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君が好き

アイドルの話でもしようず。

8月末からそわそわしていた推しの東雲ういさんの生誕祭「ういたんさい2024」。
普段はRe:five界隈の万年二軍ヲタクとして、熱狂的な方が応援されている場所におどおどしながら混じらせてもらっている不肖・たきびだが、「推しの生誕」というこの日ばかりは、年に一回、声枯れるまで身体果てるまで張り切るイベントだ。
ただ、いざ9月になり、なぬきはなのさんのイラストに吉川りおさんデザインで発表されたフライヤーとタイムテーブルを見て、ぼくは一抹の不安を覚えた。


一言でいうと「Re:fiveの持ち時間短くね?」と感じたのだ。
タイテを見たぼくのイメージはまず、Re:fiveが15分やる。それからゲストが三組登場で、三組ともういちゃんの生誕を祝うMCをしてくれるのは楽しみだけど、そのあとのコラボステージでどれだけういちゃんが出演するのか? 最初に熊本県産カツカレーをやってそのときはういちゃんがいても、そのあとはドレスに着替えるため、ういちゃんは披露宴の花嫁のお色直しのように中座するかもしれない。そのあいだに、他のアイドルがういちゃんの話をしてくれるだろうが本人はいない。そして最後の25分間でドレスに着替えたういちゃんがソロを歌って、それからRe:fiveかもしくは全員で踊って終わり。そう考えるとういちゃんの出演時間は15分と25分の40分ぐらい。ライブ時間の半分にも満たない。年に一回のういちゃんが主役のステージにしては物足りない気がしたのだ。
たとえば、ゲストを呼ぶ生誕祭で他のグループなどでよくあるのは、ゲストは20分ぐらいの枠で歌って、最後に主役のいるグループがゲストよりも長い時間、たとえば40分ぐらいのステージをやるなんていうタイテがよくある。そういうのでいいのに、最初に出てきて、そのあとソロまでういちゃんお預けとかの展開になったら、ちょっとなあなんて考えていた。

とはいえ、ういたんさいである。
我らの推し、東雲ういさんの生誕祭である。
会場に着くなり目にしたのは、飾り付けられた「studio5」の看板と、予約特典の「しののめガチャ」の文字だった。

 

 


昨年は入場者全員にダジャレ付きのメッセージカードと入浴剤、お菓子をプレゼントしてくれたういちゃんだが、今年はそれがガチャ形式になっていた。ぼくはばっちりガルボをいただいた。ういちゃんからガルボをいただくなど、めちゃくちゃ珍しくてうれしかった。こういう事前告知のないサプライズが用意してあるだけで、ういたんさいがただの生誕祭でなく、まさにお祭りという気分になる。

そのお祭り気分のまま、ライブがスタート。
タイムテーブル通り、まずはRe:fiveが登場。衣装は三年連続のネクタイ衣装だったが、今年はスカートがチェッカー柄だった。
生誕祭のセットリストは主役のメンバーが決めるのがRe:fiveの伝統で、一曲目は「Ifの向こう側へ」だった。登場したメンバーがタオルを持っていたので、Overtureのときに「ダンデライオン」かなと思っていたため少々意外な選曲だったが、「どこまでも行こうよ♪」という歌声を耳にすると、まさにこれから二時間の夢の世界に連れてくれて行ってくれるように歌ってくれている感じで、ぼくにとって特別な日の特別なステージのオープニングにぴったりな曲だった。
二曲目は更に意外な新カバーだった。そういえば、いまやRe:fiveのライブでたまにやるカバー曲も、去年のういたんさいで初披露された曲がある。ヲタクの感覚からすると盛り上がりたいから、定番の曲をやって欲しい気持ちも正直ある。だけど、アイドルとして進化すること、チャレンジすることを忘れないために、ういちゃんは今年も自分の生誕祭という大事な場面で、新カバーを持ってきた。「だから東雲ういは推せるんだよ」と、初めて聴く曲でもともと万年二軍ヲタクなのでうまく沸けなかったぼくは、ニタニタしながらういちゃんを見ていた。
そして危惧していた通り、あっという間にRe:fiveは最後の曲になった。本当に「いま来たばっかり」の気分。最後の曲は東雲うい推しにとっては大事な曲で間奏でういちゃんにフォーカスが当たる「オトナと僕の。」だった。ういちゃんが主役の日だから、ういちゃんが主役のこの曲を聴けるのは最高。その気持ちは涙腺が緩むほど高まって、ヲタクもフルスロットル。曲のあと、柊わかばさんが「過去いちの盛り上がりだったんじゃない」と言われるほど、盛り上がった。
ういちゃんはそのMCで、その過去いち沸いたヲタクに対して「ありがとうございます」と礼を言ってくれた。こういうヲタクに対する気持ちを、ちゃんと伝えてくれるのも本当にうれしい。最強アイドルだなと感じてた。ただ、これでRe:fiveのステージは終了だった。

そのあとはゲストのステージが続いた。
なんだかんだういちゃんが見たいと思いながらも、炭坑ガールズも熊本FlavorもSunny Honeyもぼくは大好きだ。
そのグループが「ういちゃんおめでとう!」と言ってくれて、熊本のアイドル界隈でおなじみの曲をやってくれるのは普通に楽しい。
ただ、この時点では気づけなかったけど、密かにこの三組のステージでは、このあとのういたんさいを盛り上げる仕込みをしていた。

Sunny Honeyのステージが終わり、タイムテーブル的にはコラボステージの時間に入る。
そこに登場したのは生誕委員の作ったなぬきはなのさんイラストのTシャツにレザーのスカートに着替えた空豆かれんさん、ひとりだった。
例年通り、こういう場面の司会はプロ司会者の吉川りおさんが仕切るのだろうと思っていたぼくの予想が大きく裏切られた。そもそも、失礼を承知でいうと、わりとRe:fiveのステージを見ているぼくでも、物販交流会ではよくお話ししてくれるけど、ステージでMCをするかれんさんを見ることはあまりなかった。企画でも他のメンバーやアイドルさんにいじられることは多かったけど、自分からいじることはほとんどない印象だった。
そのかれんさんが「ういちゃんをみんなで呼びましょう」「声が小さいですよ」と、チケット完売で満員のフロアを煽る。かれんさんの新しい一面だった。Re:fiveの新しい引き出しが生まれた瞬間だった。
そして、かれんさんの先導で声をあげたヲタクの声に応えるように、主役のういちゃんが登場。なんと、ここですでにドレスに着替えていた。

ということはお色直しの時間はこれから必要ない。
もしかして、ういちゃん、コラボステージ全部に出るつもりなのか?
そう考えていたら、「かわいいでしょ」と言いながら、ういちゃんもかれんさんもSunny Honeyのメンバーが持つようなデコレーションされたうちわを持っていることに気づいた。
これはまさかと思うと、そのまさかの予想通り、うちわを持ったSunny Honeyのメンバーがステージに登場。
コラボってこういうことだったんだと目を丸くしていると、ギターのカッティングのイントロが流れ、Sunny Honeyに空豆かれんさんとういちゃんの5人で、前半のステージではSunny Honeyが歌わなかった「太陽的な僕の彼女」が披露されたのだ。Sunny Honeyとかれんさんが四人で脇を固めるように踊り、真ん中でういちゃんが主役になっている素敵な光景だった。終わったあと、「Sunny Honeyさんに大きな拍手をお願いします」とういちゃんは満員のフロアに向かって言った。そのういちゃんが見せたSunny Honeyへのリスペクトも気持ちよかった。
すごい仕掛けじゃないかとぼくは思った。
ういちゃんの生誕祭だから、多くの人はういちゃんを見に来ている。だけど、全員が全員ではない。ぼく自身もRe:fiveがゲストで呼ばれているからという理由で、他のアイドルグループの生誕祭を見に行くことはよくある。
それがこのコラボステージは、ういちゃんを見に来た人も、そしてほかのグループを見に来た人も楽しめる仕組みなのだ。しかも、しっかりゲストの持ち歌を踊れるういちゃんから、そのゲストへのリスペクトも感じられる。それぞれのゲストの曲を覚えなければいけないういちゃんは大変だっただろうが、おかげでういちゃんのファンも、他のグループのファンも楽しめるステージが繰り広げられているのだ。ういちゃんのその努力とアイデアに、「これぞ、東雲ういのアイドル力だ」と何度も頷いた。
Sunny Honeyとかれんさんがハケると、今度は白鳥ひなさんが登場。ういちゃんと軽く話すと、なんと白鳥ひなさんが進行をして、ういちゃんと熊本Flavorを呼び込んだ。これも珍しい場面で、Re:fiveの新たな一面だった。

