海洋亭
かつて沖縄旅行に行った際、一回だけ食ったことがあるソーキそば。激しいこってり系ラーメンばかり食い続ける日々に疲れ、突然こいつが無性に食いたくなり、思い浮かんだのが山科にある「海洋亭」。地下鉄「御陵」駅近く、三条通りに面しており「沖縄そば」と書かれた「のぼり」が目印。店内は左側が座敷席でテーブル2つ、右側がカウンター3~4席と、超コンパクトなスペース。座敷に置かれた蛇皮線、壁一面にびっしりと貼られた沖縄に関する蘊蓄や沖縄料理の各種メニュー、カウンターに並べられた泡盛のボトル、背面の棚で無造作に売られる沖縄限定の缶詰や調味料等々、狭いながらも沖縄一色の高密度で濃厚な空間。店員は一人で、ホールと調理を兼任。褐色の肌をした若い兄ちゃん。その独特の訛り、精悍な表情は紛れもなく海人(うみんちゅ)……!話を聞いていると、沖縄出身の店主が開いた本店がすぐ近くにあり、ここは最近できた2号店で自分はアルバイトだという。本店では夜な夜な蛇皮線リサイタルが開かれているらしい……なんて素敵なんだろう。しかし、この2号店のコンパクトな店内もなかなか味があってええやん、なんて思っていると「ソーキそばのスープは本店から持ってきてるんですけど、こっちはちょっと薄いかな……」て、食う前から微妙にへこむことを言わはる!しばらくして目の前に出てきたソーキそば。記憶の中ではほぼ原型をとどめないくらいに忘却してしまっていたけれど、食うにつれて卒業旅行で行った沖縄のことを思い起こす……あの頃は若かった……。インスタント麺のような香ばしさがある平麺に、うどんとラーメンの中間のような優しい味のあっさり醤油スープ。なにより目を引くのは、スープの上にドカッとのせられたでかいソーキ肉(豚のあばら肉)。ひと噛みすると、中にはゼリーのように柔らかくなった軟骨があり、コリッとした食感。「健康にいいんですよ」と笑顔で話す店員だが、かなりのボリュームで食いきるのが大変。同時に注文した「タコライス」も簡素な盛りつけながら、沖縄本場の味を忠実に再現した風味で大満足。帰り際、店員に沖縄にどれくらい住んでいたのか聞いてみると「実は沖縄に一回も行ったことないんスよ~」て、あんたモグリかーい!
チャーミングチャーハン
一度も聴いたことがないCDなのに、ジャケットのアートワークが気に入って買ってしまう行為のことを「ジャケ買い」という。これをグルメに当てはめたのが「ジャケ食い」(「鮭食い」ではない)。定義は簡単、一度も食べたことがない店なのに、店名だけで判断して入店してしまおうという試み。少し前に記事にした「マエダダイナスティー」、実はこの「ジャケ食い」だったりする。店名に惚れた、ただそれだけのこと(結果的に美味かったけど)。で、今回の「ジャケ食い」のターゲット……その名も「チャーミングチャーハン」。烏丸今出川を少し北上した場所に立地するこの店、以前から車で前を通る度に気になっていた。なんと言っても「チャーミング」な「チャーハン」である。「チャ」という文字を連発させることで韻を踏んでるし、何より中華料理の油臭いイメージが一転、なんともフェミニンでかわいらしい響きに様変わり。ちょっぴりナンセンスさを感じるこのネーミング、個人的には大好きだ。しかし、如何せん長すぎる店名なので、この記事内では以後「チャーチャー」と略すことにする(超適当)。席に座ってまず気付いたのが、「チャーチャー」は出前専門店であるという点。イートインのスペースは、テーブル席が2つと、座敷席が1つ。店内は出前を依頼する電話がひっきりなしに鳴り響き、活気があって繁盛している雰囲気を醸し出すが、その分イートインの居心地はなんとなく悪い。で、メニューを見てみてビックリ。ラーメン、餃子、唐揚げ、焼きそば、春巻きと、あらゆる中華総菜が網羅されたこのメニュー、その全てにまるでコバンザメのように付与された「チャーハン付」の文字。厨房に目を移すとオヤジが中華鍋をガンガン言わしながら黙々とチャーハンを量産。「とにかくチャーハンを食わな!」という一種の強迫観念に苛まれることになる。さらに、あり得ないメニューを発見してしまった。
「焼飯(チャーハン付)」!?
