歯周病生活。 -2ページ目

● 第5話 :: 「インターネットという迷路」

「しまった。こんなに歯周病に関する情報がいっぱいあるのに、どうして早めに手を打とうとしなかったのか!」

そんなため息にも似た憤りを心のなかでおぼえる。驚くなかれ。2005年5月31日現在,「歯周病」をキーワードとして入力したところ,Yahoo! Japanの登録サイトだけで378件。関連キーワードと一致するページが、なんと 255692件もある。2003年9月の時点で、この数字よりは表示数が少なかったとしても、膨大なデータが目の前にあったことは「間違いない」。

 バブル崩壊後の不況を反映してか、このところ医師薬系の学部は超人気と聞く。終身雇用制や年功序列といった会社社会の「掟」が崩壊する今日この頃。「世のため人のため」という志より、「手に職と高い社会的地位を」といった親の希望がどことなく漂っているような気がしてならない。それはそれでよいとしても、「犬も歩けば棒に当たる」といった調子で、ひとたび街に出てみると「患者も歩けば歯医者に当たる」。隣り合ったビルに一軒ずつ歯科医院が入っている光景も珍しくない。恐ろしく熾烈な生存競争である。

 「医療はサービス業の時代」とか「これからは医療というサービスをお金で買う時代」などと、ここ最近は当たり前のように言うようになっている。特に、保険診療では最先端の治療を受けることができない歯科医院のサイトを見ると、そんな人間の生命を金と天秤ではかるような表現が妙に現実味を帯びてくる。特に「最高の医療が、患者にとって最善の医療とはかぎらない」といった文面を発見すると、「「あなたの懐具合に応じて治療してあげますよ」と最初にはっきり書いてくれよと言いたくもなる。

 また歯周病の治療といっても、そのバリエーションに、ただただ驚くばかりだった。さらに、歯周病の治療そのものが、ここ日本では黎明期といっていいほど、手探りの状況であることもわかった。

 そもそも「歯周病」をもたらす原因は細菌であることは以前から知っていたが、インターネットで検索してみると、症状を悪化させる要因は複合的であったりすることがわかった。

「歯石」
「プラーク(歯垢)」
「歯ぎしりやくいしばり」
「遺伝」
「噛み合わせ」
「ストレス」
「喫煙」
「悪い食生活」

ノetc。ただ、自分自身にはっきりと該当しすぐに実行できる項目がある。歯周病治療を本格的にはじめる前にきっぱりと絶った習慣、それは「喫煙」だった。「喫煙」によって、歯肉の血管が収縮したり血行が悪くなって細菌への抵抗力が減少したり、歯肉そのものを悪くすることが、いろんなサイトを読むことでわかってきた。確かに、自分の歯茎を鏡で映すと全体的に赤黒かった。さらに後でわかったことは、喫煙者の歯茎はあるべき症状を隠すということ。一見するとブクッと腫れていなくとも、見た目以上に歯周病が悪化しているケースが多いというのである。

 まず一つ、自分自身で歯周病を改善できる手段を発見することができた。問題の歯は、まだ抜歯していないどころか、なんとか残せるものなら残したい。次は、どのような治療法があるのか、そして、具体的にどこで診察を受けるべきか、費用はどのくらいかかるのかを検討する必要がある。とにかく、いったん調べだしたらとことん知りたくなる性分、寝不足が抵抗力の低下につながるのはわかっていながらも、連日、夜な夜なインターネットで情報収集する始末であった。

(第6話につづく)

「オーラルフィジオセラピー」:医患共同作戦を実感

「オーラルフィジオセラピー 非観血処置で歯周病を治す」

■総頁数:136頁 レ カラー
■判型:B5判
■発行年月:2004年7月
■ISBN4-263-46305-6
■注文コード:463050


 (おそらく)テレビCMで認知度が上昇した「歯周病」ですが、こと歯周病治療のための書籍というと、歯科医師本位ともいうべき内容の本がほとんど。肝心の歯周病患者の声が聞こえないというのはとても残念な話です。



 じつはこの本、今年4月にはじめて手にしたのですが、私のような患者側の人間でも大いに感銘を受ける内容となっています。「オーラルフィジオセラピー」とは、日本語に訳すと「自然良能賦活療法」。「微生物の攻撃力」と「生体の抵抗力」に着目したこの歯周治療は、大阪府豊中市で歯科医院を開業されている片山恒夫先生が提唱された。片山氏によると、歯周病の原因菌に対する歯周組織の抵抗力増強には・・・

