9割フィクション小説~Door Breaching~ #3 | 横須賀どぶ板通り巡り人

横須賀どぶ板通り巡り人

横須賀在住の主がどぶ板通りの飲み屋をメインにどぶ板の魅力を発信するサイド

独特の夏の匂いがする公園での夜。


蝉の音を遠くで聞きながら


今にも爆発しそうな、混沌としたモノを抱えていた。



…逃げなければ…


…心の間接が折れてしまう前に


どこでもいいから…



公園のベンチで膝を抱えながら


俺は怯えることしか出来なかった。




遠くで電子ベルのような音と共に


ベットから飛び起きる。



…夢か…



ベットから出ようとすると


全身筋肉痛の体が悲鳴を上げる。


でも、遅刻は厳禁なので


身支度を整え、徒歩15分のK電気店に向かう。



倉庫の朝は早い。


基本職場には朝礼があるが


倉庫にはない。


理由は朝礼が始まる頃には倉庫は仕事を始めているからだ。


納品のトラックを待たせる訳にはいかない。


そんな事情で倉庫は朝礼参加を免除されているらしい。



俺の研修担当、真砂さんは休みなので


代打として


もう一人の正社員・栗栖さんが本日の研修担当だ。


しかし、この人ビジュアルが個性的すぎる。


頭がスキンヘッドなのだ。


倉庫勤務限定でスキンヘッドはOKなのだが

(お客様が怖がるかららしい)


目つきも悪いし


口癖が「クソッ」だし。


こんな人が先輩になると思うとすでに気が重くなる。



真砂さんと栗栖さんは同期入社組らしい。


真砂さんはどちらかといえば


ヘラヘラしてるタイプで


栗栖さんは


短気で常にイライラしてるタイプ。


しかし、見ていると結構ウマが合うらしく、仲がいい。


…共通点なさそうなのに不思議だ…



栗栖さんの指示で


折りたたみコンテナ・通称オリコンの仕分けを狩野さんとしている。


というか、教わっている。


オリコンの仕事のコツは暗記らしい。


狩野さんいわく、オリコンのスペシャリストはバイトの杉野さんらしい。


今日は俺に教えながらだから


狩野さんもスピード重視で仕分けはしてないみたいだ。


オリコンを囲みながら

(手は常に動いているけど)


狩野さんに質問をしてみた。

(正社員には聞きづらいこととか、バイトさんのほうがフランクに聞けそうだし…)



狩野さんは基本寡黙な人だけど


聞いたら絶対答えてくれる人だ。



「狩野さん、噂で聞いたんですけど倉庫って最下層って言われてるって本当ですか?」


「ああ、本当だよ。大体仕事が出来ない正社員が降格して落ちてくるから

そう言われてるんだよ」


目線をオリコンから外さずに狩野さんが言う。



…マジか…


「前っちは研修中だから単に運が悪かっただけかもしれないけど」


「ま、前っちって…狩野さん?」


「ああ、真砂さんから、前島くんが新人で緊張しているからそれをほぐすようなあだ名を

つけてみんなで呼んであげようという配慮みたいだよ」


また、淡々と答えられた。



…まぁ、1番下っ端だしいじられても仕方ないかぁ…

ここはとりあえず、話題を変えよう!!


「狩野さん、さっきの続きですけど

最下層ってことは、ぶっちゃけ、真砂さんと栗栖さんも仕事が出来ずに降格してきたってことですか?」



「いんや、俺が知る限り栗栖さんはPC担当の凄腕だったけど

あの通りスキンヘッドにしたから売り場から離れただけでPCの知識とか半端ないいし

今でも売り場のPC担当からヘルプで聞きにくるし」


「あと、真砂さんは倉庫専任というより、オールラウンダー系で器用にいろいろできるから。

今は人足りないから倉庫ってだけだと思うけど」


「俺的には、売り場のいい加減な人たちより仕事なら全然できると思うけどね」


狩野さんが最後にこっちをみてニヤリと悪い笑いをした。


…この人、単にいい人じゃないな…


つまり、最下層と言われているのは事実だけど


=仕事ができないという訳じゃないのか…


俺、二人を誤解してたかも。



「狩野~!やっぱ、駄目だったわぁー」


栗栖さんがこちらに向かって歩いてきた。


…もっと尊敬していこう!…

そんな思いを抱き直していた矢先…


「ケータイのキャンギャルのねーちゃんに

美味しそうですね~って声かけたら振られたわ~」


男からみても最低な発言をした栗栖さん。


…やっぱり、前言撤回させてください…


ここはK電気、倉庫最下層。


男だらけの〝ほぼ〟最低集団。


俺がここで学ぶべきは


筋肉のみ!と心から誓った。


「あー前っち。言い忘れてたけど」


「ク倉庫へようこそ♪」


栗栖さんが満面の笑顔で言う。



…最悪だ…