柴田幸は、この光景を冥王星要塞メインブリッジのメインスクリーンでじっとみていた。『なんだこのひどいありさまは。なっちゃいない。こんなことなら自ら出陣するべきだった。』
柴田はそう言いメインブリッジ内のメンバに賛同を得ようとした。しかし、3人の大将達は誰一人それに応えることはなかった。
戦闘宙域では、以前混乱が続いていた。それでも両軍各艦の艦長が最善を尽くし、両軍の射程範囲外に離脱、集合したのはさらに15分後だった。各艦移動の際に通信障害も起き、両軍間の混線もいくどか生じていた。それは、混乱時に冥王星軍が旧連合軍の通信信号を利用してしまった為であった。いくつかの通信がやりとりされたが、冥王星要塞内ではその内容を傍受することはできなかった。柴田幸を始め、大将、中将達もその異常には特に注意を払わなかった。
射程内に最初に侵入したのは連合軍であった。そして、それを受けるように冥王星軍は微速後退を開始し当初の誘導作戦を開始した。誘導作戦は順調に成果をあげていた。見事なまでに要塞主砲の射程内に連合軍をおびき寄せていた。
『最初は見るに堪えなかったが、意外とやるもんだな。アース・アーチ艦隊司令に通信を入れてやるかな。』
要塞メインブリッジから誘導作戦の成功過程を見守っていた柴田幸が言った。
『今は、まだ作戦完遂までは行っていません。称賛は後ほどでいかがでしょうか。それに今は通信が混線しています。』
ツー・中村は、サブブリッジからの通信障害だけを柴田に言うべきだったと後悔した。
『ツー大将。私の指示がわからないのか。とにかく通信を入れろ。いいな。』
柴田幸は、状況判断に関してツー・中村に意見されたのが癇に障ったらしく、威嚇しつつ言った。
『わ、わかりました。』
ツー・中村は、それ以上反論せず、サブブリッジのバリ・ストーム中将に無駄な通信の指示を渋々了解させた。
『いいな。ツー大将。』
柴田幸は、頭の中で作りあげた展開を、あたかもツー・中村と共有しているように言った。
『な、なにがですか。』
ツー・中村は当然のように聞いた。その聞き方にまたも苛立ちを感じた柴田幸は机の上に足を投げ出しながら言った。
『わかるだろうが、主砲発射のタイミングのことだ。』
『はい。それならわかっています。サブブリッジにすべて任せてあります。』
『いいな。我が艦隊が要塞内に入った後だぞ。』
ツー・中村が柴田幸の主語のないいつもの言葉にあえてなにも言わなかったのをいいことに、柴田幸はサブブリッジ提案の作戦を理解もせず自分の策案のように復唱した。
『はい。タイミングはサブブリッジでとりますので問題ありません。』
『なに、それじゃ駄目だ。中将らにそれがわかる訳があるまい。発射の命令は私が出す。』
ツー・中村は、なにも言わなかった。それに対し柴田幸は、言葉を続けた。
『大事な決定は首相がするに決まっているだろう。ツーよ、お前は一般的なことがわかっていないな。とにかく、サブブリッジに指示を出せ。こちらが発射命令を出すと。』
ツー・中村は、それだけはやめておいた方がいいと進言しようとした。せっかくの作戦が水の泡になってしまう。味方が要塞内に入る前に発射してしまっては味方を巻き添えにしてまう。かといって敵を射程内奥深くに侵入されてしまっては主砲攻撃の爆発衝撃が要塞にダメージを与える。主砲発射のタイミングだけは、素人がやるべきではない。それはわかっているのだが、正直その無謀な判断に異を唱えることはツー・中村にはできなかった。
『わかりました。』
一言だけ言い、サブブリッジに指示を出した。いや、指示を出すふりをした。