横須賀どぶ板通り巡り人 -47ページ目

横須賀どぶ板通り巡り人

横須賀在住の主がどぶ板通りの飲み屋をメインにどぶ板の魅力を発信するサイド

「前島!!」


栗栖さんがモーレツな勢いで俺を呼んだ。



「は、はい!」


条件反射のごとく、返事をしたが


怒られるようなことをしたか、思考を反復させる。


倉庫には3分前に来たばかりで


遅刻もしていない。


昨日は栗栖さんは休みで会っていないし。


怒りまがいに呼ばれることに覚えがない。



目の前まで来た栗栖さんをまともに見れず、つい下を向く。


「前島!!今日お前の歓迎会やるから時間空けとけ!!」


それだけを言い放って、さっさと去ってゆく。


…え?それだけ?…


ぽつねーんとその場に立ち尽くす。



…俺の歓迎会?それだけで朝からあの怒り系のテンションって…


…軽く嫌われてる?…


ネガティブな思考に自分が落ちていくのがわかる。


基本、俺は〝棚からぼた餅〟系でモノを考える。



常に最悪を想定して、結果それより現実が良い方向なら


最悪な気持ちになることはない。


そうすれば、深手の傷を負うことはない。


俺は人生の半分をそんな考えで生きてきた。


こんな思考をネガティブと判定できるか分からないが


俺は人に嫌われるのが酷く苦手だ。


世界中の人、全てから愛されたいということではない。


嫌われず、


愛されず、


どうでもいい存在でいたいのだ。


いい意味でも、悪い意味でも、特別な人間になりたくない。


この考えは俺に軸になっているといってもいい。



「早いな、前っち!」


肩を後から叩かれ、我に返った。


真砂さんだ。


…やはり、ここは聞いておこう…


「あの、さっき栗栖さんが俺の歓迎会のことでテンション高めだったんですけど

真砂さんなんか聞いてます?」



「聞いてるも、何も、企画したの俺だし、栗栖に伝言当番させたの俺だし」


…この人、じゃあなんで自分でやらないかな?…



「じゃあ、栗栖さんが怒って…じゃなく、テンション高めなのって?」


「はははっ、栗栖怒ってたんだ?!予想通りだけど」

「栗栖にはカシあるし、でも主役の前っちにキレるってあいつ相変わらず短気だよなー」



…真砂さん、そこまで理解しているなら…

…真砂さんも理解出来ない人かも…


…でも!企画してくれたら、先輩だしお礼言わなきゃ!…


「真砂さん!ありがとうございます!」



「ん?歓迎会?」

「というか、開くの遅いくらいだし。倉庫は商品の搬入にも波あるから最近は特に忙しかったから。」

「多分、栗栖が強制召集してバイトも全員くるし、きちんと紹介してなかったもんな」


…ちゃんと考えてくれてたんだ…


…真砂さん、つかみ所ない感じの人だけど、親睦の場とか考えてくれたんだ…


「っー訳で、主役は朝まで飲んで最後までいるのがウチのシキタリだから♪」


…え?今聞き逃せない事実をサラッと言ったような…


「ま、真砂さん!俺明日も仕事なんですけど!」


「前っち~業に入れば業に従えだよ。

つまり虎穴に入らずんば虎子を得ずだよ」



…筋肉の次に必要なのは、アルコールへの抗体なのか?!…











独特の夏の匂いがする公園での夜。


蝉の音を遠くで聞きながら


今にも爆発しそうな、混沌としたモノを抱えていた。



…逃げなければ…


…心の間接が折れてしまう前に


どこでもいいから…



公園のベンチで膝を抱えながら


俺は怯えることしか出来なかった。




遠くで電子ベルのような音と共に


ベットから飛び起きる。



…夢か…



ベットから出ようとすると


全身筋肉痛の体が悲鳴を上げる。


でも、遅刻は厳禁なので


身支度を整え、徒歩15分のK電気店に向かう。



倉庫の朝は早い。


基本職場には朝礼があるが


倉庫にはない。


理由は朝礼が始まる頃には倉庫は仕事を始めているからだ。


納品のトラックを待たせる訳にはいかない。


そんな事情で倉庫は朝礼参加を免除されているらしい。



俺の研修担当、真砂さんは休みなので


代打として


もう一人の正社員・栗栖さんが本日の研修担当だ。


しかし、この人ビジュアルが個性的すぎる。


頭がスキンヘッドなのだ。


倉庫勤務限定でスキンヘッドはOKなのだが

(お客様が怖がるかららしい)


