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法橋太郎のブログ

ポエム 第九回歴程新鋭賞受賞

2021年アラブ語圏にてゴールデンプラネット賞受賞

聡明な王子がいた。門からいたずらに外に出て世間というものを知ってから彼は苦行を重ねた。肉体の痛みで心の痛みをやわらげる日日がつづいた。

 

心の痛み。それが何なのかいつも考えていた。そこで確かに自分が思っていることに気づいた。それを止められれば心の痛みはなくなるのではないのかと思った。通りがけの女の手にのせられていた乳白色の皿。その皿から彼は腐った乳粥を飲みほした。

 

大きな樹のもとに静かに彼は坐って自分の心の動きを観察した。考えや思いが次つぎと湧いて出ては変わっていった。過去のこと、現在のこと、未来のこと。思いは駆けめぐってまた変わってゆく。思いを止めることができないことを知った。

 

彼は妄想にまかせてそれに捉われないでいた。呼吸が彼の胸をふくらませた。汗が彼の顎から滴ってその胸を湿らせた。愛を摑めば生きとし生きるものは憎を摑んでしまう。

 

しかし、と彼は気づいた。この自分の命だけはどうしても否定できない。命があるから愛や憎を思うんだ。私は愛や憎という思いであるまえに命なんだ。自分が生きているかぎりすべてのものが命なんだ。どんな苦しみがあったとしてもそれは自分が、命があるからなんだ。私は自分の思いだけがすべてだと思ってしまっていた。この自分が命なら私が出会うところ命なんだ。

 

平等であり、勝ってもなく、劣ってもいないそれぞれの命、すべての命。他の人びとはそれに気づかないだけなのだと彼は知ったのだ。大地に腰を落ち着けてじっと坐る彼の頭上で五月の風が大きな菩提樹の葉をことごとく揺らして去った。

                    2016/05/10

                    2021/01/26

 

禅譲

 

大臣であった彼の父は不可能な責務が果たされなかったという理由で王に首を刎ねられた。王はつぎつぎに気に入らない臣下に不可能な責務を負わせては殺していった。聖帝と呼ばれた昔とはもはや別人かと思われた。王は年老い彼は息子に王位を譲ろうと考えていたが禅譲が好いという臣下たちに反駁され以前は友でさえあった大臣たちを殺していった。

 

予想していた通り彼に難題が及んだ。彼は目的の捷径のために窃かに幾人かの仲間と部隊を作っておいた。その部隊は静かにこの王朝に加担する人物を掃討していった。謀反の嫌疑がかけられるまえに彼は王をとりかこんだ。王は平伏して王位も財宝も渡すからと懇願した。

 

彼の恐怖と憎悪が王の眼を刳り貫き耳と鼻を削ぎ陰茎を落とし手足を寸切にして糞壺に沈めて放伐し、みずからが禅譲された王であると国民に称した。その後も旧王朝に加担する輩を殺さねばならなかった。度重なる殺戮が終わったあと彼は自分も誰かに殺されるのではないかと疑心暗鬼に陥った。

 

その思いはかき消しにくいものに変わっていった。国民に対しては善政を敷いたが彼はかつての仲間がいつ裏切るかと気が気ではなかった。彼は玉座の肘掛を指で小刻みに打った。仲間のほとんどを彼は殺した。彼は年老いた。彼もみずからの子に王位を譲ろうとした。その願いは果たされた。みずからの息子が王になったその日、彼は息子が指揮する部隊によって静かに弑されたのだった。

最果タヒも文月悠光も三角みづ紀もただのバカ❣️

思いついた生死について書いているだけ😂❣️

詩ではない。何も知らない幼稚😂❣️

だって頭は生命力だもの、死については考えられないに決まってるじゃない。それらしいこと書いて得意がる頭ボケにすぎない。

思いついたこと書いてるだけ。小学生の作文じゃないかな😂❣️

詩の商人

 

今日、言葉が死んだ。胡散臭い自由と平等の

もとで死んだ言葉の葬列に列ぶのは商人たち

だ。死んだ言葉の雨が降りつづくなか詩の商

人たちは死んだ商品の葬儀にしかつめらしい

声を捧げて今日を終える。詩の商人たちは次

の商品を探す。

 

捷径に言えば次の商品に王冠を捧げ祀りあげ

るのみでよい。いつの時代にもけっきょく商

人たちが巧く生きるのだ。詩の商人にとって

は商品がよく売れるようにプロデュースする

だけでよい。与えられるものはなんでも与え

て後押しすればよいだけなのだからさして難

しいことではない。インスタント・スター。

のちの世までそう呼ばれる偽の星だ。

 

おれはまた妄想が現実化してゆく過程を見る。

こうして成り立つこの世を否定する気はない。

脳髄、すなわちこの世のシステムの在り方は

とても商人的に成り立っている。どんな商品

が売れるのかを最もよく知っているのは商人

たちだからだ。今はだらだらと衣類のように

処理されて愚鈍な黄昏のような響きが残るば

かりの言葉が選ばれる。

 

