時蔵／萬壽／梅枝／仁左衛門／松緑／七之助／隼人／種之助／萬太郎／歌昇／獅童／錦之助／又五郎／歌六
大きな名跡、親子三代の襲名、獅童さんとこのお子たちの初舞台と、大所帯の祝い月なのに、役者さんたちがずらりと並んでの「口上」の１幕がないんですね、なぜだろう。この舞台も、新・時蔵さんがお三輪で、新・萬壽さんが求女で、新・梅枝ちゃんがおむらの娘で出ているのに、「六代目中村時蔵襲名披露狂言」という扱いになっています。劇中口上では、新・梅枝ちゃんはご子息ということで一緒にご挨拶したけど、萬壽さんは出ないんですねー。まあ、ここで出てきたら、愛しい人に会いたい会えないというお三輪のお話がシラけますが。
まずは劇中での襲名口上のことから。豆腐買おむら役の仁左さまが、その娘役の新・梅枝ちゃん（小川大晴くん）の手を引いて上手から登場。求女の居所を尋ねる新・時蔵のお三輪に答えて「良い殿御か？ 来たぞや、来たぞや」で仁左さまが衣被を取り、口上になります。仁左さまの女形といえば八汐が真っ先に思い浮かぶけど、それとは真逆のおむら、でもシャープなお顔は八汐っぽくもあったかも😅
仁左さまはご挨拶で、三・四・五代の時蔵との思い出をちょこっと。三代目時蔵には子役の頃からお世話になったとおっしゃってました。この後の場での、六代目＝新・時蔵はじめ、今回いじめ官女を演る小川家の人々８人（歌六／又五郎／錦之助／獅童／歌昇／萬太郎／種之助／隼人）は三代目時蔵の孫や曾孫にあたるそうで、いや、すごい家系ですね。
仁左さまと新・梅枝ちゃんが花道を引っ込むと、話題の？お三輪いじめになります。襲名に絡めたアドリブがあるのかなと思ったら、それは無しで、真面目に（でも嬉々として😅）いじめてた。ここはまあご祝儀という感じで、親戚たちが無礼講ふうに楽しく演じてるという感覚で観ましたよ。
最初に出てくるのが隼人で、８人の中ではいちばん身長が高いこともあり、いきなり迫力と威圧感でもってお三輪を威嚇します。トップバッターとして最適。外股で肩を揺らす歩き方が完全に立ち役😆 全員登場すると、お三輪の両サイドから歌六と又五郎が圧をかけ、獅童は声で圧倒する（実際は、しわがれ声なんで客席から笑いが起こる😅）。萬太郎も張り切ってお兄ちゃんいじめ😊
このシーンいつもは観るのが辛いんだけど、襲名披露なのに人間国宝から実の弟までがよってたかって……って、祝祭感あってニヤニヤしながら観てました。時蔵家にとって「妹背山婦女庭訓／三笠山御殿」は四代目から３代続けての襲名演目なんだそうですが、８人の官女に小川家の人々を、というのをよく思いつきましたね。
肝心の新・時蔵のお三輪です。初役だったとは意外でした。想定内ですが、初役とは思えない、いつもながらの達者ぶりです🎊 古風で素朴な田舎娘の感じがよく出ていた。三笠山御殿にようやく辿り着き「愛しい求女さまの手を引いて、これみよがしに連れ帰ろうか（←意訳)」と気の強い一面を見せるところ、おっとりした面持ちの新・時蔵が言うと、そこに、芯の強さ、たぎる情熱、いや情念が隠れているのを強く感じる。そのあとすぐに、それは浅はかな考えだと思いとどまるところに聡明さも滲ませます。
いじめに遭い、求女に会うのを諦めかけたとき、奥から聞こえる祝いの声にフラフラと引き寄せられるところの、何も考えていない感じ（不思議な力に引っ張られる感じ＝お三輪が持っている特異な資質）が現れていて、それが終盤につながっていく。花道で再び賑わいの声を聞き「あれを聞いては帰られぬっ」と言う声に恨みがジワッと滲んでいてゾクッとしました。そのあと現れた鱶七(松緑)にいきなり刺されるんだけど、その断末魔の哀れさがとても美しかったな。
このお話、飛鳥時代に素材を取ってるだけに、その神話っぽさ、凝着の相のある女性の生き血（と黒爪の鹿の血）によって蘇我入鹿を倒す、という展開がちょっと神秘的で好きですねー。
松緑の鱶七も大きくて骨太で良かったです。前半での登場シーンはないので、お酒でもてなされたり、お酒に毒が入っているのを見破ったりという面白場面がないのは残念。鱶七がなぜそこにいるかも分かりにくいしね。ま、襲名披露狂言だから “お話を見せる” というのは置いとくのでしょう。
鱶七にからむ力者はやゑ亮さんで、官女と同じ長袴を身に付けての返り落ち、華やかで形よく勢いあり、素晴らしかったです！ 練習風景の映像を見ていたのでちょっと注目しちゃった。
今回は幕見で観たのですが、６月の歌舞伎鑑賞はこれ１本だけです。萬屋一門さんの襲名披露や初舞台という目出度い月間ですが、演目にイマイチ魅力を感じず（舞踊系苦手だし）すみません🙇♀️