目つきも悪いし


口癖が「クソッ」だし。


こんな人が先輩になると思うとすでに気が重くなる。



真砂さんと栗栖さんは同期入社組らしい。


真砂さんはどちらかといえば


ヘラヘラしてるタイプで


栗栖さんは


短気で常にイライラしてるタイプ。


しかし、見ていると結構ウマが合うらしく、仲がいい。


…共通点なさそうなのに不思議だ…



栗栖さんの指示で


折りたたみコンテナ・通称オリコンの仕分けを狩野さんとしている。


というか、教わっている。


オリコンの仕事のコツは暗記らしい。


狩野さんいわく、オリコンのスペシャリストはバイトの杉野さんらしい。


今日は俺に教えながらだから


狩野さんもスピード重視で仕分けはしてないみたいだ。


オリコンを囲みながら

(手は常に動いているけど)


狩野さんに質問をしてみた。

(正社員には聞きづらいこととか、バイトさんのほうがフランクに聞けそうだし…)



狩野さんは基本寡黙な人だけど


聞いたら絶対答えてくれる人だ。



「狩野さん、噂で聞いたんですけど倉庫って最下層って言われてるって本当ですか?」


「ああ、本当だよ。大体仕事が出来ない正社員が降格して落ちてくるから

そう言われてるんだよ」


目線をオリコンから外さずに狩野さんが言う。



…マジか…


「前っちは研修中だから単に運が悪かっただけかもしれないけど」


「ま、前っちって…狩野さん?」


「ああ、真砂さんから、前島くんが新人で緊張しているからそれをほぐすようなあだ名を

つけてみんなで呼んであげようという配慮みたいだよ」


また、淡々と答えられた。



…まぁ、1番下っ端だしいじられても仕方ないかぁ…

ここはとりあえず、話題を変えよう!!


「狩野さん、さっきの続きですけど

最下層ってことは、ぶっちゃけ、真砂さんと栗栖さんも仕事が出来ずに降格してきたってことですか?」



「いんや、俺が知る限り栗栖さんはPC担当の凄腕だったけど

あの通りスキンヘッドにしたから売り場から離れただけでPCの知識とか半端ないいし

今でも売り場のPC担当からヘルプで聞きにくるし」


「あと、真砂さんは倉庫専任というより、オールラウンダー系で器用にいろいろできるから。

今は人足りないから倉庫ってだけだと思うけど」


「俺的には、売り場のいい加減な人たちより仕事なら全然できると思うけどね」


狩野さんが最後にこっちをみてニヤリと悪い笑いをした。


…この人、単にいい人じゃないな…


つまり、最下層と言われているのは事実だけど


=仕事ができないという訳じゃないのか…


俺、二人を誤解してたかも。



「狩野~!やっぱ、駄目だったわぁー」


栗栖さんがこちらに向かって歩いてきた。


…もっと尊敬していこう!…

そんな思いを抱き直していた矢先…


「ケータイのキャンギャルのねーちゃんに

美味しそうですね~って声かけたら振られたわ~」


男からみても最低な発言をした栗栖さん。


…やっぱり、前言撤回させてください…


ここはK電気、倉庫最下層。


男だらけの〝ほぼ〟最低集団。


俺がここで学ぶべきは


筋肉のみ!と心から誓った。


「あー前っち。言い忘れてたけど」


「ク倉庫へようこそ♪」


栗栖さんが満面の笑顔で言う。



…最悪だ…






俺、前島 広深(23歳)が


研修先企業として働くのは家電量販店。


春には晴れてここの正社員となる。



初日からここ数日している仕事は


家電倉庫での仕事。


倉庫といえば…


力仕事だ。



自慢ではないが


俺には誇れる筋肉はない。


どちらかといえば細身だ。


研修生といえ


いきなり倉庫配属となると…



「助けてください…」


今まさに、エアコンの外気を支えているものの


下敷きになりそうになり1歩も動けずに


助けを求めていたりします。




「大丈夫かぁー?」


急に軽くなった上部に振り返ると


正社員・真砂 一郎が


軽々とエアコンの外気を持っていてくれていた。



「お前、そんな小さな声で助けを求めていても誰にも気づかれんで終わるぞ!」



「はぁ…」


っていうか、あまりに重くて腹から声が出なかったんですよ!!

