『季節の中で』 (1999) トニー・ブイ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

ビル・クリントン大統領がベトナムとの禁輸を解除して、初めて全編ベトナム・ロケで制作されたアメリカ映画。べトナム出身のアメリカ人監督トニー・ブイが、ベトナムの都市に住む人々のエピソードを叙情的に綴ったヒューマン・ドラマ。ハンセン病に冒された蓮栽培の資産家でもあり詩人でもある男と蓮摘みの少女との心の交流。シクロの運転手と娼婦のある愛の形。都会の片隅で懸命に生きるストリートチルドレン。戦争中にベトナム女性との間に生まれた娘を探す元米兵。現代のベトナムを舞台に、4つのストーリーが並行して語られていく。

 

この作品は、サンダンス映画祭史上初のグランプリ、観客賞のダブル受賞となった作品。ダブル受賞となった作品は、この作品を含め、これまで8作品ある。『プレシャス』 (2009)、『フルートベール駅で』 (2013)、『セッション』 (2014)、『ぼくとアールと彼女のさよなら』 (2015)、『バース・オブ・ネイション』 (2016)、『ミナリ』 (2020)、『コーダ あいのうた』 (2021)が残りの7作品。批評家と一般映画ファン両方に評価される作品であれば、一定以上の出来は期待できるはずであり、(個人的にイマ一つだった『ぼくとアールと~』を除けば)いずれも秀作ぞろいと言えるだろう(特に『セッション』と『コーダ あいのうた』は傑作中の傑作)。

 

この作品で描かれた4つのエピソードは、同時に進行する別々の出来事なのだが、登場人物が出会うシーンがあり緩やかにつながっている。ストーリー的に一番メリハリがついて中心的と言えるのはシクロ運転手と娼婦の物語。純愛とストーカーは紙一重の感もないでもないが(これは片思いの恋愛ストーリーにはありがち。大ヒットした大根仁監督『モテキ』にもそれを感じて感情移入できなかった)、結果オーライということで。このエピソードにある、女性が白いアオザイを着て火焔樹(鳳凰木)の下に佇むシーンは息を飲むほど美しかった。個人的には、『禁じられた遊び』を思い出させるストリートチルドレンのエピソードがよかった。

 

1975年に終結したベトナム戦争によって、アメリカ人にとって最も馴染みが深い名前ながら最も知られていなかった国の一つだったであろうベトナム。その市井の人の生き様に多くの人が心を動かされただろう。そして、この作品は今でも変わらない美しさを湛えている。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『季節の中で』予告編