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 同6月10日冥王星惑星要塞の指令長官室では、渋田が最近手に入れた最新機器に没頭していた。司令長官室は、渋田が集めたあらゆる機械の最新のもので溢れかえっていた。あらゆる機械は、その機能をうりにして世の中に流通する訳だが、渋田はその機能を使い切ることなく、無駄に買い漁っていたのである。もちろんその購入費は、連合貿易費の一部であったのは言うまでもない。
 当初は、今回の最新機器に約2時間ほどは費やすつもりだったのだが、そうそうに飽きてしまい1時間を持て余すことになった。最新機器を最後にもう一度手に取り、もうマスターしたとポンっと軽く叩いて机の中に無造作にしまった。そしてデスクの通信機を手にした。
『ツー中将か、遅いぞ早く二人を連れて来ないか。それとな、さっきは言わなかったが、彼らも連れてきてくれ。』
 メインブリッジの自分のデスクでその通信を受けたツー・中村がわかりましたとだけ告げて通信機をおいた。
『また、はじまりましたよ。渋田指令がいますぐ司令長官室にこいとのことです。』
 ツー・中村がそう言ったのは、同じくメインブリッジにいたユイ・フォン中将とユウカ・ビート中将にであった。言われた二人は、お互いに目を合わせ溜息をついた。
『あと1時間後の召集だったと記憶していますが、いつものように変ったんですね。』
 ユイ・フォンがツー・中村に、渋田はどうしようもない人だと言いたいが言えずにそう言った。
『お二人はお先に行ってください。私は、ギザ・サワー少将とワッツ・ツイン少将を呼びに行ってから向かいます。
『今回の作戦会議は長くなりそうですかツー中将。』
 ユウカ・ビートが確かな答えが出てくるとは思えなかったが、一応という形で言った。
『いつものことですので、たぶん長くなると思います。私がなんとかしてといいたいところですが、すみません、私がなにかすることを期待しないでください。』
 肩身が狭くなってきたツー・中村は、メインブリッジをそそくさと出て行った。ユウカ・ビートがユイ・フォンになにかを求めたいと目を向けたが、すでにユイは作戦会議用の準備をしていて取り合う姿勢を見せてはいなかった。ユウカ・ビートはもう一度深い溜息をして、同じく準備を始めた。
 メインブリッジを真下に降りて、司令長官室と反対の通路をしばらくいくとサブブリッジがある。メインブリッジは主に作戦立案、命令発信を主にするところで、このサブブリッジが要塞のコントロールを実際に行っているところである。サブブリッジには、ギザ・サワー少将をリーダーに、要塞防衛隊を指揮するバリ・ストーム少将、艦隊防衛隊を指揮するツイン・ワッツ少将がいて、さらに次席補佐官のキー・ガッツ、ニダ・タック、硯一理、流不落の4人と要塞運用事務のミン・ロネンの8名がいた。ミン・ロネンのみ女性で、彼女は渋田指令の秘書官も兼務する。
 サブブリッジには、メインブリッジのような形式ばった雰囲気はまるでない。その替わりに実務効率向上のための適度なゆとりがある。実は冥王星惑星要塞はギザ・サワーの手腕によって切り盛りされていた。彼の上司である司令長官や各中将は、お飾りに過ぎなかった。ただ、当の本人達はそれを知らず、自分達の能力あってのみの要塞基地であると思いこんでいた。ギザ・サワーは、この後の作戦会議に参加させられることをッーから事前に聞かされて知っていた。また、作戦会議の内容が連合との大戦であることも知った。常日頃の苦労に加え、今回の馬鹿げた作戦で彼の疲れは限界にきていた。
『ギザ少将、私も参加させてもらってもいいですか。』
 バリ・ストームが最近の不穏な動きに不安を感じ、それを司令長官に直接聞きたいとギザ少将に言った。
『構わない。私から頼んでみよう。ま、断られてもついてくればいい、1時間後の作戦会議には共に参加しよう。』
 そうバリ・ストームに言って、ワッツ・ツイン少将の方を向き、同じく参加するように言った。
『私もですか、あまり参加する意味がないような気がしますが。』
 ワッツ・ツイン少将は首を傾げながら参加する意味を見いだせずにいた。
『ま、命令だと思って参加してくれ。』
 ニダ・タックは、ワッツへ諦めろと小さな声で言った。ツー・中村はその後しばらくしてサブブリッジに入ってきて、3人を連れていった。
 司令長官室には、すでにユイ・フォンとユウカ・ビートが来ていて、司令長官のデスクの左手にある大きく豪華な作戦会議用デスクについていた。渋田指令長官は、いつもの熟考している体で軽い眠りに落ちていた。
『失礼します。ツー・中村中将以下4名入ります。』
 と言って、ツー・中村、ギザ・サワー、バリ・ストーム、ワッツ・ツインの4人が司令長官室に入り、作戦会議用デスクについた。
 渋田指令は眠りから覚めるときに少しびくっとしたが、気づいたメンバーは全員あえて気付かないふりをした。少し間をおいて渋田が熟考を終えた調子で口を開いた。
『私についてきてくれるものは、賛同していただきたい。』
 本当なら説明不足でなにを言っているのかわからないということになるのだが、バリ・ストームとワッツ・ツイン以外はすでにツーから詳細を聞かされていたので驚きはしなかった。バリ・ストームは当然のごとくその意味不明なことに口を開いた。
『なんのことですか、まったく意味がわからないのですが。』
 渋田は部下のバリのことを普段から煙たく感じていた。間の抜けた渋田の行動が許せず、几帳面なバリが正直にそれを指摘してしまい二人の間でいざこざが絶えないのである。ただ、今回渋田はあえて冷静を装った。そしてツーに首で、説明してやれとサインを送った。
『私たちは、連合国家から独立し冥王星惑星国家を設立し連合と戦うことを決心しました。そこで、渋田首相の意思に賛同できるものは今の職位を改めて冥王星国家から与え直し、そうでないものは連合の捕虜として監獄することになりました。ですので、その賛同の意思を聞きたいということです。』
 バリ・ストームは呆れる度を超えて笑いそうになった。ワッツ・ツインは考えるより先に口に出して言ってしまった。「アホかと。」
 しかし、ワッツのそれは、ギザ・サワーの一声でかき消された。
『私は賛同しません。私はあくまで連合の士官です。すでにここに連合の意思がないというのであれば、監獄なと好きにしてください。』
 ギザ・サワーのこの言葉は彼が口にした最後の言葉となる。監獄扱いになった翌6月11日、捕虜として利用されることをよしとせずギザ・サワーは監獄牢の中で自殺してしまうことになる。
『わかった。ギザ君は残念だが、他の者はどうする。』
 渋田は役者のように皆を見まわした。そこへツーが賛同を示した。
『私は、渋田首相に引き上げていただいた身、たとえ連合に反旗を翻すことになってもどこまでもついていきます。』
 そのツーの言葉に、決断に弱い二人の女性中将ユイ・フォンとユウカ・ビートは賛同してしまった。中将の3人が賛同するのを確認し、ひとまずの安心を得た渋田は残りのメンバーをちらっと見た。
『私は連合への帰属意識はありません。この冥王星惑星要塞を一から設計し、その運用に携わってきました。私のすべてはこの要塞にあります。要塞を守ることが私の所望です。また、私はツー中将が賛同するということであれば意見を同じくする以外にありません。
ただ、ひとつ覚えておいてください。この要塞を見捨てるようなことがあれば私はあなたを許しません。』
 まだ、釈然としないが今できる最善の決断をバリ・ストームは言った。そしてそれを聞いた渋田は目を合わさず都合のよい部分だけを拾いわかったと言った。
 『私は、もとは戦争屋です。私だけではなく私の部下もすべてそうです。渋田首相が私たちを使うだけのお金を支払ってくれるのであれば戦うことはできます。』
 ワッツ・ツインの本位は見えないが口ではそう言った。渋田は少し意外だった。彼らの賛同は得られないと予想していた。だから海賊達を抱き込むことにした。兵隊の替えはいくらでもきく、自分と中将達だけで十分にこの大戦には勝てるとそう信じていた。ギザ・サワーこそ想定外だったが、彼らを得られたのは大きい。これでこの大戦の勝利は堅いと思った。
『これで名実ともに、冥王星国家は成ったわけだな。皆の力を合わせて、民主主義という間違った考えに縛られた地球人類を解放しようではないか。』
 作戦会議ということで始まったこの会議は、この意思の確認だけで終わってしまった。会議後、バリとワッツは要塞にいる士官全員を説得した。バリは要塞保守の為、ワッツはある目的の為。かくして6月11日、士官全員の賛同がツー中将より渋田首相に報告された。
 そして同日ギザ・サワーは静かに逝った。

