山種美術館「輝ける金と銀一琳派から加山又造まで一」展ブロガー内覧会! | とんとん・にっき

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山種美術館での「輝ける金と銀一琳派から加山又造まで一」展は一度観ているのですが、ブロガー内覧会の案内が来たので行ってきました。 ここのところほぼ毎回、ブロガー内覧会には行かせていただいています。

今回の特典は、特別ゲスト・並木秀俊氏(日本美術院 院友・東京藝術大学 講師)と山種美術館・山崎妙子館長によるギャラリートークです。日本画家・並木秀俊氏は今回の展覧会の学術協力者であり、展示中の技法サンプル制作者でもあります。もちろん入館料は割引になり、貸切観賞会で、会場内写真撮影は一部を除き可能です。また山種恒例の和菓子引換券(1個/500円相当)もつきます。


展覧会の構成は、以下の通りです。


第1章 伝統に挑む―近代日本画に受け継がれた金と銀―

 1.金銀で飾る

 2.金銀で描く

 3.摺物に見る輝き

第2章 新たなる試み―戦後の日本画にみる金と銀―

 1.伝統とのせめぎあい

 2.金地・銀地への意識

 3.多彩な試み


展覧会場

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解説者:並木秀俊氏(日本美術院院友・東京藝術大学講師)

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技法サンプルについて:

画家たちはどのような意図で金と銀という素材を選択し、制作に際してどういった工夫を施したのでしょうか?本展ではその謎に迫るべく、出品作品の一部を対象に、技法を再現したサンプルを作成し、会場で作品と共に展示しています。ぜひ作品とあわせてご覧ください。また、一部の作品については、技法の効果をより明確にするための比較材料として、原本とは異なる技法を用いたサンプルも用意しています。サンプルの作成は、日本画家で、箔装飾技法の研究者でもある並木秀俊氏(日本美術院院友/東京藝術大学講師)に依頼しました。作成に当たっては、原本にできるだけ近い表現効果を得られる素材を使用し、技法も原本を調査した際の所見に基づいて再現を試みています。


箔や泥に用いる道具と材料

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さまざまな箔・泥

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「輝ける金と銀―琳派から加山又造まで―」


松岡映丘「春光春衣」1917(大正6)年

画家自身の言葉によれば「藤原時代の貴女が、泉殿に端居して春花を賞せる様を写した」作品。制作にあたっては「平家納経」(厳島神社)をはじめとする装飾性豊かな平安時代のやまと絵の表現を参考にし、金銀の砂子や野毛、切箔などの技法をふんだんに取り入れている。その一方で、色彩や画面構成には近代的な感覚が見出せ、古典の再生と近代化に取り組もうとした映丘の意気込みが感じられる。

技法サンプル:「源氏物語絵巻」(徳川美術館・五島美術館)に代表されるこのような装飾は、画中に匂い立つ香りのような効果をつける。金箔を細かくした砂子、四角く切られた切箔、直線に裁断されたものを野毛という、これをおおむねの位置を決め空気の流れに乗せて自然に散らす。


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横山大観「太元帥明王像(模本)」1895(明治28)年

若き日の大観は古画の模写事業に参加し、模本を制作する中で多くのことを学んだ。14世紀の醍醐寺にある仏画を模写した本作品では装身具などを金泥で描くが、中世の仏画では裏箔(裏側から箔を貼る技法)や截断(細かく切った箔で文様を表す技法)など多彩な技法がもちいられており、一連の古典学習から得た輝きへの意識が、その後の作品を生む土壌になった。


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左:藤原定信「戌辰切(和漢朗詠集)」平安時代

右:藤原定信「石山切(貫之集下)」平安時代

漢詩文と和歌を組み合わせた「和漢朗詠集」の断簡。もとは巻物だったが、昭和3年に分割され、その年の干支にちなんで「戌辰切」と名付けられた。料紙には金銀の砂子が撒かれ、切箔(竹のナイフで切った箔)と裂箔(不定形にちぎった箔)が華やかさを添える。12世紀の料紙装飾では、一定のまとまりをつけて砂子を撒いたり、大きさや形の違う箔を散らすなど、変化に富んだ箔散らしが流行している。


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喜多川歌麿「潮干のつと」寛政元年
すだれ貝梅のはな貝さくら貝むらさき貝なでしこ貝きぬた貝

摺物は知人への配布を目的とした非売品で、紙や絵具に贅を凝らし、著名な浮世絵師に絵を描かせるなど、手間をかけた美意識の結果といえる。「潮干のつと」は冊子として作られたもので、貝殻に雲母を用い、空摺りで模様を表す。


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横山大観「竹」大正7年

大観の90年の生涯に生みだされた膨大な作品のうち、金を下地に用いた表現の変遷に着目すると、画業の初期から研鑽を積んでいることがわかる。「竹」は、絹本に裏箔を用いているが、ほのかに輝く木漏れ日を、絹の目地から密かに見える金箔の光により表現し、金箔よりも柔らかな効果を狙った作品である。

技法サンプル:古い仏画では、画面の裏から金箔を貼る裏箔の技法が装身具などの描写に用いられ、絹の目の隙間から見える落ち着いた輝きが効果的に利用されてきた。「竹」ではその技法を屏風全面に使用している。畳の光反射などで様々な表情を見せたのであろう。サンプルでは裏に箔を張り付けたもの(右)と、何も施していないもの(左)を作成。


