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 冥王星艦隊と連合艦隊が一戦交えたのが、今より15分前。この15分という時間の間にとんでもないことが起こった。冥王星艦隊が誘導目的で攻めを受ける形をとっていると、連合艦隊左翼が猛烈なスピードで、冥王星艦隊の中に突進し、戦闘宙域が混雑し敵味方で戦艦が反転など混乱をきたした。その後、両軍が陣形を立て直すためお互いに離れ後退した。開戦後撃ち合いが始まったが、すぐにこの状態になってしまったので、一時両軍ともに攻撃を中止し互いの艦隊整備を優先させた為、この15分間に損傷は受けたものの沈んだ艦は一隻もなかった。
 柴田幸は、この光景を冥王星要塞メインブリッジのメインスクリーンでじっとみていた。『なんだこのひどいありさまは。なっちゃいない。こんなことなら自ら出陣するべきだった。』
 柴田はそう言いメインブリッジ内のメンバに賛同を得ようとした。しかし、3人の大将達は誰一人それに応えることはなかった。
 戦闘宙域では、以前混乱が続いていた。それでも両軍各艦の艦長が最善を尽くし、両軍の射程範囲外に離脱、集合したのはさらに15分後だった。各艦移動の際に通信障害も起き、両軍間の混線もいくどか生じていた。それは、混乱時に冥王星軍が旧連合軍の通信信号を利用してしまった為であった。いくつかの通信がやりとりされたが、冥王星要塞内ではその内容を傍受することはできなかった。柴田幸を始め、大将、中将達もその異常には特に注意を払わなかった。
 射程内に最初に侵入したのは連合軍であった。そして、それを受けるように冥王星軍は微速後退を開始し当初の誘導作戦を開始した。誘導作戦は順調に成果をあげていた。見事なまでに要塞主砲の射程内に連合軍をおびき寄せていた。
 『最初は見るに堪えなかったが、意外とやるもんだな。アース・アーチ艦隊司令に通信を入れてやるかな。』
 要塞メインブリッジから誘導作戦の成功過程を見守っていた柴田幸が言った。
 『今は、まだ作戦完遂までは行っていません。称賛は後ほどでいかがでしょうか。それに今は通信が混線しています。』
 ツー・中村は、サブブリッジからの通信障害だけを柴田に言うべきだったと後悔した。
 『ツー大将。私の指示がわからないのか。とにかく通信を入れろ。いいな。』
 柴田幸は、状況判断に関してツー・中村に意見されたのが癇に障ったらしく、威嚇しつつ言った。
 『わ、わかりました。』
 ツー・中村は、それ以上反論せず、サブブリッジのバリ・ストーム中将に無駄な通信の指示を渋々了解させた。
 『いいな。ツー大将。』
 柴田幸は、頭の中で作りあげた展開を、あたかもツー・中村と共有しているように言った。
 『な、なにがですか。』
 ツー・中村は当然のように聞いた。その聞き方にまたも苛立ちを感じた柴田幸は机の上に足を投げ出しながら言った。
 『わかるだろうが、主砲発射のタイミングのことだ。』
『はい。それならわかっています。サブブリッジにすべて任せてあります。』
『いいな。我が艦隊が要塞内に入った後だぞ。』
 ツー・中村が柴田幸の主語のないいつもの言葉にあえてなにも言わなかったのをいいことに、柴田幸はサブブリッジ提案の作戦を理解もせず自分の策案のように復唱した。
 『はい。タイミングはサブブリッジでとりますので問題ありません。』
 『なに、それじゃ駄目だ。中将らにそれがわかる訳があるまい。発射の命令は私が出す。』
 ツー・中村は、なにも言わなかった。それに対し柴田幸は、言葉を続けた。
 『大事な決定は首相がするに決まっているだろう。ツーよ、お前は一般的なことがわかっていないな。とにかく、サブブリッジに指示を出せ。こちらが発射命令を出すと。』
 ツー・中村は、それだけはやめておいた方がいいと進言しようとした。せっかくの作戦が水の泡になってしまう。味方が要塞内に入る前に発射してしまっては味方を巻き添えにしてまう。かといって敵を射程内奥深くに侵入されてしまっては主砲攻撃の爆発衝撃が要塞にダメージを与える。主砲発射のタイミングだけは、素人がやるべきではない。それはわかっているのだが、正直その無謀な判断に異を唱えることはツー・中村にはできなかった。
 『わかりました。』
 一言だけ言い、サブブリッジに指示を出した。いや、指示を出すふりをした。

 要塞サブブリッジでは、バリ・ストームが要塞運用の定期業務を行っていた。バリ・ストームの補佐にキー・ガッツという男がいた。彼は、出世欲が強くこれまでに幾度となく柴田幸に自信を売り込んでいた。他分野にわたる数々のアイデアを柴田幸に持ち込んでいた。柴田幸はこのキー・ガッツという男をかっていた。最近では柴田幸とキー・ガッツが意気投合し、ツー・中村を含め3人で政策立案を行うようになっていた。ただ、その政策はいずれもくだらないことで、それを適用させられる要塞内の人々にとっては施行される度、悩みの種が増えるだけでしかなかった。軍務においては、キー・ガッツが監査長官に就任し執拗な監視を行い、上層部の気に入らない人物の排除を行っていた。そのキー・ガッツが今目をつけているのは、バリ・ストームであった。現状もっとも要塞運用に長けているのはバリ・ストームであったが、彼がミスをおかしたり自分が彼の任をすべてまっとうできるようになったと判断できればいつもの手段で彼を排除しようと企んでいた。
 バリ・ストームとキー・ガッツを除いて、サブブリッジにはあと4人がいた。ワッツ・ツイン中将、ニダ・ダック少将、硯一理少将、流不落少将の4人だった。
 『ニダ。例のプログラムはすでに終わってるかい。』
 ワッツ・ツインが、ニダ・ダックの席にきて言った。
 『ああ、問題ない。硯一理の部分も終わってると思うよ。』
 ニダ・ダックが答え、続き、硯一理も答えた。
 『ああ、こっちも終わってる。時間があまってからさらにあっちのやつもやっといたよ。』
『ちなみにこちらも終えたよ。なかなかいいのができたと思う。』
 硯一理の返事の後で、流不落が言った。