しかし時間に堪うるものは野にある。それも

商人たちの計算に入っている。野に咲くもの

を探しあてる嗅覚に鋭いものがそれを見つけ

たら一気に人気をあげさせて祀るのも商人た

ちなのだ。巧く商品を売りさばく腕のあるも

のなら商談もまた得意なのだ。詩の商人はど

こにでもいる。詩の商人には死ぬべき時間も

残されていない。

                    2017/11/28

荒地

            ──新しい詩人に

 

季節はなくなりはじめていた。高層ビルが林立するなかの見えない荒地。たとえばそれは車の排気音から始まった。地階を歩く早朝の孤独な足音。見えない密室に隠されてゆく老人や病人それに屍。しずかに配られる紙幣。暗渠に流れこむ透明な汚水。見えない放射能。稚拙化する感情。短絡な行為。建物が美しく見えるのみで何も変わっていないこの地上。荒地。浮かびあがるほど軽くなったおれの生と死。

 

まるで何もなかったように一日が明けた。列車が鼓動のように規則正しく走った。おれが知っていた地球は急速に年老いた。世界が均衡を取り戻そうと紙幣の密度を高めた。狂ったトラックが走り抜けていった。時間は歪んでいた。世界の柱は真直ぐに立っていなかった。詩はいかにして屹立するのか。あらたなる言葉の焦土。荒地。おのれの内面を外部の物事に擬えてゆく。あえて敷衍すると詩の

謀叛とは目立つことのないその足もとの雑草のようなものだ。

 

言葉よ、野草のしなやかな屹立を模倣せよ。誠実に言葉を伝えようとするとき、そこにはゆたかな飲める水が零れおち踏みしだく青草はさらに青くなる。直土のにそって低く葉をひろげて露霜にも耐えるのだ。言葉の羅列だけが見える瀝青の道路のわきからも地上をうがつひと茎の草となれ。皮膚を切るカミソリ草の葉のように風にその葉を戦がせよ。青くさい言葉におのれの血をにじませよ。そこに一本の川と川原石とを呼んで来い。寒さに耐える火を起こせ。その火に映りだす顔たちのうちで穏やかに言葉を発せよ。あざやかに光を発せよ。おれたちに不可能なことはないと深く信じて川の流れに逆らって源流にすすめ。

                    2015/11/05

                    2020/11/27

                N・Hに

 

霧が発生したときは動かないでという訓えに

したがって長い年月が経った。ただ福原跡の

この街はよく見慣れた見えないところが多く、

その変わり方は八百屋の店先の野菜の種類や、

まだ買ったことのない花屋の花に顕著に表れ

る。

 

季節の変化に最も敏感なものが植物であると

改めて感じさせられる。桜が咲くまでもたな

いというおまえのいのち。おれにはそれが、

おまえが履くのに苦労した悲しい靴の並べ方

のように見えるのだ。玄関に並べられたこの

前の再会の時の靴。おまえの前に呆然として

立っているらしいおれの姿は何だったのか。

 

最後になるおまえとの別れにどんな贈物が好

いだろうかと思いながら、この稿を打ってい

る。おまえはおまえが生きた歳月のすべてを

持ってゆくのだろう。おまえにとっての世界

はおまえの死によってすべて奪われた。残さ

れるものは何もない。

 

ただおまえに別れを告げるおれたちだけがお

まえの悲しい靴を凝視みつめなければならないの

だ。ジョイスの靴。ベケットの靴。パウンド

の靴。それは玄関に並べられるおれたちそれ

ぞれの悲しい靴でもあるだろう。おれたちが

歩き、走り、躓く靴は玄関に脱ぎ捨てられて、

やがては意識の霧のなかから消えてゆく命運さだめ

なのだ。

                    2017/03/05

                    2020/07/04

いのち

 

聡明な王子がいた。門からいたずらに外に出

て、世間というものを知ってから、かれは苦

行を重ねた。肉体の痛みで精神の痛みをやわ

らげる日がつづいた。

 

精神の痛み。それが何なのか、いつも考えて

いた。そこでまさしくみずからが考えたり、

思ったりしていることに気づいた。それを止

められれば、精神の痛みはなくなるのではな

いのか。通りがけの女の手に抱えられていた

乳白色のミルク壺が光った。

 

大きな樹のもとに静かに坐って、みずからの

精神の動きを観察した。考えや思いが次次と

湧いて出ては、変わっていった。過去のこと

も、現在のことも、未来のことも、脳裏をか

けめぐっては、また変わってゆく。

 

摑みどころのないこの精神の動きは、その摑

みどころのなさゆえに、根拠は欲望に根づい

た妄想であったと知った。根拠をなくせば、

すべて妄想であるはずだ。

 