 冥王星討伐隊が冥王星宙域に到達したのは、地球を出てから7日後であった。
 冥王星宙域へは、時空間ワープを3回行った。途中エネルギー補給の為、木星駐屯基地へ寄った。木星では宇宙海賊の被害が最近の問題になっていた。討伐隊輸送船の被害も予想されたが、一切邪魔をされることなく無事に木星をこえることができた。
 6月10日、第4艦隊母艦のメインブリッジに司令官達が集まっていた。総司令官ユーリ・ザック、副司令官シュー・ツカサ、ヒーロ・ハル、第4艦隊少将ジョン・キーエ、ユキ・ダラー、第9艦隊少将フミ・エリック、第10艦隊少将枝見一樹。以上の7名が集まった。第9艦隊の二人がメインブリッジに入ってきたときには、ユーリと既に到着していたヒーロを驚かせた。なんと、シューが連れてきた少将フミ・エリックは着任式の時に睨んでいた女性士官だったのだ。こんなに早く出会うことになるとは、ユーリはまともにフミ・エリックを見ることができなかった。
 全員が揃ったところで、シューが最初に口を開いた。
『まずは新しいメンバーを紹介させてくれ。こちらは第9艦隊のフミ・エリック少将だ。以前は第2艦隊の参謀をしていたそうだ。うちのアタック大将が今回の討伐用に遣わせてくれた大事な戦力だ。』
 紹介されたフミ・エリックが一同を見まわし挨拶をした。そして、最後にユーリをきっと睨んだ。ヒーロはそれを見逃さず。
『エリック少将は、どうやらユーリになにか言いたいことがおありかな。』
 フミ・エリックは、再びユーリを睨んでからヒーロを見た。
『ヒーロ中将、問題ありません。作戦実行において私情は一切持ち込みません。』
 ユーリは、静かに聞いていて驚いた。やはりなにかあるのか。困ったな。助けをもとめてシューに目で訴えた。するとシューがいつもの包容力で言った。
『まあ、いいじゃないか。刺激があった方が、このユーリという男は力を発揮できるだろうし。ゆっくりとその蟠りを解いて言ってくれよお二人さん。』
 えっ。とシューをユーリが見た。一同はそれでそれ以上はなにも言わなかった。ヒーロも面倒なのは好きじゃなかったので、軽く火をつけた程度で引いた。それ以上にあの着任式の日の夜に話あった戦略が明かされるのが楽しみでそちらに気がいっていた。
『ユーリ、俺の方から言ってもいいか。』
 軽く頷くユーリをみて、ヒーロが資料を各席のメインパネルに移した。一同はその資料に目を通し、しばらくして驚いた。
『こんなことであの惑星が落とせるんですか。』
 フミ・エリックが当然の意見を述べた。
『裏はすでに取れている。渋田指令というのはほんとの阿呆かもしれない。ものの道理がわかっていない。』
その言葉とともに、ヒーロはさらに資料を提供し一同を納得させた。既に戦略を知っていたシューは、さらに今回の戦略に必要な3人をメインブリッジに呼んだ。
『初めて会う人もいるだろうか、改めて紹介しよう。3人の左にいるのが嫁の海アスカ。そして真ん中が海未来、右が海かほりだ。3人は名字のとおり姉妹だ。長女アスカ、次女未来、三女かほりになる。』
 シューが紹介して、3人は笑顔で挨拶を済ませた。フミが驚き疑問を投げかけた。
『まさか、この役に彼女達をあてるというわけではないですよね。』
 シューは、3人の素性をフミに明かした。
 彼女達3人は、「海」宇宙海賊協会を立ち上げた張本人なのである。ヒーロが海賊討伐に出かけた時に知り合ったのがきっかけで、いろいろあり海アスカとシュー・ツカサが結ばれることになったのである。妹達ともメインブリッジにいる何人かはついたり離れたりしていたが、結ばれるまでにはいたらかった。
 公には海賊団とのつながりを明かすことはなかったが、連合首脳にはそれは既知であった。
 信頼のおける海賊団が彼女らなのである。最近では新勢力がいるにはいるが、まだそれほど害はないというのが実情である。木星通過時に注意はしていたがそれほど重大に考えていなかったのはこの為である。
 フミ・エリックの驚きはしばらくおさまらなかった。少し落ち着いたところで、またユーリを睨んでフミは言った。
『すみません。わかりました。ここまで用意されていれば私からはなにもありません。』
 なにもないのに、睨まれたユーリはちょっと別のことを考えていたが、一同が戦略を理解したと判断した時に一言だけ言った。
『では、よろしく。』

