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考える道具を考える

The instrument which I think

越後のカリスマ経営者 上杉謙信亡き後、勃発する次期政権争いのドラマが始まりました。NHK大河ドラマ天地人の第二幕の始まりですね。

謙信の二人の養子、景虎と景綱の争い。
元々謙信自身も越後の群雄割拠と近親者の争いを勝ち抜いてきた経緯もあって、この地域が必ずしも一枚岩であったことはなかったとするのが歴史家の共通した見方ですね。従って、強大な力を持った謙信なきあとは、家督争いが起きるのは必然で、この悲劇が後の秀吉、家康の天下統一の時点では、上杉の力を発揮することができない下地となってしまったのでしょう。

それはともかく、カリスマ経営者を失った後の組織の弱体化は、現代の経営でも同じですね。組織が拡大していく時点での吸引力は、次に世代を繋いだ時、どうしても粒が小さくなる。あるいは割れる。

こうした組織の欠点を補う方法が、予め次の経営者を指名してしまうという制度だ。

IBMの北城さんの講演を聞く機会がありました。IBMはリーダーになった時の最初の仕事が、次のリーダー候補を指名することだとお話されていたのを思い出しました。

リーダーの資質の第一条件は、人を見る眼。
だから、自分が成長するために必要な次のリーダー候補を指名し、育成する。極めて合理的な制度だと思いましたね。周囲に対しても、その事実を周知する。

こういう合理的な人事の制度は、家督争いを避ける一つの方法かもしれません。

とはいえ、自分がリーダーになった時、次に自分に代わるリーダーを指名し育成することは、簡単ではありませんね。


白洲次郎 第2回が放映された。

鶴川の「武相荘」とネーミングされた農家での生活の模様から始まる。
戦争終結までを、のどかな農村の風景の中でおくる。

  ‥時間が止まったような単純な生活の反復

白洲正子も次郎も、「何かを待つ」時間でもあるように思えた。

  ‥何かをしなければならない焦燥と、何かが来るのをじっと待つ忍耐と‥。

そんな心の葛藤を映像で描き出すのは、大変難しいと思いましたね。

終戦処理の表舞台に登場してからの伝説は多々あるので、後半はそのドラマをなぞるようなものでしたが、マッカーサーやGHQに対して「日本は戦争に負けたのであって、奴隷になったのではない!」と叫んだエピソードは、恐らく事実なのでしょうね。

その気概、その根性があってこその、今の日本であることは確かだ。しかし、ぎりぎりの「交渉」の現場の臨場感が、今の問題意識を失った日本人への警鐘にもなっているのでしょうか。(それにしても岸辺一徳さんの演技はいつもながらいいですね‥)

  ‥今、日本人は、何かが来るのを、じっと待っているのだろうか?

これは私の感想でした。

最終回は8月。待つ時間は長い。


考える道具を考える-リンストローム
写真は、2008年11月に日本語訳が刊行された「買い物する脳」(早川書房 マーティン・リンストローム著 2008年11月20日刊)の表紙です。

消費行動の研究は様々ありますね。
その代表的なものがアンケート調査。消費という概念の全体的な傾向を示すのに最適です。世論調査などはその代表でしょう。また、人の深層心理、つまりは本音に迫る調査作法には、グループインタビュー法や深層面接法などがあります。
いわば無意識の心理が、人の消費行動に影響を与えているという仮説ですね。

本著は、さらにこの深層心理の在り処を、脳の運動に求めようとする実験だといってもいいでしょう。奇麗な服をショーウィンドウで見る。海老ちゃんなどと呼ばれているスタイル抜群のモデルが着ている服が欲しくなる。この買いたいと思う衝動は、人間の脳のどこかが刺激された反応だということですね。

さて私が興味を持ったのは、本著の中の第三章ミラー・ニューロンの働きを知る‥という中で、人間のミラーニューロンの働きが消費動機となるという研究結果がでしたね。

ミラーつまりは鏡。笑顔の人と噺をするときに感じる感情は好意的な印象を残し、その笑顔を見ているだけでこちらも笑顔になる。こんな話が代表的なものですね。

MACのジョブスが、街を行く白いイヤホンをした若者達の姿をみて、ipodの成功を確信したというエピソードが掲載されていますが、要は、人は、他人の行為に影響を受けるという意味でしょうか?