ナチュラルにメンバーの成長の場を自分の生誕祭で提供する。このういちゃんの気配りが、グループの飛躍を考えていて心憎い。

熊本Flavorと白鳥さんが並ぶと、Sunny Honeyとかれんさんのかっこいい印象から一転、かわいい空気に満ち溢れる。その真ん中に、さっきまでかっこいいダンスをSunny Honeyとやっていたういちゃんが君臨しているのが、まさにういちゃんのアイドル性の高さを感じさせた。やる曲はFlavorの中でも特にかわいく、Junior flavor kumamotoの頃から歌われていた「シエスタ」。新衣装でこれまで以上にかわいさが強調されている熊本FlavorやRe:five NO.1のかわいいかわいいお姫様の白鳥さんを従えて、ドレス衣装も相まってふわふわしたかわいいういちゃんが輝いていた。「シエスタ」のかわいい煽り「みぎ、ひだり、くるくるぱっ」をういちゃんが言い、「もう一回」のところが「かわいすぎて昇天しそうだった」と熊本Flavorの最年少・聖ともかさんが言われるほどかわいかった。終わったあと、「ひなちゃんどうでした?」と話を振るういちゃんに、先輩の威厳とひなさんの成長を願う優しさを感じた。
熊本Flavorと白鳥さんのあとは、普段のライブでもRe:fiveのMCを支えている柊わかばさんが、「じゃんじゃじやーん」と登場。「わたしとひなちゃんの声援の差が大きすぎない?」とヲタクをいじる姿はさすがの貫禄。4月の荒尾シティーモールの炭坑ガールズのイベントで、「他のアイドルさんも一緒に踊りませんか?」と呼ばれたときに一番に走ってステージに向かったときのように、盟友・炭坑ガールズとともに「KURO★DAIYA」を披露。ここでようやくぼくは、そういえば炭坑ガールズも前半のライブでこの曲をやってなかった、このために取っていたんだと、このコラボステージへの各グループが協力した仕込みに気づけた。それこそがまさにみんなでういちゃんをお祝いしているようでうれしかった。
ういちゃんも真ん中で楽しそうに飛んでいたが、これもういちゃんの狙いだったんだろうけど、炭坑ガールズとコラボのときの柊わかばさんはやばい。めちゃくちゃ楽しそうに炭坑のメンバーと踊る姿が楽しすぎて、それに釣られて主役のういちゃんも喜ぶという不思議な展開になっていた。
それでも炭坑ガールズのリーダーYUIさんが、ハケるときにういちゃんに深々と頭を下げていた。ういちゃん本人やういちゃんのファンであるぼくたちだけでなく、コラボステージに協力したアイドルさんたちも楽しくて、その楽しさがこのYUIさんのういちゃんへの態度に現れている気がして、この空間はまさにみんなが幸せになれる空間で、その思いをYUIさんが具現化してくれたことがうれしかった。許されるならばフロアで沸いてるぼくらも「ありがとう」とういちゃんに、そして出演したゲストやRe:fiveのメンバーに頭を下げたいような気分だった。
出演ゲスト三組とういちゃん+ Re:fiveのコラボが終わった。タイムテーブルを見たときには期待よりも不安が大きかったコラボステージだが、その不安を越えた楽しさをういちゃんが提供してくれ、ういちゃんはもちろんゲストさんもこの場に来て、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれてありがとうと感謝の気持ちでいっぱいになっていた。誰もが得する素晴らしいステージだった。
ういちゃんがひとりでステージに残り、コラボの余韻で多幸感あふれるフロアに「でもまだ終わりじゃありません。まだまだ続きます」と言うと、事務所の先輩でRe:fiveのOGでもある吉川りおさんと一般人Kこと橘かえでさんが登場。これまでのRe:fiveの生誕祭といえば、吉川りおさんが進行してRe:fiveがそれについてくるという形だったのに、ういちゃんが進行して、なんと、吉川さんと橘さんもコラボで歌ってくれるという展開で進む。
一曲目はこれも新カバー曲。アイドル卒業した先輩二人に新しい曲を踊ってもらうという無茶ぶりも素晴らしいが、それにつきあい、「膝が痛い」と言いながらもやってくれる吉川さんも橘さんも素晴らしかった。
そして二曲目はMONECCO5時代からのおなじみのカバー曲で、イントロと同時に柊わかばさん、空豆かれんさんもステージに駆け付け、吉川りお+橘かえで+Re:fiveというたまらないコラボが誕生。MONECCO5時代からstudio5に通っている人にとっては、これだけでもチケット代の元が取れるほどの奇跡のコラボだったと思う。
そしてそのまま、生誕祭のクライマックスのソロステージに突入。
この時歌った曲は、以前Xでポストしていた、しかも前日にそのポストをういちゃんがわざわざリポストする用意周到な曲なので、ある意味予想通りだったが、それが安心感につながって、心行くまで楽しめた。
歌い終えセレモニーのあとは、満員のフロアに向かって「小さい子から年配の方、男性にも女性にも愛を与えられるアイドルになりたい。いままでたくさん愛をファンの方にもらったから、返していきたい」との言葉をういちゃんは語っていた。ロコドルだからそう感じられる場面も多いのだろうけど、本来愛は双方向のもの。そして与えた分だけ、返ってくるもの。それを言葉にしたところが、さすがういちゃんだった。
そのあとはRe:fiveとして「君とRESTART」、アンコールを挟んでのラストは「朝からカツカレー」。
「君とRESTART」をかっこよく決めて「やっぱりRe:fiveだよな」と感じていたら、「朝からカツカレー」は特に柊わかばさんが歌詞に「ういちゃん」を無理やり入れたりして、今日しかないプレミア感とハイテンションの沸き立つ気持ちをヲタクと同じ次元で演出してくれて「これもRe:fiveだよな」と思わせてくれる楽しさだった。
内容盛りだくさんの本当に楽しいライブだった。
そしてこの楽しいライブを実現するために、意外にも(失礼!)頑張り屋さんなういちゃんが、必死に考えてくれたんだと思うと、そのことに対し、YUIさんと同じように、ただただ感謝しかなかった。
それなのに、「しあわせだ」「楽しい」「みんなありがとう」とステージからういちゃんがファンに気持ちを伝えてくれるから、その幸せ度合いがさらに増した。誰も不幸にならない、ういちゃんの人への思いやりと努力家の一面を体感できる、本当に夢みたいな幸せな空間だった。まさにスーパーアイドル東雲ういの世界が惜しげもなく体感できた時間だった。
アイドルになるために生まれてきたような人だなとぼくはつくづく感じた。