地球から冥王星討伐隊が出たのは、6月3日雨の降るさえない日だった。第4艦隊、第9艦隊、第10艦隊の3艦隊がその任に充てられた。討伐総司令官は、ユーリ・ザックで彼は第4艦隊の指揮も取る。第9艦隊のシュー・ツカサと第10艦隊のヒーロ・ハルが副司令官としてユーリ・ザックの指揮下に入る。 

 着任式では、連合首相のシーマ・ティーチが立派な演説をし賛同者を沸かせたが、討伐司令官達にはそれほど響かなかった。艦隊ドック隣接の避難用シェルターのホールに集まった討伐隊代表1000人と軍関係者300人とで式は行われ、賛同者の中にはシーマ・ティーチの妹、マリー・ティーチを始め、ヒート・バックマン、アタック・マウン、コーラー・ディアスの3大将、そして連合府代表のユーキ・ウノイがいた。

『冥王星討伐司令殿。随分と立派な式だな。あんな卑劣な男を討伐するのに名義なんているのか。』

ユーリ・ザックの右手に座っていた第9艦隊の司令シュー・ツカサが回りに感づかれない程度の声で口を開いた。

『総指令はやめてくれ、これまでどおりユーリでいいよ。』 

ユーリ・ザックは簡単な返答だけを椅子にすわり直す振りをして言った。

ユーリ・ザックの左手に座っていた第10艦隊のヒーロ・ハルは、形式ばったこの式に飽き飽きしていた。一応姿勢正しく椅子に座っているのだが、落ち着きなくゆらゆら体を揺らしていた。

『ユーリ、この後時間あるか。』

ヒーロ・ハルはすでにこの式に興味がなく、彼が興味があるのは、惑星要塞攻略の戦略についてだった。戦略案はユーリが行うのであるが、その案を実際に行うのはヒーロの役目だった。彼の実行力は連合軍一だと誰もが認めているところであった。

