宇宙(83) 遺伝子あれこれ(1)
体格や顔つきには、 数百の遺伝子がかかわる。
- DNAから顔つきを推定する技術も研究。
ヒトの体格や顔つきが遺伝子の影響を強く受け取ることは、 一卵性双生児を見れば明らかである。 ではどんな遺伝子がヒトの身体的な特徴に関連しているのであろうか。 ヒトの特徴に関連する遺伝子を調べるときに便利なのが「ヒト遺伝子カタログ」である。 このカタログを最初に作ったのは、 アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の遺伝学者ビクター・マキュージック(1921~2008)である。 マキュージックが1966年に作った最初のカタログには、 当時知られていた1487個の遺伝子(存在のみ推定されていたものを含む)がリストアップされていた。 その後、 版を重ねる毎に遺伝子の数は増え、 現在公開されているインターネット版のヒト遺伝子カタログ(OMIM)には、 約2万個にも及ぶ遺伝子が登録されている。 通称「マキュージックのカタログ」と呼ばれるこのカタログで「身長(stature)」に関する遺伝子を検索すると、 なんと935個もの遺伝子がヒットする。 ※「肥満(obesity)」は402個。 「肌の色(skin color)」は107個、 「まぶた(eyelid)」は108個等々。 こうしたヒトの体の特徴はいずれも、 多くの遺伝子の働きが総合的に影響する「多因子遺伝」の例である。 遺伝子の解明が進んだ今日では、 DNAを解析し、 遺伝子の組み合わせを調べることによって、 その人の体格や顔つきをある程度推定することが原理的には可能になりつつある。 実際にアメリカでは、 犯人が残したDNAから似顔絵を合成する技術の研究が始まっている。
●メンデルの法則に従って遺伝する特徴
ヒト遺伝子カタログには、 遺伝子だけでなく、 メンデルの法則(優性の法則)に従うヒトの特徴も載っている。
→ 富士額(優性形質)・平らな額(劣性形質) 二重まぶた(優性形質)・一重まぶた(劣性形質) たれた耳たぶ(優性形質)・たれない耳たぶ(劣性形質) えくぼができる(優性形質)・えくぼができない(劣性形質) 親指が反る(優性形質)・親指が反らない(劣性形質) ※これらの形質にかかわる遺伝子は特定されていない。
●「身長の高さ」に影響を与える20個の遺伝子
「身長にかかわる遺伝子」をヒト遺伝子カタログで探すと1000個近い数が見つかる。 その中には、 何らかの病気に関連する遺伝子として登録され、 その病気の症状として間接的に身長に関係するものが多く含まれる。 直接的に「身長の高さに影響を与える遺伝子」として合計20個が登録されている。 例えば、 ZBTB38遺伝子、 LCORL遺伝子、 HHIP遺伝子、 GPR126遺伝子等。(これらの遺伝子は、 そこから作られるタンパク質の性質がある程度分かっている。) これらの遺伝子とは別に、 「身長の男女差にかかわる遺伝子」がX染色体及びY染色体にあることも分かっている(SHOX遺伝子及びY成長遺伝子)。 身長の高さは、 これらの遺伝子の影響だけで決まるのではなく、 栄養状態をはじめとする環境の影響を受ける。
●「髪や瞳、 肌の色」にかかわる遺伝子は11個
「髪や瞳及び肌の色にかかわる遺伝子」としては合計11個がヒト遺伝子カタログに登録されている。(これらの遺伝子は、 そこから作られるタンパク質の性質がある程度分かっている。)
●ビクター・マキュージック(1921~2008)