常日頃、ぼくはういちゃんの魅力を「アイドル性の高さ」と考えているが、それがいわゆる昭和アイドルやAKB48まで続いたマスメディアが作り上げるアイドル像ではなく、それ以後の現代的なアイドル像なのだと思う。
「オトナと僕の。」の歌詞じゃないけど、メディアの作り上げるアイドルは「オトナの用意した答え」を演じるものだった。秋元康のような卓越したクリエイターが、ファンのニーズを読み取り、そのニーズに合ったものをアイドルに演じさせることでヒットを生んできた。
それが、たとえばBiSの「nerve」のダンスをメンバーが考えだしたあたりから、アイドルの意思が反映されるようになってきたと思う。地下ドルレベルではセルフプロデュースのアイドルも増えてきている。
そして、これはJ-POPの歴史から考えると当然の進化である。かつては作詞家の先生、作曲家の先生というプロが作った曲をプロの歌手が歌うという完全に「オトナの用意した答え」が良しとされていたのだが、現在は歌う人やバンドが自分で作詞作曲をする、一時期は「自作自演」と揶揄されていたシンガーソングライターが、現在のJ-POPシーンでは当たり前の時代になっている。もともと久留米の人気バンドだったチェッカーズは、80年代に上京したときにプロの作詞作曲家のアイドルみたいな曲を歌わさせられることに抵抗を覚えたが、ヒットを出せば自分たちの作った歌が歌えると耐え、90年代にはほぼ自分たちの曲ばかりを演るバンドになった。だが、いまのバンドはデビューから自分たちの作詞作曲の曲でデビューするのが普通である。そしてそのほうがリスナーも受け入れている。おっさんの汚い言い方をするならば「オトナの用意した答え」より、「未熟な若者のアイデア」のほうが魅力的なのだ。
考えてみれば当然の話である。
ビデオやCDがさらに進化して、いまやパソコン一台あれば、複製芸術がいつでも楽しめる時代。どんなに完成度が高くても、歴史上、以前に完成したものがあるものは、元祖のものを見れば十分で、そのものまねを新たに見る必要はない。
それよりも、これまで見たことのないもの、体験したことないものをファンが求めているのであり、それを生み出すのは知識で凝り固まっているオトナではなく、いつの時代も柔軟で怖いもの知らずな若者のアイデアなのである。まさに、時代を変えるのは常に青春で、老いた常識よりはるかに強いのだ。
そして、ういたんさい2024は、ういちゃんのお母さまが「東雲が練りに練ったアイデアが詰まっています」とおっしゃっていた通り、東雲ういという若いアイドルのアイデアがいかんなく発揮されたイベントだった。ういちゃんが、ひとりでも多くの人を楽しませようとした結果が、他のグループのファンでも楽しめるコラボになり、誰もが楽しめるイベントになったのだ。それを実現させるための努力は、特にういちゃんは大変だったと思う。でもそれをやり遂げた姿を見せてくれたことが、「オトナには思いつかない」、ういちゃんの「アイドル性の高さ」を再確認させてくれた。
このアイドル性の高さを武器に、16歳のういちゃんもきっとこれまで以上にぼくらを楽しませてくれるだろう。
 

東雲うい誕生日月間も残すところあと一週間ほどになった。
てなわけで、いつもの「たきびがライブ行きました。楽しかったです」「それはあなたの日記ですよね」ではなく、たまにはヲタク力を向上するブログでも書こうと思う。
なお、東雲うい生誕祭「ういたんさい」は9月29日天草で開催される。チケットはまだいくらか余裕があるみたいなので、迷われてる方は来たほうがいいと思う。

このテーマを語る上で誤解のないように前置きすると、マキタスポーツは「すべてのJ‐POPはパクリである」などど述べているが、もちろんそんな単純な話ではない。
将棋の定石のように、長い歴史の中でベターと思われているやり方があるというだけの話だ。定石だけ覚えていてもプロの棋士にはなれない。かといって、定石を知らないプロの棋士はいない。定石を自分なりにアレンジして更に強くなるのがプロ棋士であり、基本としてまず定石がベースになるのである。
たとえば軽音楽の場合、一小節の長さは4分音符4つである。これを3/8とかにしていることはあまりない。この基本的な決まりごとが定石なのだ。
曲の構成にも定石はある。
アイドル楽曲の多くは、

イントロ(8小節か16小節)
Aメロ(8小節)
Bメロ(8小節)
サビ(16小節)
間奏(8小節)
Aメロ(8小節)
Bメロ(8小節)
サビ(16小節)
間奏(16小節)
落ちサビ(8小節)
サビ(16小節)
アウトロ(16小節)

と決まっていることが多い。
それが人間にとって心地よい構成だからであり、またミックスなどファンのリアクションもこの構成がいちばん反応がよいからであろう。
そのような将棋の定石のようなものがあり、その定石の中でクリエイトされているのが楽曲である。
だから、たとえばイントロが8小節でどの曲にも同じミックスが入るからといって、それが「パクリである」ということではない。
そこを履き違えず、作曲家さんへのリスペクトを抱いた上でこれからの文章を読み進めてほしい。
そして、その定石は知らないよりも知っていた方がアイドルヲタクライフが楽しくなることは間違いないので、知るのはいいことだと思う。

J‐POPの定石の中で、もっとも定番化しているのはサビのコード進行である。
これは日本のJ‐POPがテレビのコマーシャルと共に進化したという歴史背景があり、結果としてJ‐POPが印象的なサビのある曲=名曲というサビ至上主義になっているからである。最近ではタイパを意識して、間奏を飛ばすという若い人もいるらしいので、この傾向は更に強まるとぼくは考えている。
そしてそのサビの印象を強くするためには、定石に従ったコード進行を使った方がいい。それは何百年という音楽の歴史で、人々が培った心地よさがその定石にあるからだ。
また、慣れ親しんだコード進行は、たとえメロディが初見でもリスナーに安心感を与える。初めて聴くはずなのに、なぜか聴いたことあるような気がするという感覚があることで、その曲を好きになった経験はないだろうか? 人間には過去に好きになったものと似たものを好きになる傾向はある。これまでリスナーが聴いてきた音楽と雰囲気が似ている曲、つまりコード進行が似ていれば、それだけでリスナーを安心させる力があるのである。

そこで近年のJ‐POPでよく使われる4つのコード進行は、

王道進行
カノン進行
小室進行
丸サ進行

である。そしてこれらの進行はアイドル楽曲でもよく使われる。
だからヲタクが覚えていて損はない。

王道進行は ディグリーネームがⅣ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm (4536)で進む進行だ。キーがCならばコード進行はF→G→Am→Emになる。日本人好みの起承転結があり、まさに王道の進行である。ユーミンの「卒業写真」、サザンオールスターズの「いとしのエリー」、モーニング娘。の「LOVEマシーン」、あいみょんの「君はロックを聴かない」、アニソンだと涼宮ハルヒの「God Knows」などで使われている、とにかくJ-POPの「王道」進行である。
この進行が「王道進行」と名付けられたのは2008年ごろという話だ。そして2010年ごろからのブームになったロコドルでは、まさにその名の通り「王道」なのでデビュー曲によく使われた。
古くはMONECCO5のインディーズデビュー曲「恋~気まぐれな夏~」にメジャーデビュー曲「キミを待ってる」、最近ではNYDSの「タテヨコミギナナメ」、POTIONの「スキスキスキス」がこの進行である。

 

王道進行参考動画

 