 この4人は、要塞内の技術部門を担当する。ワッツ・ツインが技術部門長で、バリ・ストームからの運用要望に応え、残り3人と分業で、実際に要塞を動かしていく役割を担っていた。彼らは、未だに地球連合軍への忠誠を失ってはいなかった。ただ、それが表に出さないように結託していた。今回の戦いにおいて彼ら4人はある準備を行っていた。それは現時点では4人以外誰も知る由もないことだった。その4人に対し、キー・ガッツはほぼ無視を通していた。所詮は技術要員、彼らと関わり合う時間は自分にとって無駄であると考えていたからであろう。また、バリ・ストームと4人はというと、そこそこお互いをよく思っていたので上手く連携がとれていた。
 『アース・アーチー艦隊司令。そちらの準備はどうかな。』
要塞内の準備を終えたバリ・ストームが、冥王星要塞常駐艦隊の司令、アース・アーチーへ状況確認を行った。
 『こちらは問題ありません。先ほど、通信でこちらにも作戦が指示されました。誘導および包囲がメインですので、機動性の高い艦を先行させ、残りは要塞守備に回すつもりです。』
 アース・アーチーは、地球連合在籍時には少将で、第8艦隊の司令長官であった。本来彼の任は、アンドロメダもしくは海賊団から冥王星要塞を保守することであった。ただ、柴田幸の反逆行為で事態は一変し地球連合に反旗を翻すことになってしまった。地球連合には絶対の忠誠を行っていた彼は、この事態が発生した時、第8艦隊旗艦にいてそれを知った。そして、それを知るとすぐにある場所へ通信を行い、彼の尊敬する人物へ相談をした。アース・アーチーは、その人物からの指示をうけ、冥王星国家で働くことにした。第8艦隊は冥王星国家創設の際に、その艦隊カラーをグリーンにするように柴田幸に支持され塗装作業に追われた。ところが、今出港するすべての戦艦は塗装がすべておとされ、もとの連合軍の艦隊カラーになっていた。
 『そろそろかな。はやくことを済ませてゆっくりしたいものだ。』
 誰に言うでもなく、アース・アーチーは出撃命令を待っていた。
 要塞メインブリッジに、柴田幸とツー・中村が戻ってきていた。柴田幸は、ツー・中村に戦いの準備がすべて整ったかどうか確認させ、その後準備万端を知った。
 『では、行こうか。すべての誤りを正す第一歩を踏み出すとしよう。・・・ツー大将、ゴー!だ。』
柴田幸の言葉を聞いたツー・中村は、バリ・ストームへ作戦開始を指示した。
メインブリッジのメインスクリーンには、海賊団が包囲準備宙域へ解散し、その解散した宙域へ常駐艦隊が進んでいく絵が映っていた。
連合軍はシュー・ツカサの第9艦隊が魚の背骨のように先頭から後方に伸び、その魚の身になるように、左翼にヒーロ・ハルの第10艦隊、右翼にユーリ・ザックの第4艦隊が布陣した。第9艦隊旗艦は、連合軍のちょうど中心に陣取っていた。
『ヒーロ。段取りはこちらでやるので、後はそちらでうまいことやってくれ。』
 シュー・ツカサは、伸びきった第9艦隊の運用に苦労しながらも、余裕を見せて旗艦間通信で艦隊長達をしきっていた。
 『問題なし。こっちの準備はばっちり。いつでもいい。』
 と言ったヒーロ・ハルは、第10艦隊各艦に作戦行動の徹底を念押した。
 第4艦隊の運航は、ユーリ・ザックではなく、ジョン・キーエ少将が行う。彼は、艦隊運航に関しては、シュー・ツカサに肩を並べる。ただ、戦術的な運航は得意としない。戦術・戦略に特化したユーリ・ザックと、艦隊運航に特化したジョン・キーエが組むことによって連合軍最高の艦隊をなしている。
 『ジョン少将。そちらはどうか。』
 シュー・ツカサは、第4艦隊の行動についてはユーリ・ザックに問うことはない。決まってジョン・キーエに聞くことにしていた。なぜなら、ユーリ・ザックに聞いても「それならジョンに聞いてくれ。」と言われるのが関の山だから。
 『シュー中将。こちら第4艦隊も問題ありません。』
 連合軍すべての艦隊の確認を終えたシュー・ツカサから「やるぞ。」とユーリ・ザックに言った。ユーリ・ザックは一言「いつでもいい。」とだけ言った。シュー・ツカサはそれを聞いて、連合艦隊を会戦宙域への移動を開始した。
 2798年6月12日冥王星要塞周辺宙域。3000隻を超える海賊船が会戦を控え停泊していた。
 冥王星要塞メインブリッジには、柴田冥王国家首相をはじめ、ツー・中村大将、ユイ・フォン大将、ユウカ・ビート大将の4人が、メインスクリーンに映る海賊船団を見つめていた。柴田首相は、この情景を見て勝利を確信してニヤリとほくそ笑んだ。この戦いに臨むにあたり大将に昇格させられた3名は、正しい状況判断もできないまま、ただ、柴田のご機嫌伺いに注力していた。
 『そろそろ、彼らの旗艦に出向くとしようか。』
 そう言った柴田は、ツー・中村に移動船の用意を命じた。ツー・中村は、柴田首相自らが要塞外に出向く意味を見いだせずにいたが、多少のことでも彼に逆らうことなど考えられなかったので、すみかやに移動船の手配をした。
 15分後、要塞から出た移動船は、海賊船団の旗艦へ到着した。柴田首相とツー・中村大将は、到着後すぐに旗艦のメインブリッジに急いだ。メインブリッジでは、3人の団長が彼らを迎えた。3人とも海賊には似合わぬ容姿を持った美男子だった。柴田幸は、背が低く小太りであったが、顔に絶対の自信があった。軍人になっていなかったら間違いなく芸能方面で成功していたと思っていた。だから、彼ら海賊団長達の容姿を見てもなにも思わなかった。ツー・中村は、その容姿に見とれていた。なんて美しいんだ。まるで女性のようだと。
 簡単な挨拶を済ませた後、メインブリッジ脇の小部屋に5人は移動した。6人掛けのデスクの上に、冥王星宙域のデジタルマップが置かれていた。5人はこれを囲むように座った。海賊団長達は、柴田首相をマップの見やすい位置に座らせようと誘ったが、柴田幸は自分が見るよりツー・中村が見た方がよいと言い断った。それにより、マップの見やすい位置に座わることになったツー・中村であったが、戦術は得意分野ではなかったので、面をくらった。ツー・中村は、要塞から移動する前にバリ・ストームかワッツ・ツインを戦術立案の為連れていくべきだと柴田に勧めた。それに対し柴田は自分が直接やるから問題ないときっぱりと断った。だから、安心していた矢先のことで、またいつものことかと内心憤慨したが表には出せずにいた。