・局所の抵抗力を増強する「ブラッシング」
・食事のときの「一口50回噛み」
・「全身の抵抗力を増す呼吸法や体操」

などが必要だとし、これらを励行することによって、人間が本来持つ自然治癒力がもたらされるとしています。そのため、歯槽骨を再生するような外科的な処置は一切ありません。また麻酔しての歯石とり(ルートプレーニング)も極力出血を避けるねらいから、あくまでねばり強くブラッシングを指導して歯茎の引き締まり(退縮)を待って除去することもようです。

 こうした人間が本来もつ潜在的な可能性にスポットライトを当てた治療法の影響を受けた、東京都新宿区で歯科医院を開業されている歯科医と歯科衛生士による共著。ある意味、「オーラルフィジオセラピー」の実践風景をも思い浮かばせる内容です。

 外科手術を用いた歯槽骨再生を一切おこなわず重度の歯周病を治療する。でもこのセラピーには、たゆまない歯科医師や歯科衛生士から患者への励ましと、患者側も長時間しかも丁寧にブラッシングする習慣づくりが必要となります。よく話題になったり問題となっている「ダイエット」にしても、地道な運動や食事の見直しより、楽して痩せる方法ばかり追いかける昨今。歯周治療としての「オーラルフィジオセラピー」も特効薬ではありませんが、こうした患者が主体となる治療法をとおして、患者自身が口の中の変化に気付き、異変が起きたときにもどう対処すればいいか自分で考える力が養えます。

 歯周病の治療をとおして健康への「生活改善」と「意識改革」をもたらす。こうした見地から書かれた本書は、素人としての患者が読んでも十分に理解や納得できる内容になっています。かくいう自分自身、この本で詳細なカラー写真付きで紹介される「治癒過程における歯肉変化」を見て、さっそく「我流」で例を見ながら長時間ブラッシングに取り組んでいます。「突っ込みふるわせ法」「フォーンズ法」といった磨き方が紹介されていますが、「突っ込みふるわせ法」については専用の歯ブラシが入手しにくいため、「デンターシステマのスリムタイプ(やわらかめ)でひとまずトライ中。とにかく力を入れすぎたり傷をつけては逆効果なので、そうならないよう気をつけていますが・・・できれば、こうしたブラッシング指導に力を入れているところでチェックしてもらいたいぐらいです。

 まえがきには<「健康歯肉と病変歯肉の判別がよくわからない」とお悩みの新米歯科衛生士さん,「ブラッシング指導やモチベーションが最近ちょっとスランプぎみ」とお感じの歯科衛生士さん,そして歯科衛生士さんを育てる歯科医師の方々にお薦めの一冊です>とあります。しかし、先にも申し上げましたとおり、歯周病治療を受けていてもあまり経過がよろしくなくて・・・お嘆きの患者さんが自分自身を見直すうえで、本書はいい「カンフル剤」となることでしょう。 

 何よりも感銘を受けるのは、さまざまなケースの患者さんをとらえた治療経過にかんする一連の写真です。数年も経たないうちに次々と抜歯というような初診時の状況が、歯科医師の励ましと治療、そして患者自身の努力で、歯茎や歯肉だけでなく、再生が難しいとされる歯槽骨まで組織がしっかりしてきたり再生されたりする。すべての患者に必ずしもあてはまらないケースとはいえ、歯周病に悩む患者がブラッシングを励行する、よい見本であることは確かです。

 そして何より、私が本書をつうじて感銘を受けたことは・・・著者ご自身が「患者さんから学ぶ」という姿勢を「オーラルフィジオセラピー」を実践するなかで育まれていることです。もちろん、患者である我々は歯科医師への敬意をもって診察台へと足を運ぶわけですが、こうした間接的な励ましをいただくと、一生付き合う病ともいえる「歯周病」へのケアが苦でなくなりそうです。そして、さらに歯科医師への信頼感が増してくることでしょう。

 ちなみに私自身は、これまで「オーラルフィジオセラピー」とは逆方向の最先端的な歯槽骨再生療法(外科手術)を受けましたが、本書で紹介されている患者さんの声を読み、あらためてブラッシングをはじめ、日常の基本的な生活を見直そうと思った次第です。