カノン進行はⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ(1563 4145)が基本になる進行。キーがCならばC→G→Am→Em→F→C→F→G。
ただ、この進行は原曲がクラシックのカノンという世界中で使われているもののため、その派生も多い。たとえばビートルズの「Let it be」はⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳ、C→G→Am→Fになるけどカノン進行に入れられることもあれば、これをLet it be進行、もしくはポップパンク進行と呼ぶ人もいる。ただ、個人的にはリスナーレベルでは、これもカノン進行としてとらえていいと思う。それ以外にも上昇クリシェ、下降クリシェ、ツーファイブなどいろんなパターンがあるが、とにかくカノン進行なのだ。その辺は詳しい人に聞いてください。
かつてJ-POPではカノン進行は一発屋の進行と呼ばれていた。インパクトの強い進行のため、この進行を使った曲はヒットするが、それ以上のインパクトを次に生み出すのが難しいからだ。
大人の階段のぼる♪ のH2Oの「思い出がいっぱい」、BOROの「大阪で生まれた女」、KANの「愛は勝つ」、大事MANブラザーズバンドの「それが大事」、岡本真夜の「TOMORROW」など、この曲は知っているけどそのアーティストの他の曲がわからないという曲がカノン進行には多い。また、藤井フミヤの「TRUE LOVE」や河村隆一のように、バンドが解散してソロデビューするヴォーカリストが最初のヒットを狙うときにサビにカノン進行を使うことも多い。あまりにもインパクトが強いため、あまり多用は出来ない(河村隆一は多用しているけど)。ここでヒットを出したいときに効果的に使うことが多いというイメージの進行だった。
それが大きく変わったのが2019年のあいみょんの「マリーゴールド」である。2016年にデビューしたあいみょんは、2019年にこの曲のヒットで音楽チャート1位に躍り出るが、カノン進行というのはインパクトの強い諸刃の剣のような進行だから、一発のヒット曲は生まれるが、その後はヒットに恵まれないのがそれまでの定説だった。それをあいみょんはカノン進行以外でも、カノン進行でヒットしたアーティストが生き残れるのを、その後の活躍で証明したのである。これは大きな変化だった。
そのぐらい麻薬のような爆発力と危険性を持つカノン進行だが、そのぶんやはり良い曲がカノン進行には多い。そもそも、ここでヒットを出したいときに使われるコード進行なので、カノン進行が使われた楽曲はかなり力が入れられているケースも多い。
個人的にはMONECCO5の「なんてんまんてん」「ラクガキアクセル」「朝からカツカレー」をカノン三部作と呼んでいるが、アイドルが元気よく踊るのにぴったりな進行だと思う。

 

カノン進行参考動画

 


小室進行の小室とは小室哲哉のことである。六文銭の小室等ではない。
Ⅵm-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ(6451)、キーがCならばAm→F→G→Cとなり、マイナーコードから始まる珍しい進行で、小室哲哉が多用したため、こう呼ばれている。桑田佳祐もよく使っているが、日本以外ではあまり見られない進行である。
なぜこの進行が日本でしか流行らないかという理由の一説に、日本の学校のチャイムがこの進行だったからという説がある。学生時代、授業の終わりを待ちわびたあのわくわく感が、この進行で呼び戻されるから、日本人はこの進行が好きだというのだ。
というわけで学校のチャイムの話が出たから勘のいい方はおわかりだろうが、chem LiLyの「ハジメノBeat」はこの進行を使っている。
ちなみにMONECCO5では「キセキノサキヘ」「僕達の唄」などがこの進行である。あと「ダンデライオン」も。マニアックだけど熱狂的なファンが好きになる曲に多い。
で、ドルヲタ的にいえば、この進行は「サイレントマジョリティー」をはじめとする欅坂46が多用していたイメージが強い。乃木坂46はカノン進行が多かったのだが、欅坂46は小室進行だった。
それでわかるのは、いわゆるアイドルアイドルしたアイドルは王道進行やカノン進行の楽曲を得意にするのに対して、主流じゃないけど熱狂的なファンを生みやすいアイドルの楽曲によく使われている傾向にあると思う。90年代は小室進行=ヒット曲の代名詞だったのだが、この変化は面白い。
また王道進行やカノン進行でイメージをつくりながらもグループの奥行きを増やすためのアクセントとしても小室進行はよく使われている。SKE48の「パレオはエメラルド」やAKB48「会いたかった」も小室進行を印象的に使っている。
かつては時代を表す代表曲によく使われた進行だけど、現在では、正統派ではないけど独自の個性で熱狂的なファンを生むアイドルや、正統派アイドルでも新たな成長をするとき、また変化球的に曲を出すときに、小室進行がよく使われているとぼくは感じている。

小室進行参考動画

 


以上の王道進行、カノン進行、小室進行がいわゆるJ-POPの三大コード進行と呼ばれるものである。
この三つが定石であり、アイドル曲に使われているパターンも多い。たとえばAKB48グループのシングル曲106曲の内、カノン進行36曲、王道進行16曲、小室進行13曲と、半分以上の65曲でこの三大コード進行が使われている。

ところが最近のJ-POPではこの三大コード進行に並ぶコード進行が出てきた。
それが丸サ進行である。今やネットでは「丸サ進行使いすぎ問題」と言われるほど、2020年代を代表するコード進行である。
丸サ進行はⅣM7-Ⅲ7-Ⅵm-Ⅰ7(4361)、キーがCならFMaj7-E7-Am7-C7というコードだ。
洋楽では1980年に発売されたサックス奏者、グローヴァー・ワシントンjrの「クリスタルの恋人たち」が有名で、その「クリスタルの恋人たち」の原題「Just the Two of Us」にちなんでJust the Two of Us進行と呼ばれていて、80年代から90年代の洋楽ポップスの定番になっていた。
ただ、J-POPではそれら洋楽ポップスの影響を受けて、FLYING KIDSの「幸せであるように」や小沢健二 featuring スチャダラパーの「今夜はブギー・バック」などで使用され、ドリカムの「決戦は金曜日」という大ヒットもあったものの、洋楽の洗練されたテイストが強すぎたのか、一般化されるほどではなかった。日本でもヒットしたジャミロクワイの「Virtual Insanity」のように、日本人が歌うよりも洋楽として楽しむ進行のイメージが強かった。1999年に丸サ進行の名前の由来になる椎名林檎の「丸の内サディスティック」が収録されたアルバム「無罪モラトリアム」が発売される。シングルカットされた「ここでキスして」はⅠ-Ⅲ-Ⅵ-Ⅴのオーシャンゼリゼ進行なのだけど、この「丸の内サディスティック」がJust the Two of Us進行を使っていて、そのために15年後に丸サ進行と呼ばれる進行の原曲のように扱われることになるのだ。
なお「丸の内サディスティック」はシングルカットされていない。当時だと洗練されすぎて受け入れられなかったのだろう。この曲のセンスが一般的になるのには15年かかった。
1999年発売当時はアルバムの一曲に過ぎなかったこの曲が2010年ごろになると、やっと時代がセンスに追い付いて、ネットを中心にリバイバルヒットするのである。
そして、ネットで流れる「丸の内サディスティック」に影響を受けた人たちが、特にいわゆるパソコンで曲を作るDTM界隈を中心に、この丸サ進行を多用することになる。
YOASOBIの「夜に駆ける」(2019年)やAdoの「うっせぇわ」(2020年)のヒットでこの進行は定番になり、ブレイク前のあいみょんの2ndシングル「愛を伝えたいだとか」もこの進行を使っていたので2020年代になってリバイバルヒットした。
そしてこの波は確実にロコドルにも来ている。
Sunny Honeyの「Sunny days」は丸サ進行である。
アイドルのデビュー曲は基本、三大進行が多い。しかも、王道アイドルというキャッチコピーがあったからてっきり王道進行でデビューするかと思っていたら、丸サ進行だったのだ。

最初、PV見たとき、まるでグローヴァー・ワシントンjrがサックスで吹きそうな歌いだしのフレーズは鳥肌ものだった。うまく流行を取り入れているなと感じだ。

 

丸サ進行参考動画

 

「クリスタルの恋人たち」(Just the Two of Us)

