最初に、数字の大原則を確認しておきます。
- 算用数字 (Arabic nuerals) は基数を表す
- ローマ数字 (Roman numerals) は序数を表す
漢数字は特に決まりがないと思われるので、漢数字で序数を表しても大丈夫だと思います。
次に、将棋の「○段」「○級」は全て「○○が○段と認定しています」「○○が○級と認定しています」であることをここで確認しておきます。
ですので、「日本将棋連盟が免状基準で初段と認定しています」という人と「関西将棋会館道場が初段と認定しています」という人と「○○支部が初段と認定しています」という人と「○○小学校将棋倶楽部が初段と認定しています」という人の棋力が異なる、という現状は脇に置いておきます。(外部者にとっては「初段」の棋力が統一されている方が分かりやすいでしょうが、各団体・各集団にとって観測できる事象がかなり制限されている以上、現状では仕方ないと考えています。)
もう1つ再確認したいことがあります。日本将棋連盟が発行する一番下の認定状は15級ですが、これは「15級より下の棋力は存在しない」ということではなく「日本将棋連盟は15級より下の棋力の認定状を (本部窓口として) 発行しない」ということです。
定義域として棋力が存在しないことと、団体として認定状を発行しないこととは、まったく別のことです。この区別がついていない人を過去に見かけましたので、一応書かせていただきました。
これでやっと本題に入れます。
関西将棋会館道場のように段級差による手合い割を定めている場合、段級差は原則として基数的 (量的) でないといけません。
| 同段級 |
平手振り駒 |
| 1段級差 |
下手先 |
| 2段級差 |
香落(左香) |
| 3段級差 |
角落 |
| 4段級差 |
飛落 |
| 5段級差 |
飛香落(左香) |
| 6,7段級差 |
二枚落(飛・角) |
| 8,9段級差 |
四枚落(飛・角・両香) |
| 10段級差 |
六枚落(飛・角・両桂・両香) |
関西将棋会館道場は、それなりの来客数があり、上記の手合い割に基づく昇段昇級規程で段級位を定めていますので、段級位の物差しはかなりしっかりしていると言って良いと思います。(この仕組みで段級位が本当に精度よく線形になるのか、は検証する必要があると思いますが、その話は脇に置いておきます。)
この仕組みがあるので、「小学生の頃に友達とよく将棋を指しました」というくらいの (将棋を習ったことがない) 成人男性ですと道場で15級として手合いを付けてもらっても大抵は負け越すはずです。母集団と物差しを元に段級位を定義しているので、このような (正常な) 状態になります。
ところが、物差しのことを考えずに勝手に段級位を定義する人がいます。その一例を以下に引用します。
前述のように、日将連は、10級からのスタートとしているので、その意味ははっきりしている。将棋のルールを覚え、指すことができれば、10級だ。
この時点で、棋力の存在と認定状の発行を混同していることが分かります。(しかも、この記事の執筆時点で日本将棋連盟は15級の認定状を発行しているので、「10級からのスタート」自体も誤りです。)
おわかりのように、5級とは級位と初段の真ん中である。その上で次のように定義したい。
「将棋の5級とは、最低1冊の棋書(戦法解説など将棋関連の書籍)を読破し、何か一つ、得意戦法を持つことである」
ちなみに初段については、私は、こう定義する。
「将棋の初段とは、対局を終えたあと、初手から投了までを相手の手も含めて再現できることである」
言うまでもなく、こういう定義をすると物差しは破綻します。言い換えると、段級差による手合い割が適用できなくなります。
ピンとこない人のために、温度で説明します。温度表記は「水が氷る温度を0度と定義します」「水が沸騰する温度を100度と定義します」「この2つの定義を元に、等間隔に温度を数値で表します」という仕組みになっています (気圧などの話は無視しています)。
お判りになると思いますが、外から与えられる定義は2つまで許容され、あとは等間隔に目盛りをつける必要があります。
もしも「鶏卵を10分間茹でてちょうど固ゆでになる温度を50度と定義します」というように3つ目の定義が入ってきたら目盛りが狂うことが分かりますでしょうか。温度の定義が非線形になります。
以前、とある将棋大会の段級位認定部門へ私の息子と息子の友人数名を連れて行き、「この子は15級です」と言ったところ、係員から「将棋に15級なんて存在しない、一番下は10級だ」と言われ、対局表を強制的に10級に書き換えられたことがあります。
なお、ここにくる子の多くは関西将棋会館道場の経験者であると思われ、その場合は関西将棋会館道場の段級位を名乗るでしょう。(一般的に、緩い認定による段級位を名乗ることは恥ずかしいことではないかと思われます。)
確か関西将棋会館道場と同じ手合い割を採用していたと思うので、先述の子 (10級に書き換えられた子) は8級の子と香落ちで対局することになります。いい勝負ができそうでしょうか。
ついでに1件、架空の事例を考えてみて下さい。将棋を習ったことがないけど友達同士で指している子をこの段級位認定部門へ連れて行ったとします。ちゃんと統計を取ったわけではないですが、私の経験上、校内で無敵の強さを誇る子でもせいぜい20級、普通の子は25級程度、弱い子は30級以下、という感じです。仮にこの子が25級だとして、係員に勝手に「10級」と設定されて、道場8級の実力がある子と香落ちで対局していい勝負ができそうでしょうか。
1局だけなら我慢できるかも知れませんが、次から次へと不適切な手合い割で対局させられたら、その子はどう感じるでしょうね。多分、8割以上の確率で将棋が大嫌いになって「もう一生将棋なんてやらない」と思うでしょうね。
将棋関係者は、不適切な将棋大会が大量の将棋嫌い児童を生み出していることを認識すべきです。先述のような出鱈目な棋力定義をする人がいて、そのような定義 (特に「一番下は○級」という定義) を妄信的に信じながら物差し的な手合い割を適用しようとする係員がいると、本当に悲惨な状況になります。こういう行動は害悪でしかありません。
どうしても「一番下は10級」「一番下は15級」のようなことをしたいのであれば、以下のいずれかを選んでいただきたいです。
- X級、XV級、のようにローマ数字で表す。そうすると級位差は等間隔とは限らないこととなり、級位差に基づく手合い割は適用できなくなる。(実態に基づく手合いを組まざるを得なくなり、将棋大会で悲しい思いをする子どもが減る。)
- 一番下の級に該当する子どもの参加者を大量に集める。私の推測ですが、一番下を「10級」とする場合でも、その「10級」に該当する子どもが20人参加すれば棋力が近い同士で対局が組めるようになり、悪影響が出にくくなります。
でもやっぱり、将棋関係者には物差しによる段級位設定をしていただき「将棋を始めたばかりの人には25級や30級の人がいる」という認識を持っていただきたいです。
入門者に対して将棋界が今までどれほど冷酷な仕打ちをしてきたのか、関係者全員が認識すべきだと思っています。