7月12日のひぜんりささんのXに言葉を失った人は多かっただろう。
【佐賀のアイドル、人生最大のピンチ】
と見出しのついたそのポストでは「足の靱帯を痛めて踊れなくなってしまいました」とピンチの内容が書かれ、足に包帯を巻いたひぜんさんの画像も貼られていた。
ただし、葛藤もあったが7月20日の9周年ライブは開催すると続けられ、「試練が待ち受けていようと、悲しみや哀れみではなく、奇跡を、喜びを起こしてみせる」と力強く気持ちを書かれていた。
ぼくはこの時点ですでにライブのチケットの予約をしていたが、まあ、ひぜんりさなら、大した問題じゃないよなと思った。
むしろ、大きな飛躍のきっかけの目撃者になれるかもしれないと、良いことではないけどまさに怪我の功名のような気分になっていた。
それはすでに一年とちょっと前に、「夜明け前が一番暗い」ことをひぜんりささんが見せつけていたからだ。
一年と四か月前の昨年の3月、3月30日に生誕祭を控えていたひぜんりささんだったが、Xのポスト上では3月25日、実際はそれより以前から。過労などをきっかけに目眩などを生じて歩けないほど体調を崩していることが発表された。
この時の生誕祭は、今回の周年とは違いたくさんのアイドルをゲストで呼んでいたため、とても中止できるような事情ではなかったのもあり、ほとんど歩けない、座っている状態で主役のひぜんりささんがステージを行うというライブになった。
しかし、このライブで発表された新曲がのちのキラーチューンになる「セカイノシンパシー」だった。
そしてこのライブが終わってからのひぜんりささんの勢いはすごかった。
2025年の7月に史上最大規模の佐賀美術館ホールでの8周年ライブを成功させた。
Re:fiveのファンのぼくからしたら、2025年の9月にその8周年ライブで発表された「はちぱれーしょん」を引っ提げて、天草に数十人のオタクを連れてういたんさいにやってきた頼もしさは半端じゃなかった。
年末年始も熊本で爪痕を残しまくっていたし、その間に毎週行われていたもくむつライブも、例年なら客足の減る冬でもこの年の冬は盛況だったらしい。
そしてRe:fiveのファンであるぼくが「これはすごすぎる」と目を丸くしたのが、先月、2026年6月28日の熊本アイドル4グループ合同ツアーin佐賀だった。
昨年の熊本アイドル合同ツアーはフロアも一緒にツアーしている感じで、ゲストにその地元のアイドルは登場するけれど、フロアは熊本の雰囲気がそのまま他県に移動している感じだった。昨年は佐賀の656広場で開催されたが、あの656広場でも、フロアの雰囲気は熊本の雰囲気がやってきた印象だった。
それが今年は会場がライブハウスのGEILSだったのに、それこそ656広場で開催されるサガンプロの生誕祭やもくむつライブのように、会場は佐賀のファンの姿がたくさん見えた。佐賀だから当たり前といえばそうなのかもしれないが、昨年はフロアまでいかにも熊本がやってきたという感じのライブだったから、その昨年よりも佐賀の空気が強い印象を肌で感じて、これがいまのひぜんりさの勢いなのかとぼくは思った。
その佐賀のファンを引っ張るように、オールスタンディングだった1部からガンガンに会場を盛り上げたひぜんりささんのステージは、誰にもまねできないオリジナリティの世界観、安定した歌唱力、飛び跳ねるようなダンス、そしてファンを引っ張るあおりにMCと、素晴らしいものだった。パフォーマンス力も相変わらず高いサガンプロで、サガンプロの三人(ひぜんりさ、園田有由美、ちゃだ)でカバーした「なんてんまんてん」のクオリティは異常に高すぎて、Re:fiveが冗談半分に「わたしたちのなんてんまんてんを封印しようか」と話すほどだった。
こんな素晴らしいステージを見せるひぜんりささんが、主催の自分の周年ライブでどんなステージをやるか見てみたい、周年ライブは生誕ライブと違ってゲストもサガンプロだけだからこそ、他のアイドルのステージを盛り上げようとする気遣いをすることなく、サガンプロに全力を向けるひぜんりささんを見てみたい、とぼくは思っていた。
そこにやってきたのが7月12日の【佐賀のアイドル、人生最大のピンチ】のポストである。
しかし、2025年の生誕祭でも一番暗い夜明け前を乗り越えたひぜんりささんを見ていたから、今回の周年は、その、これからの夜明けを見せてくれるきっかけになるんじゃないかとぼくは期待していた。