マキュージックは、 ヒトの遺伝子カタログ「Mendelian Inheritance in Man(ヒトにおけるメンデル遺伝)」の初版を1966年に出版した。 1994年の第11版には6678種類の遺伝子が収録された。 その後、 カタログはオンライン化されてOMIM(Online Mendelian Inheritance in Manの略。 ホームページはhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/)となり、 インターネットを通じてだれでも無料で利用できるようになった。 人類遺伝学と医学への貢献が評価され、 マキュージックには2008年に日本国際賞が授与された。
― - - つづく
宇宙(82) 原子の正体(16)完
今回で「原子の正体」は結びとなる。
宇宙の誕生、 太陽の誕生、 地球の誕生等、 日常生活で意識することはないが、 人間の源を辿るとき、 「原子の正体」を知ることも必要に思われた。 読者の見方に幅ができたとしたら幸いである。
最終回は、 「92種の原子は、 恒星の爆発で出揃う」である。
- これが元素合成の“クライマックス”だ。
恒星の内部で作られる最も重い元素は、 鉄である。 内部温度が50億度C以上になる、 太陽の10倍以上の質量を持つ重い星で合成される。 そしてこの星の最期に、 元素合成のクライマックスが訪れる。 鉄が作られると、 星の内部ではそれ以上の核融合が起きなくなり、 星は急速に収縮を始める。 そして最終的に大爆発を起こす。 この爆発を「超新星爆発」という。 超新星爆発が起きると、 中性子が大量に発生し、 既にあった原子核に猛烈な勢いでぶつかり、 融合していく。 こうしてできるのが、 中性子を過剰に含む原子核(不安定核)である。 そしてこの不安定核こそが、 鉄より重い元素の原子核のもとである。 爆発の際にできた大量の不安定核はその後、 中性子が陽子に変化することで、 銀や金、 ウラン等様々な元素の原子になっていく。 恒星内部や超新星爆発で合成され、 宇宙にばら撒かれた原子は、 また別の星の材料となる。 そしてふたたび核融合が進む。 太陽系も、 何回かの超新星爆発を経て作られた原子でできている。 太陽では合成されていない鉄が、 地球に豊富にあるのはこのためである。 不安定核がどのよう変化して地球に存在しているような原子になるのかは、 現代の原子核物理学の最もホットな研究テーマであり、 多くは未解明である。 現在、 超新星爆発を地上で再現し、 不安定核のふるまいを調べる実験が国内外で進められている。 その際には、 原子や原子核の新たな性質が見つかることもあるという。 原子の正体を探る人類の旅は今も前進をつづけている。
●質量が太陽の10倍以上の恒星
このサイズの恒星では、 酸素(16O)2個が融合してケイ素(28Si)とヘリウム(4He)ができ、 更に色々な核融合が起きてさ最終的に鉄(56Fe)が合成される。 鉄の原子核は元素の中で結合エネルギーが最も大きいため、 恒星内部の条件では変化しない。 そのため核融合は鉄で止まる。
●地球
天然に92種の元素が存在する。
・金: 原子番号79の重い原子。
・人体: 主に23種の元素でできている。
→ 我々を作る原子はどこで生まれたのか。
理論的には明らかになっているものの、 実際に超新星爆発(スーパーノバ)によって重い元素が合成されている現場(r過程反応)はこれまで観測されてことはない。 我々を作る原子や、 銀や金、 ウラン等の重い元素の起源は、 まだ完全に明らかになった訳ではない。 また、 超新星爆発以外にも、 重い原子を合成する天体が知られている。 例えば炭素は「ウォルフ・ライエ星」という重い星で、 亜鉛やチタンは普通の超新星爆発の30倍も大きい「極超新星爆発(ハイパーノバ)」でできるとも考えられている。
●重い元素は、 超新星爆発で誕生した。
超新星爆発は、 鉄ができたためにそれ以上の核融合が起きなくなった恒星が急激に収縮を始めることで引き起こされる。 爆発直後には、 大量の不安定核が作られ、 この不安定核が変化することで、 鉄より重い原子核が作られる。 この反応は急速に進むことから、 「r過程反応」と呼ばれている。 rはrapidの頭文字である。
