芥川賞発表!阿部和重の「グランド・フィナーレ」 | 三太・ケンチク・日記

芥川賞発表!阿部和重の「グランド・フィナーレ」

第132回平成16年度下半期の芥川賞が発表されました。正式には「芥川龍之介賞」といい、正賞は時計、副賞は100万円です。選考委員会は1月13日の築地の「新喜楽」で行われました。「新喜楽」は建築家・吉田五十八が設計した一流料亭ですね。池沢夏樹、石原慎太郎、黒井千次、河野多恵子、高樹のぶ子、古井由吉、宮本輝、村上龍、山田詠美、(三浦哲郎は書面回答、選評は辞退)の9委員出席のもと、阿部和重 の「グランド・フィナーレ 」に決定したという。マスコミで話題になった白岩玄の「野ブタ。をプロデュース 」と山崎ナオコーラの「人のセックスを笑うな 」は、残念ながら落選

去年の第130回芥川賞の話題作、綿矢りさの「蹴りたい背中 」と 金原ひとみの「蛇にピアス 」が掲載された「文芸春秋 」は爆発的に部数を増やしたという。「ニッパチ」、2月と8月、売り上げが伸びないこの月に「芥川賞」「直木賞」を持ってきたのは、文芸春秋創刊時の社長である菊池寛と言われています。昭和10年1月号の文芸春秋には「芥川・直木賞制定」が載りました。賞金は500円。そればかりではなく、芥川賞、直木賞の委員が広く新聞や雑誌へ作品紹介の労をとる、とあります。第1回芥川賞の選考委員は、菊池寛、久米正雄、山本有三、佐藤春夫、谷崎潤一郎、室生犀星、小島正二郎、佐佐木茂索、瀧井孝作、横光利一、川端康成の11名。ちなみに、第131回芥川賞はモブ・ノリオの「介護入門 」でした。これもおおいに話題になりましたし、このブログで取り上げもしました。

阿部和重はなんと4回も候補になっているという。111回、118回、125回、そして132回で受賞しました。「ニッポニア・ニッポン 」、「シンセミア 」これらの作品は、たぶん、絶対に読まないだろうなと思っていた小説です。というより、なぜか阿部和重が好きではなかったのです。芥川賞受賞作「グランド・フィナーレ 」に連なる「ロリータ・コンプレックス」三部作と言われています。

シンセミア 」は、「20世紀最後の夏、神の町で何が起きたのか? 占領下の血塗られた歴史と三つの事件が同時多発的に炸裂する現代小説の問題提起作」とあり、毎日出版文化賞伊藤整文学賞 を受賞した作品でもあり、「神町フォークロア」の原点と言われています。神町とは阿部の故郷山形県東根市神町のことですが。まあ、これを読まずして阿部和重を語るなかれですけど。がしかし、芥川賞作品の掲載される月の文芸春秋は、長年習慣として買い続けてきたので、ここで購読を止めるわけにはいかない、ということで、一応、読んだわけです。

この小説、大きくは2部構成。「終わり、それとも始まり・・・少女のヌード写真を撮りためて妻に離婚された男。故郷に戻った男は、女の子二人に芝居を指導する中で現実に向き合う決意をする。」と、新聞広告には書いてあります。

ちーちゃん――いちごみるくとマイメロディが大好きなわたしの一人娘」、しかし、愛娘の誕生日にも近づけない37歳の俺。麻薬や酒を愉しむクラブ通い、ロリータコンプレックスというとカッコいいが、少女偏愛性癖者である主人公の東京での家庭生活の破綻。離婚調停で慰謝料と財産分与で500万円、毎月の養育費5万円。DV防止法により「接近防止命令」もつけられた。

故郷山形へ引き上げてからの閉塞した暮らしの中から、亜美と麻弥という二人の女児と出会い、大切なお願いが告げられ、芝居の稽古に励む。費用は全財産80万円をつぎ込むことを決心。幸福感の只中、公民館のインターネット体験コーナーで、亜美と麻弥の見ていたのは「自殺マニュアル」のウェブサイトだった。果たして彼は、光明を見いだし得たか?

阿部和重の「グランド・フィナーレ 」を一読して、思い起こされるのは、奈良市で小学1年生の女児を誘拐後に自室で殺害した「奈良女児殺人事件」です。犯人は小林薫、36歳、同様の前科があったということで、「性犯罪者の再犯」が大きくクローズアップされました。まさに「少女偏愛性癖者」であり、作家はそうしたテーマを扱うときには、それに対する態度を明確に表明しなければならないと思います。

文芸春秋」、最初に見るのはやはり「選評」ですね。石原慎太郎が、毎回、彼の考え方が率直に出ていて、わかりやすくしかも面白い。「当選作はまったく評価できなかった」、「物書きとしての内面的なニーズがいっこうに感じられない」とバッサリと切って捨てました。いつも歯切れのいい河野多恵子、今回は「グランド・フィナーレ」については、見事に一言もふれていません、無視、無視。古井由吉ジイサマ、まったくなにを書いてるのか、選評になっていません。山田詠美、「微妙な境界線がいくつも交錯し、大きな境界線を作り出した丹念な作品。乱暴で繊細。惨めで不遜。欠点はあるけれども筆力を感じて、祝、受賞。」、大きな母心、いいですね。