thackeryのブログ -196ページ目

宇宙(92) 遺伝子あれこれ(10)


「血液型」は、 遺伝で決まる。
 - では、 親と違う血液型の子が生まれるのは何故か


24種類ある染色体の一つ、 9番染色体の先端付近には、 「ABO式血液型」を決める遺伝子がある。 この遺伝子には個人差があり、 A遺伝子、 B遺伝子、 O遺伝子の3種類がある。 A遺伝子が作るタンパク質(A型糖転移酵素)がはたらくと赤血球の表面に「A抗原」ができ、 B遺伝子が作るタンパク質(B型糖転移酵素)がはたらくと「B抗原」ができる。 O遺伝子はこうした酵素を作らず、 A抗原やB抗原を作るはたらきがない。 


赤血球にA抗原だけを持つ人を「A型」、 B抗原だけを持つ人を「B型」と呼ぶ。 A抗原とB抗原の両方を持つ人が「AB型」で、 どちらでもない人が「O型」である。 それぞれの人は、 父親と母親から9番染色体を1本ずつ貰うので、 ABO式血液型を決める遺伝子も両親から1個ずつ貰うことになる。 例えば父親からA遺伝子を貰い、 母親からO遺伝子を貰ったこととする。 この人のように、 A遺伝子とO遺伝子を1個ずつ持つ遺伝子の組み合わせ(遺伝子型)をAOと書く。 AOの人は、 A遺伝子が生み出すA抗原だけを持つのでA型である。 AAとAOのどちらの人も、 作られるのはA抗原だけなので、 血液型はA型である。 同様に、 BBとBOのどちらの人も、 B抗原だけが作られるので血液型はB型である。 AB(A遺伝子とB遺伝子を1個ずつ持つ遺伝子型)の人は、 A抗原とB抗原の両方が作られるのでAB型である。 OO(O遺伝子を2個持つ遺伝子型)の人は、 A抗原もB抗原も作られないのでO型である。 このように、 ABO式血液型は、 遺伝子の組み合わせで明確に決まる。 ここで大事なことは、 「遺伝で決まる」からといって、 「親の特徴そのもの」が子に遺伝するとは限らないということである。 例えば、 AB型の父親(AB)とO型の母親(OO)から生まれる子は、 父親から「AかB」を貰い、 母親から「O」を貰うので、 AOかBOになる。 血液型でいえばA型かB型であり、 父親、 母親のどちらとも一致しない。 子が受け継ぐのはあくまでも「血液型の遺伝子」であり、 「親の血液型」そのものを受け継ぐ訳ではない。 顔つきや体格についても同じことが言え、 遺伝子は受け継いでも親と必ず似るとは限らない。


ABO血液型を決める遺伝子のはたらき
9番染色体にある、 ABO式血液型を決める遺伝子にはA遺伝子、 B遺伝子、 O遺伝子の3種類がある。  A遺伝子は「A型糖転移酵素」、 B遺伝子は「B型糖転移酵素」と呼ばれるタンパク質の設計図である。 A型糖転移酵素とB型糖転移酵素は、 赤血球の表面にある「糖鎖タンパク質」にはたらきかけて更に糖鎖をつけたし、 それぞれA抗原とB抗原に変化させる。 O遺伝子は、 こうした酵素を作らない。


「ABO式血液型」は何のためにあるのか
ヒトの血液を使った輸血は19世紀に始まったが、 輸血の結果死亡する事故が絶えなかった。 オーストラリアの生物学者カール・ラントシュタイナー(1868~1943)は1900年、 ヒトの血液には型があり、 これが一致しない血液を混ぜると赤血球が凝集してしまうことを突き止めた。 これが「ABO式血液型」の発見であり、 これによって輸血事故は激減した。 赤血球の凝集は、 輸血された人の免疫系が、 赤血球の表面にあるA抗原やB抗原を「異物」として認識し、 それらに結合する「抗体」ができるために起きる。 尚、 ヒトの血液型にはABO式以外にも、 Rh式、 MN式等があり、 いずれも遺伝子で決まる。


