同6月10日冥王星惑星要塞の指令長官室では、渋田が最近手に入れた最新機器に没頭していた。司令長官室は、渋田が集めたあらゆる機械の最新のもので溢れかえっていた。あらゆる機械は、その機能をうりにして世の中に流通する訳だが、渋田はその機能を使い切ることなく、無駄に買い漁っていたのである。もちろんその購入費は、連合貿易費の一部であったのは言うまでもない。
当初は、今回の最新機器に約2時間ほどは費やすつもりだったのだが、そうそうに飽きてしまい1時間を持て余すことになった。最新機器を最後にもう一度手に取り、もうマスターしたとポンっと軽く叩いて机の中に無造作にしまった。そしてデスクの通信機を手にした。
『ツー中将か、遅いぞ早く二人を連れて来ないか。それとな、さっきは言わなかったが、彼らも連れてきてくれ。』
メインブリッジの自分のデスクでその通信を受けたツー・中村がわかりましたとだけ告げて通信機をおいた。
『また、はじまりましたよ。渋田指令がいますぐ司令長官室にこいとのことです。』
ツー・中村がそう言ったのは、同じくメインブリッジにいたユイ・フォン中将とユウカ・ビート中将にであった。言われた二人は、お互いに目を合わせ溜息をついた。
『あと1時間後の召集だったと記憶していますが、いつものように変ったんですね。』
ユイ・フォンがツー・中村に、渋田はどうしようもない人だと言いたいが言えずにそう言った。
『お二人はお先に行ってください。私は、ギザ・サワー少将とワッツ・ツイン少将を呼びに行ってから向かいます。
『今回の作戦会議は長くなりそうですかツー中将。』
ユウカ・ビートが確かな答えが出てくるとは思えなかったが、一応という形で言った。
『いつものことですので、たぶん長くなると思います。私がなんとかしてといいたいところですが、すみません、私がなにかすることを期待しないでください。』
肩身が狭くなってきたツー・中村は、メインブリッジをそそくさと出て行った。ユウカ・ビートがユイ・フォンになにかを求めたいと目を向けたが、すでにユイは作戦会議用の準備をしていて取り合う姿勢を見せてはいなかった。ユウカ・ビートはもう一度深い溜息をして、同じく準備を始めた。
メインブリッジを真下に降りて、司令長官室と反対の通路をしばらくいくとサブブリッジがある。メインブリッジは主に作戦立案、命令発信を主にするところで、このサブブリッジが要塞のコントロールを実際に行っているところである。サブブリッジには、ギザ・サワー少将をリーダーに、要塞防衛隊を指揮するバリ・ストーム少将、艦隊防衛隊を指揮するツイン・ワッツ少将がいて、さらに次席補佐官のキー・ガッツ、ニダ・タック、硯一理、流不落の4人と要塞運用事務のミン・ロネンの8名がいた。ミン・ロネンのみ女性で、彼女は渋田指令の秘書官も兼務する。
サブブリッジには、メインブリッジのような形式ばった雰囲気はまるでない。その替わりに実務効率向上のための適度なゆとりがある。実は冥王星惑星要塞はギザ・サワーの手腕によって切り盛りされていた。彼の上司である司令長官や各中将は、お飾りに過ぎなかった。ただ、当の本人達はそれを知らず、自分達の能力あってのみの要塞基地であると思いこんでいた。ギザ・サワーは、この後の作戦会議に参加させられることをッーから事前に聞かされて知っていた。また、作戦会議の内容が連合との大戦であることも知った。常日頃の苦労に加え、今回の馬鹿げた作戦で彼の疲れは限界にきていた。
『ギザ少将、私も参加させてもらってもいいですか。』
バリ・ストームが最近の不穏な動きに不安を感じ、それを司令長官に直接聞きたいとギザ少将に言った。
『構わない。私から頼んでみよう。ま、断られてもついてくればいい、1時間後の作戦会議には共に参加しよう。』
そうバリ・ストームに言って、ワッツ・ツイン少将の方を向き、同じく参加するように言った。
『私もですか、あまり参加する意味がないような気がしますが。』
ワッツ・ツイン少将は首を傾げながら参加する意味を見いだせずにいた。
『ま、命令だと思って参加してくれ。』
ニダ・タックは、ワッツへ諦めろと小さな声で言った。ツー・中村はその後しばらくしてサブブリッジに入ってきて、3人を連れていった。