 戦術会議は30分で終わった。内容的なところはほとんどなく、3人の団長達が話すことを柴田幸とツー・中村はただ聞いているだけだった。時に、柴田が確認や意見を挟んだがどれもくだらないどうでもいいようなことだった。戦術は3点。冥王星常駐艦隊で連合軍を要塞正面に誘導。要塞正面の連合軍を海賊船団と常駐艦隊で包囲。離脱できない連合軍を要塞主砲で撃破。この3点のみだった。本来ならこれに基づきより詳細にいろいろと決めるのだが、柴田がそれ以上の会議進行を許さなかった。柴田は、今回の討伐隊に地球連合の大将が参戦していないとの情報を得ていて連合軍の戦力を明らかに過小評価していた。また、この宙域に集まった海賊船団の忠誠を微塵を疑っていなかった。彼にとっては、今回の戦いは単に要塞の実戦稼働確認程度にしかなかった。確かに、要塞常駐艦隊は地球連合軍の主力部隊が充てられていたので戦力はあった。また、要塞にしてもその戦力は数艦隊に匹敵すると疑いようはなかった。優秀な要員が配置されてもいた。ただ、彼は知らなかったそれを上手く動かす方法を。
 ツー・中村は、これまでにずっと組織の中核について柴田にどうするべきかと言い、彼にそれを意識させるように働きかけた。ツー・中村は、柴田ほど無智ではなかったし、現場の状況もよく見えていたので、上層部とそれ以外のつながりが薄いのを心配していた。以前まではギザ・サワーがその繋ぎの任を一手に引き受け円滑に組織を動かしてくれていた。ただ、もう彼はいない。柴田の愚行のせいで彼は無駄に命を落とす羽目になった。ギザ・サワーの行いは少し度をこえているとツー・中村は思ったが、それでもそれほどに連合に忠実だったということも無視できずやるせない気持ちだけが残っていた。ギザ・サワーの代わりは誰がやるのか。自分にはできないとツー・中村は正確に自分の力量は把握できていた。だから他の誰かがそれを担う必要があった。現状いるメンバーから考えれば、バリ・ストームが適任であった。それゆえ、柴田にバリ・ストームをもう少し上層に参加させた方がいいと言ってきてが、柴田の毛嫌いのせいでそれは入れられることはなかった。未だにあいたその繋ぎ役がないままこの戦いに臨むのは気が引ける。それでもやはり自分にはなにかを変えることはできない。もはや流れのままに行くしかないと心を決めた。心配事は絶えない。それでも・・・。それでも・・・。
 冥王星討伐司令ユーリ・ザック中将と第9艦隊フミ・エリック少将は、士官学校時代にある事件を通して出会っていた。ただ、ユーリ・ザックはその事を全く覚えておらず、フミ・エリックにしてみれば、過去にユーリが言ったことと自分を見てもなにも覚えていないことに腹を立てていた。
フミ・エリックが参謀になったのも、ユーリ・ザックの戦略家としての才を尊敬し憧れの後に就いた職位であった。今年28歳になる長身でスレンダーな女性士官は、これまで一途にユーリ・ザックを追ってきていた。聡明ゆえに自己の力量を計りすぎてしまうところもあった。士官学校卒業当初の第一志望で、ユーリが当時所属する艦隊へ希望を出そうとしたが、今の自分がユーリの為になることは愚か、邪魔になってしまうのではないかと判断し、士官教育に長けたアタック・マウン大将の艦隊に希望を出した。太陽系各所でのテロ鎮圧に取り組み、戦術士としての才を徐々に伸ばし、第2艦隊の参謀まで登りつめた。今回アタック・マウン大将が彼女を、直属の部下であるシュー・ツカサ中将につかせたのは、地球連合随一の艦隊運用がなんたるかを学ばせる為だった。決して、ユーリ・ザックとの関係を考慮してではなかった。ただ、ユーリ・ザックの戦術を、運用面から見ることによって学びを得ることを期待していた。
ところが、実際のところフミ・エリックは憤慨していた。確かに、ユーリ・ザックは自分に言った。というより誓った。約束した。なのに、なにも覚えていない。それとも、わかっていてとぼけている。まさか、すべては嘘。騙されたんだろうか。フミ・エリックは私情でいっぱいだった。
第9艦隊の旗艦メインブリッジでは、開戦前の準備でシュー・ツカサが各所に指示を出していた。艦隊各艦のコンディションや配置、補給や航海経路などあらゆるリスクに備えていた。それを、フミ・エリックにも学んでもらおうとしていたのだが、どうも調子が悪いようで見込が得られなかった。
『フミ・エリック少将、どこか悪いのか。』
シュー・ツカサは後方支援指示の通信を終えたところでフミ・エリックに声をかけた。
『なんでもありません。大丈夫です。』
フミ・エリックは平静を装って言った。
『いつもの君じゃないはずだ。ちょっと、会議室で話そう。』
シュー・ツカサはそう言って、会議室へ入っていった。再度、問題ないと言おうとしたフミ・エリックだが、これ以上は忙しいシュー・ツカサの手間になる可能性があると思いシューの後を追って会議室に入った。
二人が席について、シュー・ツカサが会議室の機能用ボタンのいくつかを押した。
『僕がアタック大将から聞いている君とは随分違うね。とても冷静で聡明だとは思えない。やはりなにかあるのだろう。』
シュー・ツカサは、あまり本音で話すことは好きな方ではないが、彼の周りにいるメンバーに比べればうまくできるので、こういう役が回ってくるんだなと諦めて話始めた。
『なにもありません。あるとすればまだ着任そうそうで環境になれていないせいかもしれません。』
また無用なことを言ってしまったとフミ・エリックは思った。ただ、もうこれでやり過ごすしかないと思った。
『ユーリ・ザックか。』
シュー・ツカサは、状況把握が抜群である。それは、ほぼ万事で力を発揮することができた。シュー自分自身のことであれば多少鈍る時もあるが、客観的であればあるほどそれは磨きがかかった。シュー・ツカサは、彼らが出会った時からなにかあるとにらんでいた。
『違います。私はただ、一生懸命にやってきただけです。・・・・』
『・・・・それなのに。』
ふと、漏れた彼女の言葉にシュー・ツカサは確信を得た。
『なるほど、ユーリは他の事はいっさい見えないからな。』
『違います。違います。ユーリ中将とは関係ないです。』
フミ・エリックは動揺してパニックに陥ってしまった。
『話してもらえるかな。フミ。』
シュー・ツカサは、あえて敬称を省いた。それは私情を受けとめようと告げるためだった。そう言われても話すはずはなかったフミ・エリックだが、かってに口から洩れてしまった。すでにもう留めておくことができなくなってしまっていた。
『士官学校の創立祭の時に、彼は確かに言ったんです。・・・』