「チャーチャー」の主人公は「チャーハン」の筈なのに、ここで新たに「焼飯」なる新キャラ登場。両者にどのような違いが存在するのか。焼き具合か、味付けか、それとも単なる誤植なのか。これを注文したら最後、見た感じほぼ一緒の「焼飯」と「チャーハン」が目の前に2つ並ぶという恐ろしい光景が脳裏に浮かぶ……。意を決して店員に質問してみた。
ガビーン!なんじゃそりゃ。そんな杞憂もさておき、手元にやってきた「チャーチャー」のチャーハンは、見た感じニンジンが入っていたりしてピラフチックな雰囲気を醸し出すチャーミングな一品。「餃子セット」(¥500)などと全体的に割安感があり、付近の住人に愛されている理由も分かる。でもイートインは……もういいかな……。
チャーミングチャーハン
★★★★☆ 3.5
Noinah
北山通りから賀茂川の側道を少し北上した場所に立地するカフェ「Noinah(ノイナー)」。目の前に賀茂川があるリバーサイドなカフェ。すぐ近くに「リバーサイドホテル」というラブホもあったりして、高確率で陽水のアレを口ずさんでしまうこと請け合い。このカフェは、オープンテラスに3つ並べられたテーブル席が特等席。賀茂川直近ではなく間に小路を挟んでいるため、リアルな川臭さがなく、視界に入る並木、ゆるやかな風、さらさらと聞こえる賀茂川のせせらぎがなんとも心地よい。好立地もさることながら、このカフェの白眉はフードメニューにある。写真入りのメニューを見てみてビックリ、なんてボリューミーで美味そうな料理の数々!正直「カフェごはん」なるジャンルに対する期待感は、ほぼ皆無だったりする。値段が高い割に量が少なく、思わせぶりなネーミングの割にいざ食べてみたら全然たいしたこと無い、なんて経験がほとんど。ところがどうだ、「Noinah」のフードメニューは全て皿からこぼれそうなくらいに盛られたアメリカンビッグサイズ(死語)!ご飯・タコスの上に、大草原のように細かく刻まれたレタス、目玉焼きがのせられたビッグマックのような「タコライス」、化け物のようなどデカいハンバーグがご飯を覆い隠す脅威の「ロコモコ」と、どのメニューも「腹一杯食わしたるで!」という、まるでカフェらしからぬサービス精神が旺盛で、食いしん坊スピリットが刺激されまくり。ここはほんまにヤバいわ。稀少な「食える」カフェ「Noinah」、さあ腹を空かした野郎ども、この聖地(サンクチュアリ)に集うべし!
カフェ ノイナー (cafe Noinah)
★★★★☆ 4.0
無鉄砲
京都は木津町のはじっこ、まわりになんもないど田舎に建つ、なにやら怪しい山荘。前には大行列、これが噂のラーメン店「無鉄砲」である。鉄砲を持って立てこもった浅間山荘とは違い、こちらは鉄砲を持たない「無鉄砲」な山荘……なんて店名の由来は勝手な憶測。行列と相反するように、狭いスペースの店内。目の前の厨房では、アクがびっしりとこびりついたどでかい寸胴が沸々と沸き立つ。その寸胴に、店員の手によって次々と放り込まれる豚の肉塊。ぐりぐりとかき混ぜる棒は決して調理器具なんかではない、あれは明らかにスチール製の建材……なんて豪快で無鉄砲!目の前に運ばれてきたラーメン。スープはこってり系ラーメンの極北と言えそうな風味で、はっきり言って「天一」なんて目じゃない。もっとアグレッシブに舌、胃にずっしりと響き渡る濃厚なスープ。この店は注文時にスープの濃さを選べるシステムで、軽はずみに「こってり」を選んでしまった自分を後悔……していたその時、背後から店員の声。「スープはどうですか?濃い場合はスープを足して薄めることも可能ですので」。すでにゴールすら見えなくなっていたグロッキー状態の私に、その天使のような声は心に染み渡ったのだった……。食後感は一戦交えた格闘家のような心境で、このラーメンを食うのはまさに己との戦いである。こんなラーメンを行列してまで食ってしまう日本人の未来に、一抹の不安を感じたりするのは余計な老婆心なのか……。退店後車に向かう途中、猛ダッシュで店員が私の元に駆け寄ってくる。げげっ!これ見よがしに一眼レフのでかいカメラでラーメンを撮っていたもんだから、なんか文句付けられるんとちゃうか!と思っていたら「うちのラーメンはどうでしたか?こんな京都のはじっこでやってますけど、もしよかったらまた来てくださいね」……て、むっちゃええ人やし!ほんま色んな意味でびっくりする店やわ!
