オンライン観劇「Kings of War」@インターナショナル・シアター・アムステルダム | 明日もシアター日和

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演出 イヴォ・ヴァン・ホーヴェ

 

 いや~、もう、すっごく面白かった!🎊 早くも、私の「2024年の演劇ベスト5」内に間違いなく入ると確信できるレベルの芝居でした。シェイクスピア劇「ヘンリー5世」「ヘンリー6世(1~3部)」「リチャード3世」を大幅にカットして構成した作品で、上演時間は4時間半(休憩20分含む)。劇場での上演の収録ではなく、屋内(稽古場?)の広い一室およびそこに通じる廊下を使っての演技です。初演は2015年。

 

 配信が開始するといきなり現国王チャールズ3世の顔写真が映り、そこからエリザベス2世→ジョージ6世……と時代を遡りながら、イギリス歴代の君主の写真や肖像画がフラッシュバックで映されていき、ヘンリー5世の肖像画で止まる。明らかに本作を「現代と接点があるもの」として捉えているという示唆です。実際、衣装や小道具は完全に現代のもの。舞台になる部屋は矩形で、正面上方にヴァン・ホーヴェ作品ではお馴染みのスクリーンがあり、さまざまなシーンで使われていた。

 

 芝居が始まると、狭い廊下をヘラヘラした風の男が歩いてきて立ち止まり、そばにあった王冠をひょいと手にして頭にかぶり、悦に入る。すると、廊下の端に置かれたストレッチャーが映り、そこに男が横たわっている。ん……? これは「ヘンリー5世」の前の戯曲「ヘンリー4世」で、放蕩息子ハル王子(のちのヘンリー5世)と、病床にある父王ヘンリー4世とのシーンだ。目が覚めた父王は息子に「自分は正当な王位継承者ではなく簒奪者なのだ」と告白する。このシーン(セリフ)をわざわざ入れたことで、これから始まる王位・王権にからむドロドロのドラマを予感させます。

 本編がスタートすると、戴冠式に臨む新王ヘンリー5世が、後ろに側近や親族を従えて廊下を歩いてきます。これ以降の各王の戴冠シーンもこれと全く同じ見せ方になっていて、歴史が繰り返されていくことが強調されていました。

 

 イギリスではヒロイックに語られるヘンリー5世だけど、本作では全く違う。彼が理想的な指導者であると思わせるセリフやシーンはことごとくカットされ、フランス征服の野望に燃えるワンマンで好戦的で、時に冷酷で暴君じみたところもある男として描かれています。有名な「聖クリスピンの演説」は誰もいない部屋にマイクで流されるだけで、ヘンリーの姿がスクリーンに映されることすらない。言っていることは崇高だけど中身がない、誰も聴いてなんかいない、ヘンリー自身が自分の言葉に酔っているだけのようにも感じられた。一方、フランス王女キャサリンに求愛するヘンリーは、アプローチの仕方がわからずオドオドしてそれを隠すかのように喋りまくる。戦いになると勇ましく進むヘンリーだけど、実は人間関係を築くのが苦手で女性への接し方も分からないという、人としてアンバランスな面を感じさせるのでした😔

 

 彼の息子ヘンリー6世は、黒縁メガネをかけているという外見から、本好きで、それゆえに国の指導者としてはちょっと不向きでは?という印象を与える。戴冠式の時の不安そうな表情に、王として何もできない男ではないかとすら感じてしまいます。ヘンリーの周りで側近たちが激しく言い争い分裂しているとき、パジャマ姿でただオロオロするヘンリーは成長しきれていない青年のようだったし、頼りにしていた側近が殺されたと知って錯乱状態になった彼は、国のリーダーとしてはあまりにもろい。「自分は羊飼いになりたい」という例の独白では、廊下に出るとそこには実際の羊がぎっしりと群れていて、その羊たちが死の遣いであるかような異様な空気を感じました。王を取り巻く人たちの私利私欲が絡んだ権力闘争、それに翻弄される無力なヘンリー6世は同情するにはあまりにダメすぎた😓

 

 そのヘンリー6世を殺したリチャード3世は、顔に大きなアザがあるけど身体に障害はないという造形で、本作では孤独な道化師という感じだった。誰もいなくなり独白シーンになると等身大の鏡に向かいそこに映る自分の姿を見つめながら自分に語りかける。王座に手が届きそうだと確信すると、電話の受話器を取り誰かと喋ってるふりをしたり、椅子を王座に見立て座り王冠を被った自分を鏡に映してうっとりしたりする。カーペットをローブ代わりに羽織り部屋を走り回ってはしゃぐ姿は、ナルシシストというより子どもでした。ついに王位につくんだけど、家具が片付けられ何もなくなった部屋には黒いソファーがひとつポツンとあるだけ。そこに座るリチャードの後ろ姿は空虚で孤独だったな。そして最後に「馬だ! 馬をくれ!……」と、あのシンボリックなセリフを叫ぶと、なんと、馬にまたがった真似をして空っぽの部屋をぐるぐる回り、そのまま廊下を去っていく。すべて彼による道化芝居だったかのよう😢 そしてヘンリー7世が即位するところで芝居は終わります。

 

 為政者の権力欲、自己愛と身勝手さ、未熟さ、非情さ……もうグサグサ刺さってくる。最後に登場するヘンリー7世を、最初に登場したヘンリー5世と同じ役者が演じていて、そこには、問題王の再来(史実として、ヘンリー7世に正統な王位継承権はなく、リチャード三世から王位を簒奪したことになる)、歴史はこうやって繰り返される、そしてそれは現代に重ねて考えられるのだというメッセージ性を感じました。

 元の戯曲をものすごくカットしてあるんだけど、戦争シーンは全く出さないし、ジャンヌ・ダルクの「ジャ」の字も出てこない😅 庶民を登場させて戦争の虚しさや悲惨さを説くこともない。お話を王とその側近や家族とのいざこざに絞り、為政者の仮面を取り去ることに徹底した作りでしたね。

 ヴァン・ホーヴェの尖った演出を受けて立つに十分なパワーと鋭い感性と確かな演技力をもった役者たちも素晴らしく👏 その演出と演技でグイグイとひっぱっていく、とても濃厚な芝居でした。

 

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