宇宙(91) 遺伝子あれこれ(9) | thackeryのブログ

宇宙(91) 遺伝子あれこれ(9)

遺伝学の最前線で研究される「DNAのメチル化」とは何か。
 - 「どの遺伝子を使うか」は、 環境次第で変わる。


同じ品種のコメでも、 気象条件によって毎年の出来は違う。 そんな例を持ち出すまでもなく、 生き物にとって育つ環境が重要であることは誰でも知っている。 養子が珍しくない欧米では、 一卵性双生児のそれぞれが別の家庭で育つ例が数多くある。 そうした双子では、 栄養状態等の違いによって、 成人した二人の身長や体重、 病気のかかりやすさ等に大きな差が生じることもよくあるという。 極稀に起きる突然変異を除けば、 一卵性双生児の遺伝情報(DNAの塩基の並び方)は完全に同じである。 しかし、 実際には、 年を経る毎に、 一卵性双生児のDNAには「あるちがい」が蓄積されていくことが、 最近の研究によってわかってきた。 それは、 「DNAのメチル化」と呼ばれる現象が、 DNAのどこで起きるかの違いである。 DNAのメチル化とは、 DNA中の塩基の一部に、 メチル基という化学構造がつけたされる現象である。 メチル化が起きると、 その部分の遺伝情報を読み取ることができなくなる。 メチル化が解除されるまで、 そこにある遺伝子は封印される。 こうしてメチル化は、 親から受け継いだ遺伝子の内、 使う遺伝子と使わない遺伝子を区別していくのである。


一卵性双生児のDNAを調べると、 メチル化された塩基のパターン(メチル化パターン)は歳を重ねる程に異なっていく。 違う環境で育った双子ほどメチル化パターンの差が大きいことから、 メチル化には環境が何らかの形で影響しているらしいこともわかってきた。 親から受け継いだDNAが左右するのは、 あくまでも“素質”だけである。 それが活かされるかは、 育つ環境次第である。 最新の研究は、 遺伝と環境が複雑に関係しあっていることを分子のレベルで物語っている


一卵性双生児のDNAは全く同じ。 だが、 「DNAのメチル化」の場所は違う
DNAのメチル化が起きる塩基の位置は個人ごとに異なり、 そのパターンは一卵性双生児の間でも異なる。 DNAのメチル化が起きる塩基は、 C(シトシン) - G(グアニン)という2塩基の並びに於けるCに限られる。 メチル化は、 DNAを巻きつける糸巻きの役割を果たす「ヒストン」というタンパク質でも起き、 一卵性双生児ではそのパターンにも差がみられる。


メチル化パターンは遺伝するか
DNAがメチル化された細胞が分裂するときには、 メチル化パターンも二つの細胞へと受けつがれる。 哺乳類では通常、 精子と卵子が受精する過程で全てのメチル化パターンはリセットされる。 しかし、 一部の遺伝子に於いては親から子へとメチル化状態が受け継がれる例も見つかっている。 DNAのメチル化をはじめとする塩基配列以外の変化が遺伝子のはたらきに影響を与えること(またはそれを研究する分野)は、 「エピジェネティクス」(後天的遺伝子学)と呼ばれている。


三毛猫の模様は一卵性双生児で違う
三毛猫の模様(黒や茶色のぶちの位置)は、 個体によって差があり、 たとえ一卵性双生児であっても完全には一致しない。 この仕組みにも、 DNAのメチル化が関わっていることが知られている。 猫の毛色を決める遺伝子は数多くあるが、 その内「黒遺伝子」と「茶遺伝子」はいずれもX染色体上にある。 X染色体を2本持つ雌だけが、 黒と茶の両方を併せ持つことができるので「三毛猫」になれる。 尚、 白ぶちの位置は別の遺伝子によって決まる。


ヒトを含む全ての哺乳類の雌では、 2本あるX染色体の内、 細胞ごとにランダムに選ばれた片方が、 染色体全域に亘って働かなくなる現象が知られている。 これを「X染色体の不活性化」といい、 DNAのメチル化もこれに関わっている。 X染色体の不活性化によって、 黒遺伝子だけが働く細胞が集まっている部分は黒のぶちとなり、 茶遺伝子だけが働く細胞が集まっている部分が茶のぶちとなる。 このとき、 どちらのX染色体が選ばれるかは、 発生初期の細胞ごとに偶然に決まるので、 一卵性双生児(或いは人為的に作成したクローン猫)であっても、 ぶちの位置は異なる。


― - - つづく