 お値段は高めかもしれませんが、どこか重度の歯周病に冒されていても希望をもてる気持ちになれる、むしろ患者向けの良書とあえて言わせていただきます。

P.S. 著者である小西歯科医院のウェブサイト。

http://www.asahi-net.or.jp/~pi5a-kns/

「ライオン」が行った歯周病にかんする調査

Yahoo!のトピックスでこんな記事を発見。

男性会社員は歯磨き意識が低い!?昼食後わずか12%

嗚呼、悲しき現実・・・

読売新聞発信の記事によれば次のとおり・・・

 昼食後に歯磨きする男性サラリーマンはわずか12%で、女性(32%)に比べるとかなり低いことが、「ライオン」が行った調査でわかった。

 また、男性の歯周病有病者率は国の調査では約9割に達しているが、今回の調査でも自覚している人は4割程度で、意識の低さが浮き彫りになった。

 アンケートは、首都圏の30~50歳代の男性サラリーマン125人を対象に今年1月に実施。昨年12月に女性298人を対象に行った調査と比較した。

 それによると「朝食後」に歯磨きする男性は59%、女性は75%、「昼食後」は男性12%、女性32%といずれも女性が高く、「夕食後」は男女とも27%、「就寝前」は男性60%、女性78%だった。

 また、男性の55%は歯や口元の清潔や健康に自信を持っておらず、69%は自分の口臭を自覚していた。しかし、歯肉などに炎症が生じる歯周病に積極的に対応しているのはわずか8%で、50%は「対策は何もしていない」と答えた。

(読売新聞) - 5月30日12時54分更新

嗚呼、悲しき現実・・・。

●歯周病生活記 :: 第4話 :: 「大きな広告看板」

「今、スケーラーをあてたところ、舌のある側は4ミリほどしか入っていきませんけど、頬の側はかなり奥のほうまで入っていきます。痛みや腫れが引いてから抜歯したほうがいいので,落ち着いたら来てください」

 いやはや、それにしても「癒し」の笑顔なのか。それとも「諦めなさい」という醒めた笑顔なのか。ご本人は気をつかっての表情なのかもしれないが、「抜歯宣告」なら、むしろ冷静な顔つきで、しかも客観的な証拠をもとに説明してほしい。

 そんな歯周病系では若い(笑)患者の脳裏を察してか、受付にいた助手の女性のほうがむしろ、不必要な笑顔を一切ださず、帰り際に「お大事になさってください」と一言。診察料を支払うと、待合室には、この歯科医院ではじめて自分以外の患者を発見した。70代前半といった感じの女性。どういうわけか二人いて、診察は一人だけなのだけど、井戸端会議がわりに、この歯科医院の待合室を使っていたみたい。

「先生に悪い歯のところを診てもらって、入れ歯を新しいのにしましたわ」

なんて笑顔で会話している。そうなのである。人生を七十年も生きれば、病に対する心構えもレッスンも、生活の知恵として十分に身につけていることであろう。歯についても、「残して痛い思いを続けるより、抜いて入れ歯にしたほうがまだ噛める」といったこともよく耳にする。くだんの歯科医師も、その老人にとっては「噛める口に戻してくれるいい歯医者さん」なのである。

 ところが、こちらはまだ三十代。しかも、これまで一度も大病を患ったこともなければ、十代での歯列矯正以外、医者通いを続けたことは一度もない。つまるところ、「病のレッスン」をしたことがなかったのである。そのくせ、投薬で一時的に安心することはあったものの、歯茎の腫れや痛みには、異常なまでに我慢する癖がついてしまっていた。

 よくケガや痛みをおして出場といったスポーツ選手の話題が、けっこう「美談」として紹介される。でも、その多くは治療や療養で回復し元にもどる症状であることが多い。いっぽう、歯や歯槽骨は、いったん破壊されると、自然治癒ということはありえない。だからこそ、「治療」しているようでは手遅れ。いかに「予防」するかが大事なのだ。

 言うまでもなく「抜歯宣告」は、歯科医療のなかでは「死の宣告」のようなものである。おまけに、たとえば虫歯なんかで歯がボロボロになって使いものにならずに抜くのとは違い、歯周病での抜歯の場合、まだまだ十分に機能する、治療の少ない歯が抜けるケースが多い。

 そうなるまで本格的な治療を受けなかった自分が一番悪いのだとはわかっていながら、どうしても納得いかない。帰宅途中、くだんの歯科医院の立派な広告看板を一カ所、二カ所あらためて見つめながら、(それにしても二カ所も立派な広告看板があったなんて!!

