●歯周病生活記 :: 第4話 :: 「大きな広告看板」
「今、スケーラーをあてたところ、舌のある側は4ミリほどしか入っていきませんけど、頬の側はかなり奥のほうまで入っていきます。痛みや腫れが引いてから抜歯したほうがいいので,落ち着いたら来てください」
いやはや、それにしても「癒し」の笑顔なのか。それとも「諦めなさい」という醒めた笑顔なのか。ご本人は気をつかっての表情なのかもしれないが、「抜歯宣告」なら、むしろ冷静な顔つきで、しかも客観的な証拠をもとに説明してほしい。
そんな歯周病系では若い(笑)患者の脳裏を察してか、受付にいた助手の女性のほうがむしろ、不必要な笑顔を一切ださず、帰り際に「お大事になさってください」と一言。診察料を支払うと、待合室には、この歯科医院ではじめて自分以外の患者を発見した。70代前半といった感じの女性。どういうわけか二人いて、診察は一人だけなのだけど、井戸端会議がわりに、この歯科医院の待合室を使っていたみたい。
「先生に悪い歯のところを診てもらって、入れ歯を新しいのにしましたわ」
なんて笑顔で会話している。そうなのである。人生を七十年も生きれば、病に対する心構えもレッスンも、生活の知恵として十分に身につけていることであろう。歯についても、「残して痛い思いを続けるより、抜いて入れ歯にしたほうがまだ噛める」といったこともよく耳にする。くだんの歯科医師も、その老人にとっては「噛める口に戻してくれるいい歯医者さん」なのである。
ところが、こちらはまだ三十代。しかも、これまで一度も大病を患ったこともなければ、十代での歯列矯正以外、医者通いを続けたことは一度もない。つまるところ、「病のレッスン」をしたことがなかったのである。そのくせ、投薬で一時的に安心することはあったものの、歯茎の腫れや痛みには、異常なまでに我慢する癖がついてしまっていた。
よくケガや痛みをおして出場といったスポーツ選手の話題が、けっこう「美談」として紹介される。でも、その多くは治療や療養で回復し元にもどる症状であることが多い。いっぽう、歯や歯槽骨は、いったん破壊されると、自然治癒ということはありえない。だからこそ、「治療」しているようでは手遅れ。いかに「予防」するかが大事なのだ。
言うまでもなく「抜歯宣告」は、歯科医療のなかでは「死の宣告」のようなものである。おまけに、たとえば虫歯なんかで歯がボロボロになって使いものにならずに抜くのとは違い、歯周病での抜歯の場合、まだまだ十分に機能する、治療の少ない歯が抜けるケースが多い。
そうなるまで本格的な治療を受けなかった自分が一番悪いのだとはわかっていながら、どうしても納得いかない。帰宅途中、くだんの歯科医院の立派な広告看板を一カ所、二カ所あらためて見つめながら、(それにしても二カ所も立派な広告看板があったなんて!!)
「こうなれば、とことん、インターネットで歯周病治療と、それに熱心な歯科医師を探そう」
と、足早になった。部屋に入り、早速、某検索エンジンで「歯周病」とキーワードを入力、すると……。
(第5話につづく)
いやはや、それにしても「癒し」の笑顔なのか。それとも「諦めなさい」という醒めた笑顔なのか。ご本人は気をつかっての表情なのかもしれないが、「抜歯宣告」なら、むしろ冷静な顔つきで、しかも客観的な証拠をもとに説明してほしい。
そんな歯周病系では若い(笑)患者の脳裏を察してか、受付にいた助手の女性のほうがむしろ、不必要な笑顔を一切ださず、帰り際に「お大事になさってください」と一言。診察料を支払うと、待合室には、この歯科医院ではじめて自分以外の患者を発見した。70代前半といった感じの女性。どういうわけか二人いて、診察は一人だけなのだけど、井戸端会議がわりに、この歯科医院の待合室を使っていたみたい。
「先生に悪い歯のところを診てもらって、入れ歯を新しいのにしましたわ」
なんて笑顔で会話している。そうなのである。人生を七十年も生きれば、病に対する心構えもレッスンも、生活の知恵として十分に身につけていることであろう。歯についても、「残して痛い思いを続けるより、抜いて入れ歯にしたほうがまだ噛める」といったこともよく耳にする。くだんの歯科医師も、その老人にとっては「噛める口に戻してくれるいい歯医者さん」なのである。
ところが、こちらはまだ三十代。しかも、これまで一度も大病を患ったこともなければ、十代での歯列矯正以外、医者通いを続けたことは一度もない。つまるところ、「病のレッスン」をしたことがなかったのである。そのくせ、投薬で一時的に安心することはあったものの、歯茎の腫れや痛みには、異常なまでに我慢する癖がついてしまっていた。
よくケガや痛みをおして出場といったスポーツ選手の話題が、けっこう「美談」として紹介される。でも、その多くは治療や療養で回復し元にもどる症状であることが多い。いっぽう、歯や歯槽骨は、いったん破壊されると、自然治癒ということはありえない。だからこそ、「治療」しているようでは手遅れ。いかに「予防」するかが大事なのだ。
言うまでもなく「抜歯宣告」は、歯科医療のなかでは「死の宣告」のようなものである。おまけに、たとえば虫歯なんかで歯がボロボロになって使いものにならずに抜くのとは違い、歯周病での抜歯の場合、まだまだ十分に機能する、治療の少ない歯が抜けるケースが多い。
そうなるまで本格的な治療を受けなかった自分が一番悪いのだとはわかっていながら、どうしても納得いかない。帰宅途中、くだんの歯科医院の立派な広告看板を一カ所、二カ所あらためて見つめながら、(それにしても二カ所も立派な広告看板があったなんて!!)
「こうなれば、とことん、インターネットで歯周病治療と、それに熱心な歯科医師を探そう」
と、足早になった。部屋に入り、早速、某検索エンジンで「歯周病」とキーワードを入力、すると……。
(第5話につづく)