thackeryのブログ -198ページ目

宇宙(86) 遺伝子あれこれ(4)

双子研究は「天才遺伝子」の存在を予言するのか
 - 知能テストの成績は、 遺伝の影響を強く受けている。


血液型のように、 遺伝子だけで決まるたぐいの特徴は、 完全に「生まれつき」であり、 生まれた後の経験や環境では原則的に変化しない。 しかしヒトの個性には、 遺伝だけでは決まらないものがたくさんある。 例えば「学業の成績」は、 生まれつき決まっているものではなく、 本人の努力や教育環境等によって左右されるものであることは、 誰にでも想像できるであろう。 「身長」や「体重」、 「病気のかかりやすさ」から「性格」に至るまで、 ヒトのほとんどの個性は、 「遺伝」と「環境」の両方の影響を受ける


では、 ヒトの個性に与える遺伝と環境の影響は、 それぞれどの程度なのだろうか。 それを知るための方法が「双生児法」である。 双子には一卵性双生児と二卵性双生児の2種類がある。 このうち一卵性双生児のペアは遺伝子の組み合せが原則として100%一致するのに対し、 二卵性双生児では平均して50%の一致にとどまる。 一方で、 一卵性双生児と二卵性双生児のどちらも、 多くの場合は同じ環境で育つので、 環境の影響はほとんど差がない。 つまり、 数多くの双子を調査したとき、 二卵性よりも一卵性でずっとよく似ている個性がみつかれば、 それは遺伝の影響を強く受けているといえる。


「知能テストの成績」の70%は遺伝の影響を受ける
世界各国では、 双子を大規模に集め、 さまざま個性に与える遺伝と環境の影響を双生児法によってさぐるプロジェクトがいくつも進行している。 慶應義塾大学教授は、 首都圏に住む7000組もの双子(一卵性と二卵性の両方を含む)に協力してもらい、 性格や知能等のさまざまな個性について、 遺伝と環境の影響の大きさを推定する研究を進めている。 その結果、 「外向性」「神経質さ」「知能テストの成績」等の特徴に、 遺伝の影響が少なからず見られることがわかった。 特に、 「知能テストの成績」に与える遺伝の影響は大きく、 最大で約70%にも及ぶ。 このことは、 知能に影響を与える遺伝的な要素、 すなわち“知能遺伝子”が確かに存在することを物語っている。 但しそれは、 たった1個の知能遺伝子として存在するのではなく、 一つ一つは効果の小さい知能遺伝子が数多くあり、 それらの多因子遺伝子によって知能の程度が決まるのであろうと研究者達は考えている。


天才遺伝子を追い求める研究者達
イギリスロンドン大学精神医学研究所のロバート・プロミン博士は、 知能遺伝子の特定を目差して精力的な研究を行う研究者の一人である。 プロミン博士は、 知能テストの成績(IQ)が高い子をアメリカ中から集め、 その血液を採取して遺伝子を調べた。 平凡な人は持たず、 知能の高い人だけが持つ遺伝子の型を探しだそうとした。 そして1997年、 ついにプロミン博士らは、 6番染色体にある「IGF2R遺伝子」の遺伝子型こそ、 知能テストの成績に影響を与える要因の一つであると発表した。 このIGF2R遺伝子は、 受精卵から胎児の体が作られていくときに、 特定の細胞をさかんに分裂させるように促す遺伝子として知られていたものだ。 この成果は「天才遺伝子の発見」と世界中に伝えられ、 一大センセーションを巻き起こした。 だが後に、 この研究の手法上の問題点が指摘され、 プロミン博士自身もそれを認めている。 プロミン博士を含む世界中の研究者は、 現在も新たな知能遺伝子を探しつづけている。 これまでに、 「COMT遺伝子」「CHRM2遺伝子」「DRD2遺伝子」等が候補としてあげられ、 これらの詳しい検討が行われている。


― - - つづく

宇宙(85) 遺伝子あれこれ(3)

