多和田葉子の「星に仄めかされて」を読んだ! | とんとん・にっき

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来るもの拒まず去る者追わず、
日々、駄文を重ねております。

 
多和田葉子の「星に仄めかされて」(講談社:2020年5月18日第1刷発行)を読みました。「地球にちりばめられて」(講談社:2018年4月24日第1刷発行)に始まる3部作の第2部にあたります。
 
世界文学の旗手が紡ぎだす
国境を越えた物語(サーガ)の新展開!


失われた国の言葉を探して
地球を旅する仲間が出会ったものは――?

 
内容紹介:
いま最もノーベル文学賞に近い作家、多和田葉子の新たなる代表作。
三部作サーガの第二巻が登場!
Hirukoの失われた国とその言語を探し求め、ヨーロッパを縦横無尽に旅した仲間たち。ようやく同郷人と思われるSusanooを見つけたものの、彼は一言も喋らない。失語症を疑うクヌートは、デンマークに専門家がいるとみなを誘うが……。

登場人物紹介:
・Hiruko
中国大陸とポリネシアの間に浮かぶ列島から留学してきた女性。帰国直前に母国が消えてしまい、北欧を転々としながら暮らしている。その過程で、スカンジナビアの人ならだいたい意味が理解できる手作り言語「パンスカ」を発明した。自分と同じ母語を話す人間を探している。
 
・クヌート
デンマークに住む言語学者の卵。Hirukoと彼女の話す人工語「パンスカ」に惹かれ、彼女の失われた母国の同郷人を探す旅に同行する。
 
・アカッシュ
ドイツに留学中のインド人男性。女性として生きようと決めてから、外出するときは赤色系統のサリーを着るようにしている。トリアーでHirukoとクヌートに出会う。
 
・ナヌーク
グリーンランド出身のエスキモー。ニールセン夫人の援助を受けデンマークに留学するものの、語学学校の授業が退屈になり長期休みを利用して旅に出る。見た目から日本人と勘違いされることが多く、ついには語学の才能と器用さを生かし、鮨職人を演じられるまでになった。旅の途中、トリアーで一文無しになりノラに助けてもらうが、彼女のもとからも逃げ出してしまう。
 
・ノラ
トリアーの博物館に勤めるドイツ人。日本人を騙ったナヌークのために、ダシとウマミに関するイベント「ウマミ・フェスティバル」を企画。やってきたHiruko、クヌート、アkッシュと交流を結ぶ。
 
・ニールセン夫人
クヌートの母親。外国人留学生への慈善事業の一環として、ナヌークの学費と生活費を出している。
 
・Susanoo
福井で生まれた日本人。ある時から歳を取らなった。造船をと学ぼうとドイツに留学したものの、紆余曲折があっていまはフランスで鮨職人として働く。
 
登場人物の紹介があるだけで、第1作の「地球にちりばめられて」と比べると、多少ですがわかりやすくなっています。

 

「地球にちりばめられて」は、留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoが主人公です。大陸で生き抜くため、独自の言語〈パンスカ〉をつくり出したHirukoは、テレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す人を探す旅に出ます。ドイツのトリアーではインド出身でトランスジェンダーのアカッシュやドイツ人女性のノラと知り合う。ノルウェーのオスロで会った自称日本人の青年ナヌークは、日本人を演じていただけだったが、Susanooという福井出身の日本人が、フランスのアルルで鮨職人をしているとの情報を得る。尋ねてみると、彼は言葉を発せず、クヌートは失語症ではないかと疑います。

 

第2部の「星に仄めかされて」は、Susanooが入院するデンマークの首都コペンハーゲンの病院が主な舞台です。彼ら、彼女らはコペンハーゲンまで移動を繰り返しますが、飛行機などの交通手段が混乱し、その多くはヒッチハイクです。一風変わった医師ベルマーがいて、Susanooが「ツクヨミ」と呼ぶムンンらが半地下で皿洗いをしています。そこにHirukoやクヌートが集まります。恋人ノラから逃げ出すようにコペンハーゲンへやってきたナヌークは、医師のベルマーと性格を交換します。主人公たちの名前、Hiruko・Susanoo・ツクヨミと言えば、「古事記」や「日本書紀」に登場するイザナギとイザナミの子供たちです。そうそう、第1部の最初に、放送局のロビーで見かけた細身の老人、ラース・フォン・トリアー監督ではないかというシーンがありました。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の監督ですね。ドクター・ベルマー、ムンンとヴィィタの名前もあるディナー・パーティ招待券、スカンジナビアで一番有名な映画監督と一緒のディナーのようです。第3部でHirukoたちとの接触があるのか?

 

第3部では、Hirukoは仲間たちと船で太平洋を目指します。配られたチケットはケープタウンまでで、そこのガンジー・トラベルオフィスでインド行きの切符を買うこのになります。Hirukoは、「私の国?どの国?探す意味あるのか、ないのか」とつぶやきます。果たして、そこに故郷はあるのか。「見つかるってことは、きっとないでしょうね」と多和田。それが多言語が行き交う欧州で抱く実感だ。「日本語と日本が結びついていなくてもいいんです」と、多和田は言う。

 

目次

第一章 ムンンは語る
第二章 ベルマーは語る
第三章 ナヌークは語る
第四章 ノラは語る
第五章 アカッシュは語る
第六章 ニールセン夫人は語る
第七章 クヌートは語る
第八章 Hirukoは語る
第九章 Susanooは語る
第十章 ムンンは語る

 

 

多和田葉子:
小説家、詩人。1960年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ハンブルク大学大学院修士課程修了。文学博士(チューリッヒ大学)。1982年よりドイツに在住し、日本語とドイツ語で作品を手がける。1991年「かかとを失くして」で群像新人文学賞、1993年「犬婿入り」で芥川賞、2000年「ヒナギクのお茶の場合」で泉鏡花文学賞、2002年「球形時間」でBunkamuraドゥマゴ文学賞、2003年「容疑者の夜行列車」で伊藤整文学賞、谷崎潤一郎賞、2005年にゲーテ・メダル、2009年に早稲田大学坪内逍遙大賞、2011年「尼僧とキューピッドの弓」で紫式部文学賞、「雪の練習生」で野間文芸賞、2013年「雲をつかむ話」で読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2016年にドイツのクライスト賞を日本人で初めて受賞し、2018年「献灯使」で全米図書賞翻訳文学部門、2020年朝日賞など受賞多数。著書に「ゴットハルト鉄道」「飛魂」「エクソフォニー 母語の外へ出る旅」「旅をする裸の眼」「ボルドーの義兄」「地球にちりばめられて」「穴あきエフの初恋祭り」などがある。

 

朝日新聞:2020年8月8日
 
朝日新聞:2020年6月10日