『ヒーロ、もちろん時間はあるよ。今日は朝までつきあうよ。』

ユーリは、間を見計らってしっかりと返事をした。シューがユーリをつついた。

『おい、マリー様がお話されるぞ。相変わらず美しいなー。』

すでにシューには嫁がいる。その嫁に告口するぞという視線を送ってから、ユーリも舞台上のマリー・ティーチに目を向けた。

『確かに、綺麗な人だな。』

マリー・ティーチの話もその場の人を魅了したが、それ以上に容姿やそのオーラに会場全体が魅了された。

『ユーリ、お前を誰かが睨んでるぞ。』

ヒーロがその違和感に気づいてユーリにつげた。ユーリがそれとなくその方を見てみると、確かに一人の士官がこちらを睨んでいるように見えた。

『身に覚えがないなぁ。』

声に出さずにユーリは思った。そして、ヒーロに仕草でそれを伝えた。軍士官であれば睨まれていようと命の危険はないだろと思い安心していたところへ、ヒーロがまた一言言った。

『あれは女だぞ。ほんとに身に覚えがないのか。』

今度は、睨んでいる人の方をしっかりと向き真実を確認しようとした。

『ユーリ・ザック中将舞台へ上がってください。』

はっとして、ユーリは振り向きその声がマリー・ティーチであるのを知ると急ぎ足で舞台に上がった。

『第4艦隊ユーリ・ザック中将です。』

と告げユーリは、マリー・ティーチからの言葉を待っていた。

『連合軍随一の戦術眼を駆使して、無事に任をまっとうしてください。』

マリーはゆっくりとやさしくユーリに言った。

『マリー様任せておいてください。必ずや成功をおさめます。』

いつもならそんな大口を言わないユーリだが、マリーの魅力に煽られてつい高揚してしまった。

マリーは、ユーリにあるものを差し出した。

『これは討伐隊へのお守りです。』

受け取ったお守りをなぜかユーリは両手で天高く掲げた。

それに伴い会場もなぜかどっと歓声で沸いた。マリーの行いはいつも人々に力を与える。マリーは兄シーマ・ティーチと10歳違いで、既に40歳はこえている。それでも容姿から見れば20代後半もしくは30代前半ぐらいで実に若々しかった。マリー・ティーチが最初に公の場にたったのは、シーマ・ティーチの最初の選挙の時で、兄への応援演説を地元の大衆1500人の前で行った。それからシーマ・ティーチが首相になるまで、ずっと付き添って人々を魅了し続けていた。いつしかマリーは地球人全員を魅了していた。兄シーマにしても自分より民衆の心を得ているマリーへ遺恨の念はまったくなく、素直に誇りに思っていた。シーマはずっと本当の首相にはマリーがふさわしいとさえ考えていた。ただ、シーマはこの首相の任の黒い部分も知っていたし、命を狙われる危険もあることも知っていたのでそれを実行することはなかった。汚い部分はすべて自分が引き受ければいい。今の連合国家に欠陥があれば自分が責任をとってすべて払拭して後にマリーにすべてを任せようとそう決心していた。マリーはその兄の思いを実は知っていた。だから、民衆の兄への不評に惑わされることなく常に兄を信じているのであった。

『光栄です。これで討伐隊の成功は確かなものになるでしょう。』

そういってユーリは、舞台から降りて席に戻った。

『では、これにて式を閉会する。』

司会のユーキ・ウノイが会場の雰囲気冷めやらぬ間に会を締めくくった。

 ホールから次々に士官が出ていく。シューは閉会と同時に会場を後にした。ユーリもすぐに会場から出たかったのだが、ヒーロにつかまれて椅子に座り戻された。

『おい、さっきの睨んでる女士官見たのか。どう見おぼえないのか。』

マリー様からのお守りを軍服の右の内ポケットにしまいユーリは答えた。

『確認しようとしたところだったんだが。マリー様を前にしたら今の今までそれを忘れてしまっていた。』

睨んでいた士官がいる方を見てみたが、すでにその辺りは空席になっていた。なんだったんだ。あそこは討伐隊関係側の席だが、また出会うことがあるのだろうか。面倒なことがまた一つ増えてしまったのかもしれない。

