『真実』 (2019) 是枝裕和監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

是枝が世界的俳優を起用すると聞き、しかもそれがカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークというのだから、期待せざるを得ない。ドヌーヴの『シェルブールの雨傘』(1964)は、10本の指に入るほど好きな作品だし、彼女の作品としてはちょっとマイナーなところでは女吸血鬼ミリアム役を演じたトニー・スコット監督『ハンガー』(1983)は個人的に好きな作品。ジュリエット・ビノシュは、大学時代にはまったレオス・カラックス作品でのディーヴァとしての印象が強く、『汚れた血』(1986)が心に残る。イーサン・ホークは、『いまを生きる』(1989)で一番先に机の上に立ったトッド役から注目している俳優だが、個人的に彼の役で一番好きなのは何と言ってもベン・スティラー監督『リアリティ・バイツ』(1994)のトロイ役。

 

彼ら世界的俳優が出演を受け入れるからには、脚本が彼らの気に入るほどの出来であることは想像できた。いかにカンヌ・パルムドール監督からのオファーといえども、それを蹴るだけの「格」を備えた俳優たちだからである。しかし、それは同時に自分にとって作品に対する不安でもあった。これまでの是枝作品は、家族愛というユニバーサルなテーマを描きながら、日本人の我々が観て「あるある」感が満載の「和」な作品であり、それが自分の心に刺さってきたからである。そして、その不安は的中してしまった。

 

作品のテーマは、是枝が自家薬籠中の物とする家族愛。主人公は、フランスのアカデミー賞に相当するセザール賞主演女優賞を受賞した大女優(ドヌーヴは、実際に『終電車』と『インドネシア』の二作品でセザール賞主演女優賞を受賞している)と、その母親からの愛を得られなかったというトラウマを持つ娘。是枝が脚本の当て書きをした二人の起用は、これ以上の配役はなかっただろう。しかし、その設定が是枝のこれまでの「日本基準」からより「世界基準」になることで、テーマの切り方が汎用になっている。一言で言えば「ベタ」になってしまっている。それが国際的俳優に受け入れられた理由でもあり、この作品がより国際マーケットを意識した作品であることは理解するものの。

 

この作品を是枝作品と知らずに観て、誰が日本の監督の作品だと思うだろうか。舞台がフランスであり(イーサン・ホークを除く)主要なキャスト全員がフランス語を話すというだけではなく、フランス映画のゆとりのある空気感を醸している。しかし、これまでの作品と比較して「ぬるい」と感じるのは自分だけではないだろう。

 

『真実』というタイトルは、劇中に描かれた主人公の自叙伝のタイトルでもある。その自叙伝の内容と実生活の「虚と実」がモチーフであり、家族間の複雑な感情が一皮むくと違う様相を呈する「入れ子構造」になっている。しかし、その「虚と実」の葛藤が弱い。家族を顧みない大女優とその娘との間の愛憎とはいかにも紋切り型だろう。「入れ子構造」に重要な役割を果たしているのが、幾度も繰り返し名前だけ出ながらもスクリーンに一度も登場しない叔母という設定の妙はあれども。

 

日本以外のマーケットでは、これまでの作品以上に訴求することは容易に想像できるものの、日本の熱烈なファンとしては評価しずらい作品であることは否めない。「日本基準」の次作以降に期待。

 

★★★★★ (5/10)

 

『真実』 予告編

 

是枝全作品の個人的評価

『幻の光』 (1995) ★★★★★ (5/10)

『ワンダフルライフ』 (1999) ★★★★★★ (6/10)

『DISTANCE』 (2001) ★★★★★ (5/10)

『誰も知らない』 (2004) ★★★★★★★ (7/10) 

『花よりもなほ』 (2006) ★★★ (3/10)

『歩いても歩いても』 (2008) ★★★★★★★ (7/10)

『空気人形』 (2009) ★★★★ (4/10)

『奇跡』 (2011) ★★★★★★★ (7/10)

『そして父になる』 (2013) ★★★★★★★★★★ (10/10)

『海街ダイアリー』 (2015) ★★★★★★ (6/10)

『海よりもまだ深く』 (2016) ★★★★★★★ (7/10)

『三度目の殺人』 (2017) ★★★★★★ (6/10)

『万引き家族』 (2018) ★★★★★★★★ (8/10)

『真実』 (2019) ★★★★★ (5/10)