山種美術館で「BOSTON 錦絵の黄金時代 清長、歌麿、写楽」展を観た! | とんとん・にっき

山種美術館で「BOSTON 錦絵の黄金時代 清長、歌麿、写楽」展を観た!


山種美術館で「BOSTON 錦絵の黄金時代 清長、歌麿、写楽」展を観てきました。観に行ったのは3月1日のこと、もう2週間も経ってしまいました。海外の美術館で「日本美術」を数多く所蔵しているのは「ボストン美術館」であるといわれています。それらは明治初期、エドワード・モース、アーネスト・フェノロサ、ウィリアム・ビゲローらによって収集されたことはよく知られています。ボストン美術館の日本美術コレクションの中でも最大級をしめるのは約5万点もの浮世絵版画、約700点の肉筆浮世絵、数千点の版本などで、質・量ともに世界屈指のものです。これらの作品群は、今まで公開されたことはなく、保存状態が極めてよく、摺られた当時の鮮やかな色彩がいまに伝わり、そして日本で観られることで、世界中で注目されている稀少な展覧会です。


ボストン美術館の浮世絵版画、肉筆浮世絵の展覧会は、過去に何度か開催されています。僕が観た最近の例では、2008年10月から11月にかけて江戸東京博物館で開催された「ボストン美術館浮世絵名品展」がそれです。本棚を探してみたら、その時の「図録」が出てきました。なんと、今回の「図録」と、監修者や編集者、そして発行者がまったく同じで、図録の印象も「姉妹版」といってよいほどよく似ています。いや、非難しているのではなく、あくまでも印象としてよく似ているのです。今回の図録の「ごあいさつ」を見ると、やはり「日本での浮世絵名品展シリーズ第2回目となる展覧会」とありました。


さて、江戸博の「ボストン美術館浮世絵名品展」と山種のそれを比較しようというのではなく、それでなくても分厚い「図録」を比較して読みこなす力は僕には毛頭なく、江戸博は江戸博、山種は山種です。企画の趣旨も、もちろん、それぞれ違います。またまた印象で言うならば、山種の方が「清永、歌麿、写楽」とあるように、会場の広さを考慮してか、企画が絞り込まれているように思われます。江戸博の方は、浮世絵全般、師宣から国芳まで、総花的です。どちらがどうと言うことではなく、それぞれの良さがあるのは当然のことです。その作品の出所の総てがボストン美術館だと言うから驚きです。展示された作品数はというと、図録によると、山種は144点、江戸博では159点ですから、ともに同じような作品数でした。


浮世絵の海外からの里帰り展というと、異口同音、必ず言われるのが「保存状態がよく」、「発色がいい」、「摺られた当時の鮮やかな色彩がそのまま現代に伝わる」ということです。ボストン美術館の浮世絵版画、肉筆浮世絵は、その膨大な量と、作品保存の理由から、近年までボストン美術館内でさえ、ほとんど公開されたことがないという。そして、本展覧会修了後は、ボストン美術館内でも5年間は展示されることがないという。なるほど、そういうことでもない限り、浮世絵版画や肉筆画は、摺られた当時の状態のものが観られないのでしょう。


そういうことで理解の助けになったのは、たばこと塩の博物館で開催された「役者に首ったけ!」展の「団扇絵」の解説です。「団扇に張られて販売された消耗品だったため、一枚絵として現存するものは、版元の控え、あるいは、見本帳に綴じられていたものが多い」という箇所です。いわゆる「浮世絵」も、元はといえば「団扇絵」と同じ消耗品だったわけですから。浮世絵は、日本では「消耗品」、流出した海外では「美術品」、いや、皮肉でも何でもなく、結果的に海外流出は、浮世絵の価値を高めた、ということになります。


展覧会の構成は、以下の通りです。

第1章 鳥居清長

第2章 喜多川歌麿

第3章 東洲斎写楽

第4章 黄金期の三大絵師をとりまく大家たち

第5章 版元と肉筆画


図録の巻頭論文「錦絵 黄金時代の一考察」を永田生慈は書いています。それによると、浮世絵史のなかで錦絵の黄金時代は天明(1781~89)から寛政(1789~1801)年間だとし、そのことは一般に定着しているといいます。今回出されたボストン美術館の約140点の作品を観ると、そのことが「躊躇なく首肯される」としています。これほどの優品を所蔵しているボストン美術館の内容は、「まさに恐るべし」とまで述べています。「いま摺り上げたかのように目が眩むほど鮮やかな色調には息を呑む」とも述べています。


「紫」の歌麿、歌麿の「紫」と言われているそうです。喜多川歌麿の「金魚」、これほどまでに「紫」が摺り上げた当時の色が残っているのはほかに例がない、と言われています。言うまでもなく「紫」は、他の色に比して褪色しやすい色だと言われています。清長も下にあるように、「紫」を多用しています。清長38点、歌麿56点と、文句なくたくさん展示してありましたが、写楽は僅かに26点、しかも写楽の特長である初期の大首絵は少なく、役者絵が多かったのは残念です。