士官学校の創立祭は、毎年行わる。彼とはユーリだろう。ユーリが創立祭に参加したのは彼が在学した4年間だけだったから、今から約10年前のことだな。シュー・ツカサは彼女の言葉から当時を思い出す。
『なんて言ったんだい。』
『艦隊司令になったら、必ず迎えにくるよ。って。』
フミ・エリックは思い出すというより、今でもあの場面が鮮明にさっきのことのように頭に浮かんでいた。
『う~ん。これはちょっと難しい話のようだな。』
シュー・ツカサは、なんとなくだがうっすらとどういうことだかわかった。ユーリ・ザックは余計なことを言ってしまったんだろうと想像できた。そして、このフミ・エリックという女性は、その余計なことをずっと信じてきてしまったのだろう。なんて純粋な女性だ。自分の嫁も正直で純粋だが、これはまさに原石だと言えるかもしれないな。そう思いながら、フミ・エリックの言葉ではなくなにか他の応答を待っていた。
『・・・・。』
『思い出したよ。』
フミ・エリックはその言葉で驚いた。ユーリ・ザックの声が確かに聞こえた。
『ごめん。君が彼女だったんだね。』
ユーリ・ザックの声が会議室の通信スピーカーから聞こえた。
『思い出したのか。ユーリ。』
『ああ、思いだした。すまない、シュー。』
シュー・ツカサは、会議室にいるフミ・エリックと通信先にいるユーリ・ザックに少し席を外そうと告げて会議室を出た。そして、リフレッシュルームへシガーを入れにいった。
会議室の二人は、過去溝を埋めた。そして、リフレッシュルームから会議室へ戻ろうとした時、中からフミ・エリックが出てきた。彼女は眼を真っ赤にして涙を拭いた跡が見えた。ただ、シュー・ツカサはすぐに大丈夫だと悟った。フミ・エリックはシュー・ツカサに、「もう大丈夫です。これで集中してやっていけます。ありがとうございました。」と言った。シュー・ツカサは、頷き彼女にいくつかの指示を出し会議室に戻った。そして、再度ユーリとの通信をとった。
『どうだった。野暮なことは聞きたくない。キーポイントだけ言ってくれ。』
シュー・ツカサは、そう言いユーリ・ザックの言葉を待った。
ユーリ・ザックは、3つのことを言った。ことの始まりは、士官学校の創立記念祭でのマリー・ティーチ暗殺テロ事件であり、そこでマリー・ティーチの身代わりとして協力をフミ・エリックに得ていたこと。テロの事情を説明している余裕がなかったので、協力の代わりに約束をしたこと。テロの危険が迫った時に、彼女を安心させるためにさらに約束したこと。これら3つのことを、事件解決後ユーリ自身忘れていた。それは、ユーリが男女の駆け引きに疎いところを差し引いても、予想以上に彼女の心を射止めてしまっていたことに気付かなかったからであった。
『男女のことはなにも予測できないもんだ。彼女について学ばせてもらうことにするよ。』
ユーリ・ザックは、約束の責任をとることにしたらしい。シュー・ツカサはマリー・ティーチ暗殺テロ事件を知っている。彼もユーリ・ザックと協力してマリー・ティーチを守ることに成功した。そして、その際にどんな危険があったかも知っていた。ユーリとマリー様に似た誰かが一緒にいたのは知っていたがそれがフミ・エリックだとは。二人は危機的状況を二人で乗り越えた。きっと運命的なつながりがあるのだろうと思った。
『約束の内容は聞かないのか。』
ユーリ・ザックが言った。
『いいさ。もうわかったよ。』
『さすがだな。シュー。・・・結婚する。僕らはこの討伐後、結婚する。』
『わかってるって。・・・』

 ここまでの一部始終を監視していたユーリ・ザックがユーキ・ウノイに対して言った。
『ユーキ総指令。先のとおり、処罰はこちらに任してもらってもいいですね。』

 ユーキは首を縦に振ると、監視室から出ていった。ユーリ・ザックはコーヤス・エーイに伝言を頼むと彼もまた監視室をこう独り言を言って出て行った。「98点だ。」
 伝言を受けたコーヤス・エーイが尋問質に入り、シュー・ツカサに耳打ちした。シュー・ツカサはその伝言内容に驚きを覚えた。だが、なにか強引だが冷静を装って海アスカに話始めた。
『妹達の件だが、条件次第で見逃してもいい。』
 条件は3つ。「海」海賊団は他の海賊団をすべてまとめ海賊団の協会を作り仕切ること。海賊協会の行動は、「海」海賊団のこれまでの行動のとおり違法商船のみを強奪対象とし、、貧困地域の民衆に分配すること。これらの条件を厳守させる為、海アスカを人質としシュー・ツカサの監視下におく。ただし表向きは、シュー・ツカサの婚約者として常につき従うこと。
 これをシュー・ツカサが言い終わり、最後の部分において海アスカから反発を受けることを覚悟していたが、その条件はすんなりと受け入れられた。
そしてしばらくの後、どんなことがありシュー・ツカサと海アスカが正式に結婚するに至るのかは二人のみぞ知る。ただ、その事象さえも、ひょっとするとユーリには予想できていたのかもしれない。
 尋問室でなにもしゃべることなくシュー・ツカサの隣に座っていたヒーロ・ハルは、海かほりの方をじっと見てある可能性について頭の中で考えていたが、彼の場合はこの先痛いしっぺがえしを受けるだけで何も起こらなかった。
 ユーキ・ウノイは、コーヤス・エーイに護衛され、先に地球に向かった第4艦隊を追って高速艇で木星を離れた。ユーリ・ザックは、それほど急ぐこともなくヒーロ・ハルの第10艦隊の母艦に便乗してくつろいでいた。
『ユーリ、今回はどこまでが予想の範囲内だったんだ。』
 ヒーロ・ハルは、ユーリ・ザックがいつも戦略立案とその結果とで、どこまで予想できていたかを答え合わせし採点していることを知っていた。
『1つ初歩的なミスをしてしまった。だから今回は98点というところだよ。』
 海賊団のボスが女だったってことか、それともまさか木星にドックがあったってことかとヒーロ・ハルは尋ねた。
『違うよ。すでに明かされている情報をつないだら誰でもわかるようなことではないよ。もっと初歩的なことさ。』
 とユーリ・ザックは言い、さらに続けた。
『男と女が出会えば、自ずと何かが芽生える可能性もあるものさ。』
 ヒーロ・ハルにとっては、海アスカとシュー・ツカサのことは知らない。だから、ひょっとして自分が海かほりに興味があるのを見透かされているのかと思いヒヤリとした。そしてそれ以上は深く聞くことができなかった。
