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君が好き

アイドルの話でもしようず。

おかげさまで今週は平日もRe:fiveで楽しませてもらった。

Re:five の柊わかばさんと東雲ういさんが「TGC熊本ランウェイオーディション」に現在参加されている。

そしてこのオーディションが、動画配信サイト「ミクチャ」の応援投票のポイントで競われるとあって、柊わかばさんと東雲ういさんが、ライバーさんに交じって毎日ライブ配信してくれているからだ。

柊わかばさんが卒業式を終えたばかりの高校三年生、東雲ういさんが卒業式を控えた中学三年生と、比較的時間に余裕のある時期のイベント開催とあって、おふたりとも毎日8時間以上配信されている。

さすがに平日に全部それを見ることはできないけれど、仕事の合間などにちょっとスマホを触れば、Re:fiveがライブ配信をしているというのはしあわせな時間で、めちゃくちゃ楽しい。

 

とはいえ、おふたりがここで配信されている理由は、4月13日に行われるTGC熊本のランウェイの出演権をかけたオーディションなのである。

もちろん出場するからには、オーディションには合格してほしいのがファンの気持ちではあるが、正直なところ、ライブアイドルのヲタクはこういう課金イベントにはあまり強くない。

そもそも同じお金を使うにしても、配信より、毎週行われる生で会えるイベントのほうが圧倒的にコスパがいいわけで、やはり限られた財布はそちらに注ぎたいのがライブアイドルのヲタクなのだ。

先週の日曜日のRe:fiveのイベントで何人かのヲタさんと、このオーディションについて話をしたが、ぼくの周りではそういう意見が主流で、出来るだけ応援はするけど課金はむつかしいという空気だった。

 

3月4日の正午よりイベントはスタートした。

Re:fiveは東雲ういさんが正午に、柊わかばさんが0時半より最初の配信を始めた。

口では「無課金」と言いながら課金されたり、時間を使ってボックスのコインを集めていた人がいたのだろう。

そもそもアイドルだからライバーさんよりもファンの数が多いこともあり、この昼間のスタートは順調だった。

最初の一時間は1位が東雲ういさん、2位が柊わかばさんと独占していた。

ただし、配信だけでファンをつくり、配信を見ることがファンのいちばんの推し活であるライバーさんたちは、この浮足立ったアイドルヲタクの力を一蹴した。

東雲さんは中学生だから20時まで、柊さんは高校生だから23時までという事務所の配信のルールも不利に働き、東雲さんは20時近くには「やめたくない」と言いながらも配信を切っていた。

3月5日の朝の時点で、東雲ういさんは4位、柊わかばさんは8位まで順位を落とした。

ポイントも4位の東雲さんが26362ptで、3位の方は50074ptだったので、倍近く引き離されていた。しかも上位三人は、三人とも同じライバー事務所に所属するライバーさんだった。

しょせんぼくらはアイドルヲタクで、ミクチャは推し活のメインの場所ではない。メインの推し活がミクチャのライバーさんには勝てないのか。

初日の結果を見たとき、ぼくはそんな気分になった。

ただ、その時点で一人神がいた。

 

東雲さんの初日四位、この数字はたしかに厳しいものではあったのだが、実はこの四位の順位には、ムービーに10000pt投票した方がいらっしゃったのだ。

そのおかげで、東雲陣営では東雲さんがムービー部門1位であることが確認され、勇気づけられた。

そして二日目の配信。

「ライバーの課金勢は1.3倍の初日と1.5倍の最終日に集中する」と聞いていた通り、ライバーさんのポイントは伸びない。そんな中、柊わかばさん、東雲ういさんは長時間の配信で確実にポイントを伸ばしてきた。

はじめは指定アイテムだからとリトルボックスもやみくもに投げられていたが、時間を指定してその時間に投げると人が集まるといったテクニックも、みんなで覚えてきて伸びていった。

特に東雲さんの配信では、こだまだいきがリトボを投げる→初見さんが集まるといった相乗効果が効いていた。

柊さんはアイドルで鍛えた交流力でファンを増やしていた。

ライバーが伸びない1倍デーであるとはいえ、二日目は、上位が5000pt~7000ptぐらいしか上積みできない中で、東雲さんは17082pt稼ぎ、24000ptあった三位との差を13000ptまで縮めた。柊さんも8324pt積み上げ、順位を8位から6位に上げていた。