スプリンター向きか、 マラソン選手向きか。 その答えは遺伝子が知っている
 - 瞬発力や持久力に関連する遺伝子が見つかった。


「9秒58」。 ウサイン・ボルト選手世界陸上ベルリン大会でたたき出した陸上男子100メートルの驚異的な世界記録は、 大きな注目を集めた。 世界のトップアスリートたちは、 どんな遺伝的素質を備えているのだろうか。 スポーツの能力を左右する遺伝子の中で、 今最も注目を集めているのが11番染色体にある「ACTN3遺伝子」である。 筋肉を作るタンパク質の一種「αアクチニン3」の設計図であるこの遺伝子には、 通常型のR型と、 αアクチニン3を作れないX型の2種類がある。 それぞれの人は11番染色体を2本持つので、 ACTN3遺伝子の組み合わせはRR, RX, XXの3通りになる。 2003年に、 オーストラリアのオリンピック選手らを対象にして、 ACTN3遺伝子のタイプが調べられた。 すると、 短距離走等の瞬発系競技の選手にはRRの人が多く、 長距離走等の持久系競技の選手にはXXの人が多いことがわかった。 RRの人はスプリンター向きで、 XXの人はマラソン選手向きであることを物語る結果である。 ACTN3遺伝子のタイプには、 地域による差もある。 XXの人は白人では2割であるが、 アジア系では3割に増える。 一方、 西アフリカ系ではXXの人は僅か3%しかおらず、 RRの人が非常に多いというデータもある。


筋肉(筋線維)には、 「速筋」と「遅筋」の2種類があるが、 αアクチニン3は速筋にしか存在しないタンパク質である。 速筋が多い人は短距離型で、 遅筋が多い人は長距離型といわれる。 ACTN3遺伝子を研究する東京大学教授によれば、 R型のACTN3遺伝子が生み出す正常なαアクチニン3は、 ハードなトレーニングによって速筋が破壊されるのを防いでいる可能性があるという。 持久力を左右する「ACE(アンジオテンシン変換酵素)遺伝子」等、 運動能力にかかわる遺伝子はいくつも見つかっている。 トップ選手の遺伝子型に応じてトレーニング法やポジションを選ぶ等の試みが、 既に一部の国では始まっているという。 


持久力のカギを握る「ACE遺伝子」
8000メートル級の山を酸素ボンベなしで登るには、 強い持久力が必要である。 過去に8000メートル級の無酸素登頂に成功した登山家を調べたところ、 17番染色体にある「ACE遺伝子」のタイプに共通点が見つかった。 ACE遺伝子は、 「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」と呼ばれるタンパク質の設計図である。 この遺伝子には、 ACEの働きが強い「D型」と、 働きが弱い「I型」の2タイプがある。 無酸素登頂に成功した登山家は、 全員が少なくとも1個のI型を持つ人(IIもしくはID)であり、 D型を2個持つ人(DD)はいなかった。 これ以外にも、 複数の研究によって、 I型のACE遺伝子を持つ人ほど持久力が高いという傾向が示されている。 ACEは、 動脈を作る「血管内皮細胞」の細胞膜に埋め込まれており、 血液中にある「アンジオテンシンI」を「アンジオテンシンII」へと変換する働きを持つ。 アンジオテンシンIIは血管を取り巻く筋肉を収縮させ、 動脈の内径を狭めさせる。 こうして、 ACEが働くと血圧が高まる。 東京大学教授によれば、 I型のACEを持つ人は動脈の内径が広く保たれやすいため筋肉への栄養供給に優れており、 結果として持久力が高まっている可能性があるという。


速筋の耐久性を左右する「ACTN3遺伝子」
「αアクチニン3タンパク質」の設計図である「ACTN3遺伝子」は11番染色体にあり、 正常なタンパク質を作る「R型」と正常なタンパク質を作れない「X型」がある。 オリンピック選手では、 R型を2個持つ人(RR)はスプリント/パワー系種目の選手に多く、 X型を2個持つ人(XX)は持久系種目に多かった。 αアクチニン3タンパク質は、 筋線維の「Z膜」を作る材料である。 Z膜とは筋線維が収縮するときの単位である「筋節」の仕切り板であり、 筋収縮を担う「アクチン線維」を固定する足場となる。 速筋だけに存在するαアクチニン3タンパク質は、 丈夫な速筋を作るために不可欠なのかも知れない。


