偵と怪盗の役割分担がきちんとされていて、劇場版コナンにちゃんと返り咲いた。

 そしてキッド出演作では欠かせないもう1つの要素である"スケール感"においては実在の建物を爆破するというハリウッドの実写映画がのようなことをしてしまった。しかも舞台は日本ではなく、海外。パスポートを使えないコナンが海外に行くのは難しいと思っていたが、「
ベイカー街の亡霊」でゲーム世界で海外に行った時はなるほど!その手があったか!?と思ったが、今回は怪盗キッドによってそれを実現させてしまう!!
 ベイカー街の時に比べるとその手際というか、設定にやや無理感があるが、海外で活躍するコナンとキットが見られる、しかも現実に存在するシンガポールの街が舞台ということで興奮せずにはいられない!
 ましてやマリーナ・ベイ・サンズという、今やマーライオンを抜いてシンガポールの代名詞ともなっている建物を破壊してしまうとは、次回作以降のスケール感をどうやって維持していくのか・・・?と要らぬ心配までしてしまうほどだった。
 博士のメカを使ったコナンや、キッドや前作の安室のようなサブキャラがトンデモアクションをしたりするのはもう毎度のことで、アニメということもあり、気楽に流せるようにもなってきたという意味ではシリーズものの力というものを痛感するのだが、それを超えるレベルで、アニメでありながら実在の建物を破壊するという良い意味でのアニメ界の裏切りが、今作の一番の見どころかもしれない。

 というわけで、この流れでそれ以外は・・・と言う流れは簡単に推測できてしまうのだが、コナン・シリーズが推理物であっても、このレビューそのものは推理物ではないので、裏を書くつもりもなく、そこは淡々と思ったことを書いていこう・・・。
 推理という意味では今回、オープニング前に登場したレオン・ローの経営コンサルタントで心理学にも通じる催眠術師的な切れ者キャラ設定に、久々に大物感あふれる悪者が登場した!!と思い、実際キッドを2度までも退けるほどの手腕に期待は膨らんだのだが、真犯人が分かった後の小物感が半端なくて、ハードルが上がっていただけに悪い意味でギャップが大きかった・・・。
 一方の真犯人は逆にスケールが小さいどころの話ではなく、スケール感が小さく、ダメダメ感が漂いすぎているし、容疑者となり得る人物が他にいないため、真犯人が分かった後の「えっ、こいつが・・・!?」という驚きがまったくない。コナンが探りを入れるために真犯人の家に行こうとするのだが、そこでミスリード的な設定があるのかと思いきや、ミスリードどころか、犯人の動機となるヒント・・・というか答えを提示して、そのままそいつが真犯人という推理物としては何の面白みもない流れに興醒め・・・。
 それならそれで謎解きはディナーのあとで・・・ではないが、真犯人が分かった後にその描写を入れるなどの順番入れ替えなどの演出で対応するくらいのことはしてほしかった。

 また今回の影の主役とも言うべき京極もちょっと・・・という場面が2つあった。1つはとある理由で空手大会を途中棄権したこと。京極のキャラ設定上、その選択肢はなくはないのだが、ストーリー上はその棄権する必要がなかったと思う。
 2つ目の理由は棄権した結果、決勝で戦うはずだった相手とクライマックスで戦うシーン。しいて言えばこの戦闘シーンを見せるために棄権させたかったのだろうが、結果、園子をおんぶして戦うというあまりにも格好悪い戦闘シーンになってしまった。そもそも足場はあるし、周囲に敵もいないわけだから、おんぶする必要性がない。
 とはいえ、この2人のラブコメ要素はめでたくカップルとなった蘭と新一、和葉と平次に続く、ラブコメ要素第3弾。その意味では新鮮味があって良かったし、前髪を下した園子が見れたことも良かったのかもしれない。が、園子も京極が2つ程説明しなかっただけで「偽りだらけの男に守られたくなんかない!」とか言ってしまう、ある種逆切れ的なキャラ設定だったっけ?あの場面で園子が怒る必要性があるのはわかるのだが、それならそれで園子が京極に対して不信感を持つようなシーンをもう少し回数を分けて描くなどの努力をしてほしかった。

 そしてそのキャラ設定という意味で今作で最も気になったのが怪盗キッドのキャラ設定。
 少しおちゃらけながらも周りがあっと驚くような手法で盗みを実現させていたキッド。1回目は作品の性質上失敗しても、2回目は華麗に盗み出すのかと思いきや、2回目もあっけなく失敗。「
業火の向日葵」でコナンを食ってしまうほどの活躍をしたキッドが、こんな役回りになってしまうのはどうなんだろうか?
 レオン・ローの大物感を際立たせるために敢えてキッドをダメキャラとして描いたのかもしれないが、そのレオンが最終的にはダメキャラになってしまったことで無駄になってしまった。

 裏を返せばレオン・ローが真の黒幕として真犯人も操っていて、一見怪しそうに見えて謎解きの場面で別の犯人が出てきて、それをキッドが解き明かし、少し間をおいて真の黒幕であるレオンのことをコナンが解き明かす・・・的な展開になっていれば、この作品も傑作になっていたのではないか?と思える。

 キッドほどではないが、もう1つ気になったのが、エンディングで明かされた蘭が新一=キッドだと気づいていたこと。そこに気づいていたのであれば、マリーナ・ベイ・サンズのインフィニティ・プールで頬赤らめながら蘭の方から手を繋ぎにいくシーンを入れる必要性はなかったのではないか?
 そして本当に新一=キッドと気づいていたのなら、アーサー=コナンにも気づけよ!と突っ込んでしまった。

 最後の最後、次回予告で名古屋・栄のテレビ塔とオアシス21が映っていた!次回は名古屋が舞台なのか?というのが今作で一番の驚きだったかもしれない・・・。