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「群馬までは、どれくらいで行けそう?」

後部座席の白木が、助手席で高速ICから研究所までの道を確認している江口に言った。

「2時間30分かな。」

甲本が割って入る。江口は白木と甲本の言葉を耳を傾けず地図を見入っている。

「やはり地図には載ってない。・・・一度すみれさんに連れて行ってもらったことがあるんだけど・・・」

「すみれちゃん・・・?・・・・」

「ひょっとしたらあの光の中にいたのは、すみれちゃんだったのかもしれない。」

甲本が記憶を辿る。ふと車が揺れる。

「おいおい、コウ。思い出すのは後でやってくれ。」

車の揺れに驚いた白木が後部座席から言った。

「はっきりとした場所は思い出せないが、ひょっとしたらウッジーなら知ってるかも。」

車の揺れにも二人の会話にもまったく反応することなく、江口は独り言をつぶやく。

「ウッジか。そういえばあいつ今は群馬にいるんだったな。」

「誰?ウッジーって?」

ウッジーの記憶を辿る甲本と、それを見てまた車が揺れるのにビビる白木。

三人が甲本の自宅へもどり、車に乗り換え群馬に向かい1時間、

辺りはいつのまにか繁華街を抜け、道路を照らすライトだけが目立つ道に来ていた。

一瞬車がガタンと揺れる。白木がまた甲本に文句を言おうとする。

また車がガタンと揺れる。

「後ろをみて、しらちゃん!」

はっと振り向いた白木の目にはまたもやぼんやりとした光が見える。

「ひょっとしてあれか・・・」

江口がおびえ、白木が言う。

「コウ。なにかおかしい思いっきり飛ばしてくれ!」

恰幅のよい男がひとりなにかの本を読んでいる。アンテックな椅子とその横に置かれた丸テーブル。

丸テーブルの上にはティーカップがひとつ、男は本を20から30ページほど読み進める度にカップから口に一口分の液体を注いだ。

ここには朝も夜もない。今がいつなのかを知る必要はなく、また時間という概念もここにはない。

男はなにかをふと思い出し、本を丸テーブルに置き椅子からすっと立った。

全身白の衣装を着、その肩からかけたマントが印象的だ。

光がまぶしくあたりを包むが、影はどこにもない。椅子、テーブル、カップ、その他のものの影はなぜないのだろう。

また、ここ一面が真っ白なのはどうしてだろう。

理由は今は語れない。それは、まだ知ることも許されない守られた秘密だから・・・。


遠くから白い鎧とやはい白いマントを着た大男が、白い地平線の向こうからゆっくりとやってくる。

ゆっくりとした時が流れ、大男が恰幅のより男のそばまでやってくる。

「久しぶりだな。ターマージ。しばらくみない内にまた大きくなったな。」

「そうか・・・。それよりあれにはもう気づいているか?」

ターマージは、ふと思い出したことを忘れないように、読みかけの本にいつのまにか取り出した白いペンでなにかをメモった。


「カッオータ。まずはホットミルクでも飲むか?」

「そうだな。まずは飲もうか」


二人は白い丸いテーブルの周りに寄った。いつのまにかに用意された二つの白いアンティークの椅子、二つの白いカップとそこに注がれた白い液体。

彼らの時間はまた別の時間軸によって縛られているが、それを知る由もない。

今はただ、来るべき人たちの為になにをすべきかを話し合うためだけに二人はこの白い世界にいた。


「ほかの者達にはあっているのか?」

ターマージは、カップの白い液体をすすり、それをゆっくりと飲み込むまでは答える様子はない。

時が進む・・・。



3人は光が消えた後、しばらくは何も言うことができなかった。

甲本が肩からかけていたリュックがなにかの拍子で地面に落ちた。

白木と江口はまだ何も考えられないでいる。

車が一台、目の前で確かに消えた。それは間違えのない事実。

しかし、それが3人とも信じられないでいる。

江口が口を開いたのは、それから10分以上経過したころだった。

「あの車、あの車は、すみれさんの車だったと思う。」

「すみれちゃん・・・?」

甲本もふと我に返り江口に聞く。

「すみれさんといえば、あの研究所の人だよね?」

江口は、白木のその言葉を待たずに話し始めた。

「研究は進んでいたとは聞いていたけど、よもやこの段階まで来ていたとは・・・」

「正直、こうしちゃいられないって感じだよ。」

「今すぐに研究所に行かなければならない。」

誰と限定して話かけていたわけではないが、話終えた後二人を見た。

「えぐっちゃん、詳しい話はそこでってこと?」

甲本はなにかあると踏んだが、それを聞き出すのを急かしはしなかった。

また、質問に対しての回答も望んではいなかった。

