宇宙(77) 原子の正体(11)
原子核の融合、 分裂とは何か。
― 原子核から巨大なエネルギーが生まれる仕組みとは。
原子核には不思議な性質がある。 核が融合したり、 分裂したりするときに、 原子核の質量が軽くなる。 リンゴを二つに割ったり、 それをまたくっつけたりしても質量は変らないはずである。 ところが原子の世界では、 この値が変ってしまう。 何故だろうか。 例えば、 陽子の質量(原子量)は1.0079、 中性子は1.0093であり、 足し合わせると2.0172になる。 しかし、 実際には重水素(原子核が陽子1個と中性子1個)の質量は2.0141であり、 単純に足した値より0.0031軽い。 原子の世界では、 1+1が2より小さくなるのである。
ところが一方で、 鉄よりも重い原子核では逆のことがおきる。 二つに分裂したときの合計の質量が元の1個の原子より軽くなるのだ。 この場合は1÷2が0.5より小さくなる。 一体何故であろうか。 ここでポイントとなるのは、 エネルギー(E)と質量(m)の間に成立する「E=mc2」という関係だという(cは光速)。 この式は、 エネルギーは質量に置き換えられることを意味している。 アルバート・アインシュタイン(1879~1955)が1905年「特殊相対性理論」の結論として発表したものである。
もう一つのポイントは、 「原子核の結束が強くなると、 原子核全体のエネルギー(内部エネルギー)が減る。」という原子核に特有な性質である。 核子同士が強く結束している程、 原子核の内部エネルギーが小さい。 元素の中で最も結束が強いのは「鉄」の原子核である。 以上のことより、 鉄より軽い原子核が融合したり、 鉄より重い原子核が分裂したりしてできた原子核は、 大きさが鉄の原子核に近づくため、 もとの原子核より結束が強く、 従って内部エネルギーが小さくなる。 このとき減った内部エネルギー分のエネルギーは外に吐き出される。 つまりその分の質量が失われる。 このために、 融合や分裂後には、 元の原子核より質量が軽くなるのである。
●原子の世界では、 1+1が2にならない。
リンゴを割っても、 その重さは元と変わりがない。 しかし、 原子の世界ではそうはならない。 陽子と中性子を融合させると、 元の二つの粒子の重さを足し合わせた重さより、 融合してできた原子の方が軽くなる。 その逆に、 鉄の原子核より重い原子核が二つに分裂すると、 元々の重さより、 分裂してできた二つの原子核の重さを足し合わせた方が軽くなる。
●質量はエネルギーに置き換えられる。
E=mc2
1円玉(1グラム) = 2000t(石油[化学エネルギー]に換算して)
→ 1グラムの物質(例えば1円玉)のすべての質量をエネルギーに変換できたとしたら、 それは石油約2000トンを燃焼して得られるだけのエネルギーに等しくなる。
●すべての質量をエネルギーに変える方法は如何に。
理論上では、 1円玉は巨大なエネルギーに変換できる。 しかし、 実際にはそのようなことは出来そうもない。 1円玉の質量をすべてエネルギーに変えるには、 「反物質」でできた“反1円玉”が必要となるからだ。 反物質とは、 物質と出合うと両方ともが消滅し、 すべてがエネルギーになってしまうものである。 研究の目的のために、 研究機関等で反陽子や反水素原子が作られている。
●何故天然には92種の元素しか存在しないのか。
天然に存在する元素の数は一般的に92種といわれている。 核子の数がウランを上まるような巨大な原子(超重元素)は分裂しやすいため、 天然では安定して存在できないからである。 但し、 元素が誕生した経緯を考える上で重要なため、 人工的には超重元素が合成されている。 また天然のウラン鉱石中で、 ごく僅かであるが超重元素が検出されることもある。
― - - つづく
宇宙(76) 原子の正体(10)
プラスの陽子と電気を帯びていない中性子。 何故バラバラにならないのか。
- 陽子と中性子が強い「核力」で結合しているから。
チャドウィックによる中性子の発見から2年後の1934年に、 日本の物理学者・湯川秀樹(1907~1981)は、 原子核がバラバラになってしまわないようにつなぎとめている力の正体を予言した。 この力を「核力」という。 核力は、 核子(陽子と中性子のこと)の間に働く特別な“のり”のような力である。 陽子と中性子、 陽子同士、 中性子同士の間で発生している。 特に陽子と中性子の間で働く強い引力が原子核を一つにまとめている。 核力と電気的な力は、 主に二つの点で異なっている。 一つ目は、 力の及ぶ範囲である。 電気的な力は徐々に弱くなりながらも、 原理的には無限に遠くまで力が及ぶとされている。 力の弱まり方は、 距離の2乗に反比例する。 つまり、 距離が2倍離れると力の強さは4分の1(2のマイナス2乗)になる。 一方、核力は、 1兆分の1ミリメートル(10のマイナス12乗ミリメートル)の数倍の範囲しか力が及ばないという。 これは、 陽子や中性子の半径の数倍程度なので、 核力は隣合った核子同士だけに働くと考えられている。 二つ目は、 力の強さである。 核力の働く範囲内で、 核力と電気的な力の大きさを比べてみると、 核力は電気的な力のおよそ100倍強いことが明らかにされている。 陽子間に電気的な反発力があるとはいえ、 核力による引力がはるかに勝っている。 従い、 原子核はバラバラにならないのである。
●核力の正体