この日の東雲さんの配信は、顔見知りのアイドルヲタクばかりでなく、新規さんも増えていた。外国人の方に英語でコメントされ、必死でコメントを返す姿もあったし、明らかに自動翻訳の方からもコメントされていて思わぬ人気を生んでいることに気づかされた。また、普段の活動や他の配信者ではなかなか見られない英語で必死に会話をする東雲さんの姿は、これまで東雲さんを応援していたファンにとって新鮮で楽しかったし、そんな珍しいことをしていることで新規の日本人の方も増えたのだと思う。

 

三日目もその勢いは止まらなかった。

三日目は暫定1位の方は気合が入ったのか、31960pt伸ばしたが、東雲さんも負けずに20806pt増やした。暫定3位の方が9502ptしか伸ばさなかったので、三日目が終わる頃には、初日24000pt差だった東雲さんと3位との差は3000ptまで縮まっていた。

柊さんも順調にポイントを伸ばし、5位との差を縮め、7位との差を広げていた。

そして昨日である四日目、3位の方も配信されていたのだろうが、勢いのある東雲さんのポイントは増え続け、ついに夜には3位に浮上した。

この日の日当たり獲得ポイントは、暫定1位の方はほぼほぼ配信されて29302ptとぶっちぎっているが、暫定2位の方は12795pt、暫定4位(元3位)の方は5498ptだったのに対し、東雲さんは24724pt、柊さんも14216ptと伸ばしていた。これはライバーさんみたいに課金勢は少ないかもしれないが、アイドルであることのファンの多さと、おふたりの配信の楽しさがたくさんの無課金ポイントを集めた結果とぼくは見ている。もちろん、それ以上に応援したくなって課金してくださった人もいるだろう。

だからぼくはまだまだ、柊さんも東雲さんもベスト3を狙えると信じている。

初日には倍近い差があった3位とのポイント差を四日目にしてひっくり返した。

暫定1位は別格にしても暫定2位や暫定3位の方よりも東雲さんも柊さんも毎日ポイントを積み上げているし、その量も伸びているから、配信を続けるうちに、暫定1位の方の日当たりポイントを越えるかもしれない可能性も秘めている。そうなると合計だって超えないとは限らない。

これはまだ配信の経験が少なく、ライバーとしての固定ファンが少ないからこその、伸び代しかない強みだ。

 

また、初日に東雲さんのムービーに10000pt投票した神が、昨日の夜にまた現れ、3位浮上をお祝いするようにムービーのポイントがさらに10000pt増えていた。毎日新しいムービーを投稿していた東雲さんの努力が呼んだ神とも言えるが、東雲陣営にしては大変ありがたいポイントになった。

そのような方が東雲さんにも、そしてムービーを増やしている柊さんにもいつ現れないとも限らない。

 

ただし、ポイント1.3倍の初日で大きく水をあけられたように、ライバーのファンの方は間違いなく1.5倍の最終日にたくさんのポイントを投げてくるだろう。

逆にRe:fiveは日曜日なので本業のアイドル活動があり、しかもこの日は佐賀に遠征と配信にとっては不利な状況。

結果はどうなるかは誰にもわからない。

ただ、ここ半年ぐらい、熊本の各アイドル運営は「パイを増やしたい」と口にされていた。

Re:five運営の武部さんも「お客様のことをパイというのは失礼だと思いますが、やはり運営としてこれからもっとパイを増やしていきたい」と言われていた。

その意味では毎日コンスタントにポイントを稼いでいる柊わかばさん、東雲ういさんには、たとえ無課金でも一定の固定ファン数がいるうえに、新しいファンを獲得していることの証明になったのだから、今回のミクチャオーディション参戦は非常によかったと思う。

ただ、願わくば、ここまで来たなら、おふたりの、そしていまや5erの夢にもなっているTGC熊本のステージに立って欲しい。みんなでグランメッセ熊本に行きたい。

そのためにもしよろしければ、日曜日だけでも、2ポイントからでも、応援をしていただけないでしょうか?