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横山大観「喜撰山」大正8年

「喜撰山」は第6回再考院展に出品された「喜撰山」(個人)の試作と考えられる作品であり、喜撰法師の歌「わが庵は 都のたつみ しかぞすむ よをうぢ山と 人はいふなり」で知られる宇治の喜撰山を描く。金箋紙(裏に金箔を押した鳥の子紙の表面を薄く剥いだと想定されるもの)をもちいた最初の作品とみられる。地肌に潜む金色を活かした深みのある色は、画家が意識的に京都の土の赤さを表現するために使用したと思われる。

技法サンプル:宇治の喜撰山を描いた「喜撰山」は山の尾根の隙間から金箔が淡く輝いており、箔足も見える。薄く絵具を塗りながら、裏面の金箔の見え隠れを調整している。サンプルでは極薄の雁皮紙(右)では箔足が見え、それより厚い鳥の子紙(左)では見えないことがわかる。


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速水御舟「名樹散椿」昭和4年

京都・毘陽山地蔵院(俗称・椿寺)の椿を描く。金地を切り取るような構成は俵屋宗達から感化されたものだが、大正期の質感描写の追及に成果が花や幹の描写に活かされている。金地は金砂子を何度も撒いては擦りつぶす「撒きつぶし」による。箔に比べはるかに多くの金を必要とし、手間もかかるが、箔押し地とは異なる新たな金地のマチエールを追求した結果、この手法に辿りついたと考えられる。

技法サンプル:砂子は通常、霞などの表現に部分的に用いるが、「名樹散椿」では椿以外の全面に微細な砂子が隙間なく撒かれており、これを「撒きつぶし」と呼ぶ。サンプルでは光の輝き方が異なる槇つぶし(右)、金泥(中)、箔押し(左)の3つを作成して光り方の違いが見えるよう比較した。その結果、撒きつぶし独特の輝きが確認できる。


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山本丘人「真昼の火山」昭和34年

昭和20年代以降、丘人は海辺や山岳風景などを題材に、力強く象徴的な作風を展開した。その過程でモティーフを金属箔や泥で表現していることが注目される。本作品でも、複数種の金属箔を用い、荒らす、ちぎる、絵の具を塗り重ねるといった様々な手法が凝らされている。

技法サンプル:箔絵とも呼ぶことができる技法。箔も様々に種類を変えながら金色にも変化を加え描写している。特にちぎる事でした出せない箔の表情がうまく活かされている。サンプルの左側は箔の上に絵の具を塗る前、右側は塗った後。一見、箔のように見えない所まで、箔や泥が使用されている。


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加山又造「華扇屏風」昭和41年

通常、工芸に秀でていると言われるのを画家は嫌うが、加山は全くそんなことはなく、徹底して技法を追求したと、山崎館長は言う。並木氏はこの作品についてはさまざまな技法を使っており、この絵は奥が深すぎて、加山の技法のすべてを理解したわけではない、と言う。

技法サンプル:サンプルでは銀箔の様々な変色の様子を示した。「華扇屏風」ではこの変色作用を利用しながら、箔を扱う複数の技法を見せている。


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「輝ける金と銀」

いつの時代も人々の心を惹きつけてきた金と銀。日本美術では、その光り輝く美しさを古くから造形に活かしてきました。特に絵画では、金銀の砂子を散らした絵巻や、ふんだんに金銀を使った豪華な屛風をはじめ、ジャンルを問わず幅広く活用されています。金と銀の用い方は時代によって違いが見出せますが、その中でも、独創性と革新性という点で、最も大きな飛躍を遂げたのが近代・現代です。このたび山種美術館では、金と銀の使用法がひときわ多彩になる明治時代以降の日本画に焦点をあて、その魅力に迫る展覧会を開催いたします。

近代を迎え、新時代に相応(ふさわ)しい新たな日本の絵画を生み出そうと、画家たちは様々な技法を試行錯誤しました。その一つとして、岩絵具にはない金と銀のメタリックな輝きや、加工に適した性質を活用していきます。伝統的に金と銀が担ってきた装飾性、権力や宗教の象徴性などに捉われず、多様な表現のために取り入れていったのです。

横山大観(1868-1958)は、柔和な光の表現を求め、金箔を裏面に用いた特殊な和紙で《喜撰山》(山種美術館)を完成させました。また、速水御舟(1894-1935)は、金砂子を敷き詰める「撒きつぶし」の技法で《名樹散椿》【重要文化財】(山種美術館)の空間を表現し、川端龍子(1885-1966)は、平安の紺紙金泥経に着想を得て、紺地に金を対比させた《草の実》(大田区立龍子記念館)を制作しました。戦後になると、金と銀の表現は新たな局面へと向かいます。山本丘人(1900-1986)は、斬新な手法により、金銀の箔や泥(でい)に対する新たなアプローチを行いました。一方、加山又造(1927-2004)は、金銀の素材の可能性を追求しながら、古典的な様式と現代的な感覚を融合させた作品世界を生み出しています。

本展では、近代・現代の画家が用いた金と銀の表現の足跡をたどるとともに、その発想の源となった平安時代の料紙装飾や江戸時代の琳派の絵画などもあわせて展示します。また、作品に用いられた様々な技法を再現する見本を新たに制作し、金と銀の素材に技を込めた画家たちの試みにも迫ります。今なお私たちを魅了し、輝き続ける金と銀の世界をご堪能ください。


「山種美術館」ホームページ


注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

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「輝ける金と銀―琳派から加山又造まで―」

2014年9月23日発行

監修:山下裕二(山種美術館評議員・山種美術館顧問

    明治学院大学教授)

編集:山種美術館学芸部

発行:山種美術館



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