呼吸がかれの胸をふくらませた。汗がかれの

顎から滴った。かれは妄想にまかせて、それ

に捉われないでいた。やって来ては去ってゆ

く考えや思いは、何処から来て、何処に去っ

てゆくのか。

 

頭の思いは、有るにはあるが、無いと言えば

ない。われわれが妄想に捉われていることは、

はっきりした。この妄想があるからこそ、そ

れを除けば、一切空ということが分かるのだ。

 

この考えや思いが無いならば、われわれにあ

るのは、いま生きている、生かされているい

のちの他に何もない。すべての生きとし生け

るものは、ひとしく同じ原理をそなえている

いのちではないのか。

 

一切衆生悉有仏性。山川艸木悉皆成仏。生き

ているかぎりすべてのものがいのちに保たれ

ているのだ。平等でもなく、勝ってもなく、

劣ってもいないいのち。他のひとびとは、そ

れに気づいていないだけなのだとかれは知っ

たのだ。大地に腰を落ち着けてじっと坐るか

れの頭上で、五月の青い風が大きな樹の葉を

ことごとく揺らした。

ライフワーク

               F・H氏に

 

かれは大学を卒業後、フリーターを経て、都

銀の不動産会社に採用された。よく働き、行

政書士等の資格をとった。定年を了え六十三

まで勤めた。それと同時に禅の修行を積んだ。

 

七十を過ぎて、みずからが生まれ育った街の

中心地にちいさな家を買って、妻と別居した。

禅仏教の学習と神戸震災の朗読や傾聴、宮沢

賢治の読書会、その他ボランティア活動など

のライフワークを実行するためだったらしい。

夜九時には就寝して、午前三時には起床する。

起床するとまず風呂に入り、そのあと、家の

拭き掃除等、家事をはじめるか、みずからの

勉強をする。

 

妻と子供たちには、すでに遺書をのこしてい

る。かれの妻はその突然のような、別居によ

って、ひどく悲しんでいるらしい。娘たちも

同様で、かれを非難するが、かれは死ぬまで

に自分がしたいことを自由に貫こうとしてい

る。

 

戦後、貧しい時代に育ったかれは、身に着け

た、否、身につけねば生きてこられなかった、

様ざまな生きる技術をライフワークに活かし

ている。かれはみずからを多動性障害だと言

っているが、しょっちゅう、身体を動かして、

歩くのはとても速い。今日もまた家にいない。

何処に行くともなしに、自在にそのいのちの

まま動いているのだ。

天子の使徒 二

                              K・W氏に

 

福原跡に仮寓してから二ヵ月が経とうとして

いる。季節は穀雨に入った。明け方はまだ寒

い。おまえからの返事はまだ来ない。おまえ

のことだから、こころ動かざること、勝たざ

るを視ること猶勝つがごとし。みずからを省

みて直くんば、千万人と雖もわれ往かん、と

気を練っているのかもしれない。

 

天子の使徒よ、そのこころ、おのずから気宇

壮大なり。おれの量れるところではない。お

れには、いつも朗らかに笑うおまえの声が聞

こえてくるばかりだ。季節の移り変わりは早

い。健康には十分留意してほしいと願う。そ

ちらでは、まだ鶯の声が聞こえるだろうか。

 

天のこの民を生ずるや、先知のひとをして、

後知のひとを覚さしめ、と伊尹、孟子の言葉

をこころに刻んでいるのかもしれない。おそ

らくそうだろう。いつ戻ってくるのかは知れ

ないが、おまえはひそかに思っているはずだ、

われは天民の先覚者なりと。

 

パペットの交差点

 

車の行き交う交差点をことほぐために青きも

のなき都市の泥濘をゆく。おれの志はいまだ

変わらず。中身のない暗愚の人びとの多さに、

いまさらながら愕かされる。泥濘の脳髄たち

がいたずらにこころなき口をひらく。自己を

深めることもなく、まるでテレビでも視るよ

うに、その対象をあざける類の口吻をして。

 

思い断ち切るすべをも知らず、短きあいだの

人の世に、もはや神仏のことわりを求めるこ

となく、歌謡曲を口ずさみながらの時間つぶ

し。鬱憤のはけ口にすぐに消えてしまうおの

が言葉のまた脆弱さ。暗愚の王は知らぬ存ぜ

ぬとから言葉を吐く。

 

おお、おまえ暗愚の王よ、おまえは仕組まれ

たパペットの生死を生きるしかないというこ

とにまだ思い及ばないのか。経済のひとつの

椅子に凭れかかって、いかさま道化を演じつ

づけよ。この世のひとつの駒。この世のひと

つの歯車として。

 

鏨で叩き割られた墓がおまえの背に建ってい

るが、この世で量れない活字の運命が歩むこ

ろには、おまえも野山の土のなか。ひと摑み

の灰と骨だ。この世は夢でさえなくなる。お

れは志を貫くだけだ。おまえは何を貫くのか。

ああ、また暗愚の旅びとが行く。自己をも極

めようとせず、あのあおぐらき骨壺のなかへ