 

2月5日に発表されたRe:fiveのメンバーの卒業は、たとえそのメンバーが年明けてからライブに出演していなくても、大きな衝撃をファンに与えていた。
もちろん、新しいことを始めるのはめでたいことであるし、卒業したいというメンバーの意思は尊重されるべきである。
ただ、これまで会いに行けていたアイドルに会えなくなるのが単にヲタクは寂しい。

そんな寂しい思いが心のどこかでひっかかってるなかで、昨日は待望のRe:fiveの今年最初の主催ワンマンライブ、「Re:five VALENTINE LIVE」に行ってきた。

いつものovertureからメンバーの登場。
衣装は見慣れたはずのピエロ衣装だったのだけどなにか違和感。
色はいつも通り、柊さんと東雲さんがピンクで、空豆さんが紫、ブラウスも柊さんと空豆さんが白で、東雲さんが黒なのに、微妙な違和感があるのだ。
よく見るとダイヤ型のボタンや大きなリボンの飾り付けがされていた。
MCで「吉川りおさんが飾り付けをしてくださった」とメンバーが種明かしをしてくれたように、同じ事務所の先輩タレントが衣装はパワーアップさせてくれていたのだ。

ぼくはそれまでなんとなく胸の奥で引きずっていたメンバーの卒業が、この衣装で吹っ切れた。
卒業したメンバーも新しい夢に向かって変わったけど、Re:fiveも新しく変わろうとしている。
終わったことを悔やんでもしかたない。

二曲終わったところで、この日二回目の異変が起こる。
いつも自己紹介まではMCをすることが多い東雲さんがこの日はなんとフリートークのマスターMCにチャレンジしてたのだ。
東雲さんのいまのスキルだと、それは特段むつかしいことではなく、そつなくこなされていたが、最年少のあの東雲さんがマスターMCをやるってことだけで、そのインパクトがおもしろいのがいいなと感じた。

ライブは、先月に満員のNAVAROや満員のTENKAIでRe:five以外のファンの前でも自信を持っていたパフォーマンスを、天草でも存分に見せてくれた。
長いキャリアに加えて、実は初めてグループ最年長になった柊わかばさんは、かつてMONECCO5の最年長や年長組のリーダー、更にはRe:fiveの橘かえでさんがそうしてきたように、自分を見せるのに加えて、他のメンバーをも気にかけてる姿がさすがだった。いよいよ高校を卒業され、ヴィジュアルも大人っぽくなられているのもあり、グループの柱としてしっかり支えられる覚悟にはリスペクトをぼくは抱いてる。
空豆かれんさんは、もともと歌声がすごくいいなとは感じてたけど、そこに長い手足からの大きなダンスが加わって、見るたびにすごみが増してるように感じた。落ちサビのパートも自信が見えて、安心感が生まれていた。
マスターMCにチャレンジした我らが東雲さん。柊さんがフォローした場面もたしかにあったかもだけど、そこはグループの良さなわけで、普通にそつなくこなしていた。なにげに東雲さんは成長しても、それをいかにも「できました!」と見せるタイプではなく、むしろふわふわしてて周りからできないと思われてることをそつなくこなす印象がある。
そんななかでこの日いちばんの場面も東雲さんだった。
「霖雨のファンタジア」で、これまで先日卒業したメンバーが歌っていた歌割りを歌うとき、ふっと涙ぐまれていたのだ。
卒業されたメンバーは、研究生の頃からほぼほぼ東雲さんの同期でステージでもいちゃいちゃするほど仲がよかった。そのメンバーへの気持ちを、ふとした表情で、しかし全体のパフォーマンスを引きずるほどのものではなく、小さく表現する。
新しくRe:fiveも変わるんだ! と思っていたぼくも、つい卒業されたメンバーに想いを馳せてしまった。

とはいえ、ライブは相変わらずの主催ライブの楽しさもあって、すごくよかった。
特に先月のNAVAROとTENKAIでの経験がすごく生きてると思う。
いつかはあの日のNAVAROやTENKAIのように、またスタジオ5も満員になればいいなあ。


いま熊本のアイドルシーンは熱いのか?
1月14日のPOTIONのデビューイベントが前売りチケット完売。
そして昨日のLIKE!も前売りでチケットが完売していた。

 