電気的な力や核力の正体は、 「素粒子」同士が影響を及ぼし合うことだとされている。 素粒子とは、 電子やクォ-クといった、 それ以上分割できないとされている粒子のことである。 実は、 陽子や中性子もまた素粒子が集まってできたものである。 電気的な力は、 「光子」という素粒子のやりとりで起きることが知られていた。 このことから、 核力を生み出す素粒子も存在するのではないかと考えた科学者がいた。 それが、 日本の物理学者・湯川秀樹である。 湯川は「パイ中間子」という素粒子の存在を予言した。 パイ中間子のやりとりで核力が発生していると考えた。 核力は、 自然界を支配する四つの力のうちの一つで、 「強い力」とも呼ばれる。 (他は、 重力、 電磁気力、 弱い力)。 尚、 電気的な力は無限遠に届くが、 核力は極近くでしか働かない。 その理由は、 光子は質量がないためどこまでも進むことができ、 一方のパイ中間子は質量があるので届く距離に限界があるためと考えられている。
― - - つづく
宇宙(75) 原子の正体(9)
水素には、 軽い水素と重い水素があるのか。
チャドウィックによって、 原子核は陽子と中性子でできていることがわかった。 陽子の数によって原子の種類(元素)が決まり、 中性子の数は原子の重さに影響する。 陽子と中性子の数の合計を「質量数」といい、 その原子の大体の重さをあらわす。 陽子の数は元素ごとに異なっているが、 中性子の数はそうとは限らない。 例えば水素の場合、 陽子は1個と決まっているが、 中性子は0個と1個と2個の3種類がある。 同じ水素でも、 軽い水素と重い水素がある。 このように、 「原子番号が同じで、 つまり陽子の数が同じで、 中性子の数が異なるものが全ての元素で見つかっている。 そのようなものを『同位体』という。」
同位体を発見したのはイギリスの物理化学者フレデリック・ソディ(1877~1956)である。 ソディは1910年頃、 化学的な性質は同じなのに、 放出する放射線の特徴に違いを持つ原子のグループがあることに気がついた。 ソディが調べた原子のように、 同位体の中に放射線を出すものがある。 例えば中性子の数が2個の水素原子は、 ベータ線という放射線を出すことで中性子1個が陽子に変化し、 別の原子核(ヘリウム3)になる。 このような同位体を放射性同位体という。 尚、 同位体は「原子量」にも影響する。 原子量とは、 質量数12の炭素の重さを12としたときの、 各原子の相対的な重さである。 そして全ての元素の原子量は、 整数ではない半端な数になる。 それは、 同位体の存在比をふまえて計算されるからである。 例えば、 炭素には質量数13の同位体が全体の1.1%の比率で存在している。 そのため炭素の原子量は、 12に極めて近いが、 12.0107となる。 酸素の場合は、 質量数16(99.8%)と17(0.04%)と18(0.2%)のものが存在し、 原子量は15.9994となる。
●中性子を持たない水素原子
原子核が陽子1個であり、 中性子を持たない水素原子は「水素1」である。 天然に存在する水素原子の99.9%以上を占めるのが、 この水素1である。
●中性子1個の水素原子
中性子を2個持つ水素原子は「水素2」である。 「重水素」と呼ばれる。 水素全体の0.01%を占めている。 尚、 人工的には中性子の数が6個の七重水素まで合成できることが確認されている。 しかし、 いずれもすぐに崩壊してしまう。
●中性子2個の水素原子
中性子を2個持つ水素原子は「水素3」である。 三重水素、 或いはトリチウムという。 三重水素は放射性同位体であり、 ベータ線(正体は電子)という放射線を出してヘリウム3に変わる。 これによって、 中性子一つが陽子に変り、 そのため原子番号が一つ増えて水素からヘリウムになる。 三重水素は天然で作られるため、 なくなってしまうことはない。
●同位対比の違いで産地同定
放射線を出さない同位体(安定同位体)は、 普通に存在している。 例えば水素1(軽い水素)と水素2(重い水素)は、 それぞれ主に水分子の一部として存在している。 そしてその割合は、 場所によって異なる。 生物は体内にその場所の水を取り込むため、 体内にある軽い水素と重い水素の割合を調べることで、 生物の産地を明らかにすることができる。 尚、 水分子には酸素原子も含まれているため、 通常は水素と合わせて酸素の同位体比も調べられる。
●放射性同位体で癌検査
癌患部に集まりやすい薬品に放射性同位体をくっつけておき、 経口薬や注射で体内に入れる。 その後、 放射線を写す特殊な機器で体内を撮影すると、 癌の位置や大きさが明らかになる。
●放射性同位体で年代測定
放射性同位体は、 放射線を出して別の元素に変化する。 このとき、 もともとの同位体の量が半分に減る時間(半減期)は、 同位体ごとに決まっている。 例えば炭素14という放射性同位体は窒素14に変化するが、 その半減期は5730年である。 この性質を利用して、 炭素14は地球科学での年代測定に利用されている。 環境中にある炭素14の量は一定である。 また生物は、 体内に炭素を取り込む一方で排出し、 常に入れ替えている。 そのため常に一定量の炭素14が体内に存在することになる。 生物が死ぬと、 体内の炭素14は出入りがなくなり、 窒素14に変化していくだけになる。 発掘された貝殻や木の実、 遺骸等に炭素14が何%残っているかを調べることで、 その生物が何年前に死んだのかを推定することができる。
― - - つづく