サガンプロ以外のゲストのいないライブ、しかも656広場での有料ライブということで、佐賀のオタクさんでも客入りは少ないと予想していた人もいたようだが、真夏の656広場は、その暑い中、100人を超える観客で埋め尽くされていた。
7周年が「りさちーなんなーランド」、8周年が「はちぱれーしょん」と恒例化している周年ライブのタイトルとタイトル曲が9周年の今年は「きゅ~とばっキュン♡」。しかも今年の「きゅ~とばっキュン♡」は、これまでの作詞だけでなく作曲もひぜんりささんがやるというSSWなチャレンジも行われていて、常に前に進むひぜんりささんらしくて素敵だと感じた。
開演前の会場にはこの「きゅ~とばっキュン♡」と新しいOvertureが流れていた。
9年ぶりに更新されたOverture。
表向きは新しく刷新されたものだから、ひぜんりささんという前向きなスタイルのアイドルということもあって手放しに「新しくなってよかった」という顔をしているオタクの人も多かったけど、現場の空気としてはこのOvertureについては意見が二つに割れている気がした。
これは当然なことで、9年間変えられなかったシンセサウンドのファンファーレのようなOvertureが、ひぜんりささんの名刺代わりのように耳に染みついていることがひとつと、原色のポップな色合いの衣装が多いひぜんりささんとそのOvertureのシンセサウンドのエレクトロ感がうまくマッチしていたこと、そしてなによりもこれまではサウンドだけのOvertureだったので、その日のライブごとにひぜんりささんがOvertureに乗せてアドリブで影アナのようにOvertureからフロアを盛り上げてくれるのが好きだったという人が多く、その影アナ的盛り上げが完全にOvertureからひぜんりさワールドのひとつとして定番化していたため、それがなくなるのに抵抗がある人が多いようなのだ。
特に今回のOvertureは最初からひぜんりささんのセリフが入っていて、毎回まったく同じ感じであおるように設計されている。これからどうなるかはわからないが、ライブで一回見ただけでは、いままでの影アナのようなアドリブであおりを入れる余白はないようにぼくは感じた。
ただ、今後さらにひぜんりささんのライブを、誰もが盛り上がれるようなライブにしたいと考えているオタクの人たちにとっては、あえてアドリブを廃して、毎回定型化したことで、たまにしか来ない人でも前回と同じだということですぐに盛り上がれるし、なによりオイ! オイ!のコールからハミングとその定型化した盛り上がりがよく練られているので、数か月もして定番のようになると絶対楽しくなるという意見も聞いた。
おそらく、ぼくとしては後者のように盛り上がることになるようになると思う。もちろん前者のように以前の定番化したOvertureが聴けなくなるのが寂しいのも本音としてわかるが。
そしてなによりもこの新しいOvertureが、そのセリフが特に、いかにもひぜんりささんらしい世界観で作られていることに感心している。
「りさちーのライブ始まるよ」
なんて、Overtureで言えるところに、この時点でどんなライブでもフロアがひぜんりささんの世界になるとぼくは感じた。
とはいえ、この日のライブの一部はそのOvertureはなく、園田有由美さんの司会でスタートした。
ひぜんりささんは奥のDJ卓で曲を流し、フロントではサガンプロのメンバーが歌うというステージだった。
ピンキースカイをはじめ、園田有由美さんのソロ曲、そしてひぜんりささんの曲が流れたかと思うと、J-POPにアニメソング、アイドル曲もノンストップで流れ、それぞれの曲でそれぞれのサガンプロのメンバーが歌う。
出演者としてフライヤーに書かれたサガンプロのメンバーがゲストとしてひとりずつが持ち時間でパフォーマンスするのではなく、こうやってオールスターで主役のDJにノッてステージをやるのもいいなとぼくは感じた。ふいに園田有由美さんがピンキースカイの曲をやって「おおっ」とどよめくのもの楽しかったし、若いメンバーは若いメンバーで盛り上げようとしている必死さが、それぞれに歌割があるからこそ伝わった。