コロナ禍の入場者規制時は別にして、入場者制限がなくなった昨年に、ぼくも熊本の現場には何度も通ったが、昨年はこのような前売り完売ということがほとんどなかったように記憶している。
それが今年は1月ですでに二件も完売が発生。
この結果だけを見るとまさに「いま熊本のアイドルシーンは熱い」と言わざるを得ないだろう。

ここまで読んで熊本の現場を知っているヲタさんでも「そんな実感はないなあ」と思われた方もいるかもしれない。
申し訳ないが、これを書いているぼくでもそう思うので、それが普通です。
だが数字は人格、売上は正義だ。
いま熊本のアイドルシーンは熱いのだ。

要因はなんだろうと考えて、何年も熊本現場に通っているぼくが感じるのは、ぼく自身もそうなのだが、ここ一年で熊本県外の人が増えたという印象だ。
炭坑ガールズやRe:fiveの熱心なファンが必ずしも熊本県民ではなくなっているのだ。
つまり地元のアイドルだからとご当地アイドルを応援する人ばかりではなく、熊本のアイドルを見たいからとわざわざ熊本に通う人が増えている。

2010年前後から各地で巻き起こったローカルアイドルブームは、2013年にはNHKの朝の連続テレビ小説に取り上げられるほどの一大ブームとなった。
ローカルアイドルには、いわゆるメジャーアイドルにはないサブカルチャー的な面白さがあった。ローカルアイドルは、クリエイターが集中している東京で生まれたものが日本全体のトレンドとなるのが普通だったこれまでの概念とは違う文化を生み出していたのだ。
まだ2010年当時は、インターネットはあったものの現在ほど動画投稿や各種SNSが発達していなくて、流行や文化が、サブカルチャーも含めてテレビやラジオ、新聞や雑誌の東京で作られたマスメディアからしか生まれていなかった。そんなときに、もともとは東京から仕掛けられたブームに乗った形ではあるが、地方で新たな文化が生まれ、場合によってはそれが全国に注目されるということが起こっていたからこそ、このブームは面白かった。
ぼくの周りでも、たとえば、LinQは東京にはないコンテンツを提供し、九州どころか関西や東京からも、劇場のエントランスに旅行カートが並ぶほど、他県の人を集めていた。
もっと身近な例をあげれば、ピンキースカイも、アイドル離れした歌唱力を武器に、佐賀に県外の人を集めていた。
ローカルアイドルが他県から人を集める理由は、東京やそれ以外の県にはないものが、そこにあるのが前提である。そしてLinQもピンキースカイもそれを持っていたのだと思う。
ピンキースカイが絶頂期の頃、東京のネット配信番組に出演したときに「いつかは東京で勝負したいですか?」とインタビュアーに質問され、ピンキースカイは「わたしたちは佐賀が大好きなので佐賀を拠点にしたいです」と答えていた。
そのとき、インタビュアーは不思議な顔をしたように見えたが、ぼくは感心したものだ。
みんなが東京を目指しているのとは違うベクトルに力を入れることが、結果的にローカルアイドルの強みになるからだ。

ローカルアイドルの目標が東京アイドルフェスティバルになって久しい。いまでも夏が近づくと東京アイドルフェスティバルを目標にしたアイドルを目にする。どうしても文化や芸能の中心が東京だからそれは当たり前のことだとは思う。東京で作られたローカルアイドルブームは2013年をピークに先細りになり、終焉を迎えたのだ。2010年当時と比較しネット配信は進化したものの、その配信は既定のアイドルやタレントという枠組みにさえとらえられない新しいスタイルの人たちが人気を集め、アイドルにとってはそこまで恩恵はなかった。
ただ、そんなななか、熊本のアイドルシーンはある意味時代に取り残されていたのかもしれないが、もともと福岡の影響力が弱い土地柄もあって、独自に進化を進めていたように思う。
POTIONのデビューイベントのときに、長崎の老舗アイドル・ミルクセーキの運営さんとお話をする機会があったが、その方は「久しぶりに聞いたコールもあった。熊本の空気はやはり特殊」と言われていた。
ただ、そのように特殊な空気の中で独自に進化をしていたからこそ、いま熊本のアイドルは県外の人を集めて、熱くなっているようにぼくは感じている。