と、つい心の中から毒ずいてしまう。


しかし、ここは一応お礼を言っておこう。


「ありがとうございます…」


真砂さんに向けてぺこりと一礼する。



「もういいから。狩野に次の指示もらえ~」


俺の無愛想な礼にも気にすることなく


その場を去っていく。



ここのK家電量販店の倉庫は


初日に知ったのだか


完全実力主義なのだ。


よって、未来の正社員である研修生であろうが


バイトさんたちより俺が一番の下っ端なのである。


俺の研修担当の真砂さんに笑顔で言われたことが


「新人だろうと、正社員だろうと仕事できなきゃ意味ねーしな!」



ですよね…



次の指示をもらいに行く狩野さんは


バイトながら週5日で入ってる3年目のベテランだ。


「狩野さん~」


エアコン(1番外気で重いやつ)を棚の3段目に


上げている狩野さんに声をかける。



…俺もいつかこんな事が出来る筋肉がつくのだろうか?…



「おー前島くん、さっき潰れそうになってたけど平気だった?」


…見てたんだ…


「はい、どうにか」


気軽に狩野さんがいう。

「始めはあんなもんだからねー」



聞けないけど、狩野さんにもそんな時代があったんですか?

と俺は思ってしまった。


そう思うくらい狩野さんは平気な顔をして


淡々と仕事をする人だからだ。


俺より年上で結婚もしてるみたいだけど


外見はアキバ系(実際PC系にかなり詳しいらしいけど)


なのに、人は見かけによらないとはこのことだ。



「で、何?」


狩野さんが本題を聞いた。


「真砂さんから次の仕事をもらえって」



「じゃ、ゴミのダンボール片してきてくれるかな?」


俺の体力に気を使ってか


本当にゴミを片付けして欲しいのか、真意は謎だが


比較的に楽な仕事を授かった。



正直ホッとしている。


初日からの筋肉痛で


今だに部屋にダンボールと暮らしている。



春までに筋肉つくかな?


と俺は自分の上腕二等筋を見比べた。

















2月 如月


とにかく、このクソ寒い時期に


内定をもらった就職先で春まで研修を行う。



この不景気。


それなりの会社の内定をもらい(1年就職浪人したけど…)


正社員として採用されたことは


多分ラッキーなことなんだろう。



生まれが高知県のせいか


神奈川県の比較的暖かいと言われる地域でも


寒さが身にしみる。



でも、俺は地元を出れれば、どこでもよかった。


遠ければ遠いほどよかった。



俺はアノ家が大嫌いだったから…


アノ人達が大嫌いだったから…



春までに2ヶ月間は会社が借り上げている寮に住める。


引越しと物件探しがブッキングしないのは良かった。



大学まで高知の実家にいたこともあり


【一人暮らし】というやつの右も左も分からない。



…一人暮らしできただけ御の字かぁ…


先に届いていたダンボールの山を見ながら


ホッとする。



研修は明日から。



1日、と言っても


もう半日しかないが。



このダンボールを開封して


人並みに暮らしていけるように。


と思うと


今日の夕飯はコンビニ弁当が妥当だろう。



カーテンもつけてない窓から


綺麗な三日月が見えた。


















片思いには


きっと容積があるのだ



その容積以上に想いが溢れてしまったら


それが


どんな時でも


どんな状況でも


自分の意識とは関係なく


想いが口からこぼれ落ちてしまうのでは


ないだろうか?



そんな押さえきれない


コントロールできない


感情を


「恋」だと認識するのはずっと後だけど…



確実に言えるのは



僕は「恋」というものをした



                 9割フィクション小説に続く。