AB型の父とO型の母、 子は何型か
AB型の父(遺伝子型AB)は、 A遺伝子を持つ精子B遺伝子を持つ精子1対1の比で作る。 一方、 O型の母(遺伝子型OO)はO遺伝子を持つ卵子だけを作る。 この夫婦からは、 「遺伝子型AOのA型」の子と「遺伝子型BOのB型」の子が等しい確率で生まれる
※ごくまれに、 A抗原或いはB抗原のもととなる糖鎖そのものが遺伝子の異変によって作られない人がいる。 このような人は、 例えA遺伝子やB遺伝子を持っていても、 A抗原やB抗原が作られないので血液型はO型となる。 AB型の親からは例外的に、 このタイプのO型が生まれる場合がある


― - - つづく

宇宙(91) 遺伝子あれこれ(9)

遺伝学の最前線で研究される「DNAのメチル化」とは何か。
 - 「どの遺伝子を使うか」は、 環境次第で変わる。


同じ品種のコメでも、 気象条件によって毎年の出来は違う。 そんな例を持ち出すまでもなく、 生き物にとって育つ環境が重要であることは誰でも知っている。 養子が珍しくない欧米では、 一卵性双生児のそれぞれが別の家庭で育つ例が数多くある。 そうした双子では、 栄養状態等の違いによって、 成人した二人の身長や体重、 病気のかかりやすさ等に大きな差が生じることもよくあるという。 極稀に起きる突然変異を除けば、 一卵性双生児の遺伝情報(DNAの塩基の並び方)は完全に同じである。 しかし、 実際には、 年を経る毎に、 一卵性双生児のDNAには「あるちがい」が蓄積されていくことが、 最近の研究によってわかってきた。 それは、 「DNAのメチル化」と呼ばれる現象が、 DNAのどこで起きるかの違いである。 DNAのメチル化とは、 DNA中の塩基の一部に、 メチル基という化学構造がつけたされる現象である。 メチル化が起きると、 その部分の遺伝情報を読み取ることができなくなる。 メチル化が解除されるまで、 そこにある遺伝子は封印される。 こうしてメチル化は、 親から受け継いだ遺伝子の内、 使う遺伝子と使わない遺伝子を区別していくのである。


一卵性双生児のDNAを調べると、 メチル化された塩基のパターン(メチル化パターン)は歳を重ねる程に異なっていく。 違う環境で育った双子ほどメチル化パターンの差が大きいことから、 メチル化には環境が何らかの形で影響しているらしいこともわかってきた。 親から受け継いだDNAが左右するのは、 あくまでも“素質”だけである。 それが活かされるかは、 育つ環境次第である。 最新の研究は、 遺伝と環境が複雑に関係しあっていることを分子のレベルで物語っている


一卵性双生児のDNAは全く同じ。 だが、 「DNAのメチル化」の場所は違う
DNAのメチル化が起きる塩基の位置は個人ごとに異なり、 そのパターンは一卵性双生児の間でも異なる。 DNAのメチル化が起きる塩基は、 C(シトシン) - G(グアニン)という2塩基の並びに於けるCに限られる。 メチル化は、 DNAを巻きつける糸巻きの役割を果たす「ヒストン」というタンパク質でも起き、 一卵性双生児ではそのパターンにも差がみられる。


メチル化パターンは遺伝するか
DNAがメチル化された細胞が分裂するときには、 メチル化パターンも二つの細胞へと受けつがれる。 哺乳類では通常、 精子と卵子が受精する過程で全てのメチル化パターンはリセットされる。 しかし、 一部の遺伝子に於いては親から子へとメチル化状態が受け継がれる例も見つかっている。 DNAのメチル化をはじめとする塩基配列以外の変化が遺伝子のはたらきに影響を与えること(またはそれを研究する分野)は、 「エピジェネティクス」(後天的遺伝子学)と呼ばれている。


三毛猫の模様は一卵性双生児で違う
三毛猫の模様(黒や茶色のぶちの位置)は、 個体によって差があり、 たとえ一卵性双生児であっても完全には一致しない。 この仕組みにも、 DNAのメチル化が関わっていることが知られている。 猫の毛色を決める遺伝子は数多くあるが、 その内「黒遺伝子」と「茶遺伝子」はいずれもX染色体上にある。 X染色体を2本持つ雌だけが、 黒と茶の両方を併せ持つことができるので「三毛猫」になれる。 尚、 白ぶちの位置は別の遺伝子によって決まる。