グループアイドルのようにいつもみんなでやっているわけではなく、この日だけの、しかもひぜんりさ9周年ライブという重みのあるイベントだからこそ伝わる必死さ。
真夏の立っているだけでも汗が噴き出す656広場でこの熱気はすごかった。そのまま熱いDJタイムは1時間ほどノンストップで続いた。
そしていよいよ新しいOvertureが会場に流れ、ひぜんりささんのステージが始まった。
だが、いきなりトラブルに見舞われる。
PA卓が熱暴走したらしく、「くりてぃかる」の途中で演奏が途切れてしまったのだ。
それでもやめずにアカペラでひぜんりささんは歌い続けると、どこからともなく伴奏を歌う声が。なんと園田有由美さんが伴奏を歌っていたのだ。
不運が重なった偶然だが、その姿に、フロアは大喜び。ひぜんりささんも手ごたえを感じたようで「動画に撮っている人がいたらあげてね」と言われていた。
さて早速オーバーヒートでこれからのライブどうなるのかと不安だったのもつかの間、PAは復活して、本格的にステージは佳境に入る。
2025年の生誕ではほとんど座ってのライブだったが、この日のひぜんりささんは、華麗に車椅子でステージを右に左にと元気良く動いていた。この車椅子の動きについては、園田有由美さんが「りさちゃんはバスケットボールをしているような音を出して、めちゃくちゃ練習していた」と言われていたが、怪我をしてもファンのために自分を甘やかさないスタイルが、その車椅子の動きで伝わった。いつもできる範囲で最大限の準備をしているひぜんりささんのステージの普段からのクオリティの高さの理由が、その車椅子の動きで、改めて見せてくれたとぼくは思った。
そして更にいいなと感じたのが、その目眩で座ってでのパフォーマンスしかできなかった生誕祭を経験しているからの余裕ともいえる、夜明け前が一番暗いことを知っている人の、夜明けを前にその暗い気持ちさえ楽しむような前向きさだった。
この日もひぜんりささんは「学校や仕事などのつらいことがあっても、ライブを楽しんでくれることが、人生を楽しむきっかけになってほしい」ということを言われていたが、まさにその生きることを楽しむきっかけを与える立場として、大事な場面でのひぜんりささんいわく「馬鹿をやっての」怪我でも、これが夜明けの来る前兆だと、つらいことがあったからこれからは良いことがきっとあるんだと言い聞かせるように楽しんでいる姿が素敵だった。
新曲「きゅ~とばっキュン♡」のハートを胸で作ってからの、弓で打ち抜くような印象的なダンスも、車椅子から見せてくれた。
いつものひぜんりささんらしく、車椅子ごとフロアに下りて、フロアを車椅子で走りながら歌う姿も見せてくれた。
そしてアンコール。
周年の有志委員の声に乗せて、途中からひぜんりささんも参加する展開。まあ、車椅子だったので、ステージを降りたりするのも大変だったのもあるだろうけれど、この楽しいライブをもっと見たいのはフロアのオタクだけじゃなくて、ひぜんりささんももっと続けたいと言っているようですごくいいシーンだった。
そしてアンコールでこの日2回目の「きゅ~とばっキュン♡」が演じられ、そこからの最後の最後の曲が、その2025年の生誕祭で座ったまま初披露になった「セカイノシンパシー」だった。
かわいい世界だけではないひぜんりささんの新境地を見せたこの曲は、ぼくの周りでも非常に好きだという人が多く、かくいうぼく自身もひぜんりささんの曲の中で一番といっていいぐらい好きな曲だ。
この曲は何度も言うが、目眩で座ってしかパフォーマンスできない2025年の生誕祭で座ったまま、初披露された。
ただ、その体調万全で生誕祭を迎えられなかったという不運がその後のひぜんりささんの活躍やファン層の拡大という夜明け前の一番暗い姿だったとぼくは思う。
だから、ぼくはこの車椅子でうたうひぜんりささんの「セカイノシンパシー」を聴きながら、今回も足の靱帯を痛めたという不運の中で周年ライブが行われたからこそ、またこれから近いうちにひぜんりささんが素晴らしい夜明けの姿をぼくらに見せてくれるのではないかと信じている。
少なくとも、この日の、足を怪我しても車椅子で、灼熱の656広場で動き回ってフロアを興奮させていたひぜんりささんは、たくさんの人の胸を打つ奇跡を起こし、喜びを生んでいた。夜明けを起こす天は、そのような人の味方をするものだとぼくは思う。
