「食べる」って食べ物を胃の中に入れることだけじゃないんです。
食べないから死ぬんじゃなくて、死ぬから食べられなくなる。
前回そんなことを書きましたが、それは今まで食べていた人の終末期のことです。
たとえば先天的な障害がある子供や、摂食障害のある神経難病の患者さんには胃瘻などの人工栄養は、未来への命をはぐくむハッピーなものだったりします。
胃瘻の性悪説で現場が混乱していたりするのですが、この話は次回にします。
「食べる」こととは
眼で見て
鼻で匂いを嗅いで
触って感じ
食卓を囲んでみんなで会話を楽しみ
口で食す
5感を使って楽しむことでもあります。
口で食せなくても他に4つも楽しみがあるんです。
食べれば腸閉塞になるからと口から物を食せなくなったIさん(仮名)は、お子さんに頼んで大好きだったお稲荷さん買ってきてもらいました。
眼でみて楽しみ、匂いを嗅ぎます。
箸で触って感触を楽しみ、口に入れて歯で噛みます。
でも飲み込むと腸閉塞になるので、口に入れたものはすべてティッシュに吐き出します。
それでもIさんはごちそうさまと笑顔で言ってくれました。
誤嚥性肺炎を繰り返し、ごっくんと嚥下すると気管に入ってむせて危ないからと、食べたり飲んだりすることを禁止されたHさん(仮名)は、うがいをよくしていました。
水だけじゃなくて、時にはオレンジジュースだったり牛乳だったり、飲み込むとことはできませんしガラガラうがいもできませんが、口に含んでブクブクぺ~とします。
その後の満足そうな笑顔は今でも忘れられません。
脳梗塞で意思疎通のできないAさん(仮名)は、自宅のベッドで目を閉じ口は開けっ放しの寝たきりでした。
普段は胃瘻で栄養をとっています。
しかし、大好きだった日本酒を顔の前に持って行くとクンクンと鼻を鳴らします。
数滴口の中に入れると、ぺちゃぺちゃと舌を動かしだします。
こんな風に、口から食せなくなったって、食べることを楽しむことはできます。
もっともっと食べることを死ぬまで楽しんでほしい!
なにもかも諦めるのは、死んでから。