●ACTN3遺伝子のタイプ


→ スプリント/パワー系種目の五輪選手
RR: 47% RX: 53% XX: 0%


→ 一般の人
RR: 30% RX: 52% XX: 18%


→ 持久系種目の五輪選手
RR: 28% RX: 39% XX: 33%


αアクチニン3
速筋のZ膜に存在し、 アクチン線維同士を連結させるタンパク質。 遅筋のZ膜には存在しない


αアクチニン2
速筋・遅筋の両方のZ膜に存在
し、 アクチン線維同士を連結させるタンパク質。


― ― - つづく

宇宙(84) 遺伝子あれこれ(2)

メタボ体質」にかかわる遺伝子たち
 - 糖尿病などの生活習慣病や肥満には「なりやすい体質」がある。


糖尿病や高血圧、 脂質異常症(高脂血症)など、 生活習慣の変化が影響する病気をまとめて「生活習慣病」という。 これらの病気にかかると、 心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなる。 やはり生活習慣に原因がある「肥満」も、 心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める要因となる。 肥満(とくに内臓脂肪型肥満)の人が、 程度は軽くても、 血糖値や血圧がやや高い、 或いは脂質に異常がある状態を複数併せ持つと、 心筋梗塞や脳梗塞のリスクは非常に高まる。 この状態が、 近年注目を集める「メタボリック症候群」である。 


生活習慣病や肥満に於いて、 「どのくらい不摂生を重ねれば発症するか」の程度には個人差がある。 生活習慣病や肥満になりやすい体質、 俗にいう“メタボ体質”は、 多くの遺伝子がかかわる多因子遺伝」の例である。 「ヒト遺伝子カタログ」を「糖尿病(Diabetes Mellitus)」で検索すると、 実に376個もの遺伝子がヒットする。 成人に多く、 患者の9割を占める「2型糖尿病」に限っても、 その数は200以上である。 その中で、 日本人の2型糖尿病の発症リスクに強く関係するのが、 11番染色体にある「KCNQ1遺伝子」である。 理化学研究所の前田士郎博士らは2008年に、 KCNQ1遺伝子には通常の型以外に、 遺伝子情報が1文字だけ変化した「リスク型」があることを見つけた。 更に2本ある11番染色体の両方にリスク型のKCNQ1遺伝子を持つ人は、 一つも持たない人に比べて2型糖尿病の発症リスクが約2倍に高まることを突き止めた。 日本人の2型糖尿病患者の内約2割の発症にこの遺伝子が関係しているという。 


肥満に関係する遺伝子としてよく知られるものの一つが、 8番染色体の「ベータ3アドレナリン受容体遺伝子」である。 この遺伝子が特定の型だと、 エネルギーを消費しにくく、 脂肪が蓄積しやすいので体質的に太りやすい。 日本人の肥満者の約3割は、 この特定の型の持ち主という。


成人の糖尿病リスクを左右する「KCNQ1遺伝子」
すい臓にある「ベータ細胞」は、 血糖値を下げるように働く「インスリン」を分泌する。 食物を消化して得たブドウ糖がベータ細胞内に入ると、 細胞内から細胞外へのカリウムイオンの流れが止まり、 それが刺激となってインスリンの分泌につながる。 一方、 KCNQ1遺伝子が作る「KCNQ1タンパク質」は、 細胞内のカリウムイオンが細胞の外に移動する通路の役割を持つと考えられている。 理化学研究所の前田士郎博士らは、 KCNQ1の働き次第では、 細胞内から細胞外へのカリウムイオンの流れが止まりにくく、 結果としてインスリンの分泌が妨げられて糖尿病の発症リスクを高めるのではないか、 と考えている。


肥満に関係する「ベータ3アドレナリン受容体遺伝子」
ベータ3アドレナリン受容体は、 脂肪を溜め込む「脂肪細胞」の表面にあり、 神経の末端から放出される「アドレナリン」等を受け止めるタンパク質である。 アドレナリンは、 「脂肪を燃焼せよ」という指令を出すが、 ベータ3アドレナリン受容体の働きが悪いと脂肪が燃焼されにくくなって蓄積し、 その結果脂肪細胞がふくらんで肥満に至る。 感度の悪いベータ3アドレナリン受容体を作る遺伝子型を持つ人は、 欧米人に比べて日本人で多い。 そのため、 日本人が欧米型の食生活に晒されると肥満しやすいと言われている。


インスリン
脂肪細胞や全身の筋肉に届けられ、 血液中のブドウ糖(血糖)を細胞内に取り込ませて血糖値を下げる働きを持つ。


― - - つづく