そんなことを考えて昨日は今年初めての「LIKE!」に行ってきた。
ジュニアアイドルの炭坑キューティーズから幕を開け、熊本アイドル界の最長芸歴ながら本当に17歳のIaraさん、トーク主体のまったりステージで空気を和ませた私世界、オレンジのペンライトで強烈に盛り上がった今西ゆうたさん、全国展開アイドルなのにらしさをしっかり持っている熊本Flavor、先週お披露目で30人集め現在の熊本アイドルシーンの話題の中心chem LiLy、少人数ながら大分の洗練された空気と沸き曲を持ってきたSPATIO、ステージのレスポンスを回収しステージに昇華するMonster Factory、ストイックなダンスをキャッチーな楽曲に乗せ実力を披露したMeeL、もともとコスプレだった白衣装で「St…you」「朝までカツカレー」「ダンデライオン」「なんてんまんてん」でこれまでの熊本アイドルシーンを牽引してきた力を見せたRe:fiveがトリを務め、あっという間にたくさんのアイドルを堪能させてもらった。
計10組。天海の異様ともいえるステージとフロアの距離の近さ、一部で沸きながらも全体的にまったりした空気、昨日もそんな県外の人をも虜にする熊本の特殊な空気を堪能できた。その中で素敵なアイドルさんや推しの笑顔を十分に楽しめた。
来月、2月18日のLIKE!は出演アイドルが6組なので、今回のようにチケットが完売することはないかもしれない。
ステージの近さやまったりした空気で、逆に本当に「いま熊本のアイドルシーンは熱い」のか? と思ってしまうようなゆるさがあるかもしれない。
しかし、東京が生み出したステレオタイプの盛り上がりではない、熊本で独自に進化してきたアイドルシーンが確実にここにはある。

 


 

それはまさに事件だった。

2023年12月3日、熊本のアイドルヲタク界隈に衝撃と動揺が走った。

1月14日にデビューする熊本の新アイドルグループPOTIONのXのポストだった。

 

「1/14(日)のPOTIONデビューライブイベントに関しまして
先日チケットが設定枚数を完売いたしました✨」

 

ぼくもこのポストに動揺したひとりだ。

2024年の1月14日で会場も熊本ではそこそこ広いライブハウスNAVARO。

チケットの発売開始は11月11日だったが、ライブは2か月も先の話である。

Re:fiveの出演が決まっていたのでぼくもこのライブには行きたいなあと思っていたが、現在の熊本アイドル界隈の感覚としては、そんなに急いでチケットを取ることもないだろうと余裕をかましていた。

11月30日に「残りわずかです」というポストもされていたが見逃していた。

そもそも今の熊本のアイドル現場で1か月以上も前からチケットを取らないと入れないことなんてないのだ。

幸い、ぼくはなんとかこのポストに気づいて追加分で前売りのチケットを取ることができたが、この動揺は年が明けても続き、古参の熊本アイドルヲタさんの中でも、結局なんとか当日券が出たので入れたという人も何人かいた。

 

そんなわけでチケット発券から異様な盛り上がりを見せていたPOTIONデビューライブイベント。

開場は11時半でぼくは11時15分ごろに会場のNAVAROに到着したが、すでにNAVAROの入口には人があふれていた。

そのあふれている人の列整理をしている女性スタッフらしき人がいた。

AKB48などの地上系のアイドルの場合、女性スタッフが列整理することが多いので、そんな感じかなと思って女性を見ていたら、ぼくも整理される側になり、その女性の顔を見て驚いた。

そのときはすぐに名前は出てこなかったのだが、仙台のアイドルグループPOEMの上野あいさんだったのだ。数年前に佐賀の656広場で何度かPOEMを見たことがあったので、なんとなくそうなんだろうなと感じた。並んでいる間に同じPOEMの水咲爽さんがPOEMのアー写がプリントされたポケットティッシュを配ってくれたので、それは確信に変わった。

どうやらPOTIONはPOEMやペペロンチーノが所属するOncePromotionのアイドルだったらしい。

ローカルアイドルで成功した実績を持っている事務所が本気で熊本にアイドルを作る。

だからこそ、これだけの人がこのライブを訪れているんだと思った。そして、来てくれたたくさんの人を事務所全体でおもてなしする姿勢として、POEMのメンバーにスタッフ的な役割を任せていることにも好感が持てた。