 


もちろんすべての楽曲が紹介した4つのコード進行でできているというわけではないが、リスナーレベルでこの4つのコード進行をサビや場合によってはAメロやBメロで見つけることで、楽曲の魅力を再確認できる。
また、同じアイドルの楽曲で、発表された時期のタイミングでどのコード進行がサビに使われているかと考えると、なんとなくその時点での作り手側のアイドルへの捉え方も見えてくるようにぼくは考えている。
脱皮できない蛇は死ぬように、アイドルは生き続けるために進化をする。ダーウィンが言ったように、生き残るものは、強い者でもかしこい者でもなく、変化に対応できる者だからだ。その進化の過程で、どのようなコード進行の曲が用意されているのか、そこを考えるのは非常に楽しいとぼくは感じている。

最後に、そうやって東雲ういさんも進化を続けている。
ぜひ、16歳になる直前の東雲ういの生誕祭「ういたんさい」に集まりましょう。

 

#東雲うい誕生日月間

2015年3月15日のロアッソ熊本のホーム開幕戦は水前寺競技場だった。相手はザスパ草津。現・ツエーゲン金沢の島田慎太郎選手の2ゴールでリードするも、後半ザスパ草津のアクレイソンにゴールを決められて悔しい引き分けとなった試合だった。現・ロアッソ熊本キャプテンで当時二年目の上村周平選手がトップ下のリザーブとしてベンチに控え、この年サガン鳥栖から完全移籍した黒木晃平選手も途中出場している。
この試合の客席にアズインプロダクションのアイドルがいた。2015年4月11日に現・えがお健康スタジアム(当時はうまスタ)で開催される横浜FC戦のスタグル広場のイベントに、当時熊本で活躍している四つのアイドルグループが出演するイベントが予定されていたためだ。
その「視察」として、ホーム開幕戦にアズインプロダクションのアイドルが姿を見せていたのだ。
ぼくはこれを見て、立派だなあと思った記憶がある。
当時はロコドルブームの真っ只中。その頃、Jリーグとローカルアイドルは相性がいいのではないかと言われていた。
それはお互いのコンセプトが「地域密着だから」という単純な話だけではなく、共に「生観戦」というライブ感が一番の魅力だからだと考えられていた。
テレビで見るならば、そりゃあ欧州四大リーグや代表戦のほうが有名選手も出ているし、高いレベルでのプレーも見られる。でも、各地にJリーグがあるのは、そこではテレビでは味わえない、生観戦でしか得られない興奮があるからだ。それを楽しみにJリーグのサポーターは、地元のスタジアムに足を運ぶ。
ローカルアイドルは、その後ライブアイドルという言葉も生まれたほど、生でライブを地元で気軽に楽しめるのが一番の魅力だ。
そのため、このふたつは、ファンの感情移入も含め、ファン層が重なるのではないかと期待され、当時は各地でローカルアイドルをJリーグの会場に呼ぶイベントが試みられていた。
ただし、イベントに呼ばれるアイドルは、当たり前だがイベント当日しか会場に現れないことがほとんどだった。
もちろんライブステージを見せるために、仕事としてスタジアムに現れているから、それが普通のことである。
ただ、サッカーファンとしては試合を見てJリーグの興味を持っているアイドルのほうが受け入れやすいし、そのために事前にロアッソを応援しにスタジアムに足を運んで予習するアズインプロダクションのアイドルは、イベントに対しての意気込みが真摯で立派なものだなあと感じた。

それから九年が経過した。
Jリーグとローカルアイドルは相性がいいのではないかと言われていたが、ぼく個人の結論から言うと、相性はいいかもしれないがコアにのめりこむような人にとっては、ふたつも熱心に追いかけるのは身体も時間も財布も足りないと思っている。
シーズン中は二週間に一度はホームゲームのあるJリーグ、毎週のようにイベントをやっているローカルアイドル。
熱心にふたつとも通おうと考えれば、身体が足りない。
また、これがいちばんのローカルアイドル側のネックなのかもしれないが、ローカルアイドルは常時100人にも満たないような人数でファンが固まっているため、どうしてもコアなファン同士の内輪な空気ができやすい。ぼく自身もイベントに行ったら、来てる人が全員顔見知りということもある。そしてこれが一番いけないことなのだが、顔見知り同士でわいわい言っている当人たちは居心地がいいかもしれないが、その輪に入れない人たちには不必要な疎外感を感じている可能性がある。
「Xで気になったアイドルを見に行ったけど、コアなヲタクが物販机にたまっていて近寄れなかった」なんて話を聞くが、最悪のケースだ。
こういうことがどうしても日常的に起こっているため、たとえばスタジアムでアイドルを見て興味を持っても、なかなかライブには行けないし、仮にライブに行っても、不必要な疎外感を感じて二度と足を運ばないなんてことが起こっているという話をよく聞くのだ。

「スタジアムで知り合ったJリーグのサポーターにアイドルイベントに来てもらうのはかなり難しい」と以前、福岡のとある運営さんから聞いたこともある。
次第にローカルアイドル現場は、ファーストフード店やファミレスのように老若男女誰もが気軽に集まれる場所を目指しているものの、現実には常連客がクダを巻く居酒屋のようになっている。
残念なことである。
しかし、アイドル運営にとってはその顔見知りのヲタクこそ大事な常連客であり、またそのほうが大事な常連客にとっては居心地がいいのも否定できず、なかなかこれは内部から変えるには、運営にもファンにも難しいことだとぼくは感じていた。

そんななか、株式会社CapDo.JAPANが外部からスポンサーとしてイベントを支えることで、この閉塞的な空気に一石を投じることになるのではないかと期待させるイベントが昨日開催された。
「くまもとクリエイターミックスフェスティバル」と題されたイベントは主催アズインプロダクション、スポンサー・CapDo.JAPAN。
アイドルヲタクにはなじみがないかもしれないが、このCapDo.JAPANはロアッソ熊本のサポーターにはおなじみのスポンサーでアカデミーチームの胸スポなどでクラブを根底から支え、アウエーの試合ではPVも主催して熊本を盛り上げている企業である。しかも司会が去年までロアッソのスタジアムDJを務めていたスガッシュさん(アズインプロダクション所属)ということもあり、会場にはロアッソのユニフォームを着た方もいらっしゃってた。
スポンサーの森田社長は現状のローカルアイドルのアンヴィヴァレントはほとんどご存じないかもしれないが、森田社長のXのポストを拝見すると「ふらぁ~とお気軽にライブハウスにお越しください」「お一人でもファミリーでも楽しめるイベントです」と、誰でもウエルカムな感じで、その甲斐もあってか、会場はほぼ満席に埋まっていた。
熊本中のアイドルが歌い、熊本の誇る演歌歌手が歌い、ダンスあり、バンドありのまさにクリエイターミックスのイベントは非常に楽しかった。
アイドルヲタク的には、この日、いつもよりたくさんの人の前でステージをやったアイドルが、この日をきっかけにそれらの人を自分のイベントに呼べるかどうか。
この結果は今週末以降に出るだろう。
少なくとも、コアなヲタクだけが喜ぶアイドルが、たくさんの人に愛されるように羽ばたくためのきっかけを与えてくれた「くまもとクリエイターミックスフェスティバル」には感謝したい。

そして、今後の熊本のアイドルシーンの活性化を願う立場としては、外部のスポンサーがイニシアチブを取れるイベントだからこそ、いつものヲタクが内輪のノリで盛り上がるイベントではなく、あまりローカルアイドルを見る機会のない人でも気楽に足を運べ、「熊本にもこんな面白くかわいい女の子がいるんだ」と気づいてもらえるようなイベントになるといいなと願っている。