 かくしてイオの討伐は成功という形で幕を下ろした。連合本部に海賊団として連れられてきたのは、「海」海賊団員ではなく、討伐当初に捕獲した小物の海賊達だけであった。連合本部首脳はこの事実を知りながらなにも言うことはなく功績を認めた。そして、ユーキ・ウノイ中将は、連合府副官房長官に昇格。ユーリ・ザック、シュー・ツカサ、ヒーロ・ハルの3人は、そろって中将に昇格した。
 イオの討伐後、ユーキ・ウノイが第4艦隊の艦隊司令を退いた為、艦隊構成に一部変更が行われた。第8艦隊が、第4艦隊に統合され、艦隊司令にユーリ・ザック中将が抜擢された。
 第4艦隊の母艦のメインブリッジには、大佐から少将に昇格したジョン・キーエとユーリ・ザックが話込んでいた。
『なぜ、「海」海賊団が三姉妹だとわかったんですか。』
 作戦立案時に参加できなかったジョン・キーエが未だに明かされない疑問の答えをユーリ・ザックに要求した。
『簡単なことだ。郷に入れば郷にしたがえさ。海賊になって同じように違法商船を強奪し、貧困地域に分配したのさ。それでその地域の民衆と打ち解けて、民衆にのみ正体を現わしていた「海」三姉妹の存在を聞き出したのさ。』
 なるほどとジョン・キーエは思った。それにしても、討伐開始から作戦立案時までそう時間がなかったのによくそこまで情報を集めたものだ。と、ユーリ・ザックを改めて尊敬した。そして、ジョン・キーエはさらに疑問の答えを要求した。
『では、なぜ海賊団のドッグが木星にあるとわかったのですか。これだけは民衆に聞いてもわからないことでしょう。』
 ユーリ・ザックは、君も必ず今度から作戦立案には参加するようにとジョン・キーエに言った後で、何度目かのネタばらしを始めた。
『以前の討伐時のデータを統計するとある一つの結論に達すことができた。まず、伐徹底時に必ず木星基地での補給をしている。次に、地球への帰路が計ったように半分を超えた後に海賊団が活動再開している。ここから推測できるのは、なんらかの手段で木星から帰還する討伐隊を監視しているのではということ。だから、木星基地にここ何年かで怪しい船を見たことがないかを調べさせた。すると、所属不明の連合軍の船がなんども目撃されていることがわかった。さらに、その目撃の内の数件は、形式的な所属確認が行われてていて、いずれも連合府直属艦隊の秘密訓練という返事がされ木星の裏側方面に移動していったということもわかった。当時の担当兵は、連合府直属ということのみで事実確認せずに木星基地の裏側には訓練施設があるものだと決めつけていたらしい。以上のことから、海賊団のドックはここしかないと断定できた。そして、海賊団は連合軍の船を保有しているということ、さらに今まで海賊船団が見つからずにいたのは、見つけるべき海賊船が連合船だということに気がつかなった為だともわかった。』
 言われてみれば確かに大したことではないと思えるジョン・キーエではあるが、だからといってそれなら自分でもとなるほど浅はかでもない、すべての要因を作戦に結びつけたユーリ・ザックはやはり凄いと思った。この人の部下であってよかったと純粋に思った。
 第四艦隊戦闘機隊隊長ユキ・ダラーが、あらゆる形式を無視してメインブリッジに入ってきた。彼は決してふざけた男ではないのだが、ことこのユーリ・ザックが指揮する艦隊においては気を許しきっていた。ユキ・ダラーとジョン・キーエは共に、ユーリ・ザックの士官学校の2年後輩である。ユキ・ダラーとジョン・キーエらは共に交友することもなかったが、ユーリ・ザックがその間に入ることで絶妙のいい関係を築いていた。
『今回も、僕の活躍の場はありませんでしたね。』
 ユキ・ダラーは冗談半分でユーリ・ザックに言った。
『君たち二人が活躍するのは、まだまだ先のことさ。それまでしっかりと準備でもしていてくれ。』
 根拠のないその言葉に期待することもなく、いつものように空返事をしたユキ・ダラーは、メインブリッジのモニターに展開されていた宇宙地図をじっと見つめ言った。
『平和なものですね。』

 第9艦隊母艦の捕虜尋問室には拘束された海三姉妹と、ヒーロ・ハル、シュー・ツカサがいた。海アスカと海かほりはここへ連れてこられるまで口を閉ざしたままだった。海未来はコーヤス・エーイに投げ飛ばされ気絶してからまだ目を覚ましていなかった。
捕虜尋問室のとなりには、尋問室をマジックミラーで監視できる部屋があった。今、その部屋にユーリ・ザックとコーヤス・エーイ、ユーキ・ウノイが待機し傍観していた。
最初に口を開いたのは海アスカだった。
『なぜここがわかった。』
 海アスカはヒーロ・ハル、シュー・ツカサ、どちらとも決めず質問した。
『そこでのびてる彼女が、教えてくれたのさ。』
 シュー・ツカサが答えた。そして間を少し空け、すべてのネタ明かしを始めた。
 違法商船の情報を事前にリークし、それを連合が先に取り締まりコーヤス・エーイを潜伏させた。予測どおり、コーヤス・エーイが潜伏した違法商船が襲われた。違法商船内の物資が海賊船に移されるのを確認した連合艦隊が海賊船団を包囲した後、海賊船団は包囲網を突破した。海賊船団が木星の海賊船団ドックに帰還し、強奪物資に紛れていたコーヤス・エーイが海賊船団ドックに侵入。ここまで、シュー・ツカサが言うと、海アスカが遮るように言った。
『あの侵入者が知らせたのか。』
 シュー・ツカサは首を振り、そうではないと言った。知らせる為に通信機器を使用するとしても、その通信範囲は限られてしまうし、通信電波の傍受対策は海賊側ですでにしているだろうからそれで潜伏がばれてしまう。彼はあくまでここに侵入しタイミングよく君らの注意を引くことだけだった。そう言い終わり、遮られる前の話に戻った。
連合の討伐隊2千隻が海賊船団を包囲し、あえて包囲網を突破させた。海賊船団を捕獲する為に使用したレーザーネットでは、こちらとしても海賊船を捕獲することはできないと考えていた。それでもあえてレーザーネットを使用し海賊船にひっかけたかったのは、そのレーザーに含まれる特殊な粒子を海賊船に付着させたかった為である。この粒子は電気質ではないので海賊団の傍受対策の目にもかからない。ただし、連合が開発した特殊な装置であれば、それを追跡することが可能だった。追跡有効範囲は限られるが、ドックとなりうる場所で待機して待つということであればその問題もなくなる。