『ユーリ、俺達もここを出よう。』

地球連合本部宛に、宣戦布告が届いたのは4月の末。
 宣戦布告文には3つのことが書かれていた。冥王星艦隊は、地球連合から独立しアンドロメダの支援を受け惑星国家を新たに形成する。冥王星国家は、アンドロメダ帝国と同じ立場に立ち、地球連合を敵と見なし腐敗した民主主義から地球人類を解放する。敵対するのは地球人類ではなく地球連合の軍力のみとする。冥王星国家首相は渋田幸である。
 宣戦布告文の内容が地球連合首相シーマ・ティーチに届いたのは、5月の半ばだった。若干時差が発生したのは、あまりに馬鹿げたこの文面が、当初見た担当者達の間でいたずら程度に扱われ一応の事実確認を開始したのが遅れた為だったからである。
 シーマは呆れていた。渋田の不穏な動きは随分前から感じていたが、放置しておいた結果がこの馬鹿げた宣戦布告とは。しかし、ただ呆れているばかりもいられない。心配事もある。それは、アンドロメダが敵対する可能性があるということである。地球にあるアンドロメダ常駐大使に問い合わせても事実無根と返答がきているが、本国との連絡が取れていないとの事実も明かされた。
仮に布告文が真実だとして、戦争が開始された場合、冥王星の軍力はそれほど脅威にならない。冥王星に派遣された艦隊は、地球連合の軍総力からすれば、10分の1程度だからである。守られれば攻め落とすのは多少手がかかるが、攻められる分にはまったく問題にならない。ただ、アンドロメダが加わるということになれば話は違う。地球連合と同等の軍力を持つアンドロメダが冥王星軍と手を組めば、相対的に9対11となり、総数ではひけをとることになる。
シーマは、首相官邸に3人の大将を呼んだ。第一艦隊ヒート・バックマン大将、第二艦隊アタック・マウン大将、第三艦隊コーラー・ディアス大将の3人が、しばらくして機能重視のシーマの部屋に入ってきた。3人はシーマが座るデスクの前まできて、デスクの上にある一枚の紙に目を向けた。若くして大将になった、といっても既に40歳になった大男コーラー・ディアスが口を開く。
 『これが、アンドロメダの軍組織なのですね。』
3人の中の一番の年長で、小柄だががっちりとしたアタック・マウンが続く。
 『なるほど、かなり統制されたよい組織に見える。』
そして、地球連合総司令官を兼務する中肉中背のヒート・バックマンも続く。。
 『艦隊は10。一艦隊の数をみてもこちらの戦力とそうは変わりませんな。』
3人が一言終えた時点でシーマがゆっくりと口を開く。
 『さっそく、来てくれて感謝する。話は先の通信で伝えておいた通りだが、そう、見てもらっているこれが常駐大使が提出してきたアンドロメダの軍組織図だ。裏も取れている。ほぼ間違いないものだと思ってもらっていい。』
再度目を通し終えたコーラーが我慢できずに本音をこぼした。
 『それにしてもあの渋田の阿呆はとんでもないことをしでかしましたな。』
それを受けたアタックも。
 『奴のことだ。どうせアンドロメダの連中をあの悪知恵でたぶらかしたのではなかろうか。』
 『そうですな。アタック大将。あやつならやりかねませんな。』
シーマは、未だアンドロメダの敵対が信じられずにいた。
 『しかし、あのアンドロメダが渋田の口車に本当にのってしまっているのだろうか。』
 『シーマ首相。ま、その話は、ここではよろしかろう。我ら大将を呼んだということは、それと戦うためでありましょう。』
 『そうだな。ヒート大将。この組織図をもとにこちらの軍組織を再構成するとしよう。』
アンドロメダの10艦隊と7人の将軍。そして冥王星艦隊。これに対するのが、9艦隊と3大将。
 『この冥王星艦隊は、明かに邪魔ですな。9対11になる前に、9対1で冥王星艦隊を先に殲滅するというのはいかがですかな。シーマ首相。』
 『ヒート大将。私もその案を考えていたところです。あの冥王星惑星要塞を取り戻しておくことは戦術的に有利になりましょう。私からも提案します。シーマ首相。』
 『なるほど。対アンドロメダに仮になったとしても、冥王星要塞が手にあるのとないのとではまったく戦い方が違ってくる。そう悩む必要もないだろう。さっそくそちらの方は頼めるかな。』
 『私がその任にあたりましょう。』
コーラーが大きな体をさらに大きくして名乗りを上げたが、すぐにヒートに静止された。
 『今、我らがしなければならないのは、軍の再構成。3大将の内一人が欠けても万全な準備はできまい。』
 『では、私の代わりに誰を行かせると。』
3大将が頭の中に浮かぶ人物が一人いる。
 『あれを向かわせましょう。』
 『ヒート大将のとこのあやつか、いいですな。あれならばまずはやりとげましょうな。』
 『やつですか。やつに代わられたくはなかったが仕方ないですな。』
 『誰のことを言っている?』
 『シーマ首相も存じていますよ。あの渋田よりもさらに悪知恵の・・・』
 『ああ、なるほどあやつか。それならば心配あるまい。これでアンドロメダ対策に専念できるな。』
 こうして、ユーリ・ザックに命令が下った。

 ツーが司令長官室の扉の前に立ちノックをしようとした時、その手を止める声が右の方から発せられた。ツーが慌てて右の方を向く。

 『ツー中将、あとでお時間よろしいでしょうか。』

声をかけたのは、バリ・ストーム大佐であった。身長170センチで、やや軍服がきつそうに見える彼が、いつも以上に真剣な顔をしてツーが向いた2、3メートル先に立っていた。

 『これから柴田指令への通信報告をしてきます。他の件もあるので、2、3時間程度はかかると思います。そのあとであれば問題ありません。時間ができ次第こちらから連絡しますよ。』