― - - つづく(宇宙83として)
宇宙(81) 原子の正体(15)
多様な原子はどのようにして誕生したのか。
太陽系に存在する元素の内、 水素とヘリウムがずば抜けて多いことは何を意味しているのであろうか。 実はこれは、 宇宙が「ビッグバン」で始まったことの証拠の一つとされている。 ビッグバンは、 約137億年前にあったと考えられている、 高温・高密度の灼熱の宇宙のことである。 電子や陽子、 中性子はこのビッグバンから約10万分の1秒以内に誕生したと考えられている。 約3分後には宇宙の温度が約10億度Cまで下がり、 バラバラだった陽子と中性子が結びついて、 ヘリウムやリチウム等の軽い原子核が誕生した。 更に約38万年後、 宇宙の温度が約3000度Cまで下がったことで、 バラバラだった原子核と電子が結びつき、 原子が誕生した。 こうしてできた水素やヘリウムが重力で集まり、 数億年後には星が形成された。 星の内部では高温・高密度の条件が長く保たれるため核融合がつづき、 酸素や炭素、 ネオン等の多様な元素が作られていった。 このことを主張したのは、 ファウラーやイギリスの科学者フレッド・ホイル(1915~2001)である。(1975年発表)。 しかし、 現在の太陽の半分以下の質量では、 星の内部の温度が約1億度Cに到達せず、 ヘリウムまでしか合成できない。 ヘリウムより重い原子は、 太陽の質量の半分より重く、 内部がより高温になる恒星で作られるのである。 質量が太陽の約8倍までの星は内部が約1億度Cに達するので、 最終的に炭素や酸素まで合成が進む。 太陽も一生の最後には高温になって炭素や酸素を合成する。 更に、 太陽の8~10倍の質量を持つ星になると、 星の内部は7億度C以上に達し、 ネオンやマグネシウムができる。
●最初の原子はビッグバンの38万年後に誕生した。
宇宙は、 高温・高密度の灼熱のビッグバンで幕を開けた。 最初にできたのは、 電子やクォークといった素粒子である。 宇宙の膨張とともに温度が下がり、 約3分後には陽子と中性子が結びついて原子核ができた。 更に38万年後、 原子核に電子が引き寄せられ、 原子が誕生した。
●質量が太陽の半分以下の恒星
恒星内部の温度は、 重い恒星ほど高くなる。 質量が太陽の0.1~0.5倍ほどの恒星では、 水素からヘリウムを合成する核融合しか起きない。 このような恒星は、 水素を使い果すと「白色矮星」という高密度の星になる。
●質量が太陽の0.5~8倍の恒星
このサイズの恒星では、 最終的に炭素と酸素が合成される。 ヘリウム(4He)三つが融合して炭素(12C)となり、 そこへ更にヘリウム(4He)が融合することで酸素(16O)となる。 このような恒星は、 水素とヘリウムを使い果たして終末期をむかえると、 膨張し、 高温の「赤色巨星」となる。 その後、 外側の水素とヘリウムのガスは宇宙空間に放出され(惑星状星雲)、 内側の炭素と酸素は白色矮星となる。
●時間をかければ重い原子もできる。
恒星の内部では、 もっと重い元素が作られることがある。 中性子を一つずつ原子核に融合させて、 その中性子を陽子に変える方法である。 これを「s過程」という(sはslowの頭文字)。 恒星内部の中性子の数は非常に少ないため、 反応には時間がかかることから名づけられた。 恒星内部のs過程で作られる最も重い元素は原子番号82の鉛(Pb)である。
●質量が太陽の8~10倍の恒星
このサイズの恒星では、 核融合はネオンやマグネシウムまで進む。 まず、 炭素(12C)二つが融合してネオン(20Ne)とヘリウム(4He)ができる。 更にこのネオンを基にナトリウム(23Na)ができ、 ナトリウムからマグネシウム(24Mg)ができる。 最期は、 酸素とネオンとマグネシウムをコアに持つ白色矮星になるか、 小規模な「超新星爆発」を起こす。
― - - つづく