実はライブの後に、会場が物販に転換するため、ライブハウスの外で待たなければいけない時間があったのだが、そのときもPOEMの永瀬愛瑠さんが会場入口でたむろしているヲタクにXのフォローを呼び掛けていたりして、こういうわずかなチャンスも生かす姿勢も上に行くグループは違うなと感じさせた。

 

話をPOTIONに戻そう。

この日のライブは、前物販→ライブ→後物販というスケジュールになっていた。

熊本ではこの前物販というのも大変珍しい。

ぼくはこの前物販で今年初のRe:fiveの推しとチェキを撮ったりして、うはうはしていた。

どこのグループも通常の物販をやっている中、お披露目ということでPOTIONがやったのは無料の握手会だった。

ぼくも無料ならばと参加させていただいた。

握手をするとき、これからステージが控えていることもあり、かなり緊張されていたように感じた。もっとも、ぼくのようなヲタクという特殊な人種のおじさんと話すのが怖かったのかもしれない。

話してみた感想は、率直に「初々しい」だった。

普段ヲタクをやっていると気づけないが、普通に考えて十代の若い女の子が父親よりも年上かもしれないおじさんと会話するなどほぼほぼキセキみたいなものなのである。

普通にびびってしまうだろうし、なにを話をしていいのかもわからないものだろう。

それなのに、ちゃんとまず名前を言って、こっちの名前を聞いて、「緊張してます」「楽しみよりも怖いです」みたいにライブへの意気込みを言われる姿は初々しくて、好感が持てた。

 

ライブはオープニングアクトとして、POEMとPOTIONのトークからスタート。

POEMがたくさんのヲタクで埋まったフロアを見渡し、ひとりでも多くの人にPOTIONを知ってもらおうと質問を投げかけたりする姿はさすがの一言だった。

その質問に膝や唇を震わせて、答えるPOTIONの初々しさも初ライブおめでとうって暖かい気持ちになれた。

熊本に限らず、長崎や鹿児島からもゲストが駆け付け、POEMが最後に締め、暑い熱気の中でこの日のゲストのステージが終わった。

残すはPOTIONの御披露目ステージのみ。

会場のボルテージは最高潮に上がっていたが、クールダウンするように十分ほど休憩を挟んでいよいよPOTIONのステージが始まる。

入口で配られたサイリウムも白だったが、グループのコンセプトカラーが白らしく、白い衣装に身を包んだPOTIONのメンバーが、話しているときの初々しさからは感じられない堂々とした姿でキラキラ輝きながら登場。

Youtubeでも公開されていたデビュー曲「スキスギスキス」は、そこで予習をしていたのか、ヲタクのミックスも初見なのにきれいに入り、またもや会場は熱気に包まれる。

曲はいかにもな好き好き歌詞の王道アイドル曲。振りに関しても舞台端にメンバーが集まってフロアに手を振るような、王道アイドルっぽさが随所にあった。

ぼくのイメージだと、しっかりもののリーダー浦田のこさん、キレのあるダンスが魅力のKUREHAさん、天真爛漫な笑顔が魅力のくしやまみらいさん、美人なのに天然キャラの岩本ここなさんという印象で、その四人の個性がぶつかりあうことなく、調和して楽曲に溶け込んでいるような、これも「THE 王道アイドル」のスタイルだった。

MCに関してはまだまだ浦田のこさんがひとりで引っ張ている感じだったが、これはSHOWROOM配信に力を入れているらしく、そのような配信をやっているうちに他のメンバーの個性もステージ上で見れるようになっていくだろう。

また「THE 王道アイドル」の曲のステージに関しても、いまでもある程度は完成しているのだが、これからどんどん良くなるのは間違いないだろう。それは単純に楽しみだ。

 