このイベントは、その可能性を秘めているように感じた。


初開催だったことでいろいろあったでしょうが、最後にちょっと思ったことをひとつだけ。
社長が「久々にライブハウスに来た」とライブハウスの臨場感を味わうことを目標にしていたイベントだったためアイドルの出演時には、いつものライブハウスの空気になっていましたが、やはりお気軽に楽しめるイベントにするには、ある程度、常連のアイドルヲタクが普段通り楽しむフロアと、それ以外のフロアは分けたほうがいいかなと感じました。もちろんそうやっていつも通り楽しむヲタクを否定はしませんが、Jリーグが全席ゴール裏だったら、誰もが観戦を楽しめるスタジアムとは言えないと思うんです。
具体的には、ファミリーや女性がゆっくり見られるように前方は椅子席を設けたほうがいいかなとは感じました。できれば、椅子席の撮影はスマホまでにしてカメラで撮影したい人とは席を分けるなどの工夫もあると、なおよいかなと感じました。
アイドルヲタクはそこにアイドルがいれば勝手に集まります。
できればこのイベントは、アイドルヲタク以外の人も楽しめる、アイドルが見られるイベントになったらと願っています。

7月26日にパリ五輪が開幕し、早速、日本選手団のメダルラッシュで盛り上がっている。

そんな7月28日、日本代表に選ばれなかった男たちは、代わりに汗を流すべく熊本県荒尾市の万田炭鉱館に集った。

おれたちのパリ五輪こと「炭坑大運動会」に参加するためだ。

名前からもわかるように「炭坑大運動会」は、荒尾市のアイドル・炭坑ガールズの主催イベントである。

 

「炭坑ガールズの荒尾での主催イベントは行った方がいい」

 

熊本でヲタ活しているとたまに耳にする言葉である。

たとえば、ぼくは行ったことがないのだが、炭坑ガールズにはセッション撮影会というものがあるらしい。これは事前にメンバーの枠を取ってその時間だけメンバーを撮影できる一般的な撮影会と違い、カメラを持ったファンの前にずらりとメンバーが並ぶ。んで、時間内は、他のファンとの譲り合いは必要だけど、声をかけての撮影はし放題という仕組みらしい。このような仕組みがあることをぼくは炭坑ガールズで初めて知った。

このように一般的なアイドルとは違うイベントが用意されていて、楽しめることが多いというのだ。

炭坑ガールズは、もともとはMJKというご当地アイドルからスタートしたグループだったが、MJKから炭坑ガールズへと進化する過程で、万田坑を中心とした荒尾を盛り上げようというエキスが非常に強くなっていったようだ。そのため炭坑ガールズにとって、主催イベントにやってくるファンというのは、一般的なアイドルとファンとの関係だけではなく、炭坑ガールズと一緒に荒尾を盛り上げてくれるゲストのような迎えられかたをしている印象を受けるのだ。

実際、ぼくが唯一これまで参加したことのある炭坑ガールズ主催イベントでは、人が多すぎて実現はしなかったものの、アンコール後に出演アイドルだけでなく、会場のファンも一緒にステージに上がって「KURO★DAIYA」を歌いませんかというアナウンスがあったほどだった。

そんな炭坑ガールズが主催する大運動会。

これは楽しいに決まっている。

競技に参加するかしないかも申し込み時点で選べたのだが、楽しいに決まっているという強い期待から、せっかくならば参加することにぼくはした。

 

会場の万田炭鉱館のホールは、真夏のイベントとはいえ冷房が行き届いていて快適だった。

競技参加者は開場の15分前にそのホールに集合が掛かっていた。

中に入るとすでに赤や黄色のハチマキを巻いた炭坑ガールズ、Re:five、熊本Flavorがいた。

どうやら各アイドルをシャッフルして二組に分け、それが赤団、黄団となり、ぼくらファンは炭坑ガールズの保護者さんとともに炭団というチームになるらしい。

そのチームの中で誰がどの種目に出るのかの話し合いがあった。

種目は午前の部が「お尻歩き競走」「パン喰い競走」「借り物競走」、午後からは「綱引き」「五人六脚」「リレー」となっていた。

不肖たきびははじめてで、なんでも経験したかったこともあり、午前中の「お尻歩き競走」と午後の三つの競技に参加させていただいた。

こういう運動会的なオフ会は別のグループで何度か参加したことがあったが、体力勝負のモネリンピックと比べ、誰がやってもそこそこの結果になる種目が多いため、アイドルにハンデがなくても男性と戦えるのがいいなと感じた。また、勝敗度外視で和気あいあいと楽しもうというくると運動会よりも、アイドル自身が赤団、黄団と分けられているために勝敗についてはアイドルの本気度が高いように感じた。

それぞれのイベントにそれぞれの良さがあり、そもそもアイドルと運動会という企画自体が神イベなので、他のイベントももちろん楽しかったが、アイドルとファンが同じ土俵でハンデなく戦い、その中でアイドルさんたちが勝敗に本気になっているというバランスが炭坑大運動会は本当に優れているように感じた。

 

最初の種目は「お尻歩き競走」だった。ぼくの炭坑大運動会デビュー戦。周りはすべてアイドルを含め女性だったので、このメンバーなら余裕だろうとスタートラインに並んだ。三人先には推しの東雲ういさんもいた。実は知り合いの方から、ぼくが東雲推しだから、「(東雲)ういちゃんが優勝めざすぞーとXでポストしてますよ」と言われ、それに対しぼくは「東雲は口だけだから大丈夫」と答えて余裕をかましていた。しかし、完走がやっとの最下位という結果に沈んだ。東雲さんにも負けるという有様だった。東雲さん、なめて申し訳ありませんでした。そんななか、まるで日本記録ではないかという速さで炭坑ガールズのリーダー・ゆいさんが他を圧倒していた。ホームの力を見せつけていた。

パン喰い競走では同時にゴールしたように見えたアイドル数名を、ゲストのRe:fiveと熊本Flavorの運営さんが携帯で撮影していたVAR(ビデオアシスタントレフリー)で着順が決まるというファインプレーもあった。

「借り物競走」ではハズレのお題もあり、笑わせていただいた。

競技中の写真撮影は自由ということで、カメラを持ったファンの方が会場を熱心に見守り、アイドルはチームごとに分かれて座り、みんなでひとつの競技が行われているのを見守り楽しんでいるのがすごくよかった。

借り物競争が終わったものの、時間が予定よりも巻いたため、ここで突如面白企画が誕生。

まずは炭坑ガールズの保護者と炭坑ガールズとの綱引き、そのあと司会をされていた代表の炭坑レッドさんにファンのほうからリクエストして、こだまだいきくんひとりと炭坑キッズ10人との綱引きも見せていただいた。さすがのこだまくんも10人には敵わず、負けていたがおもしろかった。

 

以上で午前の競技が終わり、昼食。

会場内でパンや片手で食べられるのり弁、アイスコーヒーなどが販売され、それぞれが購入して会場内でお昼休み。まず、うれしかったのが飲食類の価格が「野球場ならこの倍は取られるな」というほどリーズナブル、というか普通の価格だったこと。そしてぼくは炭坑レッドさんのおすすめという「白身魚の挟まったパン」と「メロンパン」をいただいたが、本格的なパン屋さんのパンで、パンの焼いている匂いが生地からあふれていて美味だった。

「お尻歩き競走」の疲労を癒しながらそのパンを食べていたが、ある意味戸惑ったのは、各アイドルも同じ空間で昼食を取っていたことだ。

雰囲気的には本当に運動会の昼休み、といった懐かしい感じの空気が流れ、特にアイドルさんにがっつくヲタクもいなく、と言いながらも距離があるわけでもなく、途中で炭坑ガールズからみたらし団子までいただいて、まったりしながらもそこにアイドルがいるというぜいたくな時間を過ごさせていただいた。