司令長官室には、すでにユイ・フォンとユウカ・ビートが来ていて、司令長官のデスクの左手にある大きく豪華な作戦会議用デスクについていた。渋田指令長官は、いつもの熟考している体で軽い眠りに落ちていた。
『失礼します。ツー・中村中将以下4名入ります。』
と言って、ツー・中村、ギザ・サワー、バリ・ストーム、ワッツ・ツインの4人が司令長官室に入り、作戦会議用デスクについた。
渋田指令は眠りから覚めるときに少しびくっとしたが、気づいたメンバーは全員あえて気付かないふりをした。少し間をおいて渋田が熟考を終えた調子で口を開いた。
『私についてきてくれるものは、賛同していただきたい。』
本当なら説明不足でなにを言っているのかわからないということになるのだが、バリ・ストームとワッツ・ツイン以外はすでにツーから詳細を聞かされていたので驚きはしなかった。バリ・ストームは当然のごとくその意味不明なことに口を開いた。
『なんのことですか、まったく意味がわからないのですが。』
渋田は部下のバリのことを普段から煙たく感じていた。間の抜けた渋田の行動が許せず、几帳面なバリが正直にそれを指摘してしまい二人の間でいざこざが絶えないのである。ただ、今回渋田はあえて冷静を装った。そしてツーに首で、説明してやれとサインを送った。
『私たちは、連合国家から独立し冥王星惑星国家を設立し連合と戦うことを決心しました。そこで、渋田首相の意思に賛同できるものは今の職位を改めて冥王星国家から与え直し、そうでないものは連合の捕虜として監獄することになりました。ですので、その賛同の意思を聞きたいということです。』
バリ・ストームは呆れる度を超えて笑いそうになった。ワッツ・ツインは考えるより先に口に出して言ってしまった。「アホかと。」
しかし、ワッツのそれは、ギザ・サワーの一声でかき消された。
『私は賛同しません。私はあくまで連合の士官です。すでにここに連合の意思がないというのであれば、監獄なと好きにしてください。』
ギザ・サワーのこの言葉は彼が口にした最後の言葉となる。監獄扱いになった翌6月11日、捕虜として利用されることをよしとせずギザ・サワーは監獄牢の中で自殺してしまうことになる。
『わかった。ギザ君は残念だが、他の者はどうする。』
渋田は役者のように皆を見まわした。そこへツーが賛同を示した。
『私は、渋田首相に引き上げていただいた身、たとえ連合に反旗を翻すことになってもどこまでもついていきます。』
そのツーの言葉に、決断に弱い二人の女性中将ユイ・フォンとユウカ・ビートは賛同してしまった。中将の3人が賛同するのを確認し、ひとまずの安心を得た渋田は残りのメンバーをちらっと見た。
『私は連合への帰属意識はありません。この冥王星惑星要塞を一から設計し、その運用に携わってきました。私のすべてはこの要塞にあります。要塞を守ることが私の所望です。また、私はツー中将が賛同するということであれば意見を同じくする以外にありません。
ただ、ひとつ覚えておいてください。この要塞を見捨てるようなことがあれば私はあなたを許しません。』
まだ、釈然としないが今できる最善の決断をバリ・ストームは言った。そしてそれを聞いた渋田は目を合わさず都合のよい部分だけを拾いわかったと言った。
『私は、もとは戦争屋です。私だけではなく私の部下もすべてそうです。渋田首相が私たちを使うだけのお金を支払ってくれるのであれば戦うことはできます。』
ワッツ・ツインの本位は見えないが口ではそう言った。渋田は少し意外だった。彼らの賛同は得られないと予想していた。だから海賊達を抱き込むことにした。兵隊の替えはいくらでもきく、自分と中将達だけで十分にこの大戦には勝てるとそう信じていた。ギザ・サワーこそ想定外だったが、彼らを得られたのは大きい。これでこの大戦の勝利は堅いと思った。
『これで名実ともに、冥王星国家は成ったわけだな。皆の力を合わせて、民主主義という間違った考えに縛られた地球人類を解放しようではないか。』
作戦会議ということで始まったこの会議は、この意思の確認だけで終わってしまった。会議後、バリとワッツは要塞にいる士官全員を説得した。バリは要塞保守の為、ワッツはある目的の為。かくして6月11日、士官全員の賛同がツー中将より渋田首相に報告された。
そして同日ギザ・サワーは静かに逝った。