(続く)


新潮文庫から今年2月に出版された「人生に関する72章」(新潮社2009年2月刊)は、数学者藤原正彦先生の単行本の文庫化です。

もとより、読売新聞に二年間続いた人生相談コーナーの出版化なのですが、何しろ、数学者が人生相談をするという前代未聞の内容に興味がわきました。

10代の思春期から老年期までのさまざまな年代の男女からの相談は、多岐にわたりますが、その回答がすこぶる藤原的で楽しい。

相談者の相談内容を見てみると、総じて社会への適応に対する悩み、友人、家族、恋人との関係などですが、特に10代では、疎外感、孤独といった深刻な内容がたくさんあります。

しかし、品格の生みの親藤原先生は、阻害されることの意識そのものより、そういう自分を生み出している自分の「独創性」に目覚めたほうがいいと回答していきます。

「暗い」と仲間から指摘されて悩んでいる場合は、「その沈黙の中に自己反省の意識や他人を思いやる心が感じられれば、その暗さを武器にしないさい」といった意味のことまで言い放ちます。

悩みは、すなわち、自分のオリジナリティ発見の手掛かりとでもいいたげです。

この回答で相談者が理解したのかどうかは分かりません。藤原先生の諧謔を理解するには、もっと多くの言葉達と親しくなる必要がありますからね。

でも、回答の最大の特徴は

  ‥全てを、おおらかに肯定する強さ

を自覚することの大切さだったように思えます。

モノの見方、考え方には、両面あることを自覚したいところですね。


眠れないので、深夜、何気なくテレビを見ていた。

すると、日本ではTBSテレビで放映される「CBSドキュメント」(毎週 水曜日25:55から・司会ピーター・バラカン・吉川美代子)が放映されていた。

登場したのは、北京五輪競泳8冠のマイケル・フェルプス。金メダル8個を獲得した23歳の青年の練習に明け暮れる日常と私生活が紹介されていた。五輪後のスポンサー依頼の殺到の様子も面白かった。(何しろ世界各国から1日300件以上のスポンサー依頼が続いているというのだから凄いですね)

番組の中で興味深かったのは、五輪までの彼の練習と目標設定の方法だった。一年365日、休みはなし。目標に設定された記録の数字は、とても尋常のものとは思えない高い数字だった。(結果的には、6種目でその目標を突破している)

 ‥何故、そんなに高い目標に挑戦するんだい?

 質問に答えてフェルプスは言う。

 ‥想像を超えた目標を設定すると、その高みに挑戦する意欲が高まるんだ。そして、突破した時に無常の喜びを感じるんだ!

選手の能力というものはあるでしょうね。
でも、目標をどのレベルに置くか‥‥ビジネスを展開していると、ついつい、その人のレベルに合わせて目標を作ろうとする癖がある自分をふと振り返ってしまった。

100を目標とすると到達地点は、100前後。その目標を、500に置くと、例え300までしかいかなくても、少なくとも100より200多い結果が得られている。しかも、まだ十分に満足できないから残りの200を突破するための努力を継続する。

高い目標を置くことに、ためらいはいらないのだ!

そんなことを感じていましたね。いかがでしょう。単純なことなのだけれど、なかなかできない。

‥‥

そして、余談ですが、この2月にマイケル・フェルプスは大麻を吸引したとして叱られましたね。そして、この事件で、国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は若者の未来を剥奪してならないと寛大な処置をしました。その寛容さに共感します。

どこかの国では、大麻を吸ったお相撲さんは全員解雇。確かに法律に違反することではあるので、良いこととは言えませんが、「五輪で英雄になったからと言って、まったく落ち度のない人格者であることを望むわけにはいかない。彼はまだ若者でもあるのだ」と論評したアメリカのメディアに共感しましたね。

一人の英雄を生んだら、その英雄が育っていくことにも敬意を表す‥‥アメリカの懐の広さを感じさせてくれたコメントでもありました。