ヒトを含む全ての哺乳類の雌では、 2本あるX染色体の内、 細胞ごとにランダムに選ばれた片方が、 染色体全域に亘って働かなくなる現象が知られている。 これを「X染色体の不活性化」といい、 DNAのメチル化もこれに関わっている。 X染色体の不活性化によって、 黒遺伝子だけが働く細胞が集まっている部分は黒のぶちとなり、 茶遺伝子だけが働く細胞が集まっている部分が茶のぶちとなる。 このとき、 どちらのX染色体が選ばれるかは、 発生初期の細胞ごとに偶然に決まるので、 一卵性双生児(或いは人為的に作成したクローン猫)であっても、 ぶちの位置は異なる。


― - - つづく

宇宙(90) 遺伝子あれこれ(8)

「新しもの好き」の性格は親譲りか
 - 脳内物資を受け取るタンパク質には、 生まれつき個人差があるらしい。


新商品と聞くと、 思わず手が出てしまう。 もし親子そろってそんな性格だとしたら、 11番染色体にある一つの遺伝子に共通点が見つかるかも知れない。 この遺伝子には「DRD4遺伝子」という名がついている。 脳の神経細胞は、 このDRD4遺伝子を設計図にして「ドーパミン受容体D4」というタンパク質を作る。 ドーパミンとは、 快感や満足感につながる刺激を受けたときに、 その報酬として神経細胞から別の神経細胞へと受け渡される化学物質である。 それを受け取るタンパク質(ドーパミン受容体)にはいくつかの種類があり、 その一つがドーパミン受容体D4である。


1996年にイスラエルの研究グループは、 このDRD4遺伝子の途中に「48文字の決まった並び」が何回も繰り返される部分があることを発見した。 繰り返しの回数は、 人によって2回から7回程度の差があった。 同じ年、 繰り返しの回数が多いDRD4遺伝子を持つ人ほど、 「新しもの好き」の性格を持つ割合が高いことをアメリカのチームが突き止めた。 こうしてDRD4遺伝子、 「はじめて発見された性格遺伝子」として世界中の研究者の注目を集めることになった。 DRD4遺伝子は、 新しもの好きだけでなく、 スリルを求める性格にも関係しているらしいことがわかった。 DRD4遺伝子と性格の関連については、 イヌやウマでも研究が進んでいる。 繰り返しの回数が多いDRD4遺伝子は、 感度の低いドーパミン受容体しか作れない。 そのため、 満足感を得るにはより大量のドーパミンを放出する必要があり、 強い刺激を求める傾向が強くなってしまうという仮説が提案されている。


性格に関係する脳内センサー「DRD4」
脳を作る無数のニューロン(神経細胞)は、 それぞれ「軸索」という長い足を伸ばし、 別のニューロンと接続している。 この接続個所を「シナプス」という。 人間が新しい刺激によって快感を得ると、 一部のシナプスでは「ドーパミン」という物質が放出される。 放出されたドーパミンはもう一方のニューロンの表面にある「ドーパミン受容体」というタンパク質によって受け取られ、 Gタンパク質を介してニューロンに電気信号を生じさせる。 11番染色体にある、 ドーパミン受容体の設計図の一つ「DRD4遺伝子」には個人差や地域差があることがわかっており、 「新しもの好き」や「スリルを求める性格」に関連していることが、 多くの研究者によって確認されている。


日本人には、 「新しもの好きタイプの遺伝子」を持つ人がすくない
11番染色体にあるDRD4遺伝子には、 48塩基が2~7回ほど繰り返される部分があり、 その回数は個人によって異なる。 アメリカ人を対象に行われた調査では、 繰り返しが「7回」のDRD4遺伝子が最も多く、 ついで「4回」が多かった。 一方、 慶應義塾大学のグループが日本人を対象にして行った調査(1997年)では、 日本人の持つDRD4遺伝子のほとんどが「4回」タイプであり、 「7回」のタイプを持つ人はいなかった。


― - - つづく