無鉄砲 本店 (むてっぽう)
★★★★☆ 4.0
無鉄砲 本店 (むてっぽう)
★★★★☆ 4.0
希味
仏光寺通りは通勤路であるにも関わらず、この店の存在には全く気付かなかった。前をいったい何百回通ったことか。看板が出ていないので店ではないし、表札が出ていないので民家でもない。ただ、そこにあるという感じのぶっきらぼうな佇まい。だまし絵のような錯覚である。これが扉を開くと一転、ワイワイガヤガヤと大勢の客で賑わう大繁盛店。こんな店を俗世間から隠匿する大人って卑怯やん……といわれのない理不尽さを感じてみたり。これも京都ならではの奥ゆかしさなのか。びすとろ「希味(のぞみ)」は看板を出さない、がモットーの創作料理店。昼はランチ一種類のみで、夜はコース料理を提供している。ランチは総菜4品にご飯、サラダ、味噌汁という内容で¥800。文章にしてみると「普通やん」となるが、実際目の当たりにするとお重が大きく、そのボリュームには驚かされる。女性の場合、完食はちょっとキツいかも……というレベル。で、創作料理店だけあって一つ一つの料理があれやこれやといちいち凝っていて、楽しいし美味い。これでご飯お変わり自由、つまり言うこと無しということ。夜のコースもこれまた凄いことになっていて、一番安い¥2,500のコースで実に20品目も楽しめる。正直、こういった新進気鋭の創作料理店は他にも数多あるし、その味について優劣をつけられるほどの舌は持ち合わせていないが、一つだけ言えるのは、揺るぎない「量」という武器でもって攻めてくる「希味」のコースは誠に魅力的ということ。渋いほうじ茶のアイスで〆るこのコース、食後感は心身共に満足なのは間違いない。一つだけ言わせてもらうと、コックさん、もう少し大きい声でハキハキとメニュー名を言ってくれへんやろうか。せっかく美味いのに何を食ってるのか分からんようじゃ……ねえ。
びすとろ 希味 (ビストロ ノゾミ)
★★★★★ 4.5
タコ部屋
「たかがたこ焼き、されどたこ焼き」。亀岡の並河駅近く、ローカルで人通りの少ないエリアに、小さい店ながら、確固たる主義をもって営業するたこ焼き屋「タコ部屋」がある。店の前でまず目に飛び込んでくるのは、入口の立て看板にでかでかと書かれた「まず読め!オバハン」の文字。良識ある客ならばこの時点で「恐っ、やめとこ……」となるのが当然ではある。この店の主張としては「作り置きをしない主義なので、注文を受けてから20分は調理時間を頂きますよ」ということ。それが我慢できない人は来なくていい、店内に掲示されている言葉を借りるならば「お客様は神様ですが、タコ部屋は神も選ばせてもらいます」ということである。店内には他にも「空気を読め、注文はすばやく一度」「忙しい時に話しかけないでください」「持ち帰り不可!何でも家でくうな」等々、挑発的な「注釈」のオンパレード。一つ一つ読んでいるだけでだんだん肩身が狭くなる思いがするが、全く臆することなかれ。坊主頭で小太りな店主は、まさしくタコのようなキュートな外見。時折ヤンキー風の客と昔話に花を咲かせていたりと、過去のやんちゃっぷりを垣間見る瞬間もあるが、毒のある人間ほどその性根は心優しい、というのが世の常である。実際、近所のおばちゃんたちにこの店のファンは多いようで、事前に電話注文をして、カジュアルに持ち帰りしまくり、という光景をよく目の当たりにする。数々の毒のある掲示は美味しさの裏付け。当然の事ながらしっかりと美味いたこ焼きを提供してくれる。外はカリカリ、中は半熟。絵に描いたような王道の美味いたこ焼きの姿ではあるが、作り置きの「無駄焼き」がない分、他の店では味わえない絶妙なカリカリ感を維持した逸品である。また、たこ焼き専門店だけあって、メニューのバリエーションは比類無き豊富さ。「ネギかけ」「キムチかけ」「塩バター」など、名称からある程度内容が推測できるものから、「ラザニア風」「納豆くん」「うずらくん」など、一見しただけではよう分からんメニューまで、非常に幅広いラインナップ。ちなみに写真はオムレツ風たこ焼きの「オムタコ」(→中を開けた写真はこちら