以下、気になった作品を、図録を参考に、各章毎に取り上げて載せておきます。


第1章 鳥居清長

黄金時代の最初に絶大な人気を呼んだ鳥居清長は、初代鳥居清満(1735~1785)の門人として、明和年間中期に鳥居家の本業であった役者似顔絵を発表して画界に登場した。その後、天明7年(1787)頃に鳥居家を継いで、寛政年間の末頃に浮世絵版画の世界から遠ざかっていった。このセクションでは、厳選された38点の優品のみで構成されている。



第2章 喜多川歌麿

体軀のよい健康的な美人を描いて一世を風靡した鳥居清長が、天明7年(1787)頃に鳥居家四代目を襲名し美人画から遠ざかってゆくと、それに替わりこの分野の第一人者と無垢されたのが、喜多川歌麿であった。はじめ北川豊章とごうしていたが、天明元年(1781)に歌麿を名乗り、以降は、しばらく美人画と共に、花や虫あるいは市井風俗を題材とした狂歌絵本の挿絵に佳作を遺した。このセクションでは、56点の優品で構成されている。




第3章 東洲斎写楽

東洲斎写楽は閲歴、師系とも不詳な絵師でありながら、突如、寛政6年(1794)5月の江戸三座(都座、桐座、河原崎座)上演の役者大首絵28図を蔦屋重三郎から発表して画界に登場したが、翌7年春の作品を最後に忽然と作画を停止した謎めいた人物である。遺存する作品は大半が役者絵であるが、弱冠の相撲絵が知られ、武者絵や恵比寿を描いた作品も写楽とされており、わずか1年足らずで140点を制作したとされる。このセクションでは、全写楽作品の1/7に相当する21点が公開される。


第4章 黄金期の三大絵師をとりまく大家たち

黄金期には清長、歌麿、写楽といった錦絵の六大家に含まれる絵師だけではなく、個性豊かな実力派の絵師が輩出し、いくつかの画派を形成していった。このセクションでは、後の浮世絵界に大きな影響を与えることとなる四大画派に絞って展観されている。まず黄金期に最もめざましい活動をみせたのは、勝川春章である。役者似顔絵を普及させ、肉筆の美人画にも長じて多くの門人を育成した。北尾重政は、この年代に独自な活動をした絵師として、地味ではあるが佳作も多く、実力やる絵師として注目されている。門人には北尾政美(鍬形蕙斎)や、摺物界の中心人物であった窪俊満らがいた。美人画を専門とした鳥文斎栄之は、清楚な画風で清長や歌麿と同じく人気を呼んだ。特に清長から始まる続物は、さらに発展させ五枚続という丁ワイドな画面をみせ、見応えある美人群像を多く発表している。幕末の一大画閥となった歌川派の祖、豊春は幅広い作域をみせ、版画、肉筆画共に多作であった。特に錦絵では浮絵の作品が多かった。門人には双璧とされる、初代歌川豊国と、歌川豊広がいる。





第5章 版元と肉筆画

版本では、黄金期を代表する豪華な作品が選ばれている。なかでも安永5年(1776)刊行の「青楼美人合姿鏡」は、勝川春章と北尾重政の合作で、遊女の生活の様子を捉えて古くから著名なものである。肉筆画では、春章、豊春、栄之(三幅対)の初めての里帰り品が公開される。



「ボストン美術館浮世絵名品展 錦絵の黄金時代―清長、歌麿、写楽」

アメリカ東海岸でも古い歴史をもつ街、ボストン。アメリカ建国100周年にあたる1876年、この地に開館したボストン美術館は、世界各地から集められた古代から現代までの約45万点もの美術品を収蔵する美の殿堂です。中でも日本美術コレクションは、明治初期、日本美術に魅了されたエドワード・モース(1838-1925)、アーネスト・フェノロサ(1853-1908)、ウィリアム・ビゲロー(1850-1926)ら有識者によって収集されたもので、その充実した内容で知られています。特に日本美術コレクションの中でも最大数を占める約5万点の浮世絵版画、約700点の肉筆浮世絵、数千点の版本は、日本国外では質・量ともに世界屈指のものです。しかし、これらの優れた作品群は、その膨大な量と作品保存の理由から近年までボストン美術館内でさえほとんど公開されることはなく、長年一般公開が待たれていました。保存状態が極めてよく、摺られた当時の鮮やかな色彩が、そのまま現代に伝わる稀少な例としても、いま再び世界中で注目を集めています。本展覧会では、この膨大な作品群から、錦絵の黄金時代と言われる天明・寛政期(1781―1801)に焦点をあて、清長・歌麿・写楽の3人の絵師を中心とした選りすぐりの作品をご紹介いたします。出品作品のほとんどがボストン美術館に収蔵されて以来、初めての里帰りとなります。本展覧会終了後は、ボストン美術館内でも5年間は展示されることがないといわれる浮世絵の名品の数々を、この機会にぜひお楽しみください。


「山種美術館」ホームページ


とんとん・にっき-BOSTON2 「ボストン美術館浮世絵名品展

錦絵の黄金時代―清長、歌麿、写楽」

図録

監修:セーラ・トンプソン

    永田生慈
編集:岩切友里子

    日本経済新聞社文化事業部
発行:日本経済新聞社





boston1 「ボストン美術館浮世絵名品展」

図録

監修:セーラ・トンプソン

    永田生慈
編集:岩切友里子

    日本経済新聞社文化事業部
発行:日本経済新聞社






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