ここで海アスカがまた遮る。
『まて、ドックとなりうる場所なんていくらでもあったろう。なぜ木星だとわかったんだ。』
 当然の問いだとでもいうように、シュー・ツカサはそれに答えながら続けた。
 「海」海賊団が、奪った物のほとんどを貧しい惑星の人々に分け与えてしまうという行動から、海賊団自体にはそれほど財源がないと判断した。つまり、衛星やコロニー、巨大隕石を装った船団ドックではないと推測し、惑星一本に絞った。地球、、火星、水星、木星、金星、土星、天王星、海王星すべてに監視艦として2千隻を分散して待機させておいた。移動するすべての物体を付着粒子のみに反応する特殊装置で監視続けること2日、ついに木星にてその動きを確認。監視状態のまま追尾しこのドックを発見するに至った。次に討伐軍が撤退するのを見せ危険が完全に去ったと錯覚させた。2千隻の艦隊は確かに木星基地から撤退した。「海」海賊団の監視船は現在もそれを尾行しているだろう。撤退した艦隊とそれを尾行する監視船を見送った後、こちらが用意した監視船に乗り込みドックに堂々と帰還するという形で入り込んだ。入り込む際に、君らの用心深さを違うものに向ける為、コーヤス・エーイがここで一役かった。また、ドックでのやりとりに乗じ連合2千隻の艦隊の内1千隻がドックに入りドッグ内の制圧を行った。先に言ってしまうが、討伐隊はそもそも4千隻の艦隊だった。それをあたかも2千隻しかいないように見せていた。2千隻しかいないという先入観からすれば、2千隻が地球に向かっていけば討伐隊が完全撤退したと錯覚するのは必然。結局、君らは捕まるべくして捕まったんだよ。そう言ってシュー・ツカサは話を終えた。
『なるほどな、よーくできた作戦だ。お前が考えたのか。』
 海アスカはシュー・ツカサの方を見て言った。シュー・ツカサはそれには答えずただニヤッとしただけだった。
シュー・ツカサのこの意味深な行動は、海アスカに対してのものではなくユーリ・ザックに対し手のものだった。ユーリ・ザックが発案したこの作戦の全容をさも自分が考え出したかのように話しているので、当のユーリがどう思っているかを考えるとついニヤリとしてしまったのだった。
ユーリ・ザックが書いた台本を読む役者でしかなかったシュー・ツカサではあったが、それでも海アスカの尊敬と厚意を得るには十分だった。
『諸君、「海」海賊団のドックは木星連合基地の真裏にあるとのことだ。』
ユーリから第9、第10艦隊の全員にそう伝達された。
 消えていた第4、第8艦隊が木星基地に現れたのはそれから3日後だった。「海」海賊団所有の連合軍艦は、補給を終えた連合討伐隊が地球へ帰っていくのを監視していた。
 木星連合基地の真裏に位置する「海」海賊団のドックでは、その連絡を受けた3人の美女が話合いを始めていた。
『アスカ姉。それは5日前、私が追われた討伐隊に間違いないわ。』
 「海」海賊団を束ねる「海」という男は実は存在していない。実際に海賊団を束ねていたのは、海三姉妹だったのである。長女アスカ、次女未来、三女かほりの3人がそれぞれ船団を持ち、別行動で「海」海賊団を名乗っていた。長女アスカは、商船の船団。次女未来は、連合軍艦の船団。三女かほりは、旅客の船団であった。今回討伐隊に見つかったのは連合軍艦の未来の船団である。
『なるほど。それにしても今回はすんなりと逃がしてくれたわね。それが気になるところでもあるけど、討伐隊も不甲斐なく帰ったみたい出し問題はないみたいね。』
 海アスカはそう言い、二人の妹達を見た。1時間ほどして監視船が戻ってきた時、侵入者の報告が海未来のもとに入った。商船から奪った物を宝物庫へ移動している際に商船から船団に潜り込んだらしい。海アスカと海かほりもそれを知り侵入者を確認しにきた。
『おまえは何者だ。商船の護衛か。奪われた荷物を取り戻そうと乗り込んでいたんだな。』
 三姉妹の中で一番背の高い次女海未来が、自分と同じくらいの背格好で筋骨隆々の侵入者に言った。侵入者の男はなにも言わなかったが、周りの者は彼を囲むだけで威圧され捕まえることができずにいた。
男の名前は、コーヤス・エーイ。マリー・ティーチの親衛隊長を務める連合気鋭の白兵戦のエキスパートだった。今回の戦いでの彼の役割は2つ。違法商船の鎮圧と、その商船を利用しての海賊団ドック侵入であった。また、監視船到着時の注意を自分に向けることにも一躍をかった。
 銃を取り出し、その男へ脅しをかけようとした海未来の動きが止まったのは、次の瞬間だった。
 海三姉妹と海賊達は不注意だった。目の前の男だけに目を向けていて周囲の違和感に気がつかずにいた。監視船から降りてきたのが、シュー・ツカサとヒーロ・ハルであったことなど確認する余地はなかったのである。
『その質問には僕が答えよう。ま、その前にその銃は全員こちらに渡してもらおうか。』
 ヒーロは海未来の後頭部に銃を当てながら言った。すでに海アスカも海かほりもシューとその部下に銃を向けられていた。
『未来。ここまで押し込まれてしまったら負けを認めるしかないわ。銃を渡しなさい。』
 海アスカがそう言い、自分の銃に手をかけた時ことは起こった。
 海未来は前転しヒーロ・ハルの銃口から逃れ、前方にいる素手のコーヤス・エーイを人質にしようと飛びついた。
 ヒーロ・ハルは、銃口から逃れた海未来の飛びついた先がコーヤスであるのを確認すると、シューの部下の銃口から逃れ、捨てた銃を拾い上げた海かほりの手元をけり飛ばし抑えこんだ。
 海アスカは忍ばせていた小銃をシューに突きつけた。突きつけたはずだった。海アスカが手にしていたのはよくできた銃のレプリカであった。海アスカの銃は、シューの手に握られ海アスカ自身につきつけられていた。
 コーヤス・エーイに飛びついた海未来が次になにかを考えられるようになるのは1時間後ぐらいだった。飛びかかる勢いのまま彼女はコーヤス・エーイに一本背負いをくらって地面にたたきつけられてしまった。
『気の毒に、コーヤスに向かっていったのが最大のミス。まだ僕の方に来た方が可能性があったと思う。』
 海かほりを捕縛しおえたヒーロが一息ついて言った。
『焼きが回ったようね。今度はほんとに観念したわ。処刑でもなんでもしなさいよ。ただ、私の妹達は見逃して頂戴。』