)。カリカリに焼かれたたこ焼きを、ふわふわに炒められた玉子でくるんだ一品。たこ焼きというシンプルなメニューにおいて、考え得る限りのアイデアでもって埋め尽くされたメニューの数は圧巻。なかなか全品制覇という道は遠そうである。ちなみに店内のテレビでは必ずと言っていいほど巨人戦が放送されている。その理由は一目瞭然、テレビの下に輝く「うんこ阪神」の文字……。「野球」「たこ焼き」というキーワードで思い浮かぶのは「蛸虎」であるが、「タコ部屋」はその真逆を邁進する。アンチ巨人のスローガンを元に阪神ファンが大多数を占める関西において、さらにその裏をゆく「巨人魂」。その「へんこ」っぷりは相当なものである。
キッチンパパ
場所は西陣、老舗のお米屋さんが始めたというけったいな洋食店「キッチンパパ」。店内は入口付近が魚沼産・長野産・山形産こしひかりと、各地の一級品のお米が並ぶ旧来のお米屋さんになっていて、明るい蛍光灯の照明が、白米の白さをより美味しそうに際立たせる。これが一転、奥に歩を進めると雰囲気はガラリと変わり、ジャズをBGMに、ダウンライトの電球色に照らされた古き良き洋食屋の様相を呈する。入口付近のお米屋さんのエリアがお米を「買う」場所ならば、奥の洋食店のエリアはそのお米で飯を「食う」場所、この緩急の付け方がなんとも面白い。電球色の落ち着いた暖色の灯りが、いやが応にも食欲を喚起させるというものである。メニューは洋食として王道をいく内容で、ハンバーグ、各種フライ、ビーフシチューと、美味い「お米」のお供として申し分なし。しかもご飯お替わり自由ときた、お米屋さんとしての懐の深さここにあり、である。おあいそはお米屋さんのレジで一括。奥の洋食店のエリアはお兄ちゃんが切り盛りしているのに対して、お米屋さんのエリアはおじいちゃんとおばあちゃんの二人が担当。会計を済ますと「ありがとう、また来てな~」と、おばあちゃんのかわいい笑顔。お釣りと同時に割引券を貰えたりするんやけど、その笑顔だけで十分また来たくなるんやな。
キッチンパパ
★★★★☆ 3.5
キッチンパパ
★★★★☆ 3.5
芳珉
桂エリアの東側、国道9号線から少し外れた、薄暗い、静かな住宅街の一画に、煌々と灯りをともす赤提灯。「芳珉」(ほうみん)は、味のある店主と奥さんが切り盛りをする小さなラーメン店。こんなに奥まった、人目の付きにくい立地にも関わらず、深夜4時まで営業ということもあり、飲酒後の一杯、遅い晩飯としても活用でき、常連さんが多く、どの時間帯も客足が絶えない人気店である。メインとなるのは豚骨ラーメン。真っ白な豚骨スープは一口すすると「天天有」よりもさらにあっさりとしたお味で、良く言えば「上品な口当たり」、人によっては「水くさい」といった感想も出るかもしれない。そこは店主も承知のうえで、ラーメンを食べる前に、必ず「ほい!入れる?」と、店主自らニンニク唐辛子をさじにすくってこちらに差し出してくれる。なんとも滑稽な儀式ではあるが、どの客にも漏れなくニンニク唐辛子は差し出され、私の経験上、ほとんどこれを拒む客はいない(たまに拒む通なオヤジもいたりする)。基本的に「芳珉」のラーメンは、このニンニク唐辛子ありきのスープで、私も例外なく必ず入れてもらう。ただし、最近は舌が肥えてきたのか、なしの状態でも風味が楽しめるようになってきて、半分くらいは素のスープで食って、残り半分でぐちゃぐちゃにかき混ぜて食う。兎にも角にも、ニンニクの風味も相まって、ご飯をガッツリと食える、不動のご飯系ラーメンとしてその存在は揺るぎない。店主は鋭い眼光の強面で、一見すると頑固オヤジっぽいオーラにビビってしまうが、実はとっても愛嬌のあるおっちゃん。私の場合、最近は来店する度に、どうやってこの強面の店主を笑かそうかと考えていたりする(趣旨は不明)。この前は来店と同時に開口一番、ピースサインで「ラーメントゥー(2つ)!」と注文してみると「英語で注文されたん初めてやわ……」とかなりウケていた。結構単純な笑いに弱いな……またなんか考えておこう。あと突然「この前お父さん来たはったで!」と、全く身に覚えがないことを言われたりもした。そもそも我が一家左京区在住やし……おっちゃん、ありえへんで!