 

知り合いのフォロワーの筑紫大弐さんはこの日の「炭坑大運動会」を「一回で三回おいしいイベント」と評していたが、昼休みが終了すると、運動会以外の二回も三回もおいしいイベントが始まる。

さっきまで競技していたホールの真ん中にシートが敷かれステージが設営されてのライブステージ。各グループ20分間も持ち時間のある、普通の対バンイベントと変わらない時間のステージが見られた。

しかも衣装ではなく、さっきまで大運動会に参加していた服装というレアなステージ。

ステージのトップバッターはRe:five。

まだ生誕祭を行ったことのないひなさんは私服だったものの、他の三人のメンバーは生誕祭のときに製作されたなぬきはなのさんイラストの生誕Tシャツを着ていた。いきなり「なんてんまんてん」で会場の熱気を最高潮に上げてくれた。MCで柊わかばさんが「はなちゃんお誕生日おめでとう」と誕生祭である雰囲気を盛り上げてた。それからはラストの「朝からカツカレー」まで、ジャージと体育館シューズという動きやすい服装で激しいダンスを魅せてくれた。

熊本Flavorは先週のKMFのラストで披露された合同ユニットのさしよりカレーTシャツで揃えていた。こちらも最近ライブの一曲目に定着しつつある「OMG」から会場を盛り上げていた。ラストは、Xなどでイヤホンチャレンジが話題の「コイマチ」。この日はいつもと違う荷物が多く、イヤホンをちゃんと持ってきたファンはふたりと、熊本Flavor運営のみゆ先生はご立腹だったが、怒られたファンたちは「エアーで」と口々に言い訳しながら、指先だけでイヤホンチャレンジする絵もなかなか楽しかった。

オフィシャルのTシャツで揃えた炭坑ガールズは「GATA☆GO TRAIN」からスタート。何度見ても間奏のときに後方に下がるゆいさんのバック転が圧巻。先週のKMFでもこの「GATA☆GO TRAIN」と「KURO★DAIYA」でバック転を見せるたびに、初見と思われる人からどよめきが起こっていたが、ゆるい空気でオフ会やMCをこなしながらも、ステージでは他のアイドルがあまりやらないアクロバットを見せつける。さすがの世界だった。ラストは荒尾のイベントでしかあまりやらないらしい「ラララDANCE」。炭坑レッドさんが「この曲はファンの方もカメラを置いて肩を組みましょう」と言われ、ステージのメンバーと同じようにフロア全体も肩を組んで一体となった。ファンはもちろん、炭坑ガールズの保護者の方やゲストグループのアイドル、運営までも肩を組み、ステージの炭坑ガールズと同じように身体を左右に揺らし、手を振る。その一体感はまさにアットホームな荒尾市を盛り上げようとしている炭坑ガールズの世界感があり、非常に良かった。

炭坑ガールズのステージの後は、メンバーのはなさんの誕生会。「HAPPY BIRTHDAY」と書かれた風船を中心に飾り付けられたステージをバックに、弱冠八歳のはなさんがソロ曲を歌われていた。このような年齢の幅の広さもこのグループの奥の深さだと感じた。

 

午後の競技は綱引きからだった。

さすがに綱引きは、ファンを中心に結成された炭団とアイドルとはハンデが必要で、炭団の男性三人対赤団のアイドル六人だった。しかし、人数を半分にしても、大人げないおじさんたちのパワーで炭団の圧勝だった。さすがにこれでは盛り上がらないと司会をされている炭坑レッドさんが「次の(炭団と黄団の対決は)炭団は二人で行きましょうか?」と提案するも、すでに炭団三人に敗北している赤団から「それはフェアじゃない」と猛抗議が起こり、結局おじさん三人がアイドル六人に勝ってしまうという誰も得しない展開になっていて面白かった。

そのあとは五人六脚。二人三脚まではやることがあっても、なかなかここまでの足の数はやることはない。それでもなんとかぼくは形になって出れたつもりだったが、このあとにこの日MVPのゆいさんの物販に行ったら「パパの横のたきびさん、足引っ張ってた」と言われてしまった。

更にリレーも走るのは二人で他にはジャンプやハイハイ、目隠しと一筋縄ではいかない方法が考えられていた。リレーはぼくは目隠しで出場したが、ただただ怖かった。なかなか大人になって目隠しすることないのもあってビビったし、なんだか懐かしかった。

「お尻歩き競走」でも異次元の速さを見せたゆいさんが、超絶速いスピードのハイハイで周りを唖然とさせ、赤団の優勝の原動力になっていた。

 

綱引きの炭団の人数の赤団の抗議でもわかるように、物見遊山で参加するだけでもしあわせなぼくのようなファンと違い、アイドルさんは本気で勝ちたがっていたからこそ、すごくスリリングなイベントだった。

また何度も言っているように、荒尾に来てくれたのだから、ファンに対して運営さんやメンバーの「一緒に荒尾を盛り上げてくれるゲスト」という態度が終始あらわれていたから、居心地もよかった。

イベント終了後、炭坑メンバーは会場の片づけを行っていて、そういえば荒尾シティーモールでもそうだったなと、その姿も印象的だった。

当たり前だけど、そんな炭坑ガールズでも、市外や主催じゃないアイドルイベントでは、一般的なアイドルとファンの関係だ。

だが、ホーム荒尾でファンを迎えたとき、「一緒に荒尾を盛り上げてくれるゲスト」として心からのおもてなしをしてくれる。

それこそが「炭坑ガールズの荒尾での主催イベントは行った方がいい」と言われる所以であり、その主催イベントの運動会だから、強烈に楽しかった。

オリンピックは四年に一回だが、炭坑大運動会は毎年やっているらしい。

ぜひ来年も参加したい。

 

 

 

初めて天草にアイドルを見に行ったのは、2015年の7月12日だった。第一回の天草アイドルフェスタが開催されたときだ。
2013年の冬、当時九州のアイドルシーンを引っ張っていたグループが多数出演する大分のChimo主催のイベントに行ったぼくは、そこで熊本から唯一出演していたくまCanに心奪われた。
そして気づいた。
熊本のアイドルシーンは面白い。
2012年に熊本県初のご当地アイドルとしてデビューしたSENSEは、他の九州のアイドルと同じように、一番身近にある大都市・福岡のアイドルの影響を強く受けたスタイルだった。しかし、その後現れた熊本のアイドルは九州第二の都市という県民性が表に現れ、2013年末頃には熊本のアイドルシーンは九州では福岡とは違う独自のスタイルで進化していた。
更に、福岡の場合は、熊本が福岡の文化を素直に受け入れられないように、東京の文化を素直に受け入れない県民性があるのだが、逆に熊本は東京の文化は素直に受け入れるため、独自の進化をしているもののセンスは、かなり洗練されているように感じた。いわゆる九州人あるあるで「福岡よりも熊本の人のほうがおしゃれな人が多い」と言われることがあるが、これは東京の真似をするのが嫌という地方大都市のアイデンティティを持っている福岡よりも、東京で流行っているものを熊本の人は素直に受け入れているからだとぼくは考えている。その県民性が地域のアイドルシーンにも反映されているように見えた。
そうやって2013年末から熊本のアイドルシーンにどっぷりつかり、当たり前のようの熊本に通ってた2015年、天草でアイドルフェスタが開催された。なんでも天草でMONECCO5というアイドルが生まれ、その一周年を記念したイベントだという。出演アイドルは、そのMONECCO5をはじめ、ぼくの推してたくまCan、熊本クリアーズ、Airy☆SENSEという熊本のアイドルグループに、佐賀からピンキースカイ、長崎からミルクセーキという顔ぶれだった。
会場の五和町コミュニティセンターは名前こそ地域の公民館みたいだが、着いてみると立派なコンサートホールだった。来場者も三百人近くいたと思う。ロコドルのイベントにしてはかなり多い来客数だ。しかもテレビ放送があるらしく、天草のケーブルテレビのカメラまで入っていた。司会者も天草のケーブルテレビのアナウンサーだったと思う。
「ロコドルでこんなイベントができるとは!」
ぼくはその環境に感動した。
失礼な言い方になるが、MONECCO5をはじめ、出演アイドルはどのグループも当時は一部の熱狂的なファンはいたけれど、一般的にはほぼ無名の存在だった。それなのに、ホールでこれだけ人を集めてライブができることに感動した。
その後、天草アイドルフェスタは六回開催された。回を重ねるごとに大都市福岡のアイドルも出演するようになり、コロナ禍前最後の開催になった2020年には、福岡空港と天草空港を結んでいる天草エアラインを使ってのJTBの観戦ツアーまで用意されたほどだった。
ただし、2020年末より世界的にコロナ禍に突入し、2020年12月にMONECCO5が解散したこともあり、それ以来天草アイドルフェスタは過去のものになってしまった。
コロナ禍が本格化した2021年頃には、国が「人をあまり集めるな」と言ってるような入場者規制を主催者に強いて、アイドルグループは無邪気に新規獲得に動くわけにはいかず、既存のファンへのサービスだけで手いっぱいになっていた。結果的に、ヲタクは好きなアイドルしか見れないという偏った現象になり、熊本のアイドルシーンも、もはやシーンという存在は消え、それぞれのグループが少人数のファンを対象に単独イベントを打つしかない状況だった。結果的にそれぞれのグループのそれぞれのファンがいつものアイドルを見るだけのガラパコス化した状態になってしまった。