 海アスカは、シュー・ツカサに言った。しかし、シュー・ツカサはまずは来てもらおうといい、三姉妹と海賊団の首脳4名の計7人を、第9艦隊母船の捕虜尋問室に連れて行った。
 この過程ですでに海賊団のドック全体は第9艦隊によって完全に制圧されていた。
 ユーリの作戦案は、完璧ではなかったが、現状の条件では最善であった。いくつもの仕掛けが盛り込まれ、かなりの確率で討伐が成功すると思われた。ユーキ・ウノイ大将は意外にも聡明だった。あっさりとユーリの作戦の糸をつかんだ。彼は自分でマジックを一から作り出すことはできなかったが、マジックのネタを知ってしまえばそれを自分のマジックにすることができた。彼にもユーリの作戦案が最善であるということは十分に分かった。
 そこで、彼は了解の意味で一言だけ言った。
 『ユーリ少将の補足の通りだ。地球および月の件に関しては、私の方から連合本部にお願いしよう。作戦詳細は以降ユーリ少将の方から送ってくれ。』
 ユーリ、シュー、ヒーロの3少将は驚いた。このユーキという男はできると。
 そして作戦会議は終わった。
 以後、3人がユーキ・ウノイ大将の声を聞くのは、討伐終了時点までなかった。その声も簡単なもので、ただ『御苦労。』一言だった。
 討伐実務隊は、第9艦隊と第10艦隊の計2千隻で行われ、第4艦隊と第8艦隊の計2千隻は消えていた。
今回とられた作戦も基本的には包囲網であった。第10艦隊のヒーロの艦隊の機動術はすでに連合軍随一となっていて、この作戦においても海賊をうまく包囲網へ追い込んでいった。また、第9艦隊のシューは柔軟に艦隊を扱うことに長けていて、包囲網をうまくコントロールし、いくつかの海賊を戦うことなく持久戦でとらえることに成功した。ただ、捕獲に成功した海賊はいずれも最近現れた小物ばかりで、以前からいる大物の海賊を捕まえることはできなかった。特に「海」海賊団はこの時点で捕まえることはおろか一度も遭遇すらしていなかった。それでもユーリは未だ遭遇していない状況にも焦りや戸惑いも感じてはいなかった。
 作戦開始から、第8艦隊母船から第9艦隊の母船に乗り移っていたユーリがヒーロに言った。
『そろそろ来るころだな。』
ヒーロは、スクリーンに映る小さな光を見ていた。
『それにしても、コーヤスを借りてきてよかった。あいつならうまくやってくれるだろう。』
ユーリが続けてそう言うと、スクリーンに映る光が大きくなり、そしてそれが商船になった。
『シュー。来たぞ。』
スクリーンに集中していたヒーロが、通信機で第10艦隊のシューに言った。
『了解。』
商船に急速に近づく船団がある。船団があらわになりしっかりとそれを確認したヒーロが言った。
『これではわからないはずだ。』
商船に近づいていたのは、連合軍の戦艦であった。ユーリは頭の中で答え合わせを一つ終えにんまりした。
商船が捕捉され、海賊達が商船に乗り込むのを確認した時、ヒーロは合図して艦隊を動かし始めた。
異常に気付いた「海」海賊団が宙域離脱を計り始めた。ヒーロは巧みな指示で、ある場所に追い込んでいった。
ある場所には、第9艦隊が荒い包囲網を形成して待機していた。
『いいか、戦艦どおしの距離を十分にとり、各艦をレーザーネットで結ぶんだぞ。』
シューがそう艦隊に指示を出し、さらに微調整を指示した時、「海」海賊団は包囲網の中心に入った。
『くるぞ、各個撃破。いいかターゲットされたらうまくかわし退くんだぞ。レーザーネットに引っかけるだけでいい。』
海賊団の各個撃破は奇遇にも第9艦隊母船をターゲットにしてきた。シューは一瞬どきりとしたが、すぐに冷静を取り戻しお手本を見せるがごとくすんなり海賊団の突進をかわしレーザーネットにだけ引っ掛けた。
『ま、こんなもんだ。』
と、シューは小さく言った。
 レーザーネットに引っ掛かった海賊団は、スピードを一時落としたものの動きを止めるまでには至らず、その後簡単に破られてしまった。最初の何隻かがネットを破ったので残りの船団は無傷で通り抜け、逃げ去ってしまった。
 第10艦隊は、包囲網に追い込んだ後はなにもせずただその成り行きを見守っていた。
『これであとは連絡待ちだな。』
ユーリがヒーロとシューに向けて言った。
 第8艦隊のユーリの代理指揮官ジョン・キーエ大佐から連絡が届いたのはそれから2日後だった。

 ユーリ・ザック、ヒーロ・ハル、シュー・ツカサ、コーヤス・エーイの4人は、士官学校からの同期である。彼らを指導したのは、現在の3大将たちである。いずれもその才能を認められ、ユーリ・ザックはヒート・バックマンの部下に、ヒーロ・ハルはコーラー・ディアスの部下に、シュー・ツカサはアタック・マウンの部下にそれぞれなった。コーヤス・エーイは、主にその戦闘能力を評価され、マリー・ティーチの親衛隊長になった。士官学校を卒業した彼らの初めての戦いは、イオの討伐であった。
 イオの討伐は、木星での宇宙海賊討伐の戦いがその主な内容で、衛星イオとはまったく関係ないのだが、その響きだけでコードネームになっていた。
 当時、地球連合軍の第4艦隊はユーキ・ウノイ大将が指揮していた。イオの討伐には、そのユーキ・ウノイ大将が討伐総指令に任命された。後に彼はその功績が認められ連合府へ入ることになる。イオの討伐では彼の下に、第8艦隊のユーリ・ザック少将、第9艦隊のシュー・ツカサ少将、第10艦隊のヒーロ・ハル少将の3人がついた。3人とも才能をある事件で認められ、若くして少将に上り詰めていた。 

 イオの討伐で派遣された勢力は、約4千隻程度だった。ちなみに、第1から第3艦隊までは、各1万隻と大艦隊なのに対し、第4艦隊から第10艦隊までは各1千隻ほどの小艦隊であった。
 討伐総司令のユーキ・ウノイ大将は、文官としてはエリートかつ有能であったが、武官としては才はまったくなかった。任を出した方も彼が前線に立ったり、艦隊を指揮したりするとは考えていなかった。ただ、責任者として他の少将達をまとめて欲しかったのだ。 
 結果として、ユーキ・ウノイ大将は3少将達を上手くまとめたという評価を受けた。ただそれは、ユーキ・ウノイ大将がなにかと口を出してきて煙たい存在であるという共通認識で3少将がまとまったという裏があった。そうでなくとも、士官学校では互いに競い合ったユーリ、シュー、ヒーロではあったが目的が同じであれば協力を出し惜しみするという愚をおかすことはなかった。
