冥王星大戦④ | YSNOVEL

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地球から冥王星討伐隊が出たのは、6月3日雨の降るさえない日だった。第4艦隊、第9艦隊、第10艦隊の3艦隊がその任に充てられた。討伐総司令官は、ユーリ・ザックで彼は第4艦隊の指揮も取る。第9艦隊のシュー・ツカサと第10艦隊のヒーロ・ハルが副司令官としてユーリ・ザックの指揮下に入る。 

 着任式では、連合首相のシーマ・ティーチが立派な演説をし賛同者を沸かせたが、討伐司令官達にはそれほど響かなかった。艦隊ドック隣接の避難用シェルターのホールに集まった討伐隊代表1000人と軍関係者300人とで式は行われ、賛同者の中にはシーマ・ティーチの妹、マリー・ティーチを始め、ヒート・バックマン、アタック・マウン、コーラー・ディアスの3大将、そして連合府代表のユーキ・ウノイがいた。

『冥王星討伐司令殿。随分と立派な式だな。あんな卑劣な男を討伐するのに名義なんているのか。』

ユーリ・ザックの右手に座っていた第9艦隊の司令シュー・ツカサが回りに感づかれない程度の声で口を開いた。

『総指令はやめてくれ、これまでどおりユーリでいいよ。』 

ユーリ・ザックは簡単な返答だけを椅子にすわり直す振りをして言った。

ユーリ・ザックの左手に座っていた第10艦隊のヒーロ・ハルは、形式ばったこの式に飽き飽きしていた。一応姿勢正しく椅子に座っているのだが、落ち着きなくゆらゆら体を揺らしていた。

『ユーリ、この後時間あるか。』

ヒーロ・ハルはすでにこの式に興味がなく、彼が興味があるのは、惑星要塞攻略の戦略についてだった。戦略案はユーリが行うのであるが、その案を実際に行うのはヒーロの役目だった。彼の実行力は連合軍一だと誰もが認めているところであった。

『ヒーロ、もちろん時間はあるよ。今日は朝までつきあうよ。』

ユーリは、間を見計らってしっかりと返事をした。シューがユーリをつついた。

『おい、マリー様がお話されるぞ。相変わらず美しいなー。』

すでにシューには嫁がいる。その嫁に告口するぞという視線を送ってから、ユーリも舞台上のマリー・ティーチに目を向けた。

『確かに、綺麗な人だな。』

マリー・ティーチの話もその場の人を魅了したが、それ以上に容姿やそのオーラに会場全体が魅了された。

『ユーリ、お前を誰かが睨んでるぞ。』

ヒーロがその違和感に気づいてユーリにつげた。ユーリがそれとなくその方を見てみると、確かに一人の士官がこちらを睨んでいるように見えた。

『身に覚えがないなぁ。』

声に出さずにユーリは思った。そして、ヒーロに仕草でそれを伝えた。軍士官であれば睨まれていようと命の危険はないだろと思い安心していたところへ、ヒーロがまた一言言った。

『あれは女だぞ。ほんとに身に覚えがないのか。』

今度は、睨んでいる人の方をしっかりと向き真実を確認しようとした。

『ユーリ・ザック中将舞台へ上がってください。』

はっとして、ユーリは振り向きその声がマリー・ティーチであるのを知ると急ぎ足で舞台に上がった。

『第4艦隊ユーリ・ザック中将です。』

と告げユーリは、マリー・ティーチからの言葉を待っていた。

『連合軍随一の戦術眼を駆使して、無事に任をまっとうしてください。』

マリーはゆっくりとやさしくユーリに言った。

『マリー様任せておいてください。必ずや成功をおさめます。』

いつもならそんな大口を言わないユーリだが、マリーの魅力に煽られてつい高揚してしまった。

マリーは、ユーリにあるものを差し出した。

『これは討伐隊へのお守りです。』

受け取ったお守りをなぜかユーリは両手で天高く掲げた。

それに伴い会場もなぜかどっと歓声で沸いた。マリーの行いはいつも人々に力を与える。マリーは兄シーマ・ティーチと10歳違いで、既に40歳はこえている。それでも容姿から見れば20代後半もしくは30代前半ぐらいで実に若々しかった。マリー・ティーチが最初に公の場にたったのは、シーマ・ティーチの最初の選挙の時で、兄への応援演説を地元の大衆1500人の前で行った。それからシーマ・ティーチが首相になるまで、ずっと付き添って人々を魅了し続けていた。いつしかマリーは地球人全員を魅了していた。兄シーマにしても自分より民衆の心を得ているマリーへ遺恨の念はまったくなく、素直に誇りに思っていた。シーマはずっと本当の首相にはマリーがふさわしいとさえ考えていた。ただ、シーマはこの首相の任の黒い部分も知っていたし、命を狙われる危険もあることも知っていたのでそれを実行することはなかった。汚い部分はすべて自分が引き受ければいい。今の連合国家に欠陥があれば自分が責任をとってすべて払拭して後にマリーにすべてを任せようとそう決心していた。マリーはその兄の思いを実は知っていた。だから、民衆の兄への不評に惑わされることなく常に兄を信じているのであった。

『光栄です。これで討伐隊の成功は確かなものになるでしょう。』

そういってユーリは、舞台から降りて席に戻った。

『では、これにて式を閉会する。』

司会のユーキ・ウノイが会場の雰囲気冷めやらぬ間に会を締めくくった。

 ホールから次々に士官が出ていく。シューは閉会と同時に会場を後にした。ユーリもすぐに会場から出たかったのだが、ヒーロにつかまれて椅子に座り戻された。

『おい、さっきの睨んでる女士官見たのか。どう見おぼえないのか。』

マリー様からのお守りを軍服の右の内ポケットにしまいユーリは答えた。

『確認しようとしたところだったんだが。マリー様を前にしたら今の今までそれを忘れてしまっていた。』

睨んでいた士官がいる方を見てみたが、すでにその辺りは空席になっていた。なんだったんだ。あそこは討伐隊関係側の席だが、また出会うことがあるのだろうか。面倒なことがまた一つ増えてしまったのかもしれない。

『ユーリ、俺達もここを出よう。』