ここまでの一部始終を監視していたユーリ・ザックがユーキ・ウノイに対して言った。
『ユーキ総指令。先のとおり、処罰はこちらに任してもらってもいいですね。』
ユーキは首を縦に振ると、監視室から出ていった。ユーリ・ザックはコーヤス・エーイに伝言を頼むと彼もまた監視室をこう独り言を言って出て行った。「98点だ。」
伝言を受けたコーヤス・エーイが尋問質に入り、シュー・ツカサに耳打ちした。シュー・ツカサはその伝言内容に驚きを覚えた。だが、なにか強引だが冷静を装って海アスカに話始めた。
『妹達の件だが、条件次第で見逃してもいい。』
条件は3つ。「海」海賊団は他の海賊団をすべてまとめ海賊団の協会を作り仕切ること。海賊協会の行動は、「海」海賊団のこれまでの行動のとおり違法商船のみを強奪対象とし、、貧困地域の民衆に分配すること。これらの条件を厳守させる為、海アスカを人質としシュー・ツカサの監視下におく。ただし表向きは、シュー・ツカサの婚約者として常につき従うこと。
これをシュー・ツカサが言い終わり、最後の部分において海アスカから反発を受けることを覚悟していたが、その条件はすんなりと受け入れられた。
そしてしばらくの後、どんなことがありシュー・ツカサと海アスカが正式に結婚するに至るのかは二人のみぞ知る。ただ、その事象さえも、ひょっとするとユーリには予想できていたのかもしれない。
尋問室でなにもしゃべることなくシュー・ツカサの隣に座っていたヒーロ・ハルは、海かほりの方をじっと見てある可能性について頭の中で考えていたが、彼の場合はこの先痛いしっぺがえしを受けるだけで何も起こらなかった。
ユーキ・ウノイは、コーヤス・エーイに護衛され、先に地球に向かった第4艦隊を追って高速艇で木星を離れた。ユーリ・ザックは、それほど急ぐこともなくヒーロ・ハルの第10艦隊の母艦に便乗してくつろいでいた。
『ユーリ、今回はどこまでが予想の範囲内だったんだ。』
ヒーロ・ハルは、ユーリ・ザックがいつも戦略立案とその結果とで、どこまで予想できていたかを答え合わせし採点していることを知っていた。
『1つ初歩的なミスをしてしまった。だから今回は98点というところだよ。』
海賊団のボスが女だったってことか、それともまさか木星にドックがあったってことかとヒーロ・ハルは尋ねた。
『違うよ。すでに明かされている情報をつないだら誰でもわかるようなことではないよ。もっと初歩的なことさ。』
とユーリ・ザックは言い、さらに続けた。
『男と女が出会えば、自ずと何かが芽生える可能性もあるものさ。』
ヒーロ・ハルにとっては、海アスカとシュー・ツカサのことは知らない。だから、ひょっとして自分が海かほりに興味があるのを見透かされているのかと思いヒヤリとした。そしてそれ以上は深く聞くことができなかった。
かくしてイオの討伐は成功という形で幕を下ろした。連合本部に海賊団として連れられてきたのは、「海」海賊団員ではなく、討伐当初に捕獲した小物の海賊達だけであった。連合本部首脳はこの事実を知りながらなにも言うことはなく功績を認めた。そして、ユーキ・ウノイ中将は、連合府副官房長官に昇格。ユーリ・ザック、シュー・ツカサ、ヒーロ・ハルの3人は、そろって中将に昇格した。
イオの討伐後、ユーキ・ウノイが第4艦隊の艦隊司令を退いた為、艦隊構成に一部変更が行われた。第8艦隊が、第4艦隊に統合され、艦隊司令にユーリ・ザック中将が抜擢された。
第4艦隊の母艦のメインブリッジには、大佐から少将に昇格したジョン・キーエとユーリ・ザックが話込んでいた。
『なぜ、「海」海賊団が三姉妹だとわかったんですか。』
作戦立案時に参加できなかったジョン・キーエが未だに明かされない疑問の答えをユーリ・ザックに要求した。
『簡単なことだ。郷に入れば郷にしたがえさ。海賊になって同じように違法商船を強奪し、貧困地域に分配したのさ。それでその地域の民衆と打ち解けて、民衆にのみ正体を現わしていた「海」三姉妹の存在を聞き出したのさ。』
なるほどとジョン・キーエは思った。それにしても、討伐開始から作戦立案時までそう時間がなかったのによくそこまで情報を集めたものだ。と、ユーリ・ザックを改めて尊敬した。そして、ジョン・キーエはさらに疑問の答えを要求した。
『では、なぜ海賊団のドッグが木星にあるとわかったのですか。これだけは民衆に聞いてもわからないことでしょう。』
ユーリ・ザックは、君も必ず今度から作戦立案には参加するようにとジョン・キーエに言った後で、何度目かのネタばらしを始めた。
『以前の討伐時のデータを統計するとある一つの結論に達すことができた。まず、伐徹底時に必ず木星基地での補給をしている。次に、地球への帰路が計ったように半分を超えた後に海賊団が活動再開している。ここから推測できるのは、なんらかの手段で木星から帰還する討伐隊を監視しているのではということ。だから、木星基地にここ何年かで怪しい船を見たことがないかを調べさせた。すると、所属不明の連合軍の船がなんども目撃されていることがわかった。さらに、その目撃の内の数件は、形式的な所属確認が行われてていて、いずれも連合府直属艦隊の秘密訓練という返事がされ木星の裏側方面に移動していったということもわかった。当時の担当兵は、連合府直属ということのみで事実確認せずに木星基地の裏側には訓練施設があるものだと決めつけていたらしい。以上のことから、海賊団のドックはここしかないと断定できた。そして、海賊団は連合軍の船を保有しているということ、さらに今まで海賊船団が見つからずにいたのは、見つけるべき海賊船が連合船だということに気がつかなった為だともわかった。』
言われてみれば確かに大したことではないと思えるジョン・キーエではあるが、だからといってそれなら自分でもとなるほど浅はかでもない、すべての要因を作戦に結びつけたユーリ・ザックはやはり凄いと思った。この人の部下であってよかったと純粋に思った。
第四艦隊戦闘機隊隊長ユキ・ダラーが、あらゆる形式を無視してメインブリッジに入ってきた。彼は決してふざけた男ではないのだが、ことこのユーリ・ザックが指揮する艦隊においては気を許しきっていた。ユキ・ダラーとジョン・キーエは共に、ユーリ・ザックの士官学校の2年後輩である。ユキ・ダラーとジョン・キーエらは共に交友することもなかったが、ユーリ・ザックがその間に入ることで絶妙のいい関係を築いていた。
『今回も、僕の活躍の場はありませんでしたね。』
ユキ・ダラーは冗談半分でユーリ・ザックに言った。
『君たち二人が活躍するのは、まだまだ先のことさ。それまでしっかりと準備でもしていてくれ。』
根拠のないその言葉に期待することもなく、いつものように空返事をしたユキ・ダラーは、メインブリッジのモニターに展開されていた宇宙地図をじっと見つめ言った。
『平和なものですね。』