本当のバランス感覚 | 3年前のしこうの楽しみ

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木楽舎より出版されている生物学者福岡伸一氏の動的平衡2を読みました。
前作に引き続き、動的平衡という概念について理解が深まりました。
動的平衡とは、部分部分は動きながらも全体としては平衡を保っている状態のことと理解しています。

著者は、生命とはそういったものであるということを伝えてくれます。
当たり前のことといえばそれまでですが、それを言葉でうまく言い表し、世に紹介した功績は大きいと思います。
もちろん、学者なので科学的裏付けのもと書かれていて、生物学の変遷や潮流を垣間見ることができる点も面白いと思います。

しかし、一点だけ疑問に思う点がありました。
エントロピー増大則(時が経つにつれて複雑さ自由度が増し、全体としては均一に向かうという法則)がベースの概念になっている部分があるのですが、それについての検証が言及されず、周知の事実とされていたことです。

もちろん生物学の範疇でないため、難解になることを避けるためという可能性もありますが、そこが言及されていれば納得感がより高いように思います。
とはいえ、今回の2は、生物学者がここまで書いてしまっても良いのかと心配するほど、どちらかというと主観とも捉えられかねない著者の考えが表現されています。

やんわりとではありますが、社会に対する警鐘とみることもできます。
学者でありながら、ANA機内誌で連載されていたフェルメール光の王国も執筆されたように、芸術にも精通しているバランス感覚が社会全体をとらえる感性につながっているのでしょう。

多くの人が、動的平衡という概念を理解し、感覚的にとらえられるようになれば、より全体的な観点から価値観を共有できるようになると思います。
人間が社会と共生し、社会が自然と共生し、人類が地球環境と共生できるように、動的平衡の感覚を身につけていける足掛けに、この書がきっかけを与えてくれるように思います。

分かりやすくは書いてありますが、進化や遺伝などについて多少の知識があると、内容を深くとらえやすいでしょう。
もちろん、その分野への入り口として、この書から入って行くことも可能です。

ただ、学問を理解しようとする時に、時代を追って発展していく順にとらえると勘違いが起きにくいことも確かだと思います。

2012.9.16 13:56 谷孝祐