沼田真佑の芥川賞受賞作「影裏(えいり)」を読んだ! | とんとん・にっき

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沼田真佑の芥川賞受賞作「影裏(えいり)」を読みました。8月10日頃発売になる「文芸春秋」に、「選評」も併せて掲載されるので、それを買おうと思っていましたが、本屋の前を通りかかると佐藤正午の直木賞受賞作「月の満ち欠け」と沼田真佑の芥川賞受賞作「影裏」が並んで平積みされていました。単行本は7月末と聞いていたのでちょっと驚きましたが、買えと言われているようで、つい買ってしまいました。とは7月26日のこと。あまりにも短いので、数日前に読み終わっていました。


第157回芥川賞・直木賞の候補作が発表されたとき、「恥ずかしながら、知らない人ばかりになってしまいました」と書きました。かろうじて直木賞候補に佐藤正午の「月の満ち欠けが」入っていたので、ちょっと安心しました。

第157回芥川賞・直木賞選考結果!


朝日新聞:2017年7月28日

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沼田真佑の「影裏(えいり)」芥川賞受賞、大きな新聞広告です。「選考会を沸騰させたデビュー作にして芥川賞受賞作!」とあります。そして右上に、選考委員激賞として、3人の評が載っています。

高樹のぶ子氏評:

東日本大震災を書いた作品の中では、突出している。大自然も人間も、邪悪で不気味なものなのだ。

山田詠美氏評:

文章がきらきらと輝いていた。失踪した友人への思いが、物語全体を繋ぎとめている。

島田雅彦氏評:

震災とLGBTが織り込まれた回復の物語。その哀切な欠落感に惹かれる。


沼田真佑は1978年、北海道小樽市生まれ、子供時代は父の仕事の都合で引っ越しを重ね、中学からの約20年間は福岡・博多で過ごした。西南学院大卒。2012年から両親の暮らす岩手・盛岡に住む。小説を書き始めたのは20代前半だという。今回の作品は今年の文学界新人賞の受賞作で、デビュー作でいきなり芥川賞を射止める快挙となった。


岩手で自然と親しみながら暮らしていた男の平穏な日常を襲った「崩壊」と「別れ」。沼田真佑の芥川賞受賞作「影裏(えいり)」(文芸春秋:2017年7月30日第1刷発行)は、かなりゆったりとした配置で、わずか94ページの作品です。

 

数年まえから、医薬品を扱う岩手の子会社に転勤させられた30過ぎの男性が主人公。職場にも土地にもなじめず空虚な日々を過ごす「わたし」が、「日浅」という男と、たびたび2人で釣りに出かけたりするほど親しくなります。風景と釣りの描写が魅力的です。親しかったのに「日浅」が転職して以後、疎遠になって行き、東日本大震災で消息を絶ちます。。「そもそもこの日浅という男は、それがどういう種類のものごとであれ、何か大きなものの崩壊に脆く感動しやすくできていた」という。


しかしどうやら「日浅」は、「わたし」が思っていたのとは異なる人間性を持っていたことを、日浅の父親の発言などで知ることになります。また、なぜか猪突に「わたし」の以前の恋人が、性同一性障害者の元男性であることが、さりげなく述べられたりもします。いずれにせよ、作者はまだ若いのにもかかわらず、派手さはないが、達者な文章が練れていて、さりげなく行間を読ませる術にたけているのには驚きます。


選考委員の作家、高樹のぶ子さんは「3・11の大地震を踏まえて、人間の内側と外側の崩壊を描いた。震災を前面に押し出した小説では決してないが、人間関係を描くことでそれを取り囲む大きな自然の怖さと言うものに言及している。魚や川、岩手の自然の描写もすばらしい」と評しています。 


沼田真佑:

1978年北海道生まれ。西南学院大学卒業後、福岡市で塾講師を務める。現在、岩手県盛岡市在住。本作で第122回文學界新人賞を受賞しデビュー。


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