【読書記】『サピエンス全史(上、下)』
サピエンス全史でございます。
発売時には一世を風靡し、かのオバマ大統領も読んだという話題の本です。
いやーこのテの本は長くて字が小さくて読みにくいですわww
こないだ読んだ『銃・病原菌・鉄』と似たテーマというか方向性を感じました(本書の最後に『銃・病原菌・鉄』に対する謝辞があったので影響は少なからずあったと見え)。要は如何にして人類は今のごとくなったのか、という。
あーあの、ちょっと前に流行った、実は人類って理科の教科書に載ってるみたいにアウストラロピテクス、ネアンデルタール、クロマニヨン、現人類とまっすぐ進化してきたわけではなく、いろいろな人類みたいのが同時期に存在して現われては消え、あるいは後で現れた人類みたいのに古いのが淘汰されたり滅ぼされてきて、現人類が残った…というビックリな話もこの本が元ネタです。
イロイロと面白い話があるんですが印象に残ったポイントを挙げるとすれば、
・人は普通に暮らしていれば、他人を識別したり覚えたりできるのはせいぜい150人ぐらいで、かつてはこの程度の規模のコミュニティで暮らしていた。それが大人数で活動(企業とか国とか、なんなら戦争とか万人規模の)出来るようになったのは”虚構”を信じられるようになったから。宗教もそう。みんなが信じていると思えるから顔も知らない人と同じ目的や理念を持って行動できるようになった、これを本書では「認知革命」と呼ぶ
・狩猟採集から農耕へと変化したことで食料の安定供給が果たされ人類は平和になったかと思えばさにあらず。狩猟採集のころは獲物が取れなければ土地を移動すれば良かったのが、農耕ではそれが出来ず、不作の年はまるまる一年分の労働が無駄になった。人の労働量も狩猟採集の時代は午前中のみ勤務程度だったのが農耕の時代は終日働くようになり負荷が増えた。
↑これなんかは、Windowsのバージョンが上がり処理速度が高速化し続けているのにナゼか仕事は楽にならないとの似てるわー。
・産業革命以降、生産性は向上の一途と辿っているが、これだけ多くのモノを作って、果たして誰が買うのか?購買力を増やすために倹約は美徳ではないと刷り込まれ、個人主義が広められ、人生のあらゆる場面で世話を焼く家族や親戚に市場が取って変わった。例えば結婚は親や親戚が相手を見つけ紹介することが多かったが、今はカフェやらレストランやらが出会いと恋愛の場に変わった
それ以外でも、毎日食べてる卵やら畜肉を生産するために、動物たちが機械のように扱われている実態だとか…これでいいのか現代社会、と思えるネタが満載です。
まあそれを享受し日々の生活がなりたっている状況で、明日突然状況を変えるわけにもいかないというのが現実でしょうが。
出来るのは、目の前のことに対して、これは非常に便利だが長い目で見て果たして人類のシアワセにつながっているのだろうかと立ち止まり、つながってないことには他の手段が無いか考える、ということの積み重ねでしょうか。
文化文明には良い側面もあるということも一方では忘れず、考え続けていくに尽きるでしょうか。
【読書記】『ファラオの密室』
ファラオの密室でございます。
第22回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作です。
所は古代エジプト。先代王の墓(ピラミッド)建設中に起きた崩落事故で死んだ神官セティは、その心臓に欠損があったことから女神マアトの審判を受けられず、心臓の残り部分を探すため3日限定で現世に戻される。心臓の残りが見つからなければ成仏出来ず、現世と冥界の間を永遠にさまようこととなるのだ。
一方、先代王の葬送の儀の最中、王の遺体が消失するという大事件が起きる。先代王は従来の太陽神を捨て異端の神アテンを奉じる様国民に命じており、儀式を執り行った神官たちは異端と疑われ投獄される。密室であるはずの、ピラミッドの奥深い部屋から誰がどのように、何のために遺体を持ち出したのか…!
ワタシはミステリーというジャンルを特に選んで読んではおらず、読んでる数は知れたもんだと思いますが、タマーに上質のミステリーに出会うと大変うれしいものです。
奇想天外なトリックとか、複雑な謎がヒモがほどけるようにスッキリとする過程とか、思いもよらぬどんでん返しとか。最後の最後に「やられたー!」「そうかー!」と叫び膝を打つ、あの快感はたまらんものがあります。
んでー、本作。
正直そこまでではない。密室トリックの謎解きも「え?え?」という感じで…まあ確かにやろうと思えば出来なくはないんでしょうが…
二つの謎解きが同時進行していって、この二つには繋がりがあって、と分かっても、まあそうなるだろうな、という感じで。
それでも古代エジプトという特殊な舞台。死者が蘇ったり神様が出てきたり、というファンタジー世界が舞台で、こういう荒唐無稽な世界で言わば理詰めの世界であるミステリーが成立するのか、という懸念を見事に払拭し、この世界ならではのミステリーを構築して見せたのは、さすが。
そしてキャラクターが秀逸。特に奴隷少女のカリ。実に不幸な身の上で、周囲の人からも散々な目に合うんですが、最後はその利発さを発揮して謎の解明に一役買う。うーん、尊い!
読みやすさも相まって、休日のひと時を過ごすにはもってこいの一冊でありました。
【映画評】フェイブルマンズ 浮気なんて止めなさいってば
フェイブルマンズでございます。スピルバーグ監督です。
第二次大戦後間もないころの米国、ニュージャージー州で平和に暮らすフェイブルマンズ一家。優秀なエンジニアの父、ピアノもダンスも得意な芸術家肌の母、3女に1男。そして父の親友であるペニーとも家族同様の付き合いをしていた。
一人息子のサミーは母親に与えられた8mmカメラを使い映画を撮ることに夢中。しかし家族キャンプを撮影したフィルムの中に、サミーは驚くべき光景を見る…
やがて映画監督になっていくスピルバーグの幼少~青春期を描く映画かと思ったら、そうじゃないんですね。話の中心はなんと母親の浮気と崩壊する家庭なんす。
母親役のミシェル・ウィリアムズさんは、家庭と好きな男の間にあって心を引き裂かれ壊れていく様を実に良く演じていると思います。
でも正直、こういう話って好きになれないす。観てて楽しいわけでも無く、共感も出来ず、ただ父親と子供がかわいそうなだけで。「あーでも、分かるわー」って人もいるんでしょうかね。
この映画から何を得たら良いんでしょうか。
サミーはやがて映画監督になるであろう余韻を残してのエンドでありますが、まあいろいろあって大人になっていくってことでしょうか。
そうそう、サミー自身の高校でのツライ出来事や、いじめっ子の意外な姿とか、この辺は見どころです。映画作りのシーンも良かったなあ…好みの問題になっちゃうのかもしれませんが、コッチの青春ドラマの方に振ってほしかったっす。
直前に「ローグワン」再見して燃えまくったこともあってギャップ激しかったっす。以上。