ツーが司令長官室の扉の前に立ちノックをしようとした時、その手を止める声が右の方から発せられた。ツーが慌てて右の方を向く。
『ツー中将、あとでお時間よろしいでしょうか。』
声をかけたのは、バリ・ストーム大佐であった。身長170センチで、やや軍服がきつそうに見える彼が、いつも以上に真剣な顔をしてツーが向いた2、3メートル先に立っていた。
『これから柴田指令への通信報告をしてきます。他の件もあるので、2、3時間程度はかかると思います。そのあとであれば問題ありません。時間ができ次第こちらから連絡しますよ。』
『なるほど、了解しました。本日中には片づけておきたいことですので、なにとぞよろしくお願いします。』
ツーとバリは簡単な口約束を交わし別れた。
ツーは改めて司令長官室の扉をノックした。
ノック後10秒ほどたったが応答がない。再びノックし、さらに10秒待った後、ツーは無断で扉を開け司令長官室に入っていった。
渋田は司令長官室の突き当りの豪華なデスクにうずくまるように寝ていた。渋田は今年42歳になる中年で、身長160センチの小太りで正規の軍服ではなくいつもオリジナルの軍服を着ている。本人はこの軍服でファッション性をアピールしているが、冥王星要塞内には彼のファッションを認めている者はいない。
ツーが室内に入ってきてしばらくすると、はっと渋田が飛び起きた。寝ていたのを隠そうと、考えごとがまとまった体で口を開いた。
『ツー、ツー中将、例の物は持ってきてくれたか。』
『・・・。はい、柴田指令が言われていたとおり修正しましたものを持ってきました。』
ツーは、宇宙海賊対策費案の資料を柴田に手渡した。渋田はぱらぱらとページをめくり、適度にうなずく仕草を見せ、袖机の引き出しにしまった。
『柴田指令、それから地球連合本部より通信が届いています。こちらが通信内容になります。』
柴田はツーの手から通信内容文をむしりとった。そして、むしりとった通信内容文を、声を出して確認した。渋田の表情に焦りが出始めたが、それもわずかばかり。すぐに物知り顔に得意気に言った。
『ツー中将よ、これはあれだな。』
『なんですか。』
『決まっているだろう。戦争だよ。戦争。』
『戦争ですか?』
『相変わらず全体が見渡せないようだな。ついに来たのだよ。地球連合と戦う日が。』
『地球連合と戦う?・・・。なにかの間違いではないでしょうか。』
ツーは依然から柴田が稀に突拍子もないことを言うのを知っていて、大体のことには動揺しないつもりでいた。しかし、母国と戦うと言った柴田の言葉には流石に動揺を隠せなかった。
『我が冥王星艦隊と宇宙海賊が手を組めば、地球連合軍など敵ではない。』
渋田はそう言いきると、目に力が漲っていた。
『これまで、金をばらまいてきたのは、この為だったのだよ。』
『お待ちください。なぜ、連合と戦うのでしょう。流石にその無謀な発言には賛同できません。』
『ツーよ。お前もすでに同罪なのだ。』
『なんの話ですか・・・。』
『おまえが、私の裏の顔を知っているからさ。』
柴田はそれからしばらく、いつもの強要を行った。ツーが柴田に抑えつけられるのに時間はそうかからなかった。