「行こう。その研究所に。全ての謎解きはそこから始まる場所に。」

白木も首を立てに振り同意を示した。


あまりの突然の出来事に甲本と白木は先ほどまでの飲食の勘定払いさえ忘れていた。

さっそく移動しようとする二人を制し、勘定精算を済ましたのは江口だった。


残された彼らが、何を見て、何を知り、何を選び、どう行動するかはこれからの話。

急展開を迎えたストーリーはどこへ向かっていくのか・・・。

黄色一面の草原上に彼らの車はぽつりとあった。

「目にやさしくない色の世界だな。ここは。これが例の世界か?」

片岡が助手席のダッシュボードの上に足を乗せ、足を組み、シガーをふかしながら言った。

「そうよ。ここが例の世界。」

「この色は、安定度を表している。白から灰、紫、青、緑、黄、橙、赤、茶、黒へと安定度が下がる。」

「一番まずいところってさっき言っていたのは、黒の世界。黄色は中性の世界。」

上野とすみれが交互に話た後、片岡が聞く。

「安定度ってなんだよ。安定度って。」

上野が後部座席から片岡がいる助手席に乗り出し、フロントガラスの左前方を指した。

「あそこになにか動いている群集が見えないか?」

片岡が上野の指した先を見て驚く。

「あれはなんだ?煙、霧、・・・魂・・・か?」

「そうだな。魂が一番近いかな。あれがやつらの気配の中性な形とでも言えるかな。」

「安定度が中性であれば形状は霧上で、性格も穏やか。まあ、考える思考がなく漂ってるだけという感じだな。」

「ちなみに白の世界へは今のところ行くことができないのでなんとも言えないが、黒の世界のやつらはどれもグロテスクなやつらばかりだったな。」

「対処することは到底できないので、逃げるばかりだったが。」

上野は説明を続けたが、少し話し疲れすみれに変わる。

「一匹にしつこく付きまとわられることがあって、しっかりとその形状を見たわ。」

「ほんとグロテスク。で、どんな感じかというと映画で見るそれと同じようなもの。」

片岡が割って入る。

「ほんとか、映画で見るような悪魔が出てくるのか?」

赤いバックから携帯を出したすみれは、片岡にある画像データを見せた。

「そうなのよ。信じられないかもしれないけど、映画と同じ。ひょっとすると映画を作った人たちもあの世界に行ったことがあるんじゃないかって思えたわ。」

すみれの赤い携帯のディスプレイを片岡が覗き込む。

そこに撮られていたいたのは紛れもない悪魔。大きさも相当ある。

「こんなのに追われてよく無事で逃げおうせたな。」

車がガタンと少しゆれた。片岡がゆれを確認し、後部座席を振り返る。

そこには上野が二人いる。

女の名は、梢すみれ。後部座席の男は、上野健治。助手席のシガーの男は、片岡司。

3人はある異変にふと気づいた。それは彼らが恐れていることのひとつだ。本来ならこちら側の世界に来るはずがない者達。

その者達の気配を、上野はそうだと感じとり、すみれはその上野の表情から、片岡は悪寒だけをはっきりと感じていた。

「これが例のやつらの気配なのか・・・?」

片岡が車外周囲に目を向け言った。

上野は目を閉じて気配を正確に把握した。

「確かにやつらのだがこれはかなり低レベルのやつらのものだ。たいしたこともしてこれないだろう。監視がやつらの目的だと思う。ただ・・・」

すみれはもうひとつの異変に気づいていた。

「甲本さんが・・・こちらに気づいている。」

3人は店の方を改めて見た。そこにリュックを肩に下げた甲本がいた。

「まずいな。まだ下手に知られるのはまずい。」

上野が片岡に目の合図を送る。

「そうだな。で、上野。どうする?」

「このまま会ってしまえばうまくごまかすこともできまい。そして先ほどからの気配のやからも、今の甲本では対処できないだろう。」

「と、いうことは、またあちらに戻るということ?」

すみれがそう言ったのに対し片岡が驚いた。

「だ、大丈夫か?俺はあっちへ行くのは初めてだぞうまくなじむことができるのか?」

上野が笑いながら、また、甲本がこちらに歩んでくるのを見ながら言った。

「そんなに心配なことはない。さっき行ってきた一番まずいところにいくわけではないし、まあ問題ないだろう。それより甲本がもうくるぞ。覚悟はいいな片岡。」

新しいシガーをいつの間にか口の脇に挟み、ニヤリとした。

「しかたあるまい。行くしかないか。」

「わかった。行ってくれ。」

3人の意思がひとつに固まったとき、例の気配は車に近づく甲本のそばに近づこうとしていた。

車のエンジンがゴウとなり、ライトが甲本を照らした。

その光は気配を甲本から離し、車の方へいざなった。

車はそのライトからの光だけでなく、車自体も光を帯びはじめた。

甲本はなにかショーを見ている感覚に陥った。

「ま、まぶしい!」