 『なるほど、了解しました。本日中には片づけておきたいことですので、なにとぞよろしくお願いします。』

ツーとバリは簡単な口約束を交わし別れた。


 ツーは改めて司令長官室の扉をノックした。

ノック後10秒ほどたったが応答がない。再びノックし、さらに10秒待った後、ツーは無断で扉を開け司令長官室に入っていった。

 渋田は司令長官室の突き当りの豪華なデスクにうずくまるように寝ていた。渋田は今年42歳になる中年で、身長160センチの小太りで正規の軍服ではなくいつもオリジナルの軍服を着ている。本人はこの軍服でファッション性をアピールしているが、冥王星要塞内には彼のファッションを認めている者はいない。

ツーが室内に入ってきてしばらくすると、はっと渋田が飛び起きた。寝ていたのを隠そうと、考えごとがまとまった体で口を開いた。

 『ツー、ツー中将、例の物は持ってきてくれたか。』

 『・・・。はい、柴田指令が言われていたとおり修正しましたものを持ってきました。』

 ツーは、宇宙海賊対策費案の資料を柴田に手渡した。渋田はぱらぱらとページをめくり、適度にうなずく仕草を見せ、袖机の引き出しにしまった。

 『柴田指令、それから地球連合本部より通信が届いています。こちらが通信内容になります。』

 柴田はツーの手から通信内容文をむしりとった。そして、むしりとった通信内容文を、声を出して確認した。渋田の表情に焦りが出始めたが、それもわずかばかり。すぐに物知り顔に得意気に言った。

 『ツー中将よ、これはあれだな。』

 『なんですか。』

 『決まっているだろう。戦争だよ。戦争。』

 『戦争ですか?』

 『相変わらず全体が見渡せないようだな。ついに来たのだよ。地球連合と戦う日が。』

 『地球連合と戦う?・・・。なにかの間違いではないでしょうか。』

 ツーは依然から柴田が稀に突拍子もないことを言うのを知っていて、大体のことには動揺しないつもりでいた。しかし、母国と戦うと言った柴田の言葉には流石に動揺を隠せなかった。

 『我が冥王星艦隊と宇宙海賊が手を組めば、地球連合軍など敵ではない。』

渋田はそう言いきると、目に力が漲っていた。

 『これまで、金をばらまいてきたのは、この為だったのだよ。』

 『お待ちください。なぜ、連合と戦うのでしょう。流石にその無謀な発言には賛同できません。』

 『ツーよ。お前もすでに同罪なのだ。』

 『なんの話ですか・・・。』

 『おまえが、私の裏の顔を知っているからさ。』

柴田はそれからしばらく、いつもの強要を行った。ツーが柴田に抑えつけられるのに時間はそうかからなかった。


2798年、地球連合首相シーマ・ティーチは、3年前に新任した貿易防衛長官の渋田幸に悩まされていた。

 前長官まで円滑に行われたアンドロメダとの交流が、渋田に変わると徐々に負債を繰り返し4世紀も栄えた貿易業に陰りが見え始めた。

 シーマ首相の命を受けて、同年に地球連合経済安全調査団は、アンドロメダ貿易の実状調査を開始した。3カ月ほどで冥王星艦隊に不穏な動きがあることが判明。貿易収支の負債はすべて渋田長官の画策であると断定された。報告を受けたシーマ首相は、早速渋田に帰国命令を出した。

 準惑星とされていた冥王星が、アンドロメダとの貿易の中継地点となり、軍備も含め大きな発展を得ていたのは言うまでもない。宇宙海賊なるものが貿易船を襲うこともあり、地球連合第8艦隊が編成され冥王星に常駐していた。また、冥王星自体も人類が生活していく上での改装がなされ、貿易中継惑星といえども、見た目と機能に関してはすでに軍事惑星と化していた。対艦隊用の重火器も装備され、常駐艦隊と合わせた戦力は、地球連合とアンドロメダに肩を並べられるほどになっていた。しかしこれは、あくまで冥王星宙域を舞台にしての戦力比である。

 冥王星司令室メインブリッジに時空間通信が届いたのは、2798年4月に入ってからであった。時空間通信の通信速度は、この当時地球と冥王星間を約1日程度であった。

 当時、司令室メインブリッジには、3人の中将が業務に追われていた。時空間通信を受けたのは、この内の一人ユウカ・ビート中将で、彼女は主に惑星運用を取り仕切っていた。ユウカ・ビート中将は、通信内容を確認した上で、長官保佐がメイン業務であるツー・中村中将にその内容を告げた。

 ツー・中村は、重い足取りで指令長官室への通路を進んでいた。先の通信内容の件と、宇宙海賊対策費策定の件を柴田司令に報告する為で、足取りが重く彼を悩ましていたのは、後者の件があったからであった。 

宇宙海賊対策費は、貿易品を略奪する宇宙海賊の活動を防ぐためというのが公的なところである。しかしながら柴田指令は対策費で略奪を阻止するとし、海賊に手付金をばらまいた。

施行後、略奪行為による軍事破壊は一時少なくなったが、それも長続きしなかった。軍事力を持たない海賊群でも名乗りだけで手付金がばらまかれるので、第二・第三の宇宙海賊が現れる始末となった。