芳珉 (ほうみん)
★★★★★ 4.5
富田屋
2005年2月8日に「京都1975」はスタート、第一回目の記事は「海望亭」 。基本的に「いい店・満足した店」を紹介するスタンスにあって、いきなりネガティブな船出となったこの記事、文末を「こいつは要リベンジですぜ……。」で締めくくる。いま振り返ってみると「京都1975」は、このとき感じた怨念をポジティブなエネルギーに転換して更新を続けてきた、と言えるかもしれない。その物語の帰結先。やはり海鮮モノは海人(うみんちゅ)に聞いてみねばということで、週末はもっぱら日本海でサーフィンに興じるという会社の同僚にヒアリング。結果、開口一番に出てきた店が「富田屋」(とんだや)。場所は宮津駅の真ん前という分かり易すぎな立地。綺麗に整備された駅前に存在する異形の建物。昔ながらの瓦屋根に煌々と光る怪しげなネオンの看板、入口の横にはでかい狸の置物と、なんだか「千と千尋の神隠し」に出てきそうなレトロで不思議な外観 。いざ店内に入ってみると、これがしっちゃかめっちゃかの大賑わい。家族連れ、カップル、近所の労働者と、世代を問わない客層で、なんかしらんがやけに活気がある。そんなカオスを強引な手腕で取り仕切るのが、店員のおばちゃん。短髪で、一見するとチーター(水前寺清子)風のこのおばちゃん、正直かなり恐い。常に眉間にしわを寄せ、入店してくる客を次々とさばいていく。言わずもがな、座る席を指定なんてできやしない。勝手に席に着こうとすると「こっち座って!!」と一喝される始末。こんな商売っ気のない接客でも、客足が途絶えることはない。みんな、この店の新鮮な海鮮モノを求めてやって来るのである。日によって、時間帯によって、海鮮モノのメニューは随時変動、店内の中央に掲げられたホワイトボードをまずは要チェック!刺身、焼き物、揚げ物、煮物、酢の物と、なんでもござれのラインナップ。海の近くということで、焼き牡蠣、サザエ壺焼き、アワビバター焼きなどはやはり押さえておきたいし、各種刺身を単品狙いで注文するも良し、刺身盛り合わせを注文してまんべんなく食うも良し、である。特筆すべきは、うどん、丼物、カレー、ラーメンと普通の大衆食堂的なメニューも網羅されており、これがまた安い!ということ。例えばうどんに至っては¥263也。それでいてしっかりとボリュームがあり、妥協のない内容、こいつはなかなかお目にかかれないお得感である。あれやこれやとメニューが多過ぎて、目移りしてしまいがちではあるが、お勧めとしては、敢えて定食を注文せず、まずは白ご飯もしくは丼物を注文し、あとは海鮮モノの中から狙いを絞って単品で2~3品注文するという方式。これなら定食と単品の内容がバッティングするという悲しい事態を回避することができるし、トータルの食事代を低めに抑えることもできる。そんなこんなで、美味い海鮮モノの店を発見するという密かな命題を掲げ、更新を続けてきた「京都1975」も一段落。約半年間のご愛読ありがとうございました!……というわけでは全然なく、これからも普通に更新を続けていきますのでよろしくお願い致します。
富田屋
★★★★★ 4.5