ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル(7点) | 日米映画批評 from Hollywood

ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル(7点)

採点:★★★★★★★☆☆☆
2012年1月16日(映画館)
主演:トム・クルーズ
監督:ブラッド・バード


 大ヒット・シリーズ5年ぶりの新作。日米でこの冬一番の大作と期待されていた作品でもある。

【一口コメント】
 エンターテインメント娯楽大作としては面白いが、名作と呼ぶには少しだけ物足りないスパイ映画です。


【ストーリー】

 イーサン・ハントはモスクワの刑務所からある人物の脱出を導いた直後、別の目的のために、クレムリンに侵入する。だが、そこで爆破テロに巻き込まれてしまう。病院で目覚めたイーサンは、ロシアの諜報員に爆破テロの首謀者だと決め付けられ、逃亡をするはめになる。
 IMFに救助を求めたところ、イーサンを迎えに来たのはなんと、IMF長官だった。ロシア政府は爆破テロの首謀者をアメリカだと疑い、一方のアメリカは関与を否定するために「ゴースト・プロトコル」を発動し、IMFは解体され、イーサンのチームはテロリストとして追われる身となってしまう―――!

【感想】

 目新しさはないが、面白い!簡単にまとめるならこんなところか?
 話の大筋はロシアではなく、ソ連とアメリカが冷戦を繰り広げていた一昔前のような設定になっていて、今の時代にはそぐわない。悪く言えばひねりがない、良く言えば単純明快。

 このシリーズはオープニングが面白い。この作品もそこは引き継いでおり、刑務所からの脱出劇とそれに続く、導火線点火+テーマ曲の流れによるオープニング。つかみはいつもどおりの安心パックだ。

 ただし、作品全体を通して、悪役の存在感が薄く、それが作品全体の緊張感の欠落にも結びついている。良い映画というのは良い悪役が必要である、とどこかの誰かが言っていて、個人的にも"憎たらしい"とか"恐ろしい"と思える敵役がいる映画というのは、点数が高い。
 この点が解消されていれば、もう1つ上のレベルの作品としてシリーズ最高傑作にもなっていただろう(個人的にはパート2のジョン・ウー演出が最高傑作です)。

 アクション面でも、サスペンス面においても、この作品、最大の見せ場がドバイの世界一の高さを誇るビル。
 高層ビルのサーバー・ルームに侵入するのに内部からの侵入は難しいから外部から・・・と言っておきながら、窓ガラスが割られても感知しないセキュリティってどうなんでしょう?というヤボな突っ込みはさておき、このビルの壁面を上る人間を誰にするか?を決める時にチームのメンバーが皆嫌がって、仕方なくというか、嫌々イーサンが上ることになるわけだが、前作までなら、率先して俺が!というはずのイーサンのキャラ設定を人間臭くしているのがこの作品の特徴かもしれない。
 人間臭さという意味では、そのビル上りの帰り道で窓ガラスに思いっきり頭をぶつけるシーンがあるが、これも今までのシリーズではあり得なかった人間味あふれるシーンだ。そしてオープニングの病院から抜け出すシーン。スパイ映画としては、それほどの高さでもない場所から、ゴミ箱に飛び込むことを躊躇するという描写もここで生きてくる。しかし、世界一の高層ビルでの見所がアレだけなのは正直物足りない。
 アクション面では他に、砂嵐の中でのチェースは新鮮だった。通常であれば、暗闇でのチェースになるところ、監督としては暗闇の変わりにドバイらしいものということで砂嵐を使ったのだろうが、目を開けられない状況の中で、目に見えないものを追うっていうのはさすがにリアリティに欠けたし、スクリーン上でも何が行われているのか、わかりにくかった。

 サスペンス面に目を移すと1つのフロアの上と下でまったく同じ内容の交渉を相手を摩り替えて成立させるという頭脳戦は素晴らしい完成度だった。ここ数年でもトップ・レベルのサスペンス・シーンと言っても過言ではないくらいのレベルだ。
 部屋の番号を好きに変更できるアイテム、目で見たものを印刷できるアイテムなどスパイ映画ならではの秘密道具も大活躍し、Mission Impossibleシリーズを深く印象付けるシーンでもある。
 アイテムといえば、オープニングで、「この指令は○秒以内に自動的に消滅する!」というお約束のシーンがあるのだが、これが消滅しない。このシーンをはじめとして、今回は何か壊れるアイテムが多かった気がする。例えば、スパイダーマン手袋。窓ガラスを上っている最中に右手のものが壊れて、一度捨てたはずの手袋が、風にあおられたのか、ビルを上っていくと窓ガラスに張り付いている・・・、笑える。
 フェイス・マスク製造器ももったいぶって、登場するものの、マスクを使うシーンは1度のみ・・・、笑える。
 その一方で、おぉ!と感嘆してしまうハイテク機器も登場する。1つが上述の目で見たものを印刷できるコンタクト・レンズ。最近でこそ、パソコンに接続しなくてもUSBなどから直接印刷できるプリンターが発売されているが、目で見たものを印刷できるようになるのはいつになるんだろう?
 そしてもう1つがCGによる擬似背景装置。遠近感までをCGによって再現する道具。狭い通路をこの装置を使って目的地に接近する緊張感たるや、素晴らしかった。

 またこのシリーズの別のお約束、宙吊りシーンも登場するが、今回はトム・クルーズはそれをやらない。
 そのミッションは部下に託し、イーサン自身はパーティー会場で別の部下に指示をする。この作品はイーサンの人間臭さを出すだけでなく、シリーズを重ねるごとに、イーサンが現場で職業的にも年齢を重ねていることもさりげなく描いている。

 そしてラスト・シーン。シリーズ初見の人には何のことだか、さっぱりわからない不親切極まりないエンディングではあるが、シリーズを見てきた人にとっては、人間味あふれたこの作品を締めくくるに相応しい終わり方。
イーサンと妻のはかなくも切ない恋の距離感。このシリーズはどこに向かうのだろうか?

 しかしトム・クルーズ。さすがハリウッドで20年以上トップを張り続ける俳優だ。日本の49歳の俳優が高層ビルの窓を上っている姿は想像できないし、絵にならないと思うが、それが絵になるのだから、トム・クルーズはトム・クルーズだ!