そのような状態に熊本で風穴を開けたのが2022年6月13日に初開催された「LIKE!」である。
Re:fiveが初回から出演していたこともあり、ぼくは結構通わせてもらった。ほぼほぼ毎月定期的にやるということが大きかった。
同時期に熊本のBe-9でものちに熊本のアイドルシーンを支える「ネバスト。」もスタートしていたが、こちらは2022年の11月までは熊本のアイドルの出演はなかったので、当時の熊本のアイドルシーンへの影響は少なかった。

「ネバスト。」に熊本のアイドルが出演するようになり、少しずつコロナ禍にも人が慣れだした2023年の4月に、天草でRe:fiveの橘かえでさんの卒業公演として、天草アイドルフェスタの主催者が主催する「TACHIBANA IDOL FESTA」が開かれた。
この「TACHIBANA IDOL FESTA」が動員、出演アイドル数を考えても2023年の熊本のローカルアイドルでは最大のイベントだったと思う。
ただし、「TACHIBANA IDOL FESTA」は長年MONECCO5、Re:fiveで活躍した橘かえでさんの卒業イベントだった。卒業イベントのもう橘かえでさんには会えないかもしれないという気持ちを抱えたイベントだったので、楽しくもあったが悲しくもあった。
そんな複雑な気持ちの中でも、またこのくらいの大きなイベントがあるといいなとぼくは漠然と思っていた。結局、橘さんとはその後何度も会えたので、その思いも大きくなっていた。

そんな思いを叶えてくれたのが2024年7月21日に開催された「KUMAMOTO MUSIC FESTIVAL」である。
主催はコロナ禍の中で熊本のシーンを盛り上げてくれたLIKE!の主催者の天海さんを、天草アイドルフェスタを支えていた現Sunny Honeyプロデューサーの紫谷さんがサポートするという布陣。
出演アイドルもMONECCO5の後継グループ・Re:fiveに始まり、ミルクセーキ、パピマシェ、ルナリウム、えくれあエクレットと過去に天草アイドルフェスタに出演したグループが県外から集まった。熊本勢もchemLiLy、POTION、炭坑ガールズ、熊本Flavor、Sunny HoneyとLIKE!常連のグループが出演し、更には#SSSG、AQUA PLANET、UMATENAと話題のグループも登場。
チケット発売日に、熊本のヲタクたちはこのイベントが、自分たちが思っている以上に注目されていることに度肝を抜かれた。
6月20日の20時に予約開始がされたのだが、いつものLIKE!ぐらいの感覚で、特に20時に身構えていなかった熊本のヲタクはいざ予約をすると驚いた。
ぼくの話をすると、ぼくは20時に予約開始は知っていたが、20時に予約をする準備などしていなく、20時10分ごろに「あ、そういえば」と思って、予約をした。そしてそのときのチケット整理番号がすでに「65番」だったのだ。
大イベントのチケ発みたいに時間に構えているヲタさんがいることが不覚だったし、10分で64枚も売れている事実にも驚いた。
同じことを思った人がぼくの周りにはだいぶいて「数分遅れただけなのに30番だった」「75番だった」「80番だった」といった声が聞こえていた。
熊本のヲタク以上にこのイベントに期待している人もいる。
熊本のヲタクはこのチケットの整理番号が遅いのを逆にポジティブにとらえ、イベント当日までは「駐車場がなくなるかもしれないから相乗りして行こう」などと前向きな相談をしていた。

そしてイベント当日。
快晴だった。それも午前八時すぎに一度通り雨が降ったため、湿度も高く、暑かった。
ただ、冷房の効いている管理事務所に入れたり、お祭り広場の上には木陰で休めるスペースがあったので、まったく逃げ場のないようなイベントではなかったのは救いだった。
そのため、推しのグループ以外は木陰に避難して見ることが多く、ステージ前には熱心なファンしか集まらず見た目には寂しかったかもしれないが、木陰のある山手からゆっくりステージを見ている人は結構な数がいたように思う。もちろんぼくも「二階席も見えてるよーと言って」と言いながら、木陰から見ていた。そうしないと体力が持たなかった。
そうやっていつも見ているグループは炎天下で楽しみ、普段あまり見れないグループは山手から見せていただいたが、普段あまり見れないグループが見れたことはすごくよかった。特に話題のUMATENAのIt's a Green Dreamを生で聴けたのはよかったし、久しぶりのパピマシェのロコモーションは名曲だし、ミルクセーキのわらふぁん、Say it!、DEJIMAラプソディーのヲタク殺しのセトリはさすがだった。
いつも見ている熊本のグループはどのグループも本当に良かった。

単純なパフォーマンスの質で言えば、暑さでコンディションが万全ではなかったり、野外でモニターが拾えなかったりと、慣れている天海などのステージのほうが質は高かったかもしれない。しかし、どのグループもこのイベントに賭ける思いが感じられ、気持ちのこもったステージをやっていた。
それはこのイベントが、どのグループも初めてだったからなんだとぼくは思った。
慣れてないステージに立つことはやはり大事だなとぼくは感じた。
慣れは怖い。
同じこと、似たようなことを何度でもやっていれば、いずれ力の抜きどころもわかってくる。
「次もうまくいくだろう」と楽観的に考えてしまい、アイドルが手を抜いたとき、敏感なヲタクは意外と気づいてしまうものだ。
それとは逆に、慣れてないステージ、あまり知らない客席を前にしたとき、アイドルは成長する。
だからこそ、めったにできないこの日のような大きなイベントのステージは楽しく、素敵なのだと思った。
ぜひとも来年も開催してほしい。
暑かったけど本当に楽しかった。
ヲタクはいつもと違う空気に羽を伸ばし、アイドルはいつもと違うからこそ素敵なパフォーマンスを見せる。

これはやはりフェスという環境がそうさせてくれたのだ。

疲れたけど楽しかった。

帰りに仲のいいヲタさんは、みんなそう言ってたから間違いない。