最初の手付金対策の時点で、地球連合から割り当てられた貿易費の大半を使ってしまっていたので、新たに現れた海賊への手付金算出に困ることになった。そこで柴田指令が施したのは、貿易収支の一部を空計上し手付金へ充てるというものだった。海賊達は手付金を受ける度に豊かな生活をするようになった。また、軍事力拡大に手付金を使う海賊もあり、いくつかは強大な海賊団になっていった。渋田指令の言うままに実行していたツーは、間違ったことをしていると自覚しながらも上司命令に抵抗することができずストレスを感じ続けていた。

ツーは、がっしりとした体つきをしていたが、見た目ほど内面は強くはなかった。軍隊訓練時代に受けた体育会系独特の上下関係が強すぎたせいか、未だにトラウマを引きずっている。渋田指令にツーが反抗したのは2度のみで、いずれも赴任そうそうの時期であった。地球連合へ忠実にあるように教育されていた彼は、正義から渋田への反抗を試みたのだが、渋田の応えはツーの訓練時代の上官のそれであった。2度の圧力を受けた時、彼は完全に消沈した。以後、ツーが渋田に意見することはなかった。常に優秀なイエスマンとなっていた。

もともと精神的なところで弱い面を持っていて、この時期のストレスのせいで情緒不安定になっていた。最近、部下に情緒不安定で休養をとった方がいいと勧められ、正式なルートで休暇依頼を提出したが、渋田指令がそれを知ると握りつぶした。

ツーは、渋田の裏事情をよく知っていた。渋田自身が海賊と称し手付金を手にしていたこと。さらに、貿易収支の内5%を空計上しこれも懐に入れていたこと。細かいことを含めれば柴田の悪事は数えきれないほどだった。

貿易収支の空計上は、手付金と着服で35%にも上っていた。地球連合貿易収支には当然計上されないので、貿易悪化と批評され始めた。渋田はその批評にはまったく耳をかさなかった。

事実、アンドロメダへの輸入量および価格も変わっておらず、単純に抜け落ちている状態であった。ただし、地球連合としては地球から離れた場所にある冥王星で情報が入りにくく、また形式上渋田長官に一任しているので詳細は書類のみでの把握にとどまっていた。

 惑星歴2800年太陽系地球。


今、地球人類を中心にした大規模な宇宙戦争が幕開けされる。


 地球では22世紀後半に、天然資源の枯渇問題が深刻化し、本格的な太陽光依存型活動を開始した。また、24世紀初めには、太陽系外の銀河系であるアンドロメダの諸星に到達し太陽系外人類との遭遇に成功する。


 アンドロメダでは、絶対君主制がしかれ皇帝がすべての実権を掌握していた。地球との交流では、24世紀からの4世紀間はお互いの主張を認め経済、主に物質的な貿易を深めた。貿易は自由化され、両方において重要と共有は完全に満たされた。特にアンドロメダの天然資源は、地球にとって太陽光エネルギーを補う第二の資源エネルギーとして重要な価値を得た。



 ところが、28世紀末冥王星準惑星付近において、地球とアンドロメダ間の交流を閉ざすきっかけとなる戦いが起こる。

そもそもは、地球内部での権力争いが原因であるが、冥王星爆発を引き起こし、4世紀に渡って長く続いた友好ある貿易の終止符をうった。地球にとって必要不可欠となっていたアンドロメダの天然資源においては、4世紀の貿易を通し貯蓄可能なほど大量に輸入することができていたので大事には至らなかった。それでも備蓄は1世紀分と底はあった。  

29世紀の地球人の平均寿命は、男女共に75歳。23世紀の医療レベルにおいては、平均寿命100歳を超える水準にあった。しかし、終えることの大事さを訴える老人同盟によって、25世紀に人権改定が発せられ70歳を超える者は、自分の意思により死を選択することができるようになった。以下人権改定書より抜粋。地球連合に属する全ての人は、満70歳の誕生日を迎えるにあたり本人

の意思によってのみ、その尊い命を全うし死を賜ることを認めるものとする。

 それから3世紀、人々はそれについて考え続けた。改定直後にはほとんどの人が死を選ぶことがなかったのだが、地球連合首相シーマ・ティーチの妹、マリー・ティーチによって勧められた3つの勧めによって大多数の人々が死を敢えて選択するようになったのである。3つの勧めには、夫婦が共に死を賜る共同葬、不治の病により植物人間になってしまった場合に死を賜れるように予め決めておく意思喪失葬、正常な脳波を持つ内であれば知識および記憶をデータ化し著作権を取得できる知能永久記憶葬、があった。いずれも厳重な審査があり本人の意思なくしては実行されることは許されなかった。また、3つ目の勧めにある著作権は基本的に家族に受託され、第三者の譲渡依頼により引き渡すことは可能だが、単なる放棄は法律で罰せられた。第三者が譲渡により引き受けた場合でも放棄は罰せられる対象となっていた。