「こうなれば、とことん、インターネットで歯周病治療と、それに熱心な歯科医師を探そう」

と、足早になった。部屋に入り、早速、某検索エンジンで「歯周病」とキーワードを入力、すると……。

(第5話につづく)

●歯周病生活記 :: 第3話 :: 「破壊者としての自分

 きちんとした治療をしている歯科医院にはおのずと患者が集まる。なかなか予約がとれないので、ここにいたるまで、どれだけ受診をあきらめたことか。
 今すぐなんとかしてもらいたい。痛くてたまらないのに、受話器の向こう側で冷静に診察のスケジュール表をチェックする紙の音が止まった瞬間、

「(10日先の)来週の木曜日の午後なら空いてますが、いかがでしょうか?」

と言われたところで、こちらの腹の虫が治まらない。じゃなくて、歯の痛みは治まらない。その結果、すぐに診察してもらえる「お手軽治療」の歯科医院で投薬だけしてもらい、当座の痛みをしのいで偽りの安心に溺れていたのである(ちなみに、「抜歯宣告」される歯科医院と、計二回、投薬のみの診断をくだした歯科医院とは別)。他院では予約がとれない苛立ちがあるから、

「じゃあ、今すぐに来てください」

と言われると、ついつい喜び勇んで一回の診察で終了し、こうして自らも歯を失う要因をつくってしまう。つまり、破壊者(はかいしゃ)としての歯医者(はいしゃ)を責めてばかりはいられない。みずからも破壊者となっていたのである

 歯周病は「沈黙の病」と言われる。歯茎や頬が腫れあがり、激痛がはしり、その後、膿の袋が破れたり、抗生物質を飲んで腫れや痛みが一時的に引いていったとしても、歯を支える歯槽骨(あごの骨)がどんどん破壊されていく。要するに、腫れや痛みを引き起こす根本的な原因を除去しないかぎり、事態は悪くなる一方なのである。

 いうまでもなく、歯科医師とは治療のための国家資格を持った医療のプロ。日頃から歯科医療の最新情報に誰もが目をとおしているだろうから、たとえ自分が持っていないテクニックでも知識として把握していないほうがおかしい。いや、知っていて当然のことなのだが、だからといって、歯科医師の方から、

「○○病院(医院)では、歯の保存に深い見識と施術を持っておられるので、問題の歯については、そちらで診ていただいたらどうですか?」

などと正直にすすめることは、滅多にない話。もし、そんな歯科医師がいたら、奇特どころか、その人間性を大いに敬意を表すればいいと思う(ちなみに、治療項目に「歯科口腔外科」と書かれていない歯科医院では、たとえば、歯肉に埋もれた親不知の抜歯等で大きな病院の口腔外科に紹介状をたいてい書いてくれるが、それとは別の話)。

 話を「抜歯宣告」された歯科医院での話に戻そう。レントゲン撮影などで客観的に状況を把握できないまま抜歯するのは納得できない。「このまま置いておいても、食べかすとかが入っていったら、またすぐ痛みますよ。もう抜かれたらどうですか?」という助言を無視し、

「ひとまず歯のまわりの掃除をしてください」

とだけ言った。「では、そうしましょう」と歯科医師。じつはこの日の診察の二ヶ月前、そろそろ口の中のケアをはじめようという気持ちにかられ、この歯科医院でクリーニングしてもらったことがある。もちろん、歯科衛生士を雇っていないので、くだんの歯科医師が超音波スケーラーで全体のクリーニングをしてくれると思っていたが、「奥歯(大臼歯)は上下左右とも歯石はついてませんよ」の一点張りで、問題の歯の周囲もノータッチ。がしかし、「抜歯宣告」を下したくだんの歯科医師、患者の最後のあがきに応えるかのように、問題の歯のまわりだけ入念にクリーニングを施した。そして……

(第4話につづく)

●歯周病生活記 :: 第2話 :: 「インフォームドコンセント」

 思い起こすまでもなく、くだんの歯科医院はいつも「暇な」ところだった。受付には唯一のスタッフである助手を兼ねた女性が一人。待合室はきれいだが、雑誌類はいずれも最新号から3・4号古く、しかも年輩の方むけばかり。学会員等の認定証はいっさい掲げられていないのに、どういうわけか、インフォームドコンセントをPRするポスターだけはやけに目につく。
 そういえば、この歯科医師流のインフォームドコンセントがあった。施術をはじめる前に、必ず二つの方法を説明して、そのうちの一つを患者に選ばせるという方法だ。