甲本が声に出して言う間に、車は光に完全に包まれた。そして段々と光がすぼみ出し、そのすぼみの中に車が取り込まれていく。

「甲本、大丈夫か?」

店の入り口から江口と白木が走ってきていた。

車のシルエットはもうそこにはない。光の玉のみが浮遊し、その玉自体もいつのまにか残像だけになった。

「消えた。目の前から車が・・・。どうなってるんだ。」

甲本は光の残像を見たまま誰にともなくそう言った。

軽く男は咳払いをして二人の注意を引いた。片岡は後部座席にだれがいるのか既に知っている。
ここまではさすがに入って来ないだろう。いろいろ諸事情が彼らもあるみたいだし・・・。その声の方へ片岡は振り返る。追われてたのか?と同時に片岡は周囲を見渡す。周囲はいつの間にか暗闇をぬぐい去ろうとしていた。ちょっとしたなにかのきっかけで鳥達が目覚め、心地よい鳴き声を響きわたらせるのだろう。
 どこから来たんだ?片岡は女に問う。しかし答えたのは後部座席の男。一番やっかいな所さ。女はその言葉を聞きながら片岡の方をみて、両の手の平を広げ肩まであげてオーソドックスなリアクションをとってみせた。
片岡は店の外の駐車場にいた。シガー切れを補うために店の外に出たのだが、店の中にも売っている銘柄を片岡は愛用している。店をL字に囲む駐車場のちょうど折れるところまで来たとき1台の車のサイドランプがパッと一瞬だけ光った。ふと片岡は車ではなく店側を見た。ただ、この折れた部分は厨房やトイレがある側で、甲本が座る席は今見える店の角からまっすぐ奥にあたる角になるので見える訳はない。
車の中の女は、待たされるのが無償に嫌いなたちでハンドルをコツコツと叩きいらいらし始めていた。ふと思いつき細いシガーを赤いハンドバックから出したのは、片岡が乗り込んできたタイミング。片岡は車に入る前にすでにシガーをふかしていたので、しばらくすると車内は煙だらけになった。窓開けてくれよ。片岡が言い切る前に女はキー回し窓を少し開けキーをもどした。あなたの煙臭いわね。片岡はひといき深く吸い込んでその味を楽しんだ。
甲本は謎や不思議なこと変わったことに人一倍興味を持つ。さっとテーブルの上のハガキを手に取り自分だけが見えるように抱え込んで裏面を見た。上野が二人いる。白木が手ごとハガキを掴んで江口との間で裏面を見た。たしかに上野が二人いる。これが光学なのか。江口はそう適当にいい冷静を装っていたが、どこか思い当たる節があるらしく目線をどこか一点にうつし考えにふけった。白木は別の確信を得ていた。ところが、甲本が抱く謎は深まるばかりでなにもはっきりとしないでいる。それのどこが生きてる証拠なの?第一いつの写真だかわからないじゃないか。思ったまま甲本は言ったが、明らかにいつのものだかわかる証拠を写真に見いだしていた。なぜ、二人の後ろに片岡の子供がいるんだ?上野が死んでから生まれた子なんだぞ。しかも奥の鏡に移ってるのは江口じゃん。どういうことだか説明してほしいもんだ。甲本は江口にそういい迫ったが、江口は未だ彼個人の世界に深く入り込んでいた。ただ、一言。俺も騙されていた。そう言って。
上野は死んではいない。はっきりと白木は言って、濁るミルクティを透明のストローで吸い上げて一口飲んだ。甲本は不思議そうな顔をして白木の次の言葉を待った。片岡が割って入る。生きてもいないがな・・・。甲本がほろ酔いを拭い、一から話すようにと皆に迫った。
重い口は開かない。白木は完全に江口待ちでドリンクをストローでちびちび吸い上げている。当の江口は片岡がうまくまとめてくれると当て込んであえて沈黙を守る。片岡は面倒なことが嫌いだ。シガーの残りを確認し、買い足す体で席を外そうとしている。一度立ち行きかけたが、ふらっと戻りテーブルに一枚のハガキを置いた。 皆の目がテーブルの上のハガキに集まる。表には片岡宛の住所があり、差し出し欄には「群馬光化学研究所新規開発局 梢すみれ」とタイプライターされていた。裏には何が書かれているのだろう。甲本が、白木が、江口までもがそう思った。実は甲本以外の二人もそのハガキについてはしらなかったのだ。立ったままの片岡が裏をみればそのすべてが分かると言い残し、シガーを求め席を外した。
追加オーダーをして3分後にジョッキが、15分後に中肉中背の白木がやってきた。四人の中では彼が一番背が低い。入り口でこちらを指差し、店員に追加オーダーをした。片岡の隣に座り、皆に軽く挨拶をした後すぐさまフリードリンクを取りに席を立った。片岡が江口に言う。ここであの話をするのか?江口が軽くうなずく。江口も空になったフリードリンクのコップを満たす為に白木の後を追う。残された二人、片岡と甲本の間に気まずい雰囲気が漂う。片岡はもう何本目だかわからないシガーに火を付けてもくもくと間をつなごうとしたが、それも面倒だと思い直しやつらは生きてるらしいと一言だけ呟いて煙りの中に消えた。