小川洋子の「夜明けの縁をさ迷う人々」を読んだ! | とんとん・にっき

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小川洋子の「夜明けの縁をさ迷う人々」(角川文庫:平成22年6月25日初版発行、令和2年8月30日5版発行)を読みました。

 

本のカバー裏には、以下のようにあります。

世界の片隅でひっそりと生きる、どこか風変わりな人々。河川敷で逆立ちの練習をする曲芸師、教授宅の留守を預かる魔訶ナイフ、エレベーターで生まれたE.B.、放浪の涙売り、能弁で官能的な足裏をもつ老嬢・・・。彼らの哀しくも愛おしい人生の一コマを手のひらでそっと掬いとり、そこはかとない恐怖と冴え冴えとしたフェティシズムをたたえる、珠玉のナイン・ストーリーズ。解説・村田喜代子

 

村田喜代子について、以下の著作を読みました。

村田喜代子の「鍋の中」を読んだ!

村田喜代子の「故郷のわが家」を読んだ!

 

その村田喜代子が、この本の解説を書いています。

少し長いですが、一番の要点に思えるので…。

小川が書いた新聞エッセイに、一番好きな題名の本として、ジョン・マグレガーの「奇跡も語る者がいなければ」を挙げています。

イングランド北部に暮らす人々の一日を描いた小説で、登場人物の一人が一斉に飛び立つ鳩の群れを指して、鳥同士がぶつからないのを見たかい、と娘に言う。こういうことは気をつけていないと気づかずに終わってしまう、特別なことなのだと教える。奇跡も語る者がいなければ、どうしてそれを奇跡と呼ぶことができるだろう・・・、と。

「この本の背表紙を見るたび、小説の書く意味を、誰かが耳元でささやいてくれているような気分になれる。鳥が一羽もぶつからずに飛び立ってゆく奇跡を書き記し、それに題名をつけて保存することが私の役割なのだ。私にもちゃんと役割があるのだ、と思える。そうして再び、書きかけの小説の前に座る。」

思えば小川洋子という人は実に奇妙な作家である。飛び立つ鳩の群れの奇跡や、人の体がきっちりと血液を循環させて心臓が拍(う)つ奇跡や、日が昇って日が沈む奇跡に眼をみはる人なのだ。

とはいえ9編を読み終えての感慨は、何より小川洋子という作家は発想の人だという驚きである。発想力は、頭脳の運動力であり、ちょっと変な言い方であるが、頭脳の体操士とでも呼びたいくらいだ。そして、そうやって、作家は書きたいものを書き続ける。書かずにはいられない。その書きたいものとは作家にとっての憧憬、希求であろう。思えば小説家とは幸せな職業である。と、これは私自身についての述懐なのでもあるが。

 

目次

曲芸と野球

教授宅の留守番

イービーのかなわぬ望み

お探しの物件

涙売り

パラソルチョコレート

ラ・ヴェール嬢

銀山の狩猟小屋

再試合

解説―永遠を拾いに 村田喜代子

 

小川洋子:

1962年、岡山県生まれ。早稲田大学文学部卒。88年、海燕新人文学賞を受賞。91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞受賞。2003年刊の「博士の愛した数式」がベストセラーとなり、04年、同書で読売文学賞、本屋大賞、「ブラフマンの埋葬」で泉鏡花文学賞、06年、「ミーナの行進」で谷崎潤一郎小、13年、「ことり」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。著書に「偶然の祝福」「薬指の標本」「沈黙博物館」「猫を抱いて象と泳ぐ」ほか。

 

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