 インフォームドコンセントの重要性についてはよく語られるようになって久しいが、その意味を再確認するうえで参考になる京都大学教授カール・ベッカー氏の講演録をネットサーフィンで発見。詳細はそちらのページを読んでいただくとして、端的に言えば「医師側の情報公開と患者側の自己決定」ということになろう。
 ちなみに医師は医療行為のプロだから情報公開ができて当たり前。問題なのは、患者が自己決定をするためにはそれなりに知識を蓄えたり、情報のアンテナを張りめぐらせられるかどうかである。患者側が望む治療ができない(歯科)医師なら即転院も可能だ。でも、どこでも治療可能な治療で二者択一となれば、懐具合を気にしたり問題の部分の症状が軽かったりすると、つい早く済んだり安くつく方を選択してしまいがちである。

 じつは歯周病治療とは関係ない歯のトラブルで、この歯科医院で以前にも「やんわり」二者択一を迫られたことがあった。鶏の軟骨をバリバリ食べていたとき、ごく一部分だが右上の奥歯が欠けたことが原因で足を運んだ。そのときの診断結果はこうだった。

「ああ、詰め物がとれてますねェ。う~ん、では、二つの処置方法があります。部分的に取れたところへ詰め物(セメント)を充填するか、あるいは、詰め物を全体的に治すかです。一つ目なら一回で済みますし、二つ目でも二回で終わりますけど、どっちにしますか?」

 いや~、こう言われると、自分では歯そのものが欠けているのを自覚しているのに、「簡単に治るんだ~」と油断し、おまけに一つ目を選んでしまうのが愚かなところである。本当の意味でのインフォームドコンセントかどうかは別として、「患者の自己決定」という点においては、患者に二者択一させるという方法はわかりやすい。ある意味、後でちょっとしたトラブルが発生しても、医師と患者で責任を分散できる。
 治療はあっという間に終了したが、気になったのは帰り際の一言、

「また詰め物がとれたら来てください」

だ。やけに愛想のいい微笑みを浮かべていただけに、余計にそのときのシーンが脳裏に焼き付いている。この言葉、歯を失うまでにはいたっていないが、後で尾を引く結果となる。真相については、これから続く治療記のなかで明らかにしたい。

 脱線した話を元に戻すことにしよう。問題のぐらついた歯とその周辺の歯茎、じつは以前から、自分自身のなかでかなり心配していたのである。腫れや激痛は、これがはじめてではなかった……。

(第3話につづく)

● 歯周病生活記 :: 第1話 :: 「グラついてますねェ」

「グラついてますねェ。残念ながら、この先、問題の歯は長く保存できません。今後の治療方法についてですが、歯のまわりの掃除をしてしばらく様子をみるか、抜歯するかのどちらかになります。
 いずれ近いうちに自然に抜けますよ。で、抜歯した後のことですが、一番奥の大臼歯です。ブリッジするにしても、奥のほうの親しらずは抜いておられるので片側にしか支える歯がないし、それなのにいい歯を削るのはもったいない。抜いたとしても咀嚼にそれほど問題はないのでそのままにしておいて、次にその前の歯が抜けたら、そのときに部分入れ歯か、前の歯を二本支えにしてブリッジにするとか……。」

 いよいよそのときがやってきたか。でも、こんなに早く最後通告が出されるなんて! いや待てよ。この歯医者、これまで三回ほど、ちょっとしたことで通ったことがあるのに、一度も口の中のレントゲン写真を撮ったこともないし、今日もピンセットで歯をゆすっただけ。やっぱり、ここじゃダメだ。もう不安の先延ばしはできない。またすぐに歯茎がはれて、夜に痛くて寝られなくなるかもしれないけど、きっちり診察してくれそうな歯医者を早めに見つけよう。

 今だからこそ、こうして冷静に書いている自分。よく、悩みや悲しみは時間が経てば癒えるというが、「抜歯」と言われたその瞬間、どれだけ身の毛がよだつ恐怖感に襲われたことか。反面、レントゲン撮影や細かな検査を一切せず、ただピンセットで歯をゆすっただけで診断を下す「お手軽さ」に対して、その歯医者への不信感がピークに達した。

(第2話につづく)