 上官であるが故に、なにかと命令を出したがっていたユーキ・ウノイ大将だがある時をきっかけにすべてをユーリに任せるようになった。
 最初の作戦会議において、主導権を握ったのはユーキ・ウノイ大将だった。彼が示した作戦は、各艦隊で包囲網を作り徐々に海賊を追いこんでいくというものだった。その作戦は以前も何度かとられた作戦で、会議に参加したメンバーは能がない作戦だと内心馬鹿にしていた。包囲網をはってしまうと、4千隻という戦艦数では包囲する壁自体が薄くなり、各個撃破され簡単に突破されてしまう。無駄に戦艦を減らすだけになってしまう。囲んだだけで白旗を揚げるような海賊達ならすでに以前の討伐が成功しているであろう。
 以前の討伐の内、少なくとも一回は愚かな作戦でなかったとユーリ、シュー、ヒーロは思っていた。それは以前の討伐の総司令官がコーラー・ディアス大将であったからである。彼は独自の戦術眼で包囲網の弱点をさらすことなく海賊を追い込んだ。ただ捕獲する際に奇妙なことが起こり討伐は失敗に終わった。包囲網の中心に追い込んだ海賊が、包囲網を縮め目視できる距離にまで迫るとその中心から消えていたのである。その奇妙なことについても作戦立案時に考慮しなければならなかった。
 ユーリ・ザックは考えていた。戦艦の追いかけっこは、この投入戦艦数からするとやはり無意味である。とすると残るは待ち伏せか、海賊船のドックをおさえるしかない。待ち伏せも艦隊数の問題でほぼ不可能だが、ドッグを抑えるのも簡単にはその場所はわからないので困難だろう。すべての条件を満たすことはできない。この討伐には期限もあれば資材の限度もある。だから確率が高くなるような条件を多く選んで積んでいくしかない。もしその条件をすべてかいくぐられてしまったら仕方なしとあきらめるとしよう。そう覚悟するとユーリは、ユーキ・ウノイ大将の作戦を補足説明するという形で彼の面子を保ち話し出した。

 木星の連合基地の裏側には、宇宙海賊団の協会本部がある。「海」と呼ばれる三姉妹がそのボスを務める宇宙海賊協会は、現代においては地球人類の見方である。協会に属さない海賊達を抑制し、連合経済の流通を守っていた。
 それでも以前は協会など存在せず、各海賊団は宇宙を飛び回り太陽系全体を荒らしまわっていた。海賊戦艦の特徴は、連合軍の戦艦と比べ格段に早いそのスピードにある。戦艦の戦力はやや連合に歩があるが、そもそも戦う気などないので、連合軍が駆け付けた時にはすでに海賊団は逃げ切っているということが多かった。
 「海」の海賊団が現れた明確な時期は不明である。いつのころからかその名が知れ渡った。太陽系の富を公平に分配する「海」海賊団として。彼らが襲うのは違法な商船ばかりで、しかもその奪ったものはすべて貧困な星の民衆に配られた。
 民衆の中に彼らを正義と崇める者まで出てきたが、連合としては海賊に対し正義と悪を切り分ける術をもっていなかった。よって同じ海賊団として扱い討伐隊を何度となく送っていた。しかし、それらの討伐むなしくイオの討伐戦までは、「海」海賊団を見かけることすらできずにいた。
 イオの討伐戦は、ユーリ・ザック、シュー・ツカサ、ヒーロ・ハルの初めての実戦であった。戦略に長けたユーリ、艦隊指揮の柔軟性に長けたシュー、艦隊指揮の機動性に長けたヒーロ、3人が協力してはじめて功績を上げた戦いでもあった。3人の作戦は絶妙を極めた。海賊の捕り物劇もさることながら、その戦いにおいて彼らは、連合および海賊団の誰一人の命も奪うことなく討伐を成し遂げたのである。そして彼らは、この戦いの功績において中将まで昇進を果たした。
 木星にある宇宙海賊協会の本部は、以前は「海」海賊団の船団ドッグであった。連合駐屯基地の裏側に海賊団のドッグがあるなどと当時の討伐隊は思いもしなかった。これはイオの討伐より前の討伐隊の話で、ユーリ・ザックは作戦立案時から木星に目をつけて疑わなかったのである。
 イオの討伐で、艦隊戦を一度も行うことなく、海賊船団ドックに巧妙に潜入して「海」三姉妹を一網打尽にしたのである。ユーリ・ザックは、白兵戦にはさしたる能力を発揮することがなかったので、ドック潜入の際には同行せず、しかも作戦立案の手柄さえもシュー・ツカサとヒーロ・ハルに譲ってしまった。彼ら二人と彼らの部下がドックに潜入し見事に「海」海賊団を捕獲してのけたのである。美貌を兼ね備えた「海」海賊団の長女海アスカとシュー・ツカサが初めて顔を合わせることになったのがこの時である。
 「海」海賊団が完敗を喫したこの作戦立案をシュー・ツカサが行ったものだと勘違いした海アスカはシューに魅かれ始め、その後いろいろな情事と多々の困難を乗り越えて二人は結婚することになったのである。
アスカのその勘違いは結婚式の時にヒーロ・ハルによって真実を知ることになるのだが、すでにその時には二人の間にはそんなことはどうでもいいことだった。
 連合首脳のある目的で「海」海賊団は海賊達をまとめ海賊協会として存続することを許された。しばらくは「海」海賊団は海賊の統一に時間を取られていたが、二人が結婚するころには、「海」宇宙海賊協会が正式に設立し連合の為に裏で動くことになっていた。
 シューとアスカはしばらくして二人の女の子を授かった。シューとアスカが口を揃えて言う。「もう一人女の子がほしいな。」と。二人は第二の「海」海賊団の三姉妹でも作ろうというのか。しかし、本意は違った。女の子3人トリオで芸能界にデビューさせるのだそうだ。
 ユーリ・ザックはイオの討伐の作戦立案の自己評価を98点としている。足りなかった2点はシューとアスカの二人が魅かれ合うということを予想できなかったことだとしている。
 海賊達の90%は、「海」宇宙海賊協会に属する。残り10%は最近問題になってきている新手の海賊達である。それでも大した被害が出ていないので海賊協会および連合もとくに対策を施していない。協会に属する海賊の一つが、その新手の海賊が最近おとなしいのは冥王星在住の連合から資金を得ているからだと伝達してきていた。それを受けて協会はすべての海賊に確認したが、冥王星連合から話を持ちかけられたことはあるといった者もいたが、実際に金を受け取っていた者はいなかった。
 海賊達は、あくまで「海」宇宙海賊協会のもとでのみ活動していたのであった。