 人権改定後から現在までの統計データによると推定だが平均寿命は75歳をキープするという見立てである。

 これにより地球人口は50憶付近で安定していた。地域による少子化に対してもマリー・ティーチは積極的に取り組み大きな成果を上げることができていたのである。

小さいころより天命を受けたような天子のような女の子だったといわれていた。女性ならではの特質を失うことなく、男女問わず万民に愛されていた彼女は、いつしか地球連合を統一する上でなくてはならない象徴になった。大きな権力を得ることになっても彼女は、これまでと変わらぬ態度で人々と接し、人々が幸せに暮らしていける世界を築き上げることに全力を尽くしていた。


7/25(金)に新作「太陽の国」を公開します。


全体で10章構成で、25日以前にも数章公開しようと思います。


ではでは。


以前の作品については、またいずれ。(再開はほぼ厳しい・・・。無念。)

3人はここへきて同じことを考えていた。最初にそれを口に出したのは甲本だった。

「あの光はなにを頼りに追ってきてるんだろうか?」

「地図だと日立商高の近くにコンビニがある。そこで車を停めて3人ばらばらの方向へ動いてみるってのはどう?」

江口が提案し、甲本と白木はそれに同意する。


コンビニまでは10分もかからなかった。

まだ日が昇りかけなので、駐車場には車は1台しか止まっていなかった。

甲本は、車を店の入り口まん前に停めた。

「光の動き止まったよ。」

白木が言う。

「まずは俺が一人で出るよ。」

甲本が勇む。しかし、江口はそれを制した。

「いざという時は、車で逃げる必要があるから、運転手の甲本は最後の方がいい。まずは自分からいくよ。」

そう言うと、ばっと助手席のドアを開け表へ出た。

江口は携帯を取り出し、甲本へ電話しつつ北側へ移動し始めた。

光は一瞬ゆらりと動くが、またその動きを止めた。

「人につられているのではないのかな?」

白木が甲本に言う。

「んじゃ、次はしらちゃん。」

白木もばっとドアを開け、東側に出た。

光はまたゆらりと動く。が、やはりその後動きを止めた。


やはり人ではないのか?3人がそう思い始め、甲本が車を降り西側に歩き始めた時光は動いた。

「げ、俺についてくんの?」

甲本が早歩きする。光も30mの距離を開けゆらりと憑いてくる。

甲本が角を曲がると光も角を曲がる。あまり車から遠くに離れることもできず店の周囲を一周する程度の移動だった。

「どうしたものか?」

なにを考えたか、急に甲本は進行方向を逆にし光に向かい始めた。

しかし、驚くことに追ってきているはずの光が離れ始めた。

「この光、ほんとに監視してるだけみたいだな。それに離れる時に動く際、ものをよけている。ひょっとすると物質をとおりぬけることができないのか。」

そもそも、その光自体の存在が信じられない話なのだが、いつのまにかにすべてを受け入れていた甲本は光の本質に迫ろうとしていた。

「害はなさそうだから、うまくコントロールして店には申し訳ないが閉じ込めてしまおう。」


甲本が光の離れる法則を見抜くのには時間はそうかからなかった。

それから10分、東西南北微妙な移動で光を店に押し込めることができた。

店のガラス一枚向こういる光。店の店員には見えていないようだ。何事もなく仕入れた商品の陳列をもくもくとやっている。

「ちょっと試してみるか。」

ほんとに物質をすり抜けることができないかどうか試すため店より50m離れた。

光はガラスの向こう側にゆらりゆらりとしているだけだった。


甲本はそのチャンスを逃さず、すでに車にもどっていた二人を確認し車にさっと乗り込み駐車場を出た。

今度こそ研究所へ向かう。道中光を確認することはなかった。

「しばらくはこちらにはこれないだろう。」

甲本が勝ち誇った感じで一人つぶやく。


神風山を登りしばらくすると研究所が見えてきた。


風神山

【地図リンク】

http://maps.google.co.jp/maps?hl=ja&ie=UTF8&oe=Shift_JIS&q=&z=14&ll=36.513982,140.596333&spn=0.050151,0.079823&t=h&om=1

三郷から日立中央までの間、ほぼ120キロをキープして車は駆け抜けた。

その間あの光は300メール程度の一定の距離を保ち追走していた。

追走といっても実際に走っているのではない。

まるで車から伸びた糸がその光を牽引しているかのようにぴったりとついてくる。

「このまま、あの光を研究所まで連れて行っていいのか?」

バックミラーで光を確認した甲本が江口の意見を求めた。

「まずいよね。だけどどうしたものか・・・。」

車に乗って以来はじめて江口が会話に加わった。

「あの光に対処する方法って・・・。えぐっちゃん知ってるんじゃないの?」

白木は光の本質をしらない。ただ、襲ってくる気配のない光に対しいつの間にかに恐怖がなくなっていた。

「あれは、監視者だと思う。自分達は見張られていると考えていい。

いった誰がなんの目的でそうしているのかわからないが、たぶんそうだと思う。」

「えぐっちゃん、なにか知ってるみたいだね。」

3人はそれぞれすみれのことを考えていた。なぜか彼女ならすべてを知っていると思えた。

「会えるといいな。すみれちゃんに。」

「とにかく急いで。」

甲本に、江口が続く。


ICからの道は県道なのでスピードが出せない。ただ、やはり光は一定の距離を空け追走してくる。