「歯周病生活」開始のごあいさつ。--その2

 あえていおう。内科や外科といった医学分野では、開業医では解決できない病状の場合、医師が紹介状を書き然るべき病院へと導いてくれる。ところが、歯科医院の場合、その歯科医師の治療的価値観や技量の範囲内で治療をすすめられてしまうことが多い(保存するための手術だけ紹介状を書いてもらったという友人もいたりするが)。だからこそ、患者側から見た歯科医師の見極めが大事といえる。

 さらに、誰しも気になるのは「お金」のこと。自費診療でないと最善の治療を施せないという歯科医師もいれば、歯槽骨の再生術など最先端の施術をのぞけば保険できっちり治療をしてくれるところもある。どちらがいいかは人それぞれだと思うし、高ければよいというわけでもなければ、安ければ財布的にも大助かりというわけでもない。かといって、買い物のように「失敗をたくさん重ねていいものを見極める眼力を養う」なんて悠長なことも言ってはいられない。

 かくいう自分自身、きちんとした歯周病治療を開始するまで、「まだまだこの年齢で」といった油断があった。親不知なんてとっくに抜いたのに「ああ、これは親不知の影響で腫れてますね。抗生物質で腫れを引かせましょう」という誤診にもかかわらず、薬で当座の嫌みや腫れが引いからといってしばし現実をごまかしていたこともあった。

 歯科の分野では痛みなど自覚症状が出てからでは症状がかなり進行している場合が多いという。よって、歯科医院選びで「失敗をたくさん重ねていいものを見極める眼力を養う」ようでは、本末転倒もいいところである。

 ともあれ、本格的に治療をはじめてから一年半。今はひととおりの治療が済んでメインテナンスということになっているが、歯周病が完全にストップしているわけではない。そのあたりのことも含めて、これからしばらく、一患者側から見た歯周病治療の実際や、思うこと、また、人知れず歯周病で悩んでいる人に役立つような情報も紹介していきたい。

 こういった内容なので、こちらから記事を参考にさせていただいた歯科医師のブログを除き、トラックバックしたりコメントを書き込むことは極力慎みます。でも、こちらが書いた記事に関するコメントや感想は歓迎します。

 できるかぎりコンスタントに更新していきますので、歯周病に悩む人だけでなく、歯科医師のみなさんにも読んでいただければ幸いです。程度にユーモアを混ぜ暗い雰囲気にならないよう努めます。専門分野に関する記述にかんしては、できるだけ参照したサイトやブログのURLをつけますが、もし記述に誤りがあれば、ご指摘していただければ幸いです。

「歯周病生活」開始のごあいさつ。--その1

 いったい、いつから世間では「歯槽膿漏」という言葉を避けて「歯周病」と言うようになったのだろう。「膿漏(ノーロー)」という文字からして「臭い」とか「汚い」というイメージがこびりついていたのに、「歯周病」と言われると、字面だけなら、ちょっぴりデオドラントなイメージが漂うような錯覚に陥る。

 いうまでもないことだが、呼び方がかわったとて症状にはかわりない。「歯槽膿漏」といえば、どことなく「老化現象」というイメージが強かったのに、「歯周病」と言われれば、今度は「病」の意識が前に出てくる。しかも、35歳以上で歯周病(歯肉炎や歯周炎)の割合は、日本では約8割だとか。糖尿病と同じく「生活習慣病」と言われているのだ。

 その歯周病、食生活やライフスタイルの変化によって、発症の低年齢化が進んでいる。甘いモノは虫歯をつくりやすいだけでなく、歯周病のリスクを増大させる。ストレスが、歯周病の原因菌への抵抗力を減少させる。さらには、歯周病の原因菌が、心筋梗塞や関節痛などを発症する要因にもなるというのである。

 なんだか想像するだけで「怖い」病気とも受け取れる歯周病も、かつてなら、歯茎が腫れて歯がグラつくと「残念ながら抜歯ですね」と言われて抜くのがふつうだった。今でも従来の治療方針で診察している歯科医院も多いと思われるが、「歯周病治療」に力を入れている歯科医院で然るべき治療を受ければ、歯周病の進行をくい止めたり、遅らせたり、さらには歯を支える顎の骨(歯槽骨)の再生術を受けることもできる。

 そのためには、近所の愛想のいい歯医者さん、初診時に細かい検査をせず安く済む歯医者さん、なんていう基準は捨て去ったほうがいい。ちょっとした治療をしただけで、「また具合が悪くなったら来て下さい」と軽々しくいう歯医者もまた、「歯医者(はいしゃ)」どころか、「は」と「い」のあいだに「か」を足した「破壊者(はかいしゃ)」となる可能性が高い。