地球連合本部宛に、宣戦布告が届いたのは4月の末。
宣戦布告文には3つのことが書かれていた。冥王星艦隊は、地球連合から独立しアンドロメダの支援を受け惑星国家を新たに形成する。冥王星国家は、アンドロメダ帝国と同じ立場に立ち、地球連合を敵と見なし腐敗した民主主義から地球人類を解放する。敵対するのは地球人類ではなく地球連合の軍力のみとする。冥王星国家首相は渋田幸である。
宣戦布告文の内容が地球連合首相シーマ・ティーチに届いたのは、5月の半ばだった。若干時差が発生したのは、あまりに馬鹿げたこの文面が、当初見た担当者達の間でいたずら程度に扱われ一応の事実確認を開始したのが遅れた為だったからである。
シーマは呆れていた。渋田の不穏な動きは随分前から感じていたが、放置しておいた結果がこの馬鹿げた宣戦布告とは。しかし、ただ呆れているばかりもいられない。心配事もある。それは、アンドロメダが敵対する可能性があるということである。地球にあるアンドロメダ常駐大使に問い合わせても事実無根と返答がきているが、本国との連絡が取れていないとの事実も明かされた。
仮に布告文が真実だとして、戦争が開始された場合、冥王星の軍力はそれほど脅威にならない。冥王星に派遣された艦隊は、地球連合の軍総力からすれば、10分の1程度だからである。守られれば攻め落とすのは多少手がかかるが、攻められる分にはまったく問題にならない。ただ、アンドロメダが加わるということになれば話は違う。地球連合と同等の軍力を持つアンドロメダが冥王星軍と手を組めば、相対的に9対11となり、総数ではひけをとることになる。
シーマは、首相官邸に3人の大将を呼んだ。第一艦隊ヒート・バックマン大将、第二艦隊アタック・マウン大将、第三艦隊コーラー・ディアス大将の3人が、しばらくして機能重視のシーマの部屋に入ってきた。3人はシーマが座るデスクの前まできて、デスクの上にある一枚の紙に目を向けた。若くして大将になった、といっても既に40歳になった大男コーラー・ディアスが口を開く。
『これが、アンドロメダの軍組織なのですね。』
3人の中の一番の年長で、小柄だががっちりとしたアタック・マウンが続く。
『なるほど、かなり統制されたよい組織に見える。』
そして、地球連合総司令官を兼務する中肉中背のヒート・バックマンも続く。。
『艦隊は10。一艦隊の数をみてもこちらの戦力とそうは変わりませんな。』
3人が一言終えた時点でシーマがゆっくりと口を開く。
『さっそく、来てくれて感謝する。話は先の通信で伝えておいた通りだが、そう、見てもらっているこれが常駐大使が提出してきたアンドロメダの軍組織図だ。裏も取れている。ほぼ間違いないものだと思ってもらっていい。』
再度目を通し終えたコーラーが我慢できずに本音をこぼした。
『それにしてもあの渋田の阿呆はとんでもないことをしでかしましたな。』
それを受けたアタックも。
『奴のことだ。どうせアンドロメダの連中をあの悪知恵でたぶらかしたのではなかろうか。』
『そうですな。アタック大将。あやつならやりかねませんな。』
シーマは、未だアンドロメダの敵対が信じられずにいた。
『しかし、あのアンドロメダが渋田の口車に本当にのってしまっているのだろうか。』
『シーマ首相。ま、その話は、ここではよろしかろう。我ら大将を呼んだということは、それと戦うためでありましょう。』
『そうだな。ヒート大将。この組織図をもとにこちらの軍組織を再構成するとしよう。』
アンドロメダの10艦隊と7人の将軍。そして冥王星艦隊。これに対するのが、9艦隊と3大将。
『この冥王星艦隊は、明かに邪魔ですな。9対11になる前に、9対1で冥王星艦隊を先に殲滅するというのはいかがですかな。シーマ首相。』
『ヒート大将。私もその案を考えていたところです。あの冥王星惑星要塞を取り戻しておくことは戦術的に有利になりましょう。私からも提案します。シーマ首相。』
『なるほど。対アンドロメダに仮になったとしても、冥王星要塞が手にあるのとないのとではまったく戦い方が違ってくる。そう悩む必要もないだろう。さっそくそちらの方は頼めるかな。』
『私がその任にあたりましょう。』
コーラーが大きな体をさらに大きくして名乗りを上げたが、すぐにヒートに静止された。
『今、我らがしなければならないのは、軍の再構成。3大将の内一人が欠けても万全な準備はできまい。』
『では、私の代わりに誰を行かせると。』
3大将が頭の中に浮かぶ人物が一人いる。
『あれを向かわせましょう。』
『ヒート大将のとこのあやつか、いいですな。あれならばまずはやりとげましょうな。』
『やつですか。やつに代わられたくはなかったが仕方ないですな。』
『誰のことを言っている?』
『シーマ首相も存じていますよ。あの渋田よりもさらに悪知恵の・・・』
『ああ、なるほどあやつか。それならば心配あるまい。これでアンドロメダ対策に専念できるな。』
こうして、ユーリ・ザックに命令が下った。