映画「マエストロ」(2023年) | 明日もシアター日和

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監督 ブラッドリー・クーパー

キャリー・マリガン/ブラッドリー・クーパー

 

 レナード・バーンスタインとその妻フェリシアの軌跡を描いた映画です。私はバーンスタインのことはほとんど知らないしその人生にも特に興味はないので😓普通なら観ないんだけど、たまたま加入しているNetflixが独占配信していて、作品、監督、俳優などにおいて多くの賞レースを賑わせており、特に、好きな俳優キャリー・マリガンが女優賞候補として絶賛されてるようなので、それならばと観てみました。

 

 ネタバレあらすじ→1980年代後半、老齢のバーンスタイン(以下レナード)がインタヴューを受けている。その最後に妻のことに触れ「妻が恋しい」と呟く。そこから彼の回想=本編が始まる(ここからモノクロ映像)。1943年、NYフィルハーモニックの副指揮者だったレナード25歳は、病気で降板した大物指揮者の代わりを務めて大成功を収め、一躍有名になる。彼はバイセクシャルで、当時も男性と交際していたが、あるパーティーで女優志望のフェリシアと知り合い、1951年に結婚する。レナードの仕事は順調で3人目の子どもも産まれるが(ここからカラー映像)、バイセクシャルなのは変わらない。フェリシアは夫が若い男と親密にしているところを何度も目にし、2人の溝は深まる。ある日の激しい口喧嘩のすえ2人は別居、フェリシアは俳優業を再開する。やがて彼女は自分を偽っていたと感じるようになり「彼が恋しい」と呟く。1973年レナードはイギリスのイーリー大聖堂でマーラー「復活」の伝説的な演奏を行い、そこにフェリシアが訪れている。2人はヨリを戻すが、フェリシアは乳癌が発覚しそれが肺にも転移。レナードの腕に抱かれて1978年に息を引き取る。悲しみから立ち直ったレナードは活動を再開、相変わらず若い男と遊んだりもする。冒頭のインタヴューシーンに戻り、レナードの脳裏に若きフェリシアが思い出の庭に歩いていく後ろ姿が浮かぶ。終わり。

 

 バーンスタイン本人の音楽家としての葛藤や挫折や悩みなどは描いてなくて、仕事はトントン拍子に進むような見せ方。映画は彼と妻との愛憎のドラマ、どちらかというと、彼と結婚したことで試練を強いられる妻にフォーカスされている感じでした。エンドロールでは、妻を演じたキャリー・マリガンの名がキャストのトップに置かれレナードを演じたブラッドリー・クーパーは2番目だったのは、クーパーの謙虚さの表れでしょうが、実際、映画全編通してマリガンが素晴らしい🎉 夫に尊敬を抱き、彼の性的嗜好も容認しようと苦悩し、家庭を顧みない彼に苛立ちを隠しきれず……そんな心理を表す微妙な表情、感情を爆発させる時のセリフ、彼への深い愛を示す穏やかな目、自分の余命を受け入れてからの達観した姿など、とてもエクセレントな演技でした。

 

 バーンスタインの音楽がたくさん使われていますが、圧巻はイーリー大聖堂での演奏かな。映画「ボヘミアン・ラプソディ」でライブエイドでの実際のクイーンのパフォーマンスがほぼ完全コピーで演じられたように、こちらもそんな感じの、クーパーによる完全コピー再現演奏だったらしい。個人的には序盤で、バーンスタインが曲を創ったバレエ「ファンシー・フリー」(ジェローム・ロビンズ振付。3人の水兵と女性たちとのスケッチで、後にミュージカル「オン・ザ・タウン」の元になる。以前パリ・オペラ座での上演が配信されましたね)が、結婚前のレナードとフェリシアとの重要なシーンとしてすごく素敵に扱われていたのが良かった。役者たちが踊っているところにいつの間にか水兵姿になっているレナードがフェリシアを誘って参加するという、とても良いダンスシーンだった✨

 

 映画の創りは割とアーティスティックというか技巧的で、ユニークなアングルで人物をアップにしたり、そこから舐めるように背景を映したりする。あるいは、ひとつのシーンから時空が飛んで次のシーンになる流れをワンカット風にシームレスに見せたりする。例えば、代役のオファーを受けたレナードが有頂天で寝衣のまま部屋を飛び出し、踊り場から下を眺めるとそこはカーネギーホールになっていて、そこを眺める彼を映したカメラがパンするとステージになり、再び彼が映るとそれは演奏日に舞台袖で待機するの彼の姿……という具合。このダイナミックな見せ方は彼の高揚した気持ちをすごく上手く表しています。一方、別居前の口喧嘩シーンは、2人を引きで捉えた位置にカメラを固定したままの撮影で、2人が感情を激しく爆発させる場面なのに、逆にとても冷静に客観的に見せていました

 

 同じ構図を2つのシーンで使うことで意味を暗示する見せ方も印象的でした。例えば、結婚したばかりの頃にマーラー「アダージェット」を指揮するレナードを舞台袖でタバコを片手に見守るフェリシアを正面から映し、その直後のシークェンスでは同じポーズを取る彼女の後ろ姿を映している。ここから2人仲が険悪になるのです。あるいは、出会ったばかりの2人が公園の芝生に背中合わせに座って他愛のないゲームをするシーンがあるんだけど、フェリシアの癌が発覚したあとに公園へ行った2人はあのときと全く同じように座り同じゲームするんですね、ここ泣けました😢 

 そんなわけで、面白くなかった訳ではないけど、40数年にわたる結婚生活の断片を抜粋して繋いでいる感じで、正直いうと、そのテイストはあまり好みじゃなかったかも💦 ここまで書いてきてこう結ぶのも気が引けますが、一応書いた🙇‍♀️

 

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