小川洋子の「寡黙な死骸 みだらな弔い」を読む! | とんとん・にっき

小川洋子の「寡黙な死骸 みだらな弔い」を読む!


この本、「寡黙な死骸 みだらな弔い」は、昨年暮れに「貴婦人Aの蘇生」と一緒に購入したものです。ともに小川洋子の作品です。まず先に「貴婦人Aの蘇生」を読んで、その後に「寡黙な死骸 みだらな弔い」を読みました。本の題名がやや奇怪で陰湿な感じを受けるのに比して、表紙は明るくお洒落な感じです。ちょうどいい長さの短編が繋がってるので、難なく読みやすい作品です。


本の裏表紙には、次のようにあります。
息子を亡くした女が洋菓子屋を訪れ、鞄職人は心臓を採寸する。内科医の白衣から秘密がこぼれ落ち、拷問博物館でベンガル虎が息絶える―時計塔のある街にちりばめられた、密やかで残酷な弔いの儀式。清冽な迷宮を紡ぎ出す、連作短篇集。


12年前に6歳で、冷蔵庫で窒息死した息子の誕生日に、苺のショートケーキを買いに行く私と老女の交流を描いた「洋菓子屋の午後」、肝臓癌で入院した母親に言われて、父親らしい有名な代議士に、フランス料理屋へ会いに行く少女と少年を描いた「果汁」、小説家の私と、家庭菜園の手入れをするアパートの大家Jさんの話、菜園で採れた掌の形をした人参が新聞の地方版に載る「老婆J」、ポイントの故障で動かなくなった汽車の中で、父が再婚した小柄で無口な女性、亡くなったママの思い出を描いた「眠りの精」、病院の秘書室でコンビを組む彼女と私、彼女は言い訳ばかりする助教授と当てのない不倫を継続中の「白衣」、鞄職人の私の店に来た、心臓を入れる鞄を作って欲しいという、左胸が不自然に隆起した女性の話を描いた「心臓の仮縫い」。


上の部屋で殺人事件があり、そのことを彼に話すと、「人が死んだのが、そんなに楽しいか」と言われてそのまま出ていった彼、一人になった私が辿り着いた館が拷問博物館だったという「拷問博物館へようこそ」、会うたびに職業が違っていた亡くなった伯父さんの思い出、最後に会ったときに貰った虎の毛皮のコートは伯父さんの匂いが染みついていたという「ギブスを売る人」、夫の浮気相手のマンションを訪ねる途中に迷子になった女性が、死にかけた虎に付き添う老人と出会う「ベンガル虎の臨終」、ホテルの紹介記事を書くために訪れたホテルで出会った僕が、いつも原稿用紙の束を抱え持つ小説家と名乗るおばさんとの交流を描いた「トマトと満月」、2週間に一度、土曜日の夜に夕食を食べ、学業の様子を報告することを条件に、音楽大学受験に必要なレッスンが受けられる奨学金を支給する年老いた私と音楽の勉強に励むいい声を持つ少年の話の「毒草」。


うまく要約できたかどうか判りませんが、11の短編小説が、それぞれ強い存在感を放ちながら、奇妙に繋がっています。この繋がり方が絶妙です。確かに「紡ぎ出された」という印象を強く受けます。不思議な「怪異小説」です。全編死と弔いの世界を扱っていながら、しかし、不思議と陰湿ではなく、カラッと乾いています。この文章こそが、他人には真似できない小川洋子の真骨頂だと言えます。


過去の記事:小川洋子の「貴婦人Aの蘇生」を読む!