ぼくは主現場が熊本のヲタクなのだが、熊本のアイドル界隈というのはある意味ガラパゴス化している。

これは熊本の芸能全般に関してそうなのかもしれないが、九州第二の人口を抱える県だからこそ、仕組み的にそうなりやすいのだ。

たとえば、ローカルのテレビ番組にしても、九州第一の人口の福岡県の番組だったら、福岡で人気が出れば九州全域でネット中継されることが多い。

ただし、熊本のテレビ番組はそうはならない。

福岡の人が熊本の面白さを認めるのはプライドが許さない。そしてここがガラパゴス進化の根拠なのだろうが、その逆に熊本も他の九州各県のように素直に福岡のものを受け入れるのには抵抗があるのだ。そういう県民性なのである。

だから熊本のローカルテレビ番組は独自の進化をしている。

これはアイドルも同じで、他の九州各県のアイドルがまず福岡を目指すのに対し、熊本のアイドルは熊本の中で独自に進化を進めている印象をぼくは持っている。

だから、熊本の現場はおもしろいとぼくは常々思っているが、そんなガラパゴス化している熊本に、東北で全国的な活躍をするアイドルを生み出した事務所が新グループを立ち上げた。

これはだからこそ非常に大きなことだと思う。

折り畳み式の独自の携帯電話がどんどん高性能化しているところに、iPhoneがやってきたような状態なのだ。

もちろんPOTIONの今後の活躍も期待だが、熊本アイドル界隈全体に、このグループがどんな影響を生み出すか。それらも含め、POTIONの今後の活動は見逃せないとぼくは感じている。

 

ヘヴィメタルは1978年、ジューダス・プリーストの「ステンド・クラス」というアルバムによって誕生した。

このアルバムが日本に紹介されたとき、ライナーノーツを書いたのが伊藤正則である。

ステンド・クラスも傑作と名高いが、このライナーノーツも傑作と名高い。

引用しよう。

 

ジューダス・プリーストよ、僕は歩兵でいい。

喜んで最前線に切り込んで行こう。

今更遠慮なんてするなよ。

かまうことはない、この僕の体を踏み越えて、さあ栄光の王冠を握ってくれ。

君たちの栄光は僕の誇りでもあるのだから。

もう僕は君たちにこの身の全てを委ねた……!

 

このライナーノーツはヘヴィメタルだけに限らず、その後の音楽シーンでオーディエンスに与えた影響は大きい。

栄光の王冠に向かって闘うアーティストを、オーディエンスは歩兵として支える。

そのような構図は今でも音楽シーンでたまに見られる。

 

空前のアイドルブームで沸き立った2010年初頭、アイドルヲタクも歩兵だった。

むしろ他の音楽ファンに比べると、身を削るという意味では最も優秀な歩兵だったのではないか。

グループ内でメンバー間の序列を決める選挙があれば推しのために投票券を集め、グループが他のアイドルとのコンペティションをやると課金をする。CDに特典が付けば、同じCDを何枚も買う。

すべては推しの夢のため。

そしてアイドル側も、ちょっとしたローカルなアイドルでも「武道館のステージに立ちたい」「東京ドームでライブをしたい」と夢を語っていた。

 

それから約10年。

現在でもそのような歩兵が闘っているアイドルもいるが、ブームが沈静化し、そのような光景は珍しいものになってきたように思う。

一番の要因は、若い少女の夢を応援するというアイドルとファンの関係が、アイドルはステージでファンを楽しませる、ファンはエンターテイメントとしてそれを楽しむという関係性に代わってきたからだと思う。

また、文化的に見ると2010年代後半からサブカルチャーの主役に君臨したYoutuberの存在も大きいだろう。

Youtuberは動画の後に「この動画が良かったら、グッドボタンとチャンネル登録をよろしくお願いします」と言うことが多い。

このグッドボタン(高評価ボタン)とチャンネル登録の数が、Youtuberの人気、すなわち実力を示す指標になっているらしく、ぼくは「15.5万」とか書いてある人気Youtuberのそれらの数字を見ると、冒頭に上げた伊藤正則よろしく、その数字が歩兵の数のように見えてしまう。関ヶ原の戦いで家康率いる東軍7万、毛利輝元率いる西軍8万、このYoutuber15万か、みたいな感じだ。

ただしである。

アイドルファンに比べるとこの歩兵はそこまで優秀ではないと思う。

それは「この動画が良かったら」と、リスナーがアクションを起こす前に一言添えているからだ。

動画が良くなければ、すぐに隊列を離れる気楽な歩兵なのである。

 

愛を分析した哲学者・エーリッヒ・フロムは「愛するということ」で、愛の類型として「母性愛」と「父性愛」というものをあげている。

これは性別的に女性は母性愛を持っていて、男性は父性愛を持っているというような話ではなく、性別に関係なく人間が抱く愛の性質を、家庭に例えて分析している。

そこでフロムは母性愛を「無限の愛」、父性愛を「条件付きの愛」と書いている。

すなわち、十か月間、自らの身体の中に命を宿し、お腹を痛めて産んだ母親は、生まれた子供には無限の愛を抱いている。なにがあっても、最後まで子供を守る。そのような無限の愛が母性愛なのだ。

対して父親は子供を社会に通用するように育てなければならない。そこで父性愛は子供に「私が望むように成長してくれれば愛してあげよう」という条件付きの愛になってしまうと。

フロムはこの愛は子供が大人になる道筋でどちらも必要だと述べ、特に幼少期は母性愛、青年期は父性愛を受けるものだと語っている。つまり、母性愛は「とてもかわいい」となにもしてなくても愛が生まれるのに対し、父性愛は「ちゃんと勉強してくれているから愛してる」といったような条件付きの愛であり、それはどちらが素晴らしいとか優劣の話ではなく、どちらも必要なことなのだと。

さてここで話を戻そう。

Youtuberは「この動画が良かったら」と条件付きの愛を求めている。Youtuberは、ファンからは条件付きの愛しか与えられないことを知っているのだ。

2010年初頭のアイドルヲタクたちは、曲がどんなに良くてもCDなんて一枚あればその機能を満たすのに、投票券のために何枚もCDを買い、無限の愛を与えてきた。

だからアイドルヲタクは優秀な歩兵だったのだが、そのトレンドはもう終わりつつあるのではないだろうか。

「コスパ」なんていうコストパフォーマンスを略した言葉も最近よく聞く。

そして2020年代に入り、アイドルもそのトレンドに気づきつつあるのだろう。

 

結果としてそのことを実感するのは、アイドル側が「武道館のステージに立ちたい」「東京ドームでライブをしたい」といった夢を語らなくなったからだ。

その代わり、一回一回のステージで目の前のファンを精一杯に楽しませようとしているように感じる。

阪神タイガースの優勝を自分のことのように喜んだファンのように、アイドルとファンが同じ夢に向かうのはもう古いのだ。むしろ寄席で落語家が御贔屓を見つけるために高座で全力を演じるように、来てくれたファンのためにアイドルが全力を尽くすように変わってきているのだ。

いつになるかわからない、叶うのかもわからない未来を追いかけるのに付き合うのはタイムパフォーマンス、すなわちタイパが悪いというのが今の時代のトレンドかもしれない。

夢を一緒に追うほどの余裕がファンにもなくなったのもあるかもしれない。

成長を見続けるというのがアイドルの魅力のひとつにあるのもたしかだが、成長する姿に付き合うぐらいなら、すでに完成したものを見たほうがコスパもタイパもいいという時代なのだ。

そこでアイドルは「楽しいステージをやるからファンになって欲しい」という方向にベクトルが進んでいる。

Youtuberが動画が良くなければチャンネル登録も高評価ももらえないように、一回一回のステージで良いと思われないとファンになってもらえないと、アイドル側も覚悟を持っている方が増えたように思う。

その結果として、歩兵として支えるファンは減り、エンターテイメントとしてステージを楽しむファンが増えたように思う。

近年、リフトや騒ぐなどヲタクの行動が過激になってきたり、何十万円もするカメラを持ってるヲタクも増えたが、それも一回一回のライブを積極的に楽しもうとしているファンが増えた結果だと思う。

そして、アイドルもそうやってこつこつと少ない人数でも目の前の人を最大限に楽しませること、せっかく来てくれた人に満足してもらうことに全力を尽くすことが、結局は栄光の王冠の近道になるようにぼくは思う。

強力な歩兵が身を削って下駄を履かせても、その下駄を脱いだら意味がない。正直、そんなアイドルもちょこちょこ見てきた。

だからこそ、条件付きの愛にこたえられるようなアイドルが結果的にホンモノになれる気がぼくはしている。

来